「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・伏傑抄 4
麒麟を巡る話、第605話。
救いはあるか?
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4.
大火のその返答に、葛は思わず叫んでいた。
「何て言ったの? できないって!? ふざけんなッ!」
「ちょ、カズラさん、ここ病室……」
マークがなだめようとするが、葛は止まらない。
「世界最高の魔術師なんでしょ、タイカさん!? 治せないって、何でよ!?」
「説明した通りだ。この症状が単なる怪我や魔術による影響の範疇であれば、治療は問題無く行えたのだ。
だがこの『狼』が説明した通り、症状は魔術の副作用による代謝異常から、物理的・病理的な癌の状態へと遷移しきっている。こうなればどれほど高位の治療術を施そうとも、治療することはできん。
現状で俺にできることは、痛みを和らげること程度だ」
「ふざけんなッ!」
葛は大火のコートの襟をつかみ、なおも怒鳴り散らす。
「ソレであたしのお願いに応えたつもり!? 納得しないわよ!?」
「だろうな」
「じゃあ姉貴にはもう手の打ちようが無いから、このまま眠り続けて死ねって言うの!?」
「いや」
と、大火は葛の腕をつかみ、こう続けた。
「治療自体は不可能だが、葵を救う方法が無いとは言っていない」
「……言葉遊びはうんざりしてんのよ。はっきり説明してよ」
葛が手を離したところで、大火はとんでもない方法を述べた。
「言葉で言うのは簡単なことだ。一聖が天狐を造ったように、あるいはパラを人間にしたように、精巧な人形を用意して人間化し、そこに葵の魂を入れればいい」
「本当に簡単に言ってるけど、実際は限りなく無理でしょ。それに問題があるし」
ルナが呆れた顔をしつつ、口を挟む。
「天狐ちゃんは、一聖ちゃんの肉体をコピーして造ったんでしょ? その方法ができるのは、コピー元が健康で何の問題も無い場合よ。
見ての通り、葵の今の体はボロボロ。それをコピーしても、出来上がるのはボロボロになった体よ」
「ああ。故にその方法は使えん」
「パラの方法だって、一杯問題がある。
普通のぬいぐるみとか人形を使っても、成功する確率は低い。何故なら人間とあまりにも形が違うから。それを無理矢理人間にしようとすれば、それだけ途方も無い魔力と膨大な呪文を必要とするし、複雑化すればするだけ、失敗する確率も跳ね上がる。
本当にパラくらいの水準の、精巧な人形を用意できれば成功確率は上がるけど、そんなの本当に、用意できるの? まさかどこにいるか分からない難訓に人形を作らせろ、なんて言うつもりじゃないわよね?」
「……」
ルナに問われるが、大火は黙り込み、答えない。
「あ、あのー」
と、マークが手を挙げる。
「例えばなんですけど、その、例えば本人じゃなくても、本人に限りなく近い人を使ってコピーを造ったらどうなんでしょう?」
「葵ではなく、葛をコピーすると言う意味か?」
「はい、例えばですけど」
これに対し、ルナが首を横に振る。
「それも成功率は低いわ。あんた、朝起きて自分がシャランの体になってたら、正気でいられる自信あるの?」
「……あー、そう言われると確かに、パニックになるかも」
「精神面でも強烈な違和感があるだろうって想像は簡単に付くし、肉体面でのミスマッチ感は、それに輪をかけて大きくなるでしょうね。
仮にやってみたところで、それは最早、葵じゃないわ。葵『っぽい』、別の何かよ。そしてその点は、パラ方式にも当てはまるわ。
パラみたいに元の人格と記憶を引き継いだまま体が変わったとしても、そのままパラと認識できるわよ。周りも、パラ本人もね。
でも『葵じゃないもの』に葵の人格を入れても、それは葵だって言えるの?」
「……それは……」
と、話の輪の外から、か細い声が聞こえてきた。
「あたしも、それは嫌」
「……姉貴!」
葛は飛びつくように、葵の枕元にすり寄る。
「今の、聞いてた?」
「うん。テンコちゃん方式も、パラ方式も、あたしは拒否する。ツキノが言っていたように、それは私ではなくなるからな」
「ツキノ?」
「……混乱してるわね、葵。あたしはルナよ」
「ああ、うん。ルナさんだったんだっけ。ごめん。
それよりタイカさん、今挙げてた方法以外にも、もう一つ案があるよ」
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救いはあるか?
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大火のその返答に、葛は思わず叫んでいた。
「何て言ったの? できないって!? ふざけんなッ!」
「ちょ、カズラさん、ここ病室……」
マークがなだめようとするが、葛は止まらない。
「世界最高の魔術師なんでしょ、タイカさん!? 治せないって、何でよ!?」
「説明した通りだ。この症状が単なる怪我や魔術による影響の範疇であれば、治療は問題無く行えたのだ。
だがこの『狼』が説明した通り、症状は魔術の副作用による代謝異常から、物理的・病理的な癌の状態へと遷移しきっている。こうなればどれほど高位の治療術を施そうとも、治療することはできん。
現状で俺にできることは、痛みを和らげること程度だ」
「ふざけんなッ!」
葛は大火のコートの襟をつかみ、なおも怒鳴り散らす。
「ソレであたしのお願いに応えたつもり!? 納得しないわよ!?」
「だろうな」
「じゃあ姉貴にはもう手の打ちようが無いから、このまま眠り続けて死ねって言うの!?」
「いや」
と、大火は葛の腕をつかみ、こう続けた。
「治療自体は不可能だが、葵を救う方法が無いとは言っていない」
「……言葉遊びはうんざりしてんのよ。はっきり説明してよ」
葛が手を離したところで、大火はとんでもない方法を述べた。
「言葉で言うのは簡単なことだ。一聖が天狐を造ったように、あるいはパラを人間にしたように、精巧な人形を用意して人間化し、そこに葵の魂を入れればいい」
「本当に簡単に言ってるけど、実際は限りなく無理でしょ。それに問題があるし」
ルナが呆れた顔をしつつ、口を挟む。
「天狐ちゃんは、一聖ちゃんの肉体をコピーして造ったんでしょ? その方法ができるのは、コピー元が健康で何の問題も無い場合よ。
見ての通り、葵の今の体はボロボロ。それをコピーしても、出来上がるのはボロボロになった体よ」
「ああ。故にその方法は使えん」
「パラの方法だって、一杯問題がある。
普通のぬいぐるみとか人形を使っても、成功する確率は低い。何故なら人間とあまりにも形が違うから。それを無理矢理人間にしようとすれば、それだけ途方も無い魔力と膨大な呪文を必要とするし、複雑化すればするだけ、失敗する確率も跳ね上がる。
本当にパラくらいの水準の、精巧な人形を用意できれば成功確率は上がるけど、そんなの本当に、用意できるの? まさかどこにいるか分からない難訓に人形を作らせろ、なんて言うつもりじゃないわよね?」
「……」
ルナに問われるが、大火は黙り込み、答えない。
「あ、あのー」
と、マークが手を挙げる。
「例えばなんですけど、その、例えば本人じゃなくても、本人に限りなく近い人を使ってコピーを造ったらどうなんでしょう?」
「葵ではなく、葛をコピーすると言う意味か?」
「はい、例えばですけど」
これに対し、ルナが首を横に振る。
「それも成功率は低いわ。あんた、朝起きて自分がシャランの体になってたら、正気でいられる自信あるの?」
「……あー、そう言われると確かに、パニックになるかも」
「精神面でも強烈な違和感があるだろうって想像は簡単に付くし、肉体面でのミスマッチ感は、それに輪をかけて大きくなるでしょうね。
仮にやってみたところで、それは最早、葵じゃないわ。葵『っぽい』、別の何かよ。そしてその点は、パラ方式にも当てはまるわ。
パラみたいに元の人格と記憶を引き継いだまま体が変わったとしても、そのままパラと認識できるわよ。周りも、パラ本人もね。
でも『葵じゃないもの』に葵の人格を入れても、それは葵だって言えるの?」
「……それは……」
と、話の輪の外から、か細い声が聞こえてきた。
「あたしも、それは嫌」
「……姉貴!」
葛は飛びつくように、葵の枕元にすり寄る。
「今の、聞いてた?」
「うん。テンコちゃん方式も、パラ方式も、あたしは拒否する。ツキノが言っていたように、それは私ではなくなるからな」
「ツキノ?」
「……混乱してるわね、葵。あたしはルナよ」
「ああ、うん。ルナさんだったんだっけ。ごめん。
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