「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・再儡抄 4
麒麟を巡る話、第612話。
ロンダの嘆き。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「ああ、何たることか!」
新聞を読み終え、ロンダは頭を抱えてうなった。
「まだあの女は、我々を苦しめようとするのか!」
「度し難いとしか言いようがありませんな。最早、狂人の域だ」
「まったくだ!
やれ、『ロンダ陣営は日頃から叛意を抱いており、常々嫌がらせを受けていた』だの、『幹部陣の抱き込みに失敗し、実力行使に出た卑劣漢』だの、よくもまあ、これだけ人を悪しざまに罵る言葉が続けられるものだ!
まったくの事実無根! それどころか彼奴の妄想としか言いようの無い、どうしようも無い戯言だ!」
「無論、この記事が益体も無い悪口雑言であることは私も、党本部にいる者も良く存じているとも。
とは言え内々の事情を知らぬ末端の党員や、此度の内乱に関わらなかった兵士らの中には、この戯言を信じてしまう者が現れてもおかしくない。
となれば党が割れる危機が再び訪れることは、容易に予測できることだ。いや、もう既に端の方では、前党首の側に翻った者もいるだろうな」
「ううむ……」
ロンダは椅子から立ち上がり、逡巡した様子を見せる。
「このまま看過するのは得策では無いだろうな」
「同感だ。このまま前党首らを放っておけば、より一層の離反者が現れることは明白だ。
こちらも自身の潔白、そして前党首の失策と愚行を公に報じるのが、現時点での最善策だろう」
「どうあっても、争わねばならんか。……いや、今のは愚問だった。争わねばならんのだ。
チューリンの思想と行動が党および世界に寄与、貢献していたとは今もって思えん。放っておけばまた彼奴は勢力を固め、真に世界の安寧秩序を望む我々に対し、様々な妨害をしてくるだろう。今まさにこうして、いわれのない非難をされているのだからな」
「あえて言うなら」
と、ヴィッカーは以前のように、皮肉めいた薄ら笑いを浮かべてこう返した。
「向こうも同じことを考えているのでしょうな。
向こうは向こうで、『自分が正義だ』『不当な非難を受けている』『相手は党を私物化し、ろくでもないことを企んでいる』と思っているからこそ、この新聞記事があるわけでね」
「……どちらが正しい、などと言うことは論じまい。恐らくはどちらもある程度は正しくあり、そしてある程度は過ちを犯しているのだろう」
「政治とはそんなものだ」
「ああ、だろうな」
ロンダは再度椅子に座り込み、嘆息した。
ロンダが嘆いていた通り――シエナたち三名は、どこまでも「自分たちが正しい」「自分たちに正当性がある」と主張して回り、支援者を募っていた。
「今の状況は?」
尋ねたシエナに、イビーザがあからさまに嫌そうな目を向けながら答える。
「今のところ、党員数で言えば5千人を超えております。この周辺は掌握したと考えて間違い無いでしょうな」
「まだまだね」
「ええ、まだまだですとも。もっと我々が頑張らねばなりますまい」
嫌味の混じったイビーザの声に、シエナはフン、と鼻を鳴らす。
「期待してるわ」
「どうだか」
極めて陰湿な空気が漂う中、トレッドは苦い顔を浮かべたままでいる。
それを見たシエナが、苛立った目を向けた。
「何か文句あるの?」
「いえ」
「いいわよ、言ってみなさいよ」
「特に」
「またアタシが操り人形にされてるコトが、滑稽なんでしょう?」
「そんなことは」
「フン」
このやり取りで空気はさらにどんよりとしたものとなり、元来短気なイビーザが叫んだ。
「不満はございますとも! ええ、これでもかと言うくらい!」
「なら言ってみなさいよ!?」
「こんな操り人形の操り人形にされているとしか言いようのない状況は、沢山だと言うことです!
チューリン、あなたもそうではないのですか!? アオイ嬢の次はヌーベの下僕となって、悔しくないと!?」
「……フン」
明らかに苛立っている表情を浮かべながらも、イビーザよりももっと短気であるはずのシエナは、何も言い返さない。
と――。
「……クク」
部屋の隅から、笑い声が聞こえてきた。
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ロンダの嘆き。
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「ああ、何たることか!」
新聞を読み終え、ロンダは頭を抱えてうなった。
「まだあの女は、我々を苦しめようとするのか!」
「度し難いとしか言いようがありませんな。最早、狂人の域だ」
「まったくだ!
やれ、『ロンダ陣営は日頃から叛意を抱いており、常々嫌がらせを受けていた』だの、『幹部陣の抱き込みに失敗し、実力行使に出た卑劣漢』だの、よくもまあ、これだけ人を悪しざまに罵る言葉が続けられるものだ!
まったくの事実無根! それどころか彼奴の妄想としか言いようの無い、どうしようも無い戯言だ!」
「無論、この記事が益体も無い悪口雑言であることは私も、党本部にいる者も良く存じているとも。
とは言え内々の事情を知らぬ末端の党員や、此度の内乱に関わらなかった兵士らの中には、この戯言を信じてしまう者が現れてもおかしくない。
となれば党が割れる危機が再び訪れることは、容易に予測できることだ。いや、もう既に端の方では、前党首の側に翻った者もいるだろうな」
「ううむ……」
ロンダは椅子から立ち上がり、逡巡した様子を見せる。
「このまま看過するのは得策では無いだろうな」
「同感だ。このまま前党首らを放っておけば、より一層の離反者が現れることは明白だ。
こちらも自身の潔白、そして前党首の失策と愚行を公に報じるのが、現時点での最善策だろう」
「どうあっても、争わねばならんか。……いや、今のは愚問だった。争わねばならんのだ。
チューリンの思想と行動が党および世界に寄与、貢献していたとは今もって思えん。放っておけばまた彼奴は勢力を固め、真に世界の安寧秩序を望む我々に対し、様々な妨害をしてくるだろう。今まさにこうして、いわれのない非難をされているのだからな」
「あえて言うなら」
と、ヴィッカーは以前のように、皮肉めいた薄ら笑いを浮かべてこう返した。
「向こうも同じことを考えているのでしょうな。
向こうは向こうで、『自分が正義だ』『不当な非難を受けている』『相手は党を私物化し、ろくでもないことを企んでいる』と思っているからこそ、この新聞記事があるわけでね」
「……どちらが正しい、などと言うことは論じまい。恐らくはどちらもある程度は正しくあり、そしてある程度は過ちを犯しているのだろう」
「政治とはそんなものだ」
「ああ、だろうな」
ロンダは再度椅子に座り込み、嘆息した。
ロンダが嘆いていた通り――シエナたち三名は、どこまでも「自分たちが正しい」「自分たちに正当性がある」と主張して回り、支援者を募っていた。
「今の状況は?」
尋ねたシエナに、イビーザがあからさまに嫌そうな目を向けながら答える。
「今のところ、党員数で言えば5千人を超えております。この周辺は掌握したと考えて間違い無いでしょうな」
「まだまだね」
「ええ、まだまだですとも。もっと我々が頑張らねばなりますまい」
嫌味の混じったイビーザの声に、シエナはフン、と鼻を鳴らす。
「期待してるわ」
「どうだか」
極めて陰湿な空気が漂う中、トレッドは苦い顔を浮かべたままでいる。
それを見たシエナが、苛立った目を向けた。
「何か文句あるの?」
「いえ」
「いいわよ、言ってみなさいよ」
「特に」
「またアタシが操り人形にされてるコトが、滑稽なんでしょう?」
「そんなことは」
「フン」
このやり取りで空気はさらにどんよりとしたものとなり、元来短気なイビーザが叫んだ。
「不満はございますとも! ええ、これでもかと言うくらい!」
「なら言ってみなさいよ!?」
「こんな操り人形の操り人形にされているとしか言いようのない状況は、沢山だと言うことです!
チューリン、あなたもそうではないのですか!? アオイ嬢の次はヌーベの下僕となって、悔しくないと!?」
「……フン」
明らかに苛立っている表情を浮かべながらも、イビーザよりももっと短気であるはずのシエナは、何も言い返さない。
と――。
「……クク」
部屋の隅から、笑い声が聞こえてきた。
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