黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・伏傑抄 2

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    麒麟を巡る話、第603話。
    葛の願い事。

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    2.
    「でさ、こないだカエデさんがウォーレンさんにねー、……あれ? あー、また寝ちゃったかー」
     連行されて以降、葵はずっと、病院の一室に寝かされていた。
     トラス王国に移ってすぐ、一聖が対白猫用のプロテクトを掛けたのだが、それで十数年に渡って張られていた、緊張の糸が切れてしまったのだろう――その場で倒れてしまったのだ。
     葵の変化術、「ポゼッション」による副作用が懸念されていたため、彼女はそのまま病院に連れ込まれてマークに検査された。
     その結果、前述の重篤な異状が彼によって確認されたのだ。
    「もうちょい、話できたらいいのになー」
     現在、葵は大量の鎮痛剤を打たれ、以前にもまして眠りに就く頻度と時間が多くなっていた。たった今も、つい先程まで葛と話していたのだが、それも5分と続かず、会話は一方的に打ち切られてしまった。
    「……ねえ、姉貴。……起きてる時には、アンタの様子が痛々し過ぎて、どーしても言えなかったんだけどさ、……アンタ、もう半年も持たない体になってるらしいよ?
     まだ28じゃん、アンタ。なんで死にそうになってんのよ。まだ早すぎじゃん。パパだってママだって、ばーちゃんだってまだまだ長生きしそうって言うのにさ、なんでアンタ、先に死にそうなのよ?
     ダメだって、マジで。まだ長生きしなきゃダメだってば。じゃなきゃ、……あたし、……何のために、アンタを助けたのか分かんなくなるじゃん……」
     いつも笑顔で飄々としていた葛も、葵を連れ帰って以降、こうして涙ぐむことが多くなっていた。
    「うっ……うぐっ……ひっ……」
     こらえようとしても、涙と嗚咽が溢れてきてしまう。
    「……ねーちゃん……ぐすっ……まだ……まだ死なないでよ……ひっく……助けるから……もう一回、助けるから……」
     何度も顔を拭いながら、葛はそう繰り返していた。

    「親父に?」
    「うん」
     葵の見舞いを終えてすぐ、葛は一聖の家を訪ねた。
    「あの時保留にした『契約』、使うなら今しか無いもん」
    「んー……、でもなぁ」
     葛からの願いに対し、一聖は表情を曇らせる。
    「葵の症状は、オレでもどうにもならなかったんだぜ? そりゃ、オレよか親父の方が断然、魔術の腕がいいってのは確かだけどさ、ソレでも親父の術でどうにかなるとは思えない。
     ダメな可能性は高い。ソレでもいいなら、聞いてみるぜ」
    「いいよ。もしこのお願いがダメって言うなら、あたしは他の、どんな願い事もするつもりは無いもん」
    「……分かった。ちょっと待ってな」
     一聖は深くうなずき、どこからか鉄扇を取り出し、空中に印を結んだ。
    「『トランスワード:克大火』、……おう、オレオレ。あ、一聖の方。……おう、……そっか、……いやさ、葛が話したいって。ん、分かった。代わるわ」
     独り言のようにつぶやいていた一聖が、葛に鉄扇を差し出した。
    「柄の先を額に当てろ。ソレで話ができる」
    「あ、うん」
     言われるまま、葛は鉄扇の柄部分を額に当てる。
    《俺だ》
    「あ、はい。ご無沙汰してますー」
    《俺に用があると聞いたが?》
    「えっと、……去年の『お願い』、使いたいなーって」
    《お願い? ……ああ、『契約』のことか。言ってみろ》
    「姉貴を助けて欲しいの。姉貴を確保したんだけど、今、死にかけてて」
    《ふむ》
    「何て言うか、全身が癌みたいなコトになってるって、診察してくれた人が言ってて」
    《全身が癌化? 何があった?》
     葛と一聖が葵の変化術について一通り説明したところで、大火のうなる声が返って来る。
    《ふむ……、相当に厄介な症状のようだ、な。俺が診る必要があるだろう。すぐそちらに向かう》
     次の瞬間、葛の目の前に真っ黒な塊が現れた。
    「わっ」
    「すぐ向かうと言ったはずだが?」
    「あ、うん、そうだけどさー、……目の前がいきなり真っ暗になったらびっくりするしー」
     どぎまぎしている葛に構わず、大火が尋ねる。
    「それで、葵はどこに?」
    「あ、うん。病院で寝てる。案内するねー」
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