「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・天魔抄 8
麒麟を巡る話、第601話。
震撼する白猫党。
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8.
「こちらHQ。こちらHQ。カンバスボックス基地、応答願います」
通信電波を送り、兵士たちは固唾を呑んで応答を待――とうとした。
ところが昨日の混乱が無かったかのように、応答はすぐ返って来た。
《こちらカンバスボックス基地、HQどうぞ》
「無事なのか?」
《無事? 無事とはどう言う意味か?》
「ん……?」
呑気な応答に、兵士たちは顔を見合わせた。
「昨日1230時、カンバスボックス基地に反乱の徒が押し寄せ、襲撃されていたとの連絡を受けていたのだが」
《はぁ? いや、そんな事実は無い》
「へ?」
思ってもいない返答を受け、ふたたび顔を見合わせる。
「も、もう一度確認する。カンバスボックス基地は襲撃されていない、と?」
《その通りだ。央南と西方の蜂起で忙しくしてはいるが、当基地が襲撃に遭ったと言う事実は無い》
「……マジで?」
三度、全員が顔を見合わせ――全員が真っ青になった。
「お、おい?」
「じゃ、じゃあ?」
「反乱って、……無かったってことなのか?」
「いや、待て、そんな馬鹿な。事実として、我々は街から追い出されたではないか」
「だ、だよな」
《反乱とは何のことだ? HQ、応答せよ》
無線機の向こうから、いぶかしむ声が聞こえてくる。
「あ、あの、いえ、えーと」
《落ち着いて話せ。……あ、はい》
と、無線機の声が変わる。
《無線を代わった。私はミゲル・ロンダ司令だ。
貴君らの身に、そして党本部に何が起こっていたのか、……そうだな、その1230時辺りから、詳しく話してくれるかね?》
この1日の間に起こった出来事を兵士たちがすべて説明し終えた途端、無線からうめき声が流れた。
《ううむ……、何と言うことだ。まず確認したいのだが、貴君らが党本部を占拠したと?》
「は、はい」
《そして党最高幹部の半分が行方不明。預言者殿も不在である、と》
「そうであります」
《……ふむ》
ロンダの声には依然として困惑した様子があったが、どこか喜んでいるような気配も感じられる。
《分かった。現在、白猫軍の管理下にあると言うことであれば、私がその指揮を執っても構わんだろうか?
もしも貴君らが自分の手で占領・統治したいと言うことであれば、相応の対処を講じるつもりだが》
「い、いえ!」
「滅相もございません!」
「どうか指揮をお願いいたします、閣下、いえ、総裁!」
それを受けて、無線機からロンダの噴き出す声が返って来た。
《ぶふっ……、ははは、総裁と来たか。いや、しかしそうか。私が総裁となるわけだな。
了承した。本日を以って私、ミゲル・ロンダが、白猫党党首の任を拝領する》
数日後――央中、ゴールドコースト市国の、どこかの通り。
《号外! 号外っ! 白猫党が央中から引き上げるらしいぞーっ!》
通りの端から端まで響き渡るような拡声器からの声が、央中の人間にとっては福音とも言えるニュースを報じていた。
人々は盛大に撒かれた瓦版を手に取り、興味深そうな目を紙面に向ける。
「なになに……、『白猫党内乱終結 新党首にロンダ氏』?」
「『新党首の意向か 央南と西方での戦闘が終息』、『党首声明 戦線拡大行わない方針』、『反乱地域との停戦交渉はじまる』、……これ、本当なのか?」
「本当だったら、えらいことになる。少なくとも向こうさんの株はガタ落ちだろうな」
「ああ、新聞にも書いてる。『クラム連日暴落 5年前の水準を下回るか』だってさ」
「でも本当だったら嬉しいよ。5年も会ってない親戚が、白猫党の陣地にいるから」
「分かるわー」
央中を揺るがす事変に、人々は釘付けになっていた。
その騒ぎが無かったとしても、恐らく彼女は、誰にも気付かれなかっただろう。
「クスクスクスクス」
彼女も瓦版を手に取り、笑みを浮かべている。
「予想通りに事が運んだものだ。これでわたくしの資産はまた、大きく膨れ上がるだろう」
「流石でございます、主様」
「おめでとうございます、主様」
揃って主を褒め称える人形たちに、難訓は薄い笑みを見せる。
「ああ、ああ。しかしまだ、あと一つ足らぬ。それが分かるか、お前たち」
「いいえ」
「分かりかねます」
「見せてやろう。付いてくるがいい」
そう言って――難訓と人形たちは、その場から消えた。
白猫夢・天魔抄 終
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震撼する白猫党。
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「こちらHQ。こちらHQ。カンバスボックス基地、応答願います」
通信電波を送り、兵士たちは固唾を呑んで応答を待――とうとした。
ところが昨日の混乱が無かったかのように、応答はすぐ返って来た。
《こちらカンバスボックス基地、HQどうぞ》
「無事なのか?」
《無事? 無事とはどう言う意味か?》
「ん……?」
呑気な応答に、兵士たちは顔を見合わせた。
「昨日1230時、カンバスボックス基地に反乱の徒が押し寄せ、襲撃されていたとの連絡を受けていたのだが」
《はぁ? いや、そんな事実は無い》
「へ?」
思ってもいない返答を受け、ふたたび顔を見合わせる。
「も、もう一度確認する。カンバスボックス基地は襲撃されていない、と?」
《その通りだ。央南と西方の蜂起で忙しくしてはいるが、当基地が襲撃に遭ったと言う事実は無い》
「……マジで?」
三度、全員が顔を見合わせ――全員が真っ青になった。
「お、おい?」
「じゃ、じゃあ?」
「反乱って、……無かったってことなのか?」
「いや、待て、そんな馬鹿な。事実として、我々は街から追い出されたではないか」
「だ、だよな」
《反乱とは何のことだ? HQ、応答せよ》
無線機の向こうから、いぶかしむ声が聞こえてくる。
「あ、あの、いえ、えーと」
《落ち着いて話せ。……あ、はい》
と、無線機の声が変わる。
《無線を代わった。私はミゲル・ロンダ司令だ。
貴君らの身に、そして党本部に何が起こっていたのか、……そうだな、その1230時辺りから、詳しく話してくれるかね?》
この1日の間に起こった出来事を兵士たちがすべて説明し終えた途端、無線からうめき声が流れた。
《ううむ……、何と言うことだ。まず確認したいのだが、貴君らが党本部を占拠したと?》
「は、はい」
《そして党最高幹部の半分が行方不明。預言者殿も不在である、と》
「そうであります」
《……ふむ》
ロンダの声には依然として困惑した様子があったが、どこか喜んでいるような気配も感じられる。
《分かった。現在、白猫軍の管理下にあると言うことであれば、私がその指揮を執っても構わんだろうか?
もしも貴君らが自分の手で占領・統治したいと言うことであれば、相応の対処を講じるつもりだが》
「い、いえ!」
「滅相もございません!」
「どうか指揮をお願いいたします、閣下、いえ、総裁!」
それを受けて、無線機からロンダの噴き出す声が返って来た。
《ぶふっ……、ははは、総裁と来たか。いや、しかしそうか。私が総裁となるわけだな。
了承した。本日を以って私、ミゲル・ロンダが、白猫党党首の任を拝領する》
数日後――央中、ゴールドコースト市国の、どこかの通り。
《号外! 号外っ! 白猫党が央中から引き上げるらしいぞーっ!》
通りの端から端まで響き渡るような拡声器からの声が、央中の人間にとっては福音とも言えるニュースを報じていた。
人々は盛大に撒かれた瓦版を手に取り、興味深そうな目を紙面に向ける。
「なになに……、『白猫党内乱終結 新党首にロンダ氏』?」
「『新党首の意向か 央南と西方での戦闘が終息』、『党首声明 戦線拡大行わない方針』、『反乱地域との停戦交渉はじまる』、……これ、本当なのか?」
「本当だったら、えらいことになる。少なくとも向こうさんの株はガタ落ちだろうな」
「ああ、新聞にも書いてる。『クラム連日暴落 5年前の水準を下回るか』だってさ」
「でも本当だったら嬉しいよ。5年も会ってない親戚が、白猫党の陣地にいるから」
「分かるわー」
央中を揺るがす事変に、人々は釘付けになっていた。
その騒ぎが無かったとしても、恐らく彼女は、誰にも気付かれなかっただろう。
「クスクスクスクス」
彼女も瓦版を手に取り、笑みを浮かべている。
「予想通りに事が運んだものだ。これでわたくしの資産はまた、大きく膨れ上がるだろう」
「流石でございます、主様」
「おめでとうございます、主様」
揃って主を褒め称える人形たちに、難訓は薄い笑みを見せる。
「ああ、ああ。しかしまだ、あと一つ足らぬ。それが分かるか、お前たち」
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