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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第4部

    蒼天剣・湯治録 2

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    晴奈の話、第187話。
    橘家の歴史と事業展開。

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    2.
    「ふむ……、色々あるのだな」
     晴奈は小鈴たちから小一時間ほど、食堂で央中の作法について講義を受けた。
    「あとセイナさん、フォークは握っちゃダメですよ。こうやって持つんです」
     相当暇なのか、途中から食堂の店員たちも加わってきた。
    「こう、か?」
    「そうそう」
     ウエイトレスが晴奈にフォークを持たせ、ニコニコと笑いながらうなずく。その様子を見ていた猫獣人のコックが珍しげな視線を向けてくる。
    「でも、サムライさんなんて初めて見たなぁ」
    「うんうん。央南出身って人はゴールドコーストとかで時々見かけますけど、ここまでコテコテした『いかにも央南人』って言うのは、あんまり見ませんね」
    「あら、あたしは? ホラ、巫女服よ、巫女服」
     袖をピラピラと振って主張する小鈴に、店員2人は揃って「うーん」とうなる。
    「いや、コスズさん央中語かなり話せるし、髪の毛真っ赤だし」
    「ピアスしてますし、目鼻立ちもはっきりしてますしね」
    「何て言うか、『央南かぶれの央中人』って感じ。巫女服姿だとなーんか、逆に浮いてるような」
    「えー、そお?」
     店員たちの反応に小鈴は苦笑いしている。
    「ま、確かにあたしのお母さんとひいおばーちゃん、央中の人だったし。まだそっちの血が濃いのかもしれないわねー。
     あ、そうそう、うちが情報屋始めたのも、ひいおばーちゃんがきっかけなのよね」
     央中作法の講義は橘家の昔話へと移っていく。
    「央南は今でも、央中とか央北にとっては別世界だしね。昔から色んな話、知りたいって人がホントに多くて。それを商売にできないかって、ひいおばーちゃんは一人で央南へ何度も渡航して、それで一財産築いたんだからすごい人よ、ホント」
    「ですよねー。何度聞いても、たくましい人だなって思いますよ」
     ウエイトレスは小鈴の話にコクコクとうなずいている。そこでフォルナが尋ねてみた。
    「あの、もしかしてコスズさん、こちらの方とお知り合いですの?」
    「あ、言ってなかったっけ? そ、知り合い。去年まで、朱海の店で働いてた子なのよ」
     小鈴に紹介され、ウエイトレスはもう一度頭を下げる。
    「コレットと言います。アケミさんのお店では、すごくお世話になってました。コスズさんとも、何度か会ったことがあります」
    「朱海から『リトルマインに行ったら、絶対ここで食べてけよ』って言われてたし、アンタらを招待したげようって思ってたのよ。いやー、美味しかったわホント」
    「ありがとうございます」
     コレットと隣にいたコックは同時に、嬉しそうに頭を下げた。その様子を見たフォルナが勘を働かせる。
    「もしかしてコレットさん、そちらのコックさんと一緒に?」
    「ええ、ボレロ……、彼がどうしても、故郷のここでお店を開きたいと言っていたので。アケミさんのお店にいた時から付き合ってたんです」
    「へぇ……」
     フォルナは胸の前で手を組み、うらやましそうにため息をついた。
    「素敵な話ですわね」
    「えへへ、まあ、はい」
     コレットは顔を真っ赤にしてうなずいた。

     この食堂で宿も営んでいると言うことで、三人はここに宿泊することにした。コレットは簡単な観光案内もしてくれた。
    「今はもう廃坑になってしまったところに、温泉が湧いてるんですよ。街の観光資源にしようって、こないだ整備されたところなので、良かったらコスズさんたちも入浴されてみてはどうでしょう?」
     コレットがニコニコと笑いながらバスローブや洗面器、スポンジなど入浴用のセットを用意してくれた。
    「あら、ありがと」
    「後で私も行きますね。良かったらもう少し、央南のお話を聞かせてくれますか?」
    「ええ、構いませんよ」
     晴奈もにっこりと笑い返し、入浴セットを受け取る。
    「それではまた、後ほど」
     フォルナも入浴セットを受け取り、コレットに軽く頭を下げた。

     三人は店を後にし、ほのかに暮れ始めた夕空の下をてくてくと歩く。
    「ああ……、涼しい風ですわね」
     旅装を脱ぎ軽装になった三人の間を、秋の風が吹き抜ける。
    「そうか、もう秋になるのだな」
    「いい時期に来たもんね、ホント。央南と違って、央中は春と秋が短いから」
    「旅をするには丁度良かった、と言うべきか。まあ、望んだ旅ではないのだが」
    「まあ、無粋ですわねセイナ。理由がどうあれ、旅は楽しまないと行けませんわ。……でないと、わたくしがここにいる意味がございませんわ」
    「はは、そうだったな」
     フォルナに軽く頬をつつかれ、晴奈は苦笑しながら応える。
    「これも何かの縁だ。存分に、楽しむとしよう」
    「そーそー、その意気その意気。とりあえず……」
     小鈴はぶら下げていたワインの瓶を、嬉しそうに掲げる。
    「温泉に着いたらコレちょこっとあっためて、ホットワインを」「きゅーっと、ですね」「そゆコト」
     三人はまた、クスクスと笑いあった。



     ところがこの後、思いもよらない事件が起きてしまう。
     どうもこの三人の中に、トラブルメーカーがいるらしい。晴奈、小鈴、フォルナは三人とも、そんな風に考えた。
     それが誰なのか、彼女らには結論は出せなかったが――ともかく、事件は起きた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    ウチの売りはキャラと多文化ですねw
    この設定に、助けられたり悩んだり。

    本年は大変お世話になりました。
    来年も、よろしくお願いします。
    また設定など不明な点があれば、メールなどよろしくです。

    NoTitle 

    セイナの文化圏はフォークの概念がないのですね。
    …確かにクロノス自治区も雰囲気的にハシの文化圏になりそうですね。まあ、融合文化ですから、さまざまなものがあっていいような気がしますけど。その辺の文化圏も考えていらっしゃるのはすごいですね。

    今年一年ありがとうございました。おかげさまでそれなりにサイトも盛況で終わりそうです。本当にありがとうございました。来年もよろしくお願いします。よいお年を。来年はとりあえず、ヒイラギとウィリアムを映像化できるように頑張ります。再来年にはセイナを!!と目標に立てております。よろしくお願いします。また具体的な連絡はさせていただきますね。
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