「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・天魔抄 1
麒麟を巡る話、第594話。
葵の想定外。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
《ちょっとまずいよ、アオイ》
「……?」
夢の中に誘われるなり白猫から告げられ、葵はけげんな顔をした。
《580年に起こるはずだったコトが、何故か今、起こってる。
予想外だったよ――ああ、また言っちゃった――この流れは変わるまいと思って、見直したりしなかったからねぇ》
「何が起こってるの?」
《反乱さ! 5年後に起きるはずだったアレが、今起こってしまってるんだ。
だけどまだ、ボクの体の用意が整ってないよね?》
「そうだね」
答えた葵を、白猫はギロリとにらみつけた。
《『そうだね』、じゃないよまったくさぁ!? そりゃ確かに580年に間に合うようにと予定してたし、そう簡単じゃないってコトは分かってるけどさ、起こっちゃってるんだからどうにかしなきゃいけないだろ!?》
「うん」
そう返し、葵は続けて尋ねる。
「どうすればいい? あなたはどうしたいの?」
《決まってるだろ? 反乱を止めろ。
ボクの復活については、仕方ないけど後回しでいいよ。ホムンクルスなんか間に合いやしない。
とにかく今は、シエナを生贄にして殺せ。その後はキミが党首を名乗れば、騒ぎは収まる。
その後のコトは、ボクが次いで指示する。だからとにかく、まずは起きて行動するんだ》
「分かった」
葵が夢の世界から消えた後、白猫は一人、ほくそ笑んでいた。
《く、ふふっ……、なーんてな! 予想通りさ、よ・そ・う・ど・お・り!
まったくアオイめ、気付きもしなかったのか? いや、まあいいか。気付かないんなら、ソレはソレで。……あはは、くっ、くく、くふふふ、……ああっ、笑いが止まらない!
いいぞアオイ、戦え! 戦って、戦って、死にかけて、そして窮して――いずれボクの前に、姿を見せるがいい! 本体の、ボクの前にね……!》
葵は目を覚まし、がばっと起き上がった。
「急がないと」
さっと着替えを済ませ、刀を二振り腰に佩き、寝室を出る。
その頃には、城内は既に修羅場と化しつつあった。
「鬼畜シエナを許すなーッ!」
「これ以上、あの独裁者を野放しにするなーッ!」
「探せ探せぇ! 見つけ次第殺せーッ!」
城の至るところで怒号と銃声が飛び交い、白亜城が赤く染まっていく。これまでの規律・統率が嘘のように、白猫兵たちが城内で叫び、殺戮を繰り返しているのだ。
「いま気付かれたら面倒かな。……『インビジブル』」
葵は術で姿を消し、狂乱状態の兵士たちに見付からぬように城内を回る。
だが、シエナの部屋や党首の執務室、会議室、その他彼女がいそうな場所を回っても、シエナの姿が見当たらない。
「……どこ?」
散々、探し回ってみたが、シエナはおろか、彼女に付き従っていたトレッドや、こんな事態を逆手に取って台頭を企てそうなイビーザの姿も無い。
その他の幹部については――。
「オラース財務本部長! お前はシエナの味方か、敵か、どっちだ!?」
「どちらでも無い。あくまで私にとっては、ビジネスパートナーでしか無い人間だ。
私を拘束すると言うのならば、気の済むようにしたまえ。殺されるのは勘弁被るがね」
オラースは早々に兵士の前に投降し、自ら捕らえられていた。
「わ、私は、あいつの味方なんかじゃないわ!
ええそうよ! 誰があんな奴、ええ、……ねえ、だから、助けてよぉ……」
アローサも兵士に囲まれ、ボタボタと泣き崩れている。
「……デリック博士もいない。逃げたのかな」
昼が過ぎ、夕闇が迫る頃になっても、葵は依然としてシエナたちを見付けられなかった。
と――兵士たちの会話が、耳に入ってくる。
「ゴールドマン元部長と、……なんだっけ、ネコちゃん?」
「テンコちゃんだ」
「そう、それ。まだ二人とも釈放されてないよな?」
「ああ」
「さっきアローサ管理部長を地下に入れてきたんだけどさ、どっちも見当たらないんだよ」
「へ?」
「ゴールドマン元部長はともかく、ペンコちゃんは目立つから、見落とすはずも無いし」
「テンコちゃんだっつーの」
「まさか脱獄したのかな……? すげー魔術師だって聞くし、レンコンちゃんって」
「いい加減にしろ、テンコちゃんだ。俺の兄貴が世話になったんだからマジで間違えんな」
これを聞いて、葵は静かに地下牢へと向かった。
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葵の想定外。
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《ちょっとまずいよ、アオイ》
「……?」
夢の中に誘われるなり白猫から告げられ、葵はけげんな顔をした。
《580年に起こるはずだったコトが、何故か今、起こってる。
予想外だったよ――ああ、また言っちゃった――この流れは変わるまいと思って、見直したりしなかったからねぇ》
「何が起こってるの?」
《反乱さ! 5年後に起きるはずだったアレが、今起こってしまってるんだ。
だけどまだ、ボクの体の用意が整ってないよね?》
「そうだね」
答えた葵を、白猫はギロリとにらみつけた。
《『そうだね』、じゃないよまったくさぁ!? そりゃ確かに580年に間に合うようにと予定してたし、そう簡単じゃないってコトは分かってるけどさ、起こっちゃってるんだからどうにかしなきゃいけないだろ!?》
「うん」
そう返し、葵は続けて尋ねる。
「どうすればいい? あなたはどうしたいの?」
《決まってるだろ? 反乱を止めろ。
ボクの復活については、仕方ないけど後回しでいいよ。ホムンクルスなんか間に合いやしない。
とにかく今は、シエナを生贄にして殺せ。その後はキミが党首を名乗れば、騒ぎは収まる。
その後のコトは、ボクが次いで指示する。だからとにかく、まずは起きて行動するんだ》
「分かった」
葵が夢の世界から消えた後、白猫は一人、ほくそ笑んでいた。
《く、ふふっ……、なーんてな! 予想通りさ、よ・そ・う・ど・お・り!
まったくアオイめ、気付きもしなかったのか? いや、まあいいか。気付かないんなら、ソレはソレで。……あはは、くっ、くく、くふふふ、……ああっ、笑いが止まらない!
いいぞアオイ、戦え! 戦って、戦って、死にかけて、そして窮して――いずれボクの前に、姿を見せるがいい! 本体の、ボクの前にね……!》
葵は目を覚まし、がばっと起き上がった。
「急がないと」
さっと着替えを済ませ、刀を二振り腰に佩き、寝室を出る。
その頃には、城内は既に修羅場と化しつつあった。
「鬼畜シエナを許すなーッ!」
「これ以上、あの独裁者を野放しにするなーッ!」
「探せ探せぇ! 見つけ次第殺せーッ!」
城の至るところで怒号と銃声が飛び交い、白亜城が赤く染まっていく。これまでの規律・統率が嘘のように、白猫兵たちが城内で叫び、殺戮を繰り返しているのだ。
「いま気付かれたら面倒かな。……『インビジブル』」
葵は術で姿を消し、狂乱状態の兵士たちに見付からぬように城内を回る。
だが、シエナの部屋や党首の執務室、会議室、その他彼女がいそうな場所を回っても、シエナの姿が見当たらない。
「……どこ?」
散々、探し回ってみたが、シエナはおろか、彼女に付き従っていたトレッドや、こんな事態を逆手に取って台頭を企てそうなイビーザの姿も無い。
その他の幹部については――。
「オラース財務本部長! お前はシエナの味方か、敵か、どっちだ!?」
「どちらでも無い。あくまで私にとっては、ビジネスパートナーでしか無い人間だ。
私を拘束すると言うのならば、気の済むようにしたまえ。殺されるのは勘弁被るがね」
オラースは早々に兵士の前に投降し、自ら捕らえられていた。
「わ、私は、あいつの味方なんかじゃないわ!
ええそうよ! 誰があんな奴、ええ、……ねえ、だから、助けてよぉ……」
アローサも兵士に囲まれ、ボタボタと泣き崩れている。
「……デリック博士もいない。逃げたのかな」
昼が過ぎ、夕闇が迫る頃になっても、葵は依然としてシエナたちを見付けられなかった。
と――兵士たちの会話が、耳に入ってくる。
「ゴールドマン元部長と、……なんだっけ、ネコちゃん?」
「テンコちゃんだ」
「そう、それ。まだ二人とも釈放されてないよな?」
「ああ」
「さっきアローサ管理部長を地下に入れてきたんだけどさ、どっちも見当たらないんだよ」
「へ?」
「ゴールドマン元部長はともかく、ペンコちゃんは目立つから、見落とすはずも無いし」
「テンコちゃんだっつーの」
「まさか脱獄したのかな……? すげー魔術師だって聞くし、レンコンちゃんって」
「いい加減にしろ、テンコちゃんだ。俺の兄貴が世話になったんだからマジで間違えんな」
これを聞いて、葵は静かに地下牢へと向かった。
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