「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・天魔抄 3
麒麟を巡る話、第596話。
Invisible V.S. Invisible。
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3.
「姉貴」
それまで一言も発しなかった葛が、口を開いた。
「なに?」
「どうしてこんなコトができるの?」
尋ねた葛に対し、葵はわずかに首を傾げて返す。
「こんなこと?」
「ものの10秒かそこらで、3人もボッコボコにした。少しくらいさー、悪いと思ってもいいんじゃない?」
「襲われたら戦わなきゃ、殺されるもの。正当防衛って言葉、分かる?」
「バカにしないで。分かるわよ、それくらい。
あたしが言いたいのは、姉貴の腕があればあそこまでひどい目に遭わせるコト無く、さっと気絶なり何なりさせて、簡単に無力化できるでしょ、ってコトよ。
コレまでだってカエデさんをわざわざバラバラにしたり、人が死ぬと『見えてて』見殺しにしたり。パパのコトだってそう。
どうしてこんなコトするの? まさかコレも、白猫の命令? 『できるだけ残酷に殺せ』って言われたの?」
「……」
葵は目を細めるが、答えない。
葛は首をブンブン振り、こう続けた。
「コントンさんやばーちゃんに『アンタを助けてあげて』って言われてたけど、やっぱり無理。アンタはもう、引き返せないほど真っ黒に汚れ過ぎた。
もう、あたしの力じゃ救ってあげられない。あたしには、アンタを討つコトしかできない」
「助ける? 討つ? ……あんたもあたしを、馬鹿にしてるよ」
葵は構えていた刀を納め、もう一振りの刀――「晴空刀 蒼天」を抜いた。
「あんたにはそんなこと、どっちもできない」
「やって見せる。ううん、やらなきゃいけない」
「無理」
「無理なんかじゃない」
「分からない?」
「アンタに都合のいい理屈なんか、分かりたくもない」
「理屈じゃない。結果だよ」
「その結果はアンタの思い込みだ!」
葛は叫び、飛び掛かる。それをかわし、葵が刀を薙ぐ。
「ふぅ……ッ!」
薙いだその瞬間、その場に異様な気配がたなびく。
「うっ……!」「なに……これ?」
見守っていた楓とルナが、同時にうめいた。
「なに……? この……、気持ち悪い感じ……?」
葛も斬撃をかわしはしたものの、その場から動けないでいる。
葵は額に汗を浮かべながら、淡々と述べた。
「セイナばーちゃんが持てば、この刀は唯一無二の聖刀。でもそれ以外の人が持てば、見る人すべてを害する妖刀になる。
こうして握ってる、あたし自身をも拒むほどに」
「そう仰ってましたわね。それを抜いたと言うことは、『あれ』を使う気ですわね? あたくしを屠った、あの邪法を」
「うん」
葵は呪文を唱え、自らの姿を「晴奈」に変えた。
《葛、お前に引導を渡してやろう。もうこれ以上、悪あがきをするな》
「ふざけんな」
葛は「夜桜」を構え直し、「晴奈」と対峙する。
「お前なんかセイナばーちゃんじゃない。その顔でゲスなコト、ひとっこともしゃべんな」
《私に言うことを聞かせようとするならば、力で示したらどうだ?》
「……やってやんよ」
葛は大きく深呼吸し、「世界」を飛び出した。
「もう一度ブッ飛ばしてやる! 『星剣舞』!」
《やってみるがいい! 『星剣舞』!》
その場から、二人の姿が消えた。
平行世界から別の平行世界へと須臾のうちに、いや、瞬息、弾指、刹那――人間には認識できないほど早く、速く、疾く飛び回り、葛と「晴奈」は何十合と斬り結ぶ。
「ぃやあああああッ!」
《りゃあああああッ!》
刀が交錯し合うその衝撃も音も火花も、飛び散る汗や血も、世界と世界の隙間、虚空へと消えていく。
だが葛には、そんな音も光もダメージも、何も感じられない。「相手を何としてでも倒してやる」と言う決意以外には、何も知覚できていなかった。
「……っ、……ドコ、にっ」
意識が漠然とし始める。
己の感覚が曖昧になり、模糊のように溶けていく。
自分が今、立っているのか、倒れているのか、微塵も把握できない。
「……あ……た……し……は……っ……!」
《限界のようだな、葛》
忽然と、「晴奈」の声が投げかけられる。
「……あ……ね……き……い……ぃ……っ……」
《とどめだ》
斬られた感覚は無かった。
ただ、葛は――自分が致命傷を負ったことだけは、実感していた。
すべての感覚と意識が飛散し、葛は墜落していった。
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3.
「姉貴」
それまで一言も発しなかった葛が、口を開いた。
「なに?」
「どうしてこんなコトができるの?」
尋ねた葛に対し、葵はわずかに首を傾げて返す。
「こんなこと?」
「ものの10秒かそこらで、3人もボッコボコにした。少しくらいさー、悪いと思ってもいいんじゃない?」
「襲われたら戦わなきゃ、殺されるもの。正当防衛って言葉、分かる?」
「バカにしないで。分かるわよ、それくらい。
あたしが言いたいのは、姉貴の腕があればあそこまでひどい目に遭わせるコト無く、さっと気絶なり何なりさせて、簡単に無力化できるでしょ、ってコトよ。
コレまでだってカエデさんをわざわざバラバラにしたり、人が死ぬと『見えてて』見殺しにしたり。パパのコトだってそう。
どうしてこんなコトするの? まさかコレも、白猫の命令? 『できるだけ残酷に殺せ』って言われたの?」
「……」
葵は目を細めるが、答えない。
葛は首をブンブン振り、こう続けた。
「コントンさんやばーちゃんに『アンタを助けてあげて』って言われてたけど、やっぱり無理。アンタはもう、引き返せないほど真っ黒に汚れ過ぎた。
もう、あたしの力じゃ救ってあげられない。あたしには、アンタを討つコトしかできない」
「助ける? 討つ? ……あんたもあたしを、馬鹿にしてるよ」
葵は構えていた刀を納め、もう一振りの刀――「晴空刀 蒼天」を抜いた。
「あんたにはそんなこと、どっちもできない」
「やって見せる。ううん、やらなきゃいけない」
「無理」
「無理なんかじゃない」
「分からない?」
「アンタに都合のいい理屈なんか、分かりたくもない」
「理屈じゃない。結果だよ」
「その結果はアンタの思い込みだ!」
葛は叫び、飛び掛かる。それをかわし、葵が刀を薙ぐ。
「ふぅ……ッ!」
薙いだその瞬間、その場に異様な気配がたなびく。
「うっ……!」「なに……これ?」
見守っていた楓とルナが、同時にうめいた。
「なに……? この……、気持ち悪い感じ……?」
葛も斬撃をかわしはしたものの、その場から動けないでいる。
葵は額に汗を浮かべながら、淡々と述べた。
「セイナばーちゃんが持てば、この刀は唯一無二の聖刀。でもそれ以外の人が持てば、見る人すべてを害する妖刀になる。
こうして握ってる、あたし自身をも拒むほどに」
「そう仰ってましたわね。それを抜いたと言うことは、『あれ』を使う気ですわね? あたくしを屠った、あの邪法を」
「うん」
葵は呪文を唱え、自らの姿を「晴奈」に変えた。
《葛、お前に引導を渡してやろう。もうこれ以上、悪あがきをするな》
「ふざけんな」
葛は「夜桜」を構え直し、「晴奈」と対峙する。
「お前なんかセイナばーちゃんじゃない。その顔でゲスなコト、ひとっこともしゃべんな」
《私に言うことを聞かせようとするならば、力で示したらどうだ?》
「……やってやんよ」
葛は大きく深呼吸し、「世界」を飛び出した。
「もう一度ブッ飛ばしてやる! 『星剣舞』!」
《やってみるがいい! 『星剣舞』!》
その場から、二人の姿が消えた。
平行世界から別の平行世界へと須臾のうちに、いや、瞬息、弾指、刹那――人間には認識できないほど早く、速く、疾く飛び回り、葛と「晴奈」は何十合と斬り結ぶ。
「ぃやあああああッ!」
《りゃあああああッ!》
刀が交錯し合うその衝撃も音も火花も、飛び散る汗や血も、世界と世界の隙間、虚空へと消えていく。
だが葛には、そんな音も光もダメージも、何も感じられない。「相手を何としてでも倒してやる」と言う決意以外には、何も知覚できていなかった。
「……っ、……ドコ、にっ」
意識が漠然とし始める。
己の感覚が曖昧になり、模糊のように溶けていく。
自分が今、立っているのか、倒れているのか、微塵も把握できない。
「……あ……た……し……は……っ……!」
《限界のようだな、葛》
忽然と、「晴奈」の声が投げかけられる。
「……あ……ね……き……い……ぃ……っ……」
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