「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・再儡抄 5
麒麟を巡る話、第613話。
利用され続ける者たち。
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5.
「だ、……誰だ!?」
声を上げたイビーザに、いつの間にかそこに立っていた、真っ黒な男が応じた。
「言いたいことは色々あるが、まずは黙ってもらおうか」
「何よソレ? アンタ何様……」「シエナ、……シエナ!」
憤りかけたシエナの袖を、トレッドが引く。
「し、強いて言うならば、神様です」
「は?」
「あの真っ黒な肌と全身にまとう黒衣。そしてこうして、いきなり我々の目の前に現れてみせたことから、その方は紛れも無く、黒炎教団の現人神、タイカ・カツミ氏であると思われます」
「こく……え?」
シエナの表情が凍りつく。
「……そ、そう言われれば、天狐ゼミで見た、……かも」
「天狐のところで? 俺には見覚えが無いが、まあいい。
もう一度言うぞ。お前たち全員、これから一言も発するな。そこに並べ」
言われるがまま、シエナたちは黙って横一列に並ぶ。
大火はその前に立ち、両手を挙げて見せた。
「俺の言うことに同意するなら、俺の右手を見ろ。そうでなければ左手を見ろ。分かったか?」
三人は黙ったまま、揃って大火の右手を見つめた。
「いいだろう。ではまず聞くが、白いローブを被った、品の無い笑い方をする、胡散臭い女に出会ったか?」
再度、三人は右手を見る。
「その女の手下は近くにいるか?」
左手を見る。
「その他、監視と思われる人間はいるか?」
左手を見たところで、大火はうなずき、三人の背後に回り込んだ。
「じっとしていろ」
そう言うなり、大火はシエナたちの背中をばしばしと強く叩いた。
「いたあっ!?」「ひえっ!?」「な、何をするか!」
「もう普通に話して構わん。奴の術は解いた」
「……」
大火がそう告げた途端、シエナはさっと壁際まで身を引く。そしてそれを追うように、イビーザとトレッドがシエナに詰め寄った。
「ま、待ってよ」
「貴様め、よくも我々を、二度も虚仮にしてくれたな!?」
「今度という今度は、流石に私も腹に据えかねていますよ」
「だって、……だってアイツがやれって!」
「『あいつ』と言うのは、白いローブの女のことだな?」
尋ねた大火に、イビーザが答える。
「そうですとも。我々が『ヌーベ』と呼んでいた、その胡散臭き女に命じられ、私とフリオンはこの下らぬ女をまたも、総裁として祀り上げねばならなかったのです」
「詳しく聞かせろ」
大火はそう返し、三人に座るよう手で示した。
ふたたび意気消沈したシエナを部屋の隅に追いやり、イビーザとトレッドは大火に、これまでの状況を説明した。
「まず、我々は本拠地であるヘブン王国より、あなたの娘御を名乗る者に……」「その娘から、お前たちを連れ去って監禁したところまでは聞いている。
さらに言えば葵の件も含めて、お前たちの事情もある程度は把握している。その先を話せ」「あ、はい」
「それでですね、そこへ件のヌーベと呼んでいた女性が現れまして。
彼女が言うには、『わたくしのお願いを聞いていただければ、ふたたび党の中枢に戻れるよう便宜いたしましょう』と。
我々は無論、それを快諾しました」
「するとですな、彼奴は我々をこの地に連れ、新聞社を通じての告発を行わせたのです。『先の白猫党反乱は、ロンダ元司令が計画したものである』『ロンダの派閥による工作を受け、我々は危うく暗殺されかけた』と言うような内容です」
「それに並行しまして、ロンダ元司令に対抗するための組織作りも命じられました。
と言っても前述の告発が功を奏しまして、旧白猫党員だった者たちが続々と集まってきており、そう手間はかかりませんでした。
この状況に、ヌーベも喜んでいるようでした」
「ふむ」
「ただ、私もフリオンも腑に落ちないのは、あの女をふたたび党首として扱うようにと命じられたことです。
率直に申しますと、あの女は到底、人の上に立てるような器ではありません。すこぶる感情的であり、何か気に入らぬことがあれば消火器を投げたり、椅子を蹴飛ばしたりと……」「……やめてよ、もう」
シエナが消え入りそうな声でつぶやいたが、三人は応じず話を続ける。
「恐らく傀儡にするつもりだったのだろう」
「なるほど。これまでアオイ嬢の操り人形だったこいつを、そのままヌーベも操ろうとしたわけですな」
「ああ。それにお前たちがヌーベと呼ぶその女は、衆目にさらされることを極端に嫌う。
悪目立ちするその女を党首として置いておけば、自分が注目されることは無いと考えたのだろう」
「その点もアオイ嬢に似ているようですな。しかし不明なのは、何故ヌーベは落魄した我々を拾い、ふたたび党を立てさせようとしたのか、と言う点です」
「単純な理由だ。世間が乱れれば乱れるほど、その裏で私腹を肥やす奴らが増える。ヌーベはその一人になろうとしているのだ。
であれば反乱騒ぎから既に、奴が一枚噛んでいた可能性もある」
「ふむ。確かにロンダの台頭と撤退宣言以降、大幅なクラム安が続いています。もしそれ以前からエル建てで資産運用していれば、莫大な儲けを手にしていてもおかしくない」
「安くなったクラムをかき集めたところで、また何か、クラム高騰の材料が市場に現れれば――例えばロンダと和睦し、もう一度大規模侵攻に乗り出すなどすれば――さらにもう一段、ヌーベは儲けられると言うわけか。
しかし……」
イビーザとトレッドは揃って、けげんな表情を浮かべた。
「カツミ様は何故、我々の前に現れたのです?」
「そのヌーベとの因縁故に、だ。奴のあらゆる目論見は、潰さねばならんのだ」
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「だ、……誰だ!?」
声を上げたイビーザに、いつの間にかそこに立っていた、真っ黒な男が応じた。
「言いたいことは色々あるが、まずは黙ってもらおうか」
「何よソレ? アンタ何様……」「シエナ、……シエナ!」
憤りかけたシエナの袖を、トレッドが引く。
「し、強いて言うならば、神様です」
「は?」
「あの真っ黒な肌と全身にまとう黒衣。そしてこうして、いきなり我々の目の前に現れてみせたことから、その方は紛れも無く、黒炎教団の現人神、タイカ・カツミ氏であると思われます」
「こく……え?」
シエナの表情が凍りつく。
「……そ、そう言われれば、天狐ゼミで見た、……かも」
「天狐のところで? 俺には見覚えが無いが、まあいい。
もう一度言うぞ。お前たち全員、これから一言も発するな。そこに並べ」
言われるがまま、シエナたちは黙って横一列に並ぶ。
大火はその前に立ち、両手を挙げて見せた。
「俺の言うことに同意するなら、俺の右手を見ろ。そうでなければ左手を見ろ。分かったか?」
三人は黙ったまま、揃って大火の右手を見つめた。
「いいだろう。ではまず聞くが、白いローブを被った、品の無い笑い方をする、胡散臭い女に出会ったか?」
再度、三人は右手を見る。
「その女の手下は近くにいるか?」
左手を見る。
「その他、監視と思われる人間はいるか?」
左手を見たところで、大火はうなずき、三人の背後に回り込んだ。
「じっとしていろ」
そう言うなり、大火はシエナたちの背中をばしばしと強く叩いた。
「いたあっ!?」「ひえっ!?」「な、何をするか!」
「もう普通に話して構わん。奴の術は解いた」
「……」
大火がそう告げた途端、シエナはさっと壁際まで身を引く。そしてそれを追うように、イビーザとトレッドがシエナに詰め寄った。
「ま、待ってよ」
「貴様め、よくも我々を、二度も虚仮にしてくれたな!?」
「今度という今度は、流石に私も腹に据えかねていますよ」
「だって、……だってアイツがやれって!」
「『あいつ』と言うのは、白いローブの女のことだな?」
尋ねた大火に、イビーザが答える。
「そうですとも。我々が『ヌーベ』と呼んでいた、その胡散臭き女に命じられ、私とフリオンはこの下らぬ女をまたも、総裁として祀り上げねばならなかったのです」
「詳しく聞かせろ」
大火はそう返し、三人に座るよう手で示した。
ふたたび意気消沈したシエナを部屋の隅に追いやり、イビーザとトレッドは大火に、これまでの状況を説明した。
「まず、我々は本拠地であるヘブン王国より、あなたの娘御を名乗る者に……」「その娘から、お前たちを連れ去って監禁したところまでは聞いている。
さらに言えば葵の件も含めて、お前たちの事情もある程度は把握している。その先を話せ」「あ、はい」
「それでですね、そこへ件のヌーベと呼んでいた女性が現れまして。
彼女が言うには、『わたくしのお願いを聞いていただければ、ふたたび党の中枢に戻れるよう便宜いたしましょう』と。
我々は無論、それを快諾しました」
「するとですな、彼奴は我々をこの地に連れ、新聞社を通じての告発を行わせたのです。『先の白猫党反乱は、ロンダ元司令が計画したものである』『ロンダの派閥による工作を受け、我々は危うく暗殺されかけた』と言うような内容です」
「それに並行しまして、ロンダ元司令に対抗するための組織作りも命じられました。
と言っても前述の告発が功を奏しまして、旧白猫党員だった者たちが続々と集まってきており、そう手間はかかりませんでした。
この状況に、ヌーベも喜んでいるようでした」
「ふむ」
「ただ、私もフリオンも腑に落ちないのは、あの女をふたたび党首として扱うようにと命じられたことです。
率直に申しますと、あの女は到底、人の上に立てるような器ではありません。すこぶる感情的であり、何か気に入らぬことがあれば消火器を投げたり、椅子を蹴飛ばしたりと……」「……やめてよ、もう」
シエナが消え入りそうな声でつぶやいたが、三人は応じず話を続ける。
「恐らく傀儡にするつもりだったのだろう」
「なるほど。これまでアオイ嬢の操り人形だったこいつを、そのままヌーベも操ろうとしたわけですな」
「ああ。それにお前たちがヌーベと呼ぶその女は、衆目にさらされることを極端に嫌う。
悪目立ちするその女を党首として置いておけば、自分が注目されることは無いと考えたのだろう」
「その点もアオイ嬢に似ているようですな。しかし不明なのは、何故ヌーベは落魄した我々を拾い、ふたたび党を立てさせようとしたのか、と言う点です」
「単純な理由だ。世間が乱れれば乱れるほど、その裏で私腹を肥やす奴らが増える。ヌーベはその一人になろうとしているのだ。
であれば反乱騒ぎから既に、奴が一枚噛んでいた可能性もある」
「ふむ。確かにロンダの台頭と撤退宣言以降、大幅なクラム安が続いています。もしそれ以前からエル建てで資産運用していれば、莫大な儲けを手にしていてもおかしくない」
「安くなったクラムをかき集めたところで、また何か、クラム高騰の材料が市場に現れれば――例えばロンダと和睦し、もう一度大規模侵攻に乗り出すなどすれば――さらにもう一段、ヌーベは儲けられると言うわけか。
しかし……」
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