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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・弄党抄 3

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    麒麟を巡る話、第590話。
    扇動放送。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     白猫軍の兵力4割超、と文字にするのは簡単であるが、その実、党内ではこの命令を実行するために、上を下への騒ぎとなっていた。
     そしてその奔走、混乱に乗じる形で――マーク主導による「コンチネンタル」作戦は、最終段階に突入しようとしていた。

     央北某市、夜の11時。
    「また、放送無くなったね」
    「そうだな」
     一ヶ月前までのように、またノイズを流すだけになったラジオを前に、ホルヒとリンダはぼんやりとした顔で座っていた。
    「あれだけうっとうしいと思ってたけど、いざ無くなってみると、なんでか寂しいなって気持ちもあるんだよな」
    「うん。内容は本当にどうでもいいけど、こうやってザーっとだけになっちゃうと、寂しいよね」
    「欲を言えば、また『Mr.コンチネンタル』の放送を聞きたいけどな」
    「ふふっ……」
     夫の言葉に、リンダの顔から笑みがこぼれる。
    「面白かったよね。ほんとに、あの人と話してるみたいだったもの」
    「不思議だったよな。あんな放送だったら、いくらでも聞いていたいよ」
     そう言って、ホルヒも笑ったところで――ラジオからザッ、と尖った音が響いた。

    《大変長らくお待たせしました、皆さん》
    「……え?」
     ラジオから声が流れ、夫婦は互いに顔を見合わせる。
    「今のって」「あ、ああ」
    《今宵久々に、私こと『Mr.コンチネンタル』による放送を行います。
     今日は非常に耳寄りな、皆さんにとって本当に本当に、本当に重大な、値千金の情報をお伝えいたします。
     まず、始めに。不思議なくらい、静かだと思いませんか?》
    「静か?」
    「ラジオが流れてなかったってこと?」
     前回までそうだったように、ラジオの声は聴く者に応えるかのように話し続ける。
    《ふむふむ、ラジオから何も流れなかった。あるいは街宣車の声が無かった。それらは何を意味すると思いますか?
     いや、これについては先に答えを言いましょう。何しろ事態は急を要しますからね。結論から言えば、今、白猫党は大忙しで、まったく余裕が無いんです。
     詳細は省きますが、白猫党を襲う勢力が現れ、彼らはその対応に追われている最中なんです。その脅威は、白猫党が占領していた地域からも党員、兵士を根こそぎ引き上げさせなければならないほど。
     静かであるのは、そう言うわけなんです。……さあ、チャンスが来ましたよ、皆さん》
    「チャンス?」
    《この放送が流れる街に住む皆さん。今、あなた方を抑えつける人間はほとんどいないんです。ほとんど出払ってしまって、すぐには戻れないくらいの、離れた位置にいます。
     一方、工場には武器や車輌なんかの部品が豊富にあります。農園にはいっぱいの食糧があります。どこかの倉庫には組み立てられ、加工された軍需品が山のように積まれています。
     そしてそれを奪い、白猫党の拠点に向けて使ったとしても。そしてその結果、街をあなた方が占領し返し、支配下に置いたとしても。
     その行動を、白猫党の人たちは誰一人として、咎めることができないんです。何故なら咎める人たちが、そこにはいないからです。
     チャンスだと、思いませんか?》
    「えっ……?」
    「本当に?」
     再び、夫婦は顔を見合わせる。
    《今立ち上がれば、あなた方が住むその街を、自分の手に取り戻すことができるんです。
     今立ち上がれば、あなた方はかつて有していた自由を、元のように手に入れられるんです。
     今立ち上がれば、あなた方は、いや、あなた方の子供たちまでもが、自分で自分の道を決める権利を得ることができるんです。
     あなたたちは白猫党員の家畜じゃない。みんな自分でそう思っていたでしょう? 今こそ声を大にして、それを高らかに謳う時なんです。
     さあ、家から出る時が来ました。そして自分たちの職場や憎き白猫党の倉庫にあるものを奪うんです。白猫党の基地を制圧し、あなたたち自身の手に、あなたたちの自由を、権利を、未来を取り戻すんです。
     皆様のご健闘を、心よりお祈り申し上げます》
     彼の言葉が途切れないうちに、周囲の部屋からバタバタと、人が飛び出していく音が聞こえてきた。
    「……リンダ」
     ホルヒの声が震えている。
    「あなたが行くなら、わたしも行く」
     妻の言葉を受け、ホルヒは静かにうなずいた。
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