「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・伏傑抄 6
麒麟を巡る話、第607話。
魔女の暗躍。
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6.
「何か心当たりが?」
尋ねたルナに、大火は苦い顔をしたまま答える。
「誰一人気付かないうちに忍び込み、此度の白猫党内紛における重要人物3人を連れ出し、『テレポート』で逃げる輩など、そう多くは無い。
いや、俺が思いつく限り、そんな奴は一人しかいない」
そう返され、ルナも表情を曇らせる。
「……難訓ね」
「ほぼ間違いあるまい。誰にも気付かれぬまま侵入することも、『テレポート』で逃げおおせることも、奴ならば造作も無いことだ。
そしてその3名をあいつが連れ出したと言うのならば、目的は1つだ。ふたたび党を立ち上げさせるつもりなのだろう」
「どうして?」
尋ねたフィオに、葵が答えた。
「まとまりかけた話がこじれればこじれるだけ、混乱も大きいもの。
最近の新聞見てないからはっきり言えないけど、白猫党の内乱が起こってからロンダさんが白猫党の総裁になるまでで、クラムはかなり乱高下してたと思う」
「うん、してたよ。内乱直後は底値をバンバン更新してたし、ロンダ新総裁の体制が確立されて以降は相応に回復してたし」
「そこでまた大幅に下落するって話が、市場に流れると知ってたら?」
「ナンクンが3人を連れ出してー、『新白猫党』みたいな感じで党を立ち上げさせたらー、またクラム、暴落するだろうねー」
「その騒動、混乱を作り出すことで、目一杯荒稼ぎするつもりなのね」
「事態はそれだけに留まらんだろう」
大火は目を細め、忌々しそうに話を継ぐ。
「巨大な勢力が2つ、延々と戦い続けると言うのならば、どれほどの戦禍が広がることか。
そしてそれに伴い、どれほどの武器・兵器が投入され、どれほどの土地・市街が灰塵と帰すことか。
資金とこの世界の破壊を欲する難訓にとっては、その両方が易々と手に入る状況になるわけだ」
「どうあれ、このまま放っておくことはできませんね」
そう言ったマークに、全員がうなずいた。
「そうだ。奴の企みで、奴以外に有益となることは皆無だ。早急に手を打ち、その企みを妨害、あるいは破壊せねばならん。
だが……」
言いかけて、大火はまた顔をしかめた。
「……そう言うことか、葵」
「そう言うことだよ」
「何が?」
尋ねた葛に、大火が答える。
「難訓を止めるには、現状の魔力では不十分だ。早急に回復する必要がある。それを『見越して』の、前述の葵の案だ」
「……なるほどねー」
「しかし現実的では無いことには、変わりが無い。
難訓を止めることも、麒麟を倒すことも、俺か、俺に比肩する者がいなければ不可能だ。そして俺は1人しかいない。実行するとなればもう1人分、俺に並ぶ実力のある者を揃えなければならん」
「それも考えてる」
葵が手を挙げる。
「あたしがキリンの方をやる」
「なに?」
「キリンとの因縁は、あたしたちの血筋との因縁でもある。倒すならあたしたちしかいない」
「お前にできるのか? その満身創痍の体で」
「やらなきゃならない。それに」
葵は葛の方を向き、小さくうなずいた。
「カズラが一緒にやってくれるなら、勝ち目はある」
「……ふむ」
大火はあごに手を当て、考え込む様子を見せる。
「確かに『星剣舞』があれば、麒麟の予知能力を無力化することは可能だろう。だが奴の強みはそれだけではない。
事実として、あいつの魔力は俺より強い。それを十二分に活かせるだけの知識も、技術も有している。容易に勝てる相手では無い。それでも勝算があるのか?」
「無かったら最初から提案しないよ」
「その勝算を言ってみろ」
「あなたが危惧してる魔力についてだけど、あなたと同じで『システム』に長い間魔力を吸われ続けてる。それもあなたみたいに2年、3年どころじゃない。千年単位で、ずっと。だから本来の力を発揮することはできないはず。
魔力を差し引いたキリンの実力は、どのくらい?」
「……なるほど。確かに魔力がまったく無いとすれば、同じ状態の一聖とほぼ変わらん。むしろ復活直後にしか勝ち目は無い、と言うわけか。
分かった。その案を呑もう」
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魔女の暗躍。
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「何か心当たりが?」
尋ねたルナに、大火は苦い顔をしたまま答える。
「誰一人気付かないうちに忍び込み、此度の白猫党内紛における重要人物3人を連れ出し、『テレポート』で逃げる輩など、そう多くは無い。
いや、俺が思いつく限り、そんな奴は一人しかいない」
そう返され、ルナも表情を曇らせる。
「……難訓ね」
「ほぼ間違いあるまい。誰にも気付かれぬまま侵入することも、『テレポート』で逃げおおせることも、奴ならば造作も無いことだ。
そしてその3名をあいつが連れ出したと言うのならば、目的は1つだ。ふたたび党を立ち上げさせるつもりなのだろう」
「どうして?」
尋ねたフィオに、葵が答えた。
「まとまりかけた話がこじれればこじれるだけ、混乱も大きいもの。
最近の新聞見てないからはっきり言えないけど、白猫党の内乱が起こってからロンダさんが白猫党の総裁になるまでで、クラムはかなり乱高下してたと思う」
「うん、してたよ。内乱直後は底値をバンバン更新してたし、ロンダ新総裁の体制が確立されて以降は相応に回復してたし」
「そこでまた大幅に下落するって話が、市場に流れると知ってたら?」
「ナンクンが3人を連れ出してー、『新白猫党』みたいな感じで党を立ち上げさせたらー、またクラム、暴落するだろうねー」
「その騒動、混乱を作り出すことで、目一杯荒稼ぎするつもりなのね」
「事態はそれだけに留まらんだろう」
大火は目を細め、忌々しそうに話を継ぐ。
「巨大な勢力が2つ、延々と戦い続けると言うのならば、どれほどの戦禍が広がることか。
そしてそれに伴い、どれほどの武器・兵器が投入され、どれほどの土地・市街が灰塵と帰すことか。
資金とこの世界の破壊を欲する難訓にとっては、その両方が易々と手に入る状況になるわけだ」
「どうあれ、このまま放っておくことはできませんね」
そう言ったマークに、全員がうなずいた。
「そうだ。奴の企みで、奴以外に有益となることは皆無だ。早急に手を打ち、その企みを妨害、あるいは破壊せねばならん。
だが……」
言いかけて、大火はまた顔をしかめた。
「……そう言うことか、葵」
「そう言うことだよ」
「何が?」
尋ねた葛に、大火が答える。
「難訓を止めるには、現状の魔力では不十分だ。早急に回復する必要がある。それを『見越して』の、前述の葵の案だ」
「……なるほどねー」
「しかし現実的では無いことには、変わりが無い。
難訓を止めることも、麒麟を倒すことも、俺か、俺に比肩する者がいなければ不可能だ。そして俺は1人しかいない。実行するとなればもう1人分、俺に並ぶ実力のある者を揃えなければならん」
「それも考えてる」
葵が手を挙げる。
「あたしがキリンの方をやる」
「なに?」
「キリンとの因縁は、あたしたちの血筋との因縁でもある。倒すならあたしたちしかいない」
「お前にできるのか? その満身創痍の体で」
「やらなきゃならない。それに」
葵は葛の方を向き、小さくうなずいた。
「カズラが一緒にやってくれるなら、勝ち目はある」
「……ふむ」
大火はあごに手を当て、考え込む様子を見せる。
「確かに『星剣舞』があれば、麒麟の予知能力を無力化することは可能だろう。だが奴の強みはそれだけではない。
事実として、あいつの魔力は俺より強い。それを十二分に活かせるだけの知識も、技術も有している。容易に勝てる相手では無い。それでも勝算があるのか?」
「無かったら最初から提案しないよ」
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