「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・弄党抄 5
麒麟を巡る話、第592話。
タネ明かし。
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5.
「え? な、何言ってんのよ?」
シエナがぎょっとした顔で振り返り、イビーザに問う。
「だってあの声は、ロンダの……」「声だけですぞ」
一方のイビーザも、半信半疑と言った様子ながらも反論する。
「音の粗い無線を通じて、ちょっと声真似のできる者が話せば、それらしく聞こえてもおかしくはございません。
それに此度の電波ジャック騒動もある。敵が相応の無線技術を有しているとするならば、電波送受信の偽装や妨害、回線の奪取など、たやすいことでしょう。
となれば我々だけが『基地につながっている』と思い込んでいた、……いや、思い込まされていたのでは無いでしょうか?」
「まさか、……全部嘘だって言うの? じゃあ反乱も嘘ってコト?」
「それとこれとは話が、……いや、ありえますな」
もう一度、三人は顔を見合わせる。
「何が本当で、何が嘘なのか。それを確認しなければなりますまい。
まず、ロンダ司令と思われていたあの声。あれは嘘に違いないでしょう。事実として、文書などどこにも無いのですからな」
「そうね。アレは嘘と見て間違い無いわね」
「反乱も無線からの連絡です。しかしあれが嘘とすれば、危機的状況であると何者かに思い込まされていることになります。そのメリットは?」
「……? 何があるのかしら」
けげんな表情を浮かべるだけのシエナに、イビーザは苛立たしげに説明する。
「央中で実は何も起こっていないとするならば、当然、ロンダ司令も無事。移送手続きを進めているはず。そこが狙いではないかと、そう言っているのです」
「つまり、どこかでトポリーノ氏を奪還に?」
トレッドの指摘に対し、イビーザは左右に大きく首を振る。
「そんな次元の話では無い。事実として、我々は兵の大半を央北域外に送ってしまっている。司令も呑気に、央中に留まったままだ。
こんな時に、本当に大軍が押し寄せてみろ。誰が対応できる?」
「う……っ」
トレッドが息を呑む一方、イビーザは依然として重苦しい表情を浮かべている。
「なお悪いのは、反乱が事実だった場合だ。我々があれを偽の情報だと断じ、何ら対応を執らなかったならば、瞬く間にこの街、この国は攻め入られる。
それも外からの攻撃によってでは無い。我々の混乱に乗じようと目論む、今日まで我々に虐げられてきた者たちによって、だ」
「……」
トレッドに続き、シエナも絶句する。
「総裁、いずれにしても対応を講じねばなりませんぞ。このまま動かずにいるわけにも参りますまい」
「え、ええ」
シエナは輪から離れ、その場をうろうろする。
「……そうか。この騒動、アイツが関わってる。確かよね?」
「あいつとは?」
「マロよ。アイツが今回の話に一枚噛んでる以上、何か知ってるはず」
「考えられますな」
「今確かめなきゃいけないのは、アタシたちが使ってる無線がドコまで本当で、ドコから偽物なのか。そうよね?」
シエナの提案に、二人は大きくうなずいた。
「確かにそうですな。その点を明確にしなければ、前線への指示すら覚束なくなるでしょう」
「行くわよ。アイツをもう一度、尋問するわ」
「かしこまりました」
シエナたちはマロが囚われている地下牢へ向かい、彼に怒鳴りつけた。
「マロ! アンタ、全部知ってるんでしょう!?」
「……うっさいなぁ、人が気持ちよぉ寝とるのに」
「ふざけんなッ! 無線のコトよ! アンタ、無線が向こうとつながってないコト、知ってるんでしょ!?」
「あーあー、それな」
牢の中で寝転んでいたマロが、むくりと上半身を起こす。
「ふあ~あ、あ……。ほな、ボチボチ説明したろか」
「無線はやっぱり、つながってなかったのね?」
「おう。ついでに言うたら、アレックスも実はレジスタンスなんかや無いねん。お前ら騙すために、央中にいてもろてたんや。
ラジオ流してた『Mr.コンチネンタル』も、お前らが司令やろ、兵士やろと思て話しとった相手も、実は全部同じ相手やねん。
そいつはたった一人で、お前ら白猫党全員を手玉にとっとったんよ」
「は?」
思いもよらない言葉に、シエナたちは呆然とする。
「だ、誰がそんな、超人的なことをやってのけたと言うのだ?」
「超人? はっ、あいつにしてみたら、座ったままでダラダラ話しとっただけやで。これほど費用対効果の高い『イタズラ』は、そうそうあらへんやろな」
「いい加減にしたまえ、マラネロ君!」
温厚なトレッドが、声を荒げる。
「一体、『Mr.コンチネンタル』とは何者なのかね!? 我々全員を相手取り、これほどまでに翻弄してきた相手とは一体、誰なのだ!?」
「俺らが昔、白猫党に入れようとしとった奴や。そして俺が殺そうとしとった奴でもある」
「……まさか……」
シエナは鉄格子に張り付き、叫んだ。
「あいつが? あのマーク・トラスが、『Mr.コンチネンタル』なの!?」
「ご名答や。まったく、あいつはものすごい奴やで、ホンマに。
今もこうして、お前ら三人が俺んとこに来ることも予想しとったからな」
「なに?」
マロの言葉に、三人は硬直する。
そこへ、きい……、と鉄格子が開く音が響いてきた。
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タネ明かし。
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「え? な、何言ってんのよ?」
シエナがぎょっとした顔で振り返り、イビーザに問う。
「だってあの声は、ロンダの……」「声だけですぞ」
一方のイビーザも、半信半疑と言った様子ながらも反論する。
「音の粗い無線を通じて、ちょっと声真似のできる者が話せば、それらしく聞こえてもおかしくはございません。
それに此度の電波ジャック騒動もある。敵が相応の無線技術を有しているとするならば、電波送受信の偽装や妨害、回線の奪取など、たやすいことでしょう。
となれば我々だけが『基地につながっている』と思い込んでいた、……いや、思い込まされていたのでは無いでしょうか?」
「まさか、……全部嘘だって言うの? じゃあ反乱も嘘ってコト?」
「それとこれとは話が、……いや、ありえますな」
もう一度、三人は顔を見合わせる。
「何が本当で、何が嘘なのか。それを確認しなければなりますまい。
まず、ロンダ司令と思われていたあの声。あれは嘘に違いないでしょう。事実として、文書などどこにも無いのですからな」
「そうね。アレは嘘と見て間違い無いわね」
「反乱も無線からの連絡です。しかしあれが嘘とすれば、危機的状況であると何者かに思い込まされていることになります。そのメリットは?」
「……? 何があるのかしら」
けげんな表情を浮かべるだけのシエナに、イビーザは苛立たしげに説明する。
「央中で実は何も起こっていないとするならば、当然、ロンダ司令も無事。移送手続きを進めているはず。そこが狙いではないかと、そう言っているのです」
「つまり、どこかでトポリーノ氏を奪還に?」
トレッドの指摘に対し、イビーザは左右に大きく首を振る。
「そんな次元の話では無い。事実として、我々は兵の大半を央北域外に送ってしまっている。司令も呑気に、央中に留まったままだ。
こんな時に、本当に大軍が押し寄せてみろ。誰が対応できる?」
「う……っ」
トレッドが息を呑む一方、イビーザは依然として重苦しい表情を浮かべている。
「なお悪いのは、反乱が事実だった場合だ。我々があれを偽の情報だと断じ、何ら対応を執らなかったならば、瞬く間にこの街、この国は攻め入られる。
それも外からの攻撃によってでは無い。我々の混乱に乗じようと目論む、今日まで我々に虐げられてきた者たちによって、だ」
「……」
トレッドに続き、シエナも絶句する。
「総裁、いずれにしても対応を講じねばなりませんぞ。このまま動かずにいるわけにも参りますまい」
「え、ええ」
シエナは輪から離れ、その場をうろうろする。
「……そうか。この騒動、アイツが関わってる。確かよね?」
「あいつとは?」
「マロよ。アイツが今回の話に一枚噛んでる以上、何か知ってるはず」
「考えられますな」
「今確かめなきゃいけないのは、アタシたちが使ってる無線がドコまで本当で、ドコから偽物なのか。そうよね?」
シエナの提案に、二人は大きくうなずいた。
「確かにそうですな。その点を明確にしなければ、前線への指示すら覚束なくなるでしょう」
「行くわよ。アイツをもう一度、尋問するわ」
「かしこまりました」
シエナたちはマロが囚われている地下牢へ向かい、彼に怒鳴りつけた。
「マロ! アンタ、全部知ってるんでしょう!?」
「……うっさいなぁ、人が気持ちよぉ寝とるのに」
「ふざけんなッ! 無線のコトよ! アンタ、無線が向こうとつながってないコト、知ってるんでしょ!?」
「あーあー、それな」
牢の中で寝転んでいたマロが、むくりと上半身を起こす。
「ふあ~あ、あ……。ほな、ボチボチ説明したろか」
「無線はやっぱり、つながってなかったのね?」
「おう。ついでに言うたら、アレックスも実はレジスタンスなんかや無いねん。お前ら騙すために、央中にいてもろてたんや。
ラジオ流してた『Mr.コンチネンタル』も、お前らが司令やろ、兵士やろと思て話しとった相手も、実は全部同じ相手やねん。
そいつはたった一人で、お前ら白猫党全員を手玉にとっとったんよ」
「は?」
思いもよらない言葉に、シエナたちは呆然とする。
「だ、誰がそんな、超人的なことをやってのけたと言うのだ?」
「超人? はっ、あいつにしてみたら、座ったままでダラダラ話しとっただけやで。これほど費用対効果の高い『イタズラ』は、そうそうあらへんやろな」
「いい加減にしたまえ、マラネロ君!」
温厚なトレッドが、声を荒げる。
「一体、『Mr.コンチネンタル』とは何者なのかね!? 我々全員を相手取り、これほどまでに翻弄してきた相手とは一体、誰なのだ!?」
「俺らが昔、白猫党に入れようとしとった奴や。そして俺が殺そうとしとった奴でもある」
「……まさか……」
シエナは鉄格子に張り付き、叫んだ。
「あいつが? あのマーク・トラスが、『Mr.コンチネンタル』なの!?」
「ご名答や。まったく、あいつはものすごい奴やで、ホンマに。
今もこうして、お前ら三人が俺んとこに来ることも予想しとったからな」
「なに?」
マロの言葉に、三人は硬直する。
そこへ、きい……、と鉄格子が開く音が響いてきた。
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