「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・伏傑抄 7
麒麟を巡る話、第608話。
きっと、未来は変えられる。
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7.
大火は葵の案を受け、周囲を見渡す。
「だが万一を考え、どちらにも同行者を付けることとしよう。
俺の方は渾沌と、……そうだな、ルナ。お前も来い」
「了解よ。人形対策に楓とウォーレン、それからフィオとパラも連れて行きましょう」
「ああ、そうだな」
「え」
これを聞いて、フィオが声を上げる。
「待ってよ、パラも連れて行くの?」
「連れて行くわよ。大事な戦力だし」
「でも、ナンクンの人形ってことは」「フィオ」
と、パラがフィオをさえぎる。
「アオイとカズラに白猫との因縁、宿命があるように、わたくしにもわたくしの因縁と宿命があります。
わたくしは行かなければなりません」
「……君が、そう言うなら」
フィオが渋々と言った様子で黙ったところで、大火が話を続ける。
「俺の方はそれだけいれば十分だろう。
麒麟の方は葵と葛と、……そうだな、一聖。お前が援護してやれ。可能ならば天狐も連れて行け」
「おう。……あ、ならもしかしたら、モールの奴も来てくれるかも。天狐んトコに入り浸ってるし」
「あいつか。……そうだな、助けは多い方がいい。
よし、早速動くぞ。葵、麒麟の封印地へ直行できる魔法陣を貸してやろう」
そう言って、大火はあの金と紫に光る手帳から、一枚抜き取った。
「これを使えば、あいつのところまですぐに行ける。
俺たちは渾沌と合流し、奴のいそうな場所へ向かう」
「分かった」
葵は大火から魔法陣を受け取り、ベッドから出る。
「……、マークくん」
「はい」
途端に、葵の顔色が悪くなった。
「鎮痛剤、打って。まだ、痛い」
「無茶ですよ……。そりゃ今は緊急だってことは分かってますけど、でも、今打ってる量だってかなりギリギリなんです。これ以上打ったら永眠しかねませんよ」
「大丈夫。寝てられないもの」
葵の頑とした態度に、マークが折れた。
「……本当に、ギリギリなんですからね。これだけです」
マークはかばんから注射器と薬を取り出し、葵の腕を取った。
「これ以上は本当に、絶対にダメです。帰って来てもしばらく打てません。それでもいいですか?」
「いい」
「……分かりました」
鎮痛剤が打たれ、葵の顔色が――さらに悪くなる。
「……うっ……あ……」
「目まいがひどいでしょう? 本当ならこのまま、安静にしていてほしいくらいなんです」
「……だい……じょう……ぶ」
葵は小さく首を振り、葛に手招きした。
「カズラ。着替えたいから、手を貸して」
「分かった」
葛は葵の側に寄り、周りに声をかけた。
「みんな、ちょっと出てて」
二人きりになったところで、葛は葵の寝間着を脱がせ始める。
「散々マークくんから言われてたけどさー、……大丈夫? ふらっふらじゃん」
「大丈夫」
そう答えるが、葛にはその言葉は信じられなかった。
服を脱がせた葵の体は、あちこちに傷と、体の変異から来る赤茶けたシミや腫れが広がっており、全体的に痩せ細って見えたからだ。
「……『体がボロボロ』って、マジでこんな状態だよね」
「仕方無いよ」
「何がよ」
服を着せながら、葛は憤った声を上げる。
「15年くらい前、一緒にお風呂入った時はさ、すべすべだったじゃん、姉貴。
なんでこんなになるまで……!」
「白猫に従う以上、仕方無かった。拒否すれば……」
「したら良かったのに。あたしを巻き込めば、こんなにひどくなるコトだって無かったかも知れないじゃん」
「あたしはそれが嫌だった。今のあたしみたいに、あんたをこんな風に、ボロボロにしたくなかった」
「……ばか」
着替えを終え、葛は葵に刀を渡した。
「『蒼天』はカズセちゃんが直したらしいけど、アレ以上使わせるワケに行かないから、今まで姉貴が持ってたふつーのヤツだよ」
「それでいい。どっちみち、『ポゼッション』はもうこれ以上使えないし。
……ねえ、カズラ」
「ん?」
「正直に言うよ。あたしの『見た』、未来を。
あたしたちは負ける。白猫はキリンになって復活する。あたしが『見られる』未来は今、30通りくらいあるけど、そのすべてであたしたちは負けてた」
「えっ……」
「でも、希望はある。あんたが『星剣舞』を使えば、その予知を上回ることができる。
もしかしたらあたしに見えなかった、31番目の新しい未来が生まれるかも知れない」
「……期待するしかないね」
二人は顔を見合わせ、同時につぶやいた。
「きっと、うまく行く」「きっと、うまくやってみせる」
白猫夢・伏傑抄 終
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きっと、未来は変えられる。
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大火は葵の案を受け、周囲を見渡す。
「だが万一を考え、どちらにも同行者を付けることとしよう。
俺の方は渾沌と、……そうだな、ルナ。お前も来い」
「了解よ。人形対策に楓とウォーレン、それからフィオとパラも連れて行きましょう」
「ああ、そうだな」
「え」
これを聞いて、フィオが声を上げる。
「待ってよ、パラも連れて行くの?」
「連れて行くわよ。大事な戦力だし」
「でも、ナンクンの人形ってことは」「フィオ」
と、パラがフィオをさえぎる。
「アオイとカズラに白猫との因縁、宿命があるように、わたくしにもわたくしの因縁と宿命があります。
わたくしは行かなければなりません」
「……君が、そう言うなら」
フィオが渋々と言った様子で黙ったところで、大火が話を続ける。
「俺の方はそれだけいれば十分だろう。
麒麟の方は葵と葛と、……そうだな、一聖。お前が援護してやれ。可能ならば天狐も連れて行け」
「おう。……あ、ならもしかしたら、モールの奴も来てくれるかも。天狐んトコに入り浸ってるし」
「あいつか。……そうだな、助けは多い方がいい。
よし、早速動くぞ。葵、麒麟の封印地へ直行できる魔法陣を貸してやろう」
そう言って、大火はあの金と紫に光る手帳から、一枚抜き取った。
「これを使えば、あいつのところまですぐに行ける。
俺たちは渾沌と合流し、奴のいそうな場所へ向かう」
「分かった」
葵は大火から魔法陣を受け取り、ベッドから出る。
「……、マークくん」
「はい」
途端に、葵の顔色が悪くなった。
「鎮痛剤、打って。まだ、痛い」
「無茶ですよ……。そりゃ今は緊急だってことは分かってますけど、でも、今打ってる量だってかなりギリギリなんです。これ以上打ったら永眠しかねませんよ」
「大丈夫。寝てられないもの」
葵の頑とした態度に、マークが折れた。
「……本当に、ギリギリなんですからね。これだけです」
マークはかばんから注射器と薬を取り出し、葵の腕を取った。
「これ以上は本当に、絶対にダメです。帰って来てもしばらく打てません。それでもいいですか?」
「いい」
「……分かりました」
鎮痛剤が打たれ、葵の顔色が――さらに悪くなる。
「……うっ……あ……」
「目まいがひどいでしょう? 本当ならこのまま、安静にしていてほしいくらいなんです」
「……だい……じょう……ぶ」
葵は小さく首を振り、葛に手招きした。
「カズラ。着替えたいから、手を貸して」
「分かった」
葛は葵の側に寄り、周りに声をかけた。
「みんな、ちょっと出てて」
二人きりになったところで、葛は葵の寝間着を脱がせ始める。
「散々マークくんから言われてたけどさー、……大丈夫? ふらっふらじゃん」
「大丈夫」
そう答えるが、葛にはその言葉は信じられなかった。
服を脱がせた葵の体は、あちこちに傷と、体の変異から来る赤茶けたシミや腫れが広がっており、全体的に痩せ細って見えたからだ。
「……『体がボロボロ』って、マジでこんな状態だよね」
「仕方無いよ」
「何がよ」
服を着せながら、葛は憤った声を上げる。
「15年くらい前、一緒にお風呂入った時はさ、すべすべだったじゃん、姉貴。
なんでこんなになるまで……!」
「白猫に従う以上、仕方無かった。拒否すれば……」
「したら良かったのに。あたしを巻き込めば、こんなにひどくなるコトだって無かったかも知れないじゃん」
「あたしはそれが嫌だった。今のあたしみたいに、あんたをこんな風に、ボロボロにしたくなかった」
「……ばか」
着替えを終え、葛は葵に刀を渡した。
「『蒼天』はカズセちゃんが直したらしいけど、アレ以上使わせるワケに行かないから、今まで姉貴が持ってたふつーのヤツだよ」
「それでいい。どっちみち、『ポゼッション』はもうこれ以上使えないし。
……ねえ、カズラ」
「ん?」
「正直に言うよ。あたしの『見た』、未来を。
あたしたちは負ける。白猫はキリンになって復活する。あたしが『見られる』未来は今、30通りくらいあるけど、そのすべてであたしたちは負けてた」
「えっ……」
「でも、希望はある。あんたが『星剣舞』を使えば、その予知を上回ることができる。
もしかしたらあたしに見えなかった、31番目の新しい未来が生まれるかも知れない」
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