「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・弄党抄 6
麒麟を巡る話、第593話。
秩序と軍規の決壊。
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6.
三人が振り返った先には、頭から爪先まで全身真っ黒な、短耳の少女が立っていた。
「動くなよ、お前ら。逃げようなんてのも、無しだぜ」
「き、貴様、何者だ!?」
そう返したイビーザに、少女は薄く笑って返す。
「妹が世話になったみてーだなぁ」
「妹?」
「そう、妹。かわいーい金ピカの狐耳と、ふわっふわの尻尾を9つも持ってるヤツさぁ」
「なっ……」
「驚いたやろ? 俺もびっくりしたわー、最初に聞かされた時は」
牢の中のマロが、嘲るように声を投げかける。
「カズセちゃん、俺んとこの鍵も開けてくれへん?」
「分かってら」
一聖は棒立ちのままの三人の間を素通りし、いとも簡単にマロの牢を破る。
「どもども」
「ひでーアザだな。治してやんよ」
一聖がマロを手当てしている間に、天狐も三人のところに近付いて来る。
「ま、こう言うワケだ。すべてはお前らだけをココに集めるために仕掛けた、オレとマロの大芝居だったのさ」
天狐たち三人が、シエナたち三人と対峙する。
「マークに、と言うより『ロンダ司令』に重要な文書を調べろって言われたら、最高幹部であるアンタら三人で向かうコトは確実。じゃなきゃ情報漏洩につながるからな。
で、文書が無いってコトに気付けば、あの話はマジなのかと疑う。疑えばいずれ、無線自体もマジなのかって疑うだろーし、ソコに行き着けば、必ずマロを詰問しに来る。最低でもシエナ、お前だけは、な。
で、後はノコノコと現れたお前らをさらうだけだ」
次の瞬間、その場にいた全員が地下牢から姿を消した。
反乱は事実として央中、そして央北の各地で起こっていた。
「くそっ……、援軍は無いのか!?」
「期待できん! 党首命令でほとんど出払っているんだからな」
「本拠に戻るしかあるまい。この街の制圧は最早、絶望的だ」
支配していた街を追い出された白猫軍たちは、いずれもほうほうの体でクロスセントラルに帰還していく。
「何と言う失態だ……! 我が白猫党が、こんな敗北を喫するなど!」
「いや、我々に失態など無い。敢然と戦ったのだ、何も落ち度は無い」
「むしろ上の責任だろう。これほど人員が不足していなければ、鎮圧できたはずだ」
集まった兵士たちは、怒りと憤りを互いに増幅し合う。
「そうだ……! そもそも何故、チューリン党首が我々に命じたのだ?」
「司令が央北にいれば、こんなことにはならなかったはずだ」
「そうだ! その司令もチューリン党首によって、央中へ回されている」
「この敗走の責任は党首にある。党首が馬鹿な指揮を執らなければ……!」
怒りの矛先はいつしかシエナに向けられ――そしてついに、爆発した。
「こんなことを許していいのか!?」
集まってきた兵士たちの中で、一人が叫ぶ。
「どうした、突然……?」
「党首が杜撰な指揮を執らなければ、こんな敗北なんかしなくて良かったはずだ!
お前たちは党首を、シエナ・チューリンを許せるのか!? あいつがいなければ、こうして悲惨な帰還をせずに済んだはずだ! 違うかッ!?」
「おい、不敬だぞ!」
「不敬!? 我々は『白猫』党だ! 白猫と、そして白猫の言葉を受ける預言者殿を信じてきたはずだ! 決してチューリンを信じてきたわけではない!」
「確かに……」
「言われてみれば」
「そうだろう!? そもそもチューリンが我が物顔をして党を率いていることこそが、白猫党にとっての異常だ!
今もチューリンは、本部でのうのうと党主席に座っている! これを正しいと思うのか!? 我々を無残に敗北させ、惨めな目に遭わせておいて、そんなことが許されると思うのか!」
「……そんなわけが無い!」
「そうだ、おかしいぞーッ!」
「許してたまるものかッ!」
声を荒げ、周りを煽っていた兵士が、続いて叫ぶ。
「チューリンを党首の座から引きずり下ろしてやれ!
いいや、それで済ませない! 殺せ! あの鬼畜シエナに、鉄槌を下すんだッ!」
「おおッ!」
「いいぞ!」
「やってやる!」
兵士たちは沸き立ち、怒涛のごとくクロスセントラルへと走り出した。
と――扇動していたその兵士が、いつの間にかその流れの最後尾にいる。
いや、それどころか一団から離れ、やがて立ち止まった。
「これで良かったですか?」
「はい」
どこからか、真っ白なローブをまとった女性が現れる。
「約束は果たしました。お礼が欲しいんですが」
「ええ、ここに」
ローブの女性は懐から、分厚い封筒を取り出す。
「200万コノンです。来週には倍か、それ以上の価値になっているでしょう」
「へへ、どうも」
封筒を受け取り、兵士はその場から離れようとする。それを見て、女性が声をかけた。
「ああ、そうそう。くれぐれも……」「分かってます。俺も馬鹿じゃない。あんたみたいに怪しい人のことは、もう忘れます。あんたの姿は二度と見ません」「……ええ、ええ。それで結構でございます」
兵士が自分で言った通り、彼は本当に振り返ること無く、そのまま歩き去って行った。
「クスクスクスクス」
一人残った女性――克難訓は、乾いた声で笑う。
「危険に踏み込まず、利だけを手にする。本当の智者とは案外、ああ言う者であろう。……わたくしのように」
そう言い残し、難訓もその場から消えた。
白猫夢・弄党抄 終
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秩序と軍規の決壊。
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6.
三人が振り返った先には、頭から爪先まで全身真っ黒な、短耳の少女が立っていた。
「動くなよ、お前ら。逃げようなんてのも、無しだぜ」
「き、貴様、何者だ!?」
そう返したイビーザに、少女は薄く笑って返す。
「妹が世話になったみてーだなぁ」
「妹?」
「そう、妹。かわいーい金ピカの狐耳と、ふわっふわの尻尾を9つも持ってるヤツさぁ」
「なっ……」
「驚いたやろ? 俺もびっくりしたわー、最初に聞かされた時は」
牢の中のマロが、嘲るように声を投げかける。
「カズセちゃん、俺んとこの鍵も開けてくれへん?」
「分かってら」
一聖は棒立ちのままの三人の間を素通りし、いとも簡単にマロの牢を破る。
「どもども」
「ひでーアザだな。治してやんよ」
一聖がマロを手当てしている間に、天狐も三人のところに近付いて来る。
「ま、こう言うワケだ。すべてはお前らだけをココに集めるために仕掛けた、オレとマロの大芝居だったのさ」
天狐たち三人が、シエナたち三人と対峙する。
「マークに、と言うより『ロンダ司令』に重要な文書を調べろって言われたら、最高幹部であるアンタら三人で向かうコトは確実。じゃなきゃ情報漏洩につながるからな。
で、文書が無いってコトに気付けば、あの話はマジなのかと疑う。疑えばいずれ、無線自体もマジなのかって疑うだろーし、ソコに行き着けば、必ずマロを詰問しに来る。最低でもシエナ、お前だけは、な。
で、後はノコノコと現れたお前らをさらうだけだ」
次の瞬間、その場にいた全員が地下牢から姿を消した。
反乱は事実として央中、そして央北の各地で起こっていた。
「くそっ……、援軍は無いのか!?」
「期待できん! 党首命令でほとんど出払っているんだからな」
「本拠に戻るしかあるまい。この街の制圧は最早、絶望的だ」
支配していた街を追い出された白猫軍たちは、いずれもほうほうの体でクロスセントラルに帰還していく。
「何と言う失態だ……! 我が白猫党が、こんな敗北を喫するなど!」
「いや、我々に失態など無い。敢然と戦ったのだ、何も落ち度は無い」
「むしろ上の責任だろう。これほど人員が不足していなければ、鎮圧できたはずだ」
集まった兵士たちは、怒りと憤りを互いに増幅し合う。
「そうだ……! そもそも何故、チューリン党首が我々に命じたのだ?」
「司令が央北にいれば、こんなことにはならなかったはずだ」
「そうだ! その司令もチューリン党首によって、央中へ回されている」
「この敗走の責任は党首にある。党首が馬鹿な指揮を執らなければ……!」
怒りの矛先はいつしかシエナに向けられ――そしてついに、爆発した。
「こんなことを許していいのか!?」
集まってきた兵士たちの中で、一人が叫ぶ。
「どうした、突然……?」
「党首が杜撰な指揮を執らなければ、こんな敗北なんかしなくて良かったはずだ!
お前たちは党首を、シエナ・チューリンを許せるのか!? あいつがいなければ、こうして悲惨な帰還をせずに済んだはずだ! 違うかッ!?」
「おい、不敬だぞ!」
「不敬!? 我々は『白猫』党だ! 白猫と、そして白猫の言葉を受ける預言者殿を信じてきたはずだ! 決してチューリンを信じてきたわけではない!」
「確かに……」
「言われてみれば」
「そうだろう!? そもそもチューリンが我が物顔をして党を率いていることこそが、白猫党にとっての異常だ!
今もチューリンは、本部でのうのうと党主席に座っている! これを正しいと思うのか!? 我々を無残に敗北させ、惨めな目に遭わせておいて、そんなことが許されると思うのか!」
「……そんなわけが無い!」
「そうだ、おかしいぞーッ!」
「許してたまるものかッ!」
声を荒げ、周りを煽っていた兵士が、続いて叫ぶ。
「チューリンを党首の座から引きずり下ろしてやれ!
いいや、それで済ませない! 殺せ! あの鬼畜シエナに、鉄槌を下すんだッ!」
「おおッ!」
「いいぞ!」
「やってやる!」
兵士たちは沸き立ち、怒涛のごとくクロスセントラルへと走り出した。
と――扇動していたその兵士が、いつの間にかその流れの最後尾にいる。
いや、それどころか一団から離れ、やがて立ち止まった。
「これで良かったですか?」
「はい」
どこからか、真っ白なローブをまとった女性が現れる。
「約束は果たしました。お礼が欲しいんですが」
「ええ、ここに」
ローブの女性は懐から、分厚い封筒を取り出す。
「200万コノンです。来週には倍か、それ以上の価値になっているでしょう」
「へへ、どうも」
封筒を受け取り、兵士はその場から離れようとする。それを見て、女性が声をかけた。
「ああ、そうそう。くれぐれも……」「分かってます。俺も馬鹿じゃない。あんたみたいに怪しい人のことは、もう忘れます。あんたの姿は二度と見ません」「……ええ、ええ。それで結構でございます」
兵士が自分で言った通り、彼は本当に振り返ること無く、そのまま歩き去って行った。
「クスクスクスクス」
一人残った女性――克難訓は、乾いた声で笑う。
「危険に踏み込まず、利だけを手にする。本当の智者とは案外、ああ言う者であろう。……わたくしのように」
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