「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・再儡抄 2
麒麟を巡る話、第610話。
妖魔のささやき。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「……」
唐突に表れたその女に、三人は何の反応もできないでいる。
「どうされました」
「誰よ、アンタ?」
いち早く、シエナが我に返る。
「わたくしは、あなた方の願いを叶える者。勿論、相応の代償は要求いたしますが」
「願い?」
シエナの問に答える代わりに、その白い女はすっと、新聞を差し出した。
「読めってコト?」
「まずはあなた方の置かれた状況を、把握していただこうかと」
「……」
新聞を手に取り、三人は顔を並べて一面を読んだ。
「停戦交渉 早期に締結か ロンダ総裁『戦闘の回避に努める』明言」
「……総裁? ……ロンダが? ……はぁ!?」
見出しを読むなり、シエナがわめきかける。
「どう言うコトよ!? 何でアイツが総裁なのよ!?」
「落ち着いて下さい、シエナ。……しかしこれで、確かに我々の置かれた状況は概ね把握できました。
つまり我々は、既に白猫党の中枢を追われていると言うことですね?」
「その通りでございます」
「なんと……。しかし、預言者殿は? まさかロンダに付いたのか?」
「いいえ、いいえ。葵・ハーミットも討たれたようです」
「だ、誰が? よげ、……いや、アオイ嬢を倒せるような者が、いると言うのか?」
「問題はそこにはございません。あなた方にとっての問題は、拠点を失ったと言うことでしょう」
そう返され、三人は顔を見合わせる。
「確かにそうだ。仮にここから開放されたとしても、我々に戻る場所はもう無い」
「祖国に戻ったところで、白猫党領となって久しいですし。ロンダが掃討命令を下せば、我々の命は無いでしょう」
「どうすんのよ、じゃあ?」
「……」「……」
と、尋ねたシエナに対し、トレッドは戸惑った顔を、そしてイビーザは嘲った顔を見せた。
「……え?」
「確実に言えることは、だ。既に貴様を総裁と崇め奉る理由が無くなったと言うことだ」
見下したようにそう返したイビーザに、シエナはまた怒鳴りかける。
「何よソレ!?」
「分からんのか?
考えてもみろ、ロンダに総裁の座を奪われ、名目的には既に野に下った身ではないか。その上、アオイ嬢と言う後ろ楯も無いと来た。
アオイ嬢の威を借りれぬ貴様など、何の権威も価値も無いのだ」
「う……」
返答に詰まり、シエナはトレッドの方を見る。
だがトレッドも――イビーザのように罵りこそしないものの――憐れむような目で、彼女を見つめていた。
「や、……やめて、よ。何よ、その目?
あ、アタシは……、い、いや、待ってよ、コイツの話が本当だって証拠はあるの? 本当にアオイが討たれたって言うの? そんな話、信じられる?」
「状況的にながら、証拠はございます。ここにお三方が拘束されて数日が経つと言うのに、助けに来る気配がまったく無いこと。それが何よりの証拠ではございませんか」
「でも……」「シエナ」
意を決したように、トレッドが口を開いた。
「あなたはもう、何も仰らないで下さい。私と、エルナンドとで、この方と話をします。
大人しくそこで、座っていて下さい」
「……フリオン……」
シエナはそれ以上何も言えず、言われるがままに、椅子に座り込んだ。
場が静まったところで、トレッドが尋ねる。
「それで、……ええと」
「わたくしのことは、好きなようにお呼びいただいて結構でございます」
「はあ。……では、『ヌーベ』と」
「かしこまりました」
そう答え、女はフードを脱ぐ。
そこには雲を思わせるような、ふわふわとした銀髪の狼獣人の顔があった。
「では、ヌーベさん。既に白猫党を追われた我々に、何の用が?」
「あなた方に再起する機会を与えようかと」
「再起?」
けげんな顔を向けたイビーザに、ヌーベはこう返す。
「詳しい話は申せませんが、あなた方が再び白猫党を奪取することで、それを喜ぶ者が少なからず存在するのです。
しかし万が一、あなた方がもうこれ以上白猫党に関わりたく無い、権力闘争などまっぴらだと仰るのであれば、わたくしはこのまま失礼いたします」
「い、いや! 待て待て! そうは言っておらん!」
イビーザは慌てて引き止め、話を続ける。
「無論、我々を復党させてくれると言うのならば、願ってもない話だ。
だが実際のところ、ロンダは元々軍司令だ。此度のゴタゴタで手に入れた権力に加え、軍事力も有している。
対する我々は素寒貧も同然の身だ。どう対抗すると言うのだ?」
「簡単な話です」
ヌーベはそう返し、クスクスと笑った。
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「……」
唐突に表れたその女に、三人は何の反応もできないでいる。
「どうされました」
「誰よ、アンタ?」
いち早く、シエナが我に返る。
「わたくしは、あなた方の願いを叶える者。勿論、相応の代償は要求いたしますが」
「願い?」
シエナの問に答える代わりに、その白い女はすっと、新聞を差し出した。
「読めってコト?」
「まずはあなた方の置かれた状況を、把握していただこうかと」
「……」
新聞を手に取り、三人は顔を並べて一面を読んだ。
「停戦交渉 早期に締結か ロンダ総裁『戦闘の回避に努める』明言」
「……総裁? ……ロンダが? ……はぁ!?」
見出しを読むなり、シエナがわめきかける。
「どう言うコトよ!? 何でアイツが総裁なのよ!?」
「落ち着いて下さい、シエナ。……しかしこれで、確かに我々の置かれた状況は概ね把握できました。
つまり我々は、既に白猫党の中枢を追われていると言うことですね?」
「その通りでございます」
「なんと……。しかし、預言者殿は? まさかロンダに付いたのか?」
「いいえ、いいえ。葵・ハーミットも討たれたようです」
「だ、誰が? よげ、……いや、アオイ嬢を倒せるような者が、いると言うのか?」
「問題はそこにはございません。あなた方にとっての問題は、拠点を失ったと言うことでしょう」
そう返され、三人は顔を見合わせる。
「確かにそうだ。仮にここから開放されたとしても、我々に戻る場所はもう無い」
「祖国に戻ったところで、白猫党領となって久しいですし。ロンダが掃討命令を下せば、我々の命は無いでしょう」
「どうすんのよ、じゃあ?」
「……」「……」
と、尋ねたシエナに対し、トレッドは戸惑った顔を、そしてイビーザは嘲った顔を見せた。
「……え?」
「確実に言えることは、だ。既に貴様を総裁と崇め奉る理由が無くなったと言うことだ」
見下したようにそう返したイビーザに、シエナはまた怒鳴りかける。
「何よソレ!?」
「分からんのか?
考えてもみろ、ロンダに総裁の座を奪われ、名目的には既に野に下った身ではないか。その上、アオイ嬢と言う後ろ楯も無いと来た。
アオイ嬢の威を借りれぬ貴様など、何の権威も価値も無いのだ」
「う……」
返答に詰まり、シエナはトレッドの方を見る。
だがトレッドも――イビーザのように罵りこそしないものの――憐れむような目で、彼女を見つめていた。
「や、……やめて、よ。何よ、その目?
あ、アタシは……、い、いや、待ってよ、コイツの話が本当だって証拠はあるの? 本当にアオイが討たれたって言うの? そんな話、信じられる?」
「状況的にながら、証拠はございます。ここにお三方が拘束されて数日が経つと言うのに、助けに来る気配がまったく無いこと。それが何よりの証拠ではございませんか」
「でも……」「シエナ」
意を決したように、トレッドが口を開いた。
「あなたはもう、何も仰らないで下さい。私と、エルナンドとで、この方と話をします。
大人しくそこで、座っていて下さい」
「……フリオン……」
シエナはそれ以上何も言えず、言われるがままに、椅子に座り込んだ。
場が静まったところで、トレッドが尋ねる。
「それで、……ええと」
「わたくしのことは、好きなようにお呼びいただいて結構でございます」
「はあ。……では、『ヌーベ』と」
「かしこまりました」
そう答え、女はフードを脱ぐ。
そこには雲を思わせるような、ふわふわとした銀髪の狼獣人の顔があった。
「では、ヌーベさん。既に白猫党を追われた我々に、何の用が?」
「あなた方に再起する機会を与えようかと」
「再起?」
けげんな顔を向けたイビーザに、ヌーベはこう返す。
「詳しい話は申せませんが、あなた方が再び白猫党を奪取することで、それを喜ぶ者が少なからず存在するのです。
しかし万が一、あなた方がもうこれ以上白猫党に関わりたく無い、権力闘争などまっぴらだと仰るのであれば、わたくしはこのまま失礼いたします」
「い、いや! 待て待て! そうは言っておらん!」
イビーザは慌てて引き止め、話を続ける。
「無論、我々を復党させてくれると言うのならば、願ってもない話だ。
だが実際のところ、ロンダは元々軍司令だ。此度のゴタゴタで手に入れた権力に加え、軍事力も有している。
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ヌーベはそう返し、クスクスと笑った。
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今日の旅岡さん

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- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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もしかしたらシエナさんって、この巻の中でも不幸な人十人に入るのではないだろうか。才能ある人だったのに、葵にオルグされて明らかに向いてない国家元首させられて、政治に関するごたごたを些末事に至るまで全部自分で処理し責任を引き受けることになった挙げ句、党からも葵からも見捨てられていまや白猫の毒牙にかかろうとしている、という……。
平時だったらそれなりに身の丈に合った重要な文官ポストにつけただろうが、どこでこういうことに。愚痴るならつきあうぞシエナさん(^^;)
平時だったらそれなりに身の丈に合った重要な文官ポストにつけただろうが、どこでこういうことに。愚痴るならつきあうぞシエナさん(^^;)
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二人にとっては失敗や失態を重ねて、白猫党から嫌われてくれれば嫌われてくれるほど都合のいい存在。
……うーん、本当に不幸ですね。葵に関わりさえしなければ、凄腕の電気技師になれたでしょうに。