「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・伏傑抄 5
麒麟を巡る話、第606話。
獲麟の算段。
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5.
「言ってみろ」
尋ねた大火に、葵はこう答えた。
「白猫だよ。あいつがあたしに『ポゼッション』を教えたんだもの。
正確に言えば教わったのは半分程度だし、残り半分はあたしが完成させたんだけど、元々研究してたのはあいつの方。『お前が使う方が相性がいいだろう』って言って、研究を引き継がせたんだし、あの人ならあたしが知らない何かを知ってるかも知れない」
「ふむ」
大火はそれだけ返し、葵をじっと見る。
「……」
葵の方も大火に目を向けたまま、何も言わない。
「つ、つまり?」
沈黙に耐えかねたらしく、マークが尋ねた。
「白猫ともう一度会って、この術の副作用に対する治療法を聞くってことだよ」
「会う? でも、もうプロテクトされてるんですよね?」
「そうだ」
一聖が答えつつ、苦い顔をする。
「だけどな、かかってなかったとしても、あるいは解除したとしても、もう二度と白猫にゃ会っちゃならねー。
一連のゴタゴタで白猫はブチギレてるはずだ。『自分の下僕のくせに逃げ出しやがって』っつってな。そんな状態のアイツにもう一度会ったら、間違い無く殺されるぞ」
「うん。今、夢の世界で白猫に会ったとしたら、その時点で即死すると思う」
応じて、葵がこう続ける。
「夢の中なら、彼女に不可能なことは何一つ無い。その気になれば『突き落とされて溶鉱炉の中に沈む』みたいなシチュエーションの夢に放り込まれ、一瞬で心を殺されて、廃人にされかねないもの。
だから夢の中に入る案は、わたしも賛成できないわね」
「また口調変わってる。それって師匠?」
「……かな」
葵はごしごしと顔をこすり、とろんとしていた目を若干はっきりさせる。
「だから、現実で会いに行く」
「何だと?」
「現実のこの世界で白猫の本体、つまり克麒麟と接触して、この術のことを聞き出す」
「お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?」
呆れと憤りの混じった大火のその声に、その場が静まり返った。
「危険は理解してる。そこまで頭、おかしくなってないよ。
あなたにとっても、大きなメリットがある話だと思うけど」
「『システム』か」
「そう。キリンの『システム』を解除すれば、そこに回してる魔力があなたに返って来る。『システム』1基分の魔力が戻ってくれば、完全とは行かないまでも、8割か、9割は回復できると思う」
「確かにな。だがデメリットも大きい。あいつが復活しようものなら、世界がふたたび混乱、無明の中に陥る危険がある。
あいつもまた、世界を支配せんと画策していたし、そしてそれを実行に移せるだけの力も有している。封印から放たれれば、すぐさま己の思うがままの世界に作り変えんと目論見、全世界に向けて高出力・超々広範囲の攻撃魔術を乱射しかねん。
前回は俺を侮ったがために敗北し、運良く封印することができたが、今もう一度世に放たれれば、再度封じられる可能性は極めて低い。得策とは言えん」
「でもこれ以外の……」
葵が反論しかけた、その時だった。
「ルナさん、いる!?」
バタバタと足音を立てて、病室にフィオが転がり込んできた。
「いるわよ、うるさいわね。ここ、病室よ? 葵もいるし」
「あ、ごめん」
「で、どうしたの?」
「あの3人がいないんだ!」
「どの? ……え、まさか?」
「そのまさかだよ! シエナたちが……」
説明しようとするフィオに、ルナは掌をかざして制止する。
「待って。あんたの説明だと分かりにくいわ。パラは?」
「ここです」
遅れて、パラも病室に入ってくる。
「状況を説明して」
「はい。20分ほど前、わたくしとフィオがシエナ・チューリンたち白猫党最高幹部3名を拘留している『貧乏神邸』を訪ねたところ、同3名が屋敷内に不在であることを確認いたしました」
「もしかして、『貧乏神邸』が襲われたの!?」
屋敷に住んでいるマークが、顔を真っ青にする。
「シャランとルーは!? 他の人も無事なの!?」
「その点については問題は見受けられませんでした。なお、3名の不在については、シャランおよび屋敷の使用人全員が気付かなかったとのことです」
皆の無事を伝えられ、一転、マークはほっと息をつく。
「そ、そっか。でも一体、どうやって逃げたんだろう?」
「状況説明を続けます。
屋敷内、および屋敷の付近100メートルを捜索しましたが、該当の3名の姿は見付かりませんでした。
また、屋敷内外の数ヶ所に空間振動痕が検出されたことから、第三者が『テレポート』を使用して3名を逃した可能性が最も高いと思われます」
「……ふむ」
この報告を聞き、大火が顔をしかめた。
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獲麟の算段。
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「言ってみろ」
尋ねた大火に、葵はこう答えた。
「白猫だよ。あいつがあたしに『ポゼッション』を教えたんだもの。
正確に言えば教わったのは半分程度だし、残り半分はあたしが完成させたんだけど、元々研究してたのはあいつの方。『お前が使う方が相性がいいだろう』って言って、研究を引き継がせたんだし、あの人ならあたしが知らない何かを知ってるかも知れない」
「ふむ」
大火はそれだけ返し、葵をじっと見る。
「……」
葵の方も大火に目を向けたまま、何も言わない。
「つ、つまり?」
沈黙に耐えかねたらしく、マークが尋ねた。
「白猫ともう一度会って、この術の副作用に対する治療法を聞くってことだよ」
「会う? でも、もうプロテクトされてるんですよね?」
「そうだ」
一聖が答えつつ、苦い顔をする。
「だけどな、かかってなかったとしても、あるいは解除したとしても、もう二度と白猫にゃ会っちゃならねー。
一連のゴタゴタで白猫はブチギレてるはずだ。『自分の下僕のくせに逃げ出しやがって』っつってな。そんな状態のアイツにもう一度会ったら、間違い無く殺されるぞ」
「うん。今、夢の世界で白猫に会ったとしたら、その時点で即死すると思う」
応じて、葵がこう続ける。
「夢の中なら、彼女に不可能なことは何一つ無い。その気になれば『突き落とされて溶鉱炉の中に沈む』みたいなシチュエーションの夢に放り込まれ、一瞬で心を殺されて、廃人にされかねないもの。
だから夢の中に入る案は、わたしも賛成できないわね」
「また口調変わってる。それって師匠?」
「……かな」
葵はごしごしと顔をこすり、とろんとしていた目を若干はっきりさせる。
「だから、現実で会いに行く」
「何だと?」
「現実のこの世界で白猫の本体、つまり克麒麟と接触して、この術のことを聞き出す」
「お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?」
呆れと憤りの混じった大火のその声に、その場が静まり返った。
「危険は理解してる。そこまで頭、おかしくなってないよ。
あなたにとっても、大きなメリットがある話だと思うけど」
「『システム』か」
「そう。キリンの『システム』を解除すれば、そこに回してる魔力があなたに返って来る。『システム』1基分の魔力が戻ってくれば、完全とは行かないまでも、8割か、9割は回復できると思う」
「確かにな。だがデメリットも大きい。あいつが復活しようものなら、世界がふたたび混乱、無明の中に陥る危険がある。
あいつもまた、世界を支配せんと画策していたし、そしてそれを実行に移せるだけの力も有している。封印から放たれれば、すぐさま己の思うがままの世界に作り変えんと目論見、全世界に向けて高出力・超々広範囲の攻撃魔術を乱射しかねん。
前回は俺を侮ったがために敗北し、運良く封印することができたが、今もう一度世に放たれれば、再度封じられる可能性は極めて低い。得策とは言えん」
「でもこれ以外の……」
葵が反論しかけた、その時だった。
「ルナさん、いる!?」
バタバタと足音を立てて、病室にフィオが転がり込んできた。
「いるわよ、うるさいわね。ここ、病室よ? 葵もいるし」
「あ、ごめん」
「で、どうしたの?」
「あの3人がいないんだ!」
「どの? ……え、まさか?」
「そのまさかだよ! シエナたちが……」
説明しようとするフィオに、ルナは掌をかざして制止する。
「待って。あんたの説明だと分かりにくいわ。パラは?」
「ここです」
遅れて、パラも病室に入ってくる。
「状況を説明して」
「はい。20分ほど前、わたくしとフィオがシエナ・チューリンたち白猫党最高幹部3名を拘留している『貧乏神邸』を訪ねたところ、同3名が屋敷内に不在であることを確認いたしました」
「もしかして、『貧乏神邸』が襲われたの!?」
屋敷に住んでいるマークが、顔を真っ青にする。
「シャランとルーは!? 他の人も無事なの!?」
「その点については問題は見受けられませんでした。なお、3名の不在については、シャランおよび屋敷の使用人全員が気付かなかったとのことです」
皆の無事を伝えられ、一転、マークはほっと息をつく。
「そ、そっか。でも一体、どうやって逃げたんだろう?」
「状況説明を続けます。
屋敷内、および屋敷の付近100メートルを捜索しましたが、該当の3名の姿は見付かりませんでした。
また、屋敷内外の数ヶ所に空間振動痕が検出されたことから、第三者が『テレポート』を使用して3名を逃した可能性が最も高いと思われます」
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