「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・天魔抄 6
麒麟を巡る話、第599話。
熱く、たぎる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「えっ?」
思いもよらない話を聞かされ、葛はきょとんとする。
「白猫と戦ってきた? 一緒に仕事してたの間違いでしょ?」
「葵は白猫の奴隷となっているに過ぎぬ。
だが、そもそも不思議に思わぬか? 葵ほどの才と力に恵まれた不世出の傑物が何故、白猫などの言いなりになっているのかを」
「自分の予知能力以外の未来になるのが怖いからでしょ? あたしがそう言ったらアイツ、怒ってたもん」
「お前は本当に、何も知らないのだな」
猫獣人は葛の額を、ぺちんと叩く。
「いったー……、何すんのよ!?」
「もしも葵が白猫と対立すれば、白猫は葵の代わりに誰を籠絡するか、考えたことがあるのか?」
「え? うーん、姉貴と戦うコトになるんだしー、ソレなりに強い人じゃないとダメだよねー?」
「そうだ。そこで、葵が使えぬ『星剣舞』を使える者がいたならどうだ?
そしてそんな稀有な人間が葵の身近にいること、否、現れることを、白猫も葵も互いに、予知能力により知っていたとしたら?」
「……え?」
そこで葛は息を呑み、恐る恐る尋ねた。
「じゃあ、まさか、あたしを?」
「そう、お前だ。そのために葵は己の幸福と運命を投げ出して、これまでずっと、白猫の奴隷に成り下がってきたのだ」
「でもアイツ、あたしを殺そうとしたのよ?」
「白猫が見張っているからだ。少しでも奴の意に沿わぬ行動を執れば――脅威であるお前を排除せず、助けようなどとすれば――『己に従わぬ駒などいらぬ』と、白猫が葵を殺す。
そして先程お前が冗談交じりで言ったことも、理由の一つなのだ」
「あたしが、……さっき? 何のコト?」
「白猫は血を見ることを渇望している。それも無残に屠られ、撒き散らされる、敗者の血をな」
「ソレって、『白猫から残酷に殺せって命令された』って、その、アレ? ウソ、まさかマジでそんなコト、命令されてたって言うの?」
「そうだ。無論、葵自身はそんな残虐に手を染めたいなどとは、微塵も思っておらぬ。
しかし『主』の命に背き、機嫌を損ねれば、さらなる残酷を命じてくることは明白。だから秋也や楓の時のように、でき得る限り、相手が生存できる配慮を重ねていたのだ。葵ならばいつお前や、お前の仲間からの助けが来るか、『見えて』いたのだろうからな。
そもそも、お前も葵を殺そうとしていたではないか。戦わざるを得ない状況に、お前が追いやっていたのだ。葵が『戦いたくない』と言っていたのにもかかわらず、だ。葵にとってはさぞ、心苦しい状況が続いていただろう。
まったく、葵はお前のことを思って戦っていたと言うのに、お前ときたら何も分からず、ただ姉を責め立て、殺すことにばかりに気を注いできたと言うのか」
「……」
葛は叩かれた額に手を当て、黙り込む。
その様子を見ていた猫獣人が、続けて諭す。
「良く考えろ、葛。この先、葵がどうなるかを。
ずっと白猫の言いなりになって、やがて葵は、そのために命を落とすだろう。だがそれで終わりにならぬ。
きっと葵の魂も、永遠に白猫によってこき使われることとなるだろう。死してなお、葵は白猫の奴隷となり続けるのだ」
「ひどい! そんなのって、……っ」
これまで憎いと思っていたのに――葛の口から思わず、そんな言葉が漏れていた。
「葛」
とうとうと語ってきた猫獣人は、葛を見据え、静かに尋ねてきた。
「お前は、誰を護るべきだ? 誰から、護るべきだ?」
「……」
葛は無言で「夜桜」をつかみ、立ち上がる。
「分かったようだな」
「うん」
「くれぐれも忘れるな。それが心にある限り、お前は『星剣舞』を自在に操れるはずだ」
葛は無言でうなずき――その場から姿を消した。
《『人鬼・火術』。これに『炎剣舞』の炎を加えれば……》
周囲に巻き起こった炎は「渾沌」に集約され、一層激しく燃え上がる。
《かつて晴奈とわたしが一度だけ協力して出したこの大技も、簡単に使えるってわけ》
「……~ッ!」
炎は赤を超えて真っ青に、そして白色に近付き――ルナを飲み込んだかに見えた。
「……ん? ……あれ?」
だが次の瞬間、白色の炎は四散し、その場から消える。
いや、火が消えただけではない。それほどの高温を孕む炎が発生すれば、周囲の空気が相応に煮えたぎるはずなのだが、それも無い。央北の短い夏の夜としては平均的な、多少汗ばむ程度のものでしかない。
結果として、ルナはまったくの無傷で、その場に立っていた。
《これは……?》
予想外、いや、「予知」外だったのだろう。「渾沌」がいぶかしむような声を上げる。
《火が、……いいえ、『火術』が斬られた? ……ああ、そう言うこと》
元の姿に戻った葵は、いつの間にかルナの前に立っていた葛に刀を向ける。
「帰って来たんだね、カズラ。……この直後の未来、あたしにはこう見えてた。
その、ルナって人はあたしの技で丸焦げになった。全身が炭化するまで燃え尽きて、ぼろぼろっと崩れて死んでたはずだった。そこで座り込んでるカエデさんに『ごめん』って言い遺してね。
でもそうはならなかった。またあんたが、あたしの未来予知を壊した。……あんたは、どこまであたしの邪魔をすれば気が済むの?」
「アンタが降参するまでよ」
葛はすう、と息を吸い込み、刀を構える。
その所作を見て、ルナは息を呑んでいた。
「葛、……似てる」
「どなたに、ですの?」
ルナの背後にいた楓が、恐る恐る尋ねる。
ルナは後ずさりしながら、ぽつりぽつりと、こう返した。
「あたしが一番かっこいいと思った――ずーっと嫌いだったけど、一度だけ、うっかり、そう感じちゃった時の――あたしの、母さんに」
@au_ringさんをフォロー
熱く、たぎる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「えっ?」
思いもよらない話を聞かされ、葛はきょとんとする。
「白猫と戦ってきた? 一緒に仕事してたの間違いでしょ?」
「葵は白猫の奴隷となっているに過ぎぬ。
だが、そもそも不思議に思わぬか? 葵ほどの才と力に恵まれた不世出の傑物が何故、白猫などの言いなりになっているのかを」
「自分の予知能力以外の未来になるのが怖いからでしょ? あたしがそう言ったらアイツ、怒ってたもん」
「お前は本当に、何も知らないのだな」
猫獣人は葛の額を、ぺちんと叩く。
「いったー……、何すんのよ!?」
「もしも葵が白猫と対立すれば、白猫は葵の代わりに誰を籠絡するか、考えたことがあるのか?」
「え? うーん、姉貴と戦うコトになるんだしー、ソレなりに強い人じゃないとダメだよねー?」
「そうだ。そこで、葵が使えぬ『星剣舞』を使える者がいたならどうだ?
そしてそんな稀有な人間が葵の身近にいること、否、現れることを、白猫も葵も互いに、予知能力により知っていたとしたら?」
「……え?」
そこで葛は息を呑み、恐る恐る尋ねた。
「じゃあ、まさか、あたしを?」
「そう、お前だ。そのために葵は己の幸福と運命を投げ出して、これまでずっと、白猫の奴隷に成り下がってきたのだ」
「でもアイツ、あたしを殺そうとしたのよ?」
「白猫が見張っているからだ。少しでも奴の意に沿わぬ行動を執れば――脅威であるお前を排除せず、助けようなどとすれば――『己に従わぬ駒などいらぬ』と、白猫が葵を殺す。
そして先程お前が冗談交じりで言ったことも、理由の一つなのだ」
「あたしが、……さっき? 何のコト?」
「白猫は血を見ることを渇望している。それも無残に屠られ、撒き散らされる、敗者の血をな」
「ソレって、『白猫から残酷に殺せって命令された』って、その、アレ? ウソ、まさかマジでそんなコト、命令されてたって言うの?」
「そうだ。無論、葵自身はそんな残虐に手を染めたいなどとは、微塵も思っておらぬ。
しかし『主』の命に背き、機嫌を損ねれば、さらなる残酷を命じてくることは明白。だから秋也や楓の時のように、でき得る限り、相手が生存できる配慮を重ねていたのだ。葵ならばいつお前や、お前の仲間からの助けが来るか、『見えて』いたのだろうからな。
そもそも、お前も葵を殺そうとしていたではないか。戦わざるを得ない状況に、お前が追いやっていたのだ。葵が『戦いたくない』と言っていたのにもかかわらず、だ。葵にとってはさぞ、心苦しい状況が続いていただろう。
まったく、葵はお前のことを思って戦っていたと言うのに、お前ときたら何も分からず、ただ姉を責め立て、殺すことにばかりに気を注いできたと言うのか」
「……」
葛は叩かれた額に手を当て、黙り込む。
その様子を見ていた猫獣人が、続けて諭す。
「良く考えろ、葛。この先、葵がどうなるかを。
ずっと白猫の言いなりになって、やがて葵は、そのために命を落とすだろう。だがそれで終わりにならぬ。
きっと葵の魂も、永遠に白猫によってこき使われることとなるだろう。死してなお、葵は白猫の奴隷となり続けるのだ」
「ひどい! そんなのって、……っ」
これまで憎いと思っていたのに――葛の口から思わず、そんな言葉が漏れていた。
「葛」
とうとうと語ってきた猫獣人は、葛を見据え、静かに尋ねてきた。
「お前は、誰を護るべきだ? 誰から、護るべきだ?」
「……」
葛は無言で「夜桜」をつかみ、立ち上がる。
「分かったようだな」
「うん」
「くれぐれも忘れるな。それが心にある限り、お前は『星剣舞』を自在に操れるはずだ」
葛は無言でうなずき――その場から姿を消した。
《『人鬼・火術』。これに『炎剣舞』の炎を加えれば……》
周囲に巻き起こった炎は「渾沌」に集約され、一層激しく燃え上がる。
《かつて晴奈とわたしが一度だけ協力して出したこの大技も、簡単に使えるってわけ》
「……~ッ!」
炎は赤を超えて真っ青に、そして白色に近付き――ルナを飲み込んだかに見えた。
「……ん? ……あれ?」
だが次の瞬間、白色の炎は四散し、その場から消える。
いや、火が消えただけではない。それほどの高温を孕む炎が発生すれば、周囲の空気が相応に煮えたぎるはずなのだが、それも無い。央北の短い夏の夜としては平均的な、多少汗ばむ程度のものでしかない。
結果として、ルナはまったくの無傷で、その場に立っていた。
《これは……?》
予想外、いや、「予知」外だったのだろう。「渾沌」がいぶかしむような声を上げる。
《火が、……いいえ、『火術』が斬られた? ……ああ、そう言うこと》
元の姿に戻った葵は、いつの間にかルナの前に立っていた葛に刀を向ける。
「帰って来たんだね、カズラ。……この直後の未来、あたしにはこう見えてた。
その、ルナって人はあたしの技で丸焦げになった。全身が炭化するまで燃え尽きて、ぼろぼろっと崩れて死んでたはずだった。そこで座り込んでるカエデさんに『ごめん』って言い遺してね。
でもそうはならなかった。またあんたが、あたしの未来予知を壊した。……あんたは、どこまであたしの邪魔をすれば気が済むの?」
「アンタが降参するまでよ」
葛はすう、と息を吸い込み、刀を構える。
その所作を見て、ルナは息を呑んでいた。
「葛、……似てる」
「どなたに、ですの?」
ルナの背後にいた楓が、恐る恐る尋ねる。
ルナは後ずさりしながら、ぽつりぽつりと、こう返した。
「あたしが一番かっこいいと思った――ずーっと嫌いだったけど、一度だけ、うっかり、そう感じちゃった時の――あたしの、母さんに」
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
ただ率直に言うと、要点がよく分からず、
何を言いたいのか把握できかねます。
とにかく今、非常に苦労されていると言うことは伝わりました。
心中、お察しします。