「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・天魔抄 7
麒麟を巡る話、第600話。
すべてを超えて。
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7.
「まだやる気?」
淡々と尋ねる葵に、葛ははっきりと答えた。
「やるよ。あたしは、アンタを、倒す」
「そう」
葵は短く返し、再び「晴奈」に姿を変えた。
《懲りない奴だな、葛》
「……」
《いいだろう。今度こそ、引導を渡してやる!》
「晴奈」の姿が消える。
それを受けて、葛も姿を消した。
夢の世界での箴言(しんげん)を受け、葛の心中は一変していた。
(倒す。その気持ちは変わらない。でも『殺す』じゃない)
次元と次元の間で、葛はまた、「晴奈」と対峙する。
(あたしは姉貴を倒す。倒して、救う)
だが先程とは違い、葛は自身の感覚を一欠片も失ってはいなかった。
(もうコレ以上)
《食らうがいい!》
「晴奈」の斬撃が迫る。
(あたしはもうコレ以上、アンタに)
葛の刀が動く。
(アンタに――)
その刃が、そして葛自身が、「晴奈」の剣閃と交錯する。
(アンタに、罪を負わせやしない! コレで全部、終わりにしてやるッ!)
だが、その剣閃は葛の何物をも切り裂くこと無く、素通りした。
《なにッ!?》
「りゃああああああーッ!」
葛の刀が、「晴奈」を真っ二つに切断した。
「……う、っ……」
どこからか、うめき声が響く。
「葵!」
その声が、屋上の出入口の壁から聞こえてくることに、ルナが気付く。
葵は壁に埋まり込んでおり、その左肩から右腰にかけて、刀傷が走っている。
そして右手に握られていた「蒼天」の刃は、半分になっていた。
「……あたし……が……」
葵は血を吐きながら、呆然とした様子でつぶやく。
「……まけ……た……?」
「そーだよ」
葛が現れる。その手には「夜桜」と、「蒼天」の残り半分とが握られていた。
「まだやる? アンタの奥義と得物、真っ二つにしたけど」
「……」
葵はのろのろと首を上げたが、やがてかくんと落とした。
「……やらない」
「ねえ、姉貴。この勝負、あたしの勝ち? それともアンタ?」
不敵に笑う葛に、葵はまたのろのろと首を上げ、淡々と返した。
「認める。あたしの負け。あんたの、勝ちだよ」
「ようし」
葛は満足げにうなずき、刀を収め――ぐすぐすと泣き始めた。
「……終わったよね」
「……」
「コレで、アンタの悪夢は、終わったよね」
「……」
「コレで、アンタはもう、鬼や悪魔みたいなコト、しなくて、済むんだよね」
「……カズラ」
「戻って来てよ、姉貴。あたしたちのトコに。
テンコちゃんとか、カズセちゃんなら、アンタに二度と、白猫に会わせないように、できるって言ってる。もう、会わなくて済むんだよ。
だからもう、コレ以上、白猫の言うコト、聞かなくて、いいんだよぉ……」
「……っ」
あれだけ吐血し、傷だらけになっても、ずっと無表情のままだった葵の目から、ぽたっと涙がこぼれた。
「……あたしは、カズラ、……あたしはっ」
「がえっでぎでよぉ、ねえぢゃああああん」
葛はその場にへたり込み、大声で泣き出す。
「……うん……うん……帰るよ……うん……」
葵もボタボタと、涙を流していた。
夜が明け、熱狂の渦に呑まれていた白猫軍も、ようやく落ち着きを見せ始めていた。
「チューリン党首、イビーザ幹事長、そしてトレッド政務部長は見つからず、か」
「どうやら我々の蜂起を察して、逃げたらしいな」
「預言者殿と思われる方も見当たらなかった」
「そうだな。……どうする?」
誰からとも無く、その疑問が投げかけられる。
「どう、って」
「我々は党本部を占拠した。党首をはじめとして、長となる者は不在だ。となれば誰かが代行しなければならんだろう。
まさか占拠したまま放っておくわけにも行かないし」
「そりゃそうだが……」
兵士たちは荒らされた中庭に集まり、今後を相談し合う。
「あ、そうだ」
と、一人が手を挙げる。
「ロンダ司令は、まだ央中に?」
「そのはずだ」
「司令を長として立てると言うのはどうだ?」
「ふむ……」
「無線設備は無事だろうな?」
「応援を防ぐため、真っ先に占拠したからな。重大な損傷はあるまい」
「だが、昨日時点で既に、カンバスボックス基地の雲行きは怪しかった。無事だといいのだが……」
兵士たちは通信室に向かい、基地の状況を確かめることにした。
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「まだやる気?」
淡々と尋ねる葵に、葛ははっきりと答えた。
「やるよ。あたしは、アンタを、倒す」
「そう」
葵は短く返し、再び「晴奈」に姿を変えた。
《懲りない奴だな、葛》
「……」
《いいだろう。今度こそ、引導を渡してやる!》
「晴奈」の姿が消える。
それを受けて、葛も姿を消した。
夢の世界での箴言(しんげん)を受け、葛の心中は一変していた。
(倒す。その気持ちは変わらない。でも『殺す』じゃない)
次元と次元の間で、葛はまた、「晴奈」と対峙する。
(あたしは姉貴を倒す。倒して、救う)
だが先程とは違い、葛は自身の感覚を一欠片も失ってはいなかった。
(もうコレ以上)
《食らうがいい!》
「晴奈」の斬撃が迫る。
(あたしはもうコレ以上、アンタに)
葛の刀が動く。
(アンタに――)
その刃が、そして葛自身が、「晴奈」の剣閃と交錯する。
(アンタに、罪を負わせやしない! コレで全部、終わりにしてやるッ!)
だが、その剣閃は葛の何物をも切り裂くこと無く、素通りした。
《なにッ!?》
「りゃああああああーッ!」
葛の刀が、「晴奈」を真っ二つに切断した。
「……う、っ……」
どこからか、うめき声が響く。
「葵!」
その声が、屋上の出入口の壁から聞こえてくることに、ルナが気付く。
葵は壁に埋まり込んでおり、その左肩から右腰にかけて、刀傷が走っている。
そして右手に握られていた「蒼天」の刃は、半分になっていた。
「……あたし……が……」
葵は血を吐きながら、呆然とした様子でつぶやく。
「……まけ……た……?」
「そーだよ」
葛が現れる。その手には「夜桜」と、「蒼天」の残り半分とが握られていた。
「まだやる? アンタの奥義と得物、真っ二つにしたけど」
「……」
葵はのろのろと首を上げたが、やがてかくんと落とした。
「……やらない」
「ねえ、姉貴。この勝負、あたしの勝ち? それともアンタ?」
不敵に笑う葛に、葵はまたのろのろと首を上げ、淡々と返した。
「認める。あたしの負け。あんたの、勝ちだよ」
「ようし」
葛は満足げにうなずき、刀を収め――ぐすぐすと泣き始めた。
「……終わったよね」
「……」
「コレで、アンタの悪夢は、終わったよね」
「……」
「コレで、アンタはもう、鬼や悪魔みたいなコト、しなくて、済むんだよね」
「……カズラ」
「戻って来てよ、姉貴。あたしたちのトコに。
テンコちゃんとか、カズセちゃんなら、アンタに二度と、白猫に会わせないように、できるって言ってる。もう、会わなくて済むんだよ。
だからもう、コレ以上、白猫の言うコト、聞かなくて、いいんだよぉ……」
「……っ」
あれだけ吐血し、傷だらけになっても、ずっと無表情のままだった葵の目から、ぽたっと涙がこぼれた。
「……あたしは、カズラ、……あたしはっ」
「がえっでぎでよぉ、ねえぢゃああああん」
葛はその場にへたり込み、大声で泣き出す。
「……うん……うん……帰るよ……うん……」
葵もボタボタと、涙を流していた。
夜が明け、熱狂の渦に呑まれていた白猫軍も、ようやく落ち着きを見せ始めていた。
「チューリン党首、イビーザ幹事長、そしてトレッド政務部長は見つからず、か」
「どうやら我々の蜂起を察して、逃げたらしいな」
「預言者殿と思われる方も見当たらなかった」
「そうだな。……どうする?」
誰からとも無く、その疑問が投げかけられる。
「どう、って」
「我々は党本部を占拠した。党首をはじめとして、長となる者は不在だ。となれば誰かが代行しなければならんだろう。
まさか占拠したまま放っておくわけにも行かないし」
「そりゃそうだが……」
兵士たちは荒らされた中庭に集まり、今後を相談し合う。
「あ、そうだ」
と、一人が手を挙げる。
「ロンダ司令は、まだ央中に?」
「そのはずだ」
「司令を長として立てると言うのはどうだ?」
「ふむ……」
「無線設備は無事だろうな?」
「応援を防ぐため、真っ先に占拠したからな。重大な損傷はあるまい」
「だが、昨日時点で既に、カンバスボックス基地の雲行きは怪しかった。無事だといいのだが……」
兵士たちは通信室に向かい、基地の状況を確かめることにした。
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とうとう600話到達。「蒼天剣」の総話数、594話を超えました。
まさに「すべてを超えて」。
あと40話弱で完結です。
個人的には残念なことに、今年中には完結に至りませんでした。
待受やその他ドット絵を掲載する関係上、恐らく1日か2日、年をまたぐことになります。
何とか年内に収めたかったんですが、仕方無いですね。
現在、3作ほど並行して執筆中。DWと次回作と双月世界小話。正直に言うと、迷走しています。
どれか一本に絞って書くべきなのでしょうが、どれも今現在、まとまったアイデアに恵まれず、試し試し書いてる状態。
とは言え、一番に仕上げるべきはDW。また半年とか一年も時間を開けてしまうのは、個人的にかなり気持ちが悪いので。
こちらは今のところ、20%くらいの出来です。
話を戻します。
「白猫夢」、残り40話弱。
最後までご笑覧いただければ幸いです。
とうとう600話到達。「蒼天剣」の総話数、594話を超えました。
まさに「すべてを超えて」。
あと40話弱で完結です。
個人的には残念なことに、今年中には完結に至りませんでした。
待受やその他ドット絵を掲載する関係上、恐らく1日か2日、年をまたぐことになります。
何とか年内に収めたかったんですが、仕方無いですね。
現在、3作ほど並行して執筆中。DWと次回作と双月世界小話。正直に言うと、迷走しています。
どれか一本に絞って書くべきなのでしょうが、どれも今現在、まとまったアイデアに恵まれず、試し試し書いてる状態。
とは言え、一番に仕上げるべきはDW。また半年とか一年も時間を開けてしまうのは、個人的にかなり気持ちが悪いので。
こちらは今のところ、20%くらいの出来です。
話を戻します。
「白猫夢」、残り40話弱。
最後までご笑覧いただければ幸いです。



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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

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