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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・天魔抄 2

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    麒麟を巡る話、第595話。
    「フェニックス」実行部隊、出撃。

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    2.
     兵士たちが話していた通り、確かに地下牢には、マロと天狐の姿が無かった。
    「逃げられないはず。
     マロくんはともかく、テンコちゃんの牢には魔法陣をびっしり描いてたもの。『テレポート』も何も使えなくなってたはずだから。
     それでも逃げたのなら、……誰かが、逃がした?」
     時刻は既に夜の6時を回り、辺りは薄暗い。
    「これ以上時間をかけたら、あたしが出ても抑えられなくなる。でもシエナか、周りの2人を生贄にしなきゃ、収まりが付かない。
     地下牢に入れられたあの2人じゃ、生贄にしても弱いし。……どうしようかな」
     葵は城の屋上に移り、一人になったところで床に腰を下ろす。
    「……疲れた。……眠い」
     口を押さえ、欠伸しかけたところで――葵の鼻がくん、と何かを嗅ぎつけた。

    「人に近いけど、ちょっと違う臭い。完全な血と汗じゃない、潤滑液とプラスチックの臭いがほんのりしてる。
     フィオくんと、……何て言ったっけ」
    「パラと申します」
     葵の前に、フィオとパラが現れる。
    「わたくしもフィオも、完全な人間となったつもりでしたが」
    「99%はね。でも元々の残り香がある。
     後はカエデさんと、カズラの周りにいたあの『狼』さんと、カズラ本人。
     それから『炎剣舞』であたしを退けた、あの『猫』の女の人」
     いつの間にか、葵の周囲には葛たちが並んでいた。
    「何の用?」
    「あなたを倒しに来たのよ」
     ルナが刀を抜き、葵に向ける。
    「できないよ」
    「どうかしらね?」
     ルナが話している間に、楓が葵の背後から斬りかかる。
     それを見もせずにかわし、葵は淡々と尋ねる。
    「自信があるみたいだけど、どうして?」
    「疲れてるみたいだし、眠そうだし」
     ブン、と音を立てて飛んできたウォーレンの三節棍も、葵は首を軽くひねって避ける。
    「それくらいで?」
    「それに何より、焦ってるもの。この時間になってもチューリン、いいえ、『生贄役』を見付けられないんでしょ?」
    「……っ」
     フィオとパラの連携をひらりといなし、葵は険を含んだ声で尋ねる。
    「何か知ってるの? まさか、あなたたちがシエナを?」
    「かもね」
     ルナが薄ら笑いを浮かべたところで、葵は刀を抜いた。
    「ふざけないで」
    「ふざけるわよ」
     ルナも正面から、葵に斬り掛かった。
     葵とルナの刀が交差し、鍔競り合いになる。
    「あなたを倒せば、この長い長い戦いの終わりが見えてくる。終わらせるためなら悪ふざけだって道化役だって、何だってやってやるわ」
     葵の背後から、楓が迫る。
    「観念なさい、アオイッ!」
    「する必要ない」
     葵はわざと姿勢を崩し、ルナの刀の切っ先を、楓に向けさせる。
    「わ、っと」「危ない!」
     危うく同士討ちになりかけるが、二人は互いの刀をつかんで止める。
     その間に葵は二人から離れ、間合いを取ろうとするが、すぐさまウォーレンが飛び掛かる。
    「ちぇいああああッ!」
    「うるさいよ」
     葵は側転し、刀を持っていない左手で地面をとん、と押して、ぐるんと蹴りを放つ。
    「うおおっ!?」
     三節棍は一瞬前まで葵の頭があった場所を空しく通過し、代わりに葵の右脚がウォーレンの右腕を捉え、ボキ、と鈍い音を響かせる。
    「うぐっ、……ぐ、……う」
     まるで三節棍がもう一つ増えたかのように、ウォーレンの腕が二箇所で曲がる。
     そしてさらに、葵のもう一方の脚がぶつけられる。
    「ごは……っ」
     葵の足の裏がウォーレンの目と鼻に食い込み、そこから噴水のように血が飛び散る。ウォーレンはそのまま大の字に倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。
     すとんと地面に降り、平然と立ち上がった葵の目の前に、フィオとパラの剣が×字で迫り来る。
    「食らえ、アオイ!」
     しかしこの攻撃も、ひゅ、ひゅんと音を立てて虚空を薙ぐに留まる。
     この攻撃をかわした葵は姿勢を低くし、今度は水平に一回転して二人の脚を蹴る。
    「うっ……」「きゃっ……」
     二人揃って転んだところで、もう一度葵の水面蹴りが襲いかかる。
    「ぐえっ!?」「あうっ!?」
     二人の首に、葵の爪先が深々と突き刺さる。フィオたちは為す術も無く、そのまま弾き飛ばされた。
    「……強い。もう3人、やられるなんて」
     残ったルナたちは葵から離れ、間合いを取る。
    「あたしを倒すつもりだったら、テンコちゃんやコントンさんを呼んでくるべきだったよ。それでも倒すけどね」
     葵はいつも通りに、淡々としゃべりながら刀を向けた。
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