「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・封魔抄 2
麒麟を巡る話、第616話。
ルナとパラの縁。
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2.
「質問がございます」
パラに声をかけられ、一聖は意外そうな目を向けた。
「お? 珍しいな、お前がオレに声かけるなんて」
「はい。どうしても、気になることがございました故」
「なんだ?」
「わたくしが元主様、……いいえ、克難訓と戦うことになった場合、わたくしは無事でいられるのでしょうか?」
「……んー」
そう問われ、一聖は首を傾げてうなる。
「どう言う意味でだ? 報復を受けるかもって意味でか?」
「それも懸念しておりますが、わたくしが恐れているのは、難訓によってふたたび、人形に戻されてしまうのでは無いか、と」
「なるほどな。まあ、確かにそのまんま人形から人間にしてた場合なら、簡単に戻されちまうかも知れねーな」
「『そのまま』?」
今度はパラが首を傾げる。
「では、わたくしは人形からそのまま人間になったわけではない、と言うことでしょうか?」
「おう。……ま、内緒にしてくれって言われたワケでもねーから言っちまうけど」
そう前置きし、一聖はいたずらっぽく笑った。
「お前のお袋さんからちょこっと、拝借した部分がある。血とか、色々な」
「え?」
「と言うより、アイツが頼み込んだんだ。『少しでもあの子とあたしに、つながりがほしいの』つって、な」
「……それは」「言っとくが、今までつながりを感じてなかったってワケじゃねーぜ。アイツが言ったのは、『血のつながり』だ」
一聖は肩をすくめ、こう続ける。
「アイツにゃ自分が血を分けた子供ってのがいねーからな。ソコにお前さんだ。人形だった頃から、義理の娘として扱ってたんだ。
ソレが本物の人間になるってんなら、関係だって実子に近づけられたらいいなって言う、アイツのかわいい願望さ。
つってもそんなもん、オレからすりゃ大した違いにゃ思えねーんだけどな。実の親だろーが何だろーが、人によっちゃ……」「あ、だから、……いえ」
言いかけて口をつぐんだパラに、話を遮られた一聖が口をとがらせる。
「何だよ? はっきり言えって」
「あの……、母にはわたくしが言ったと言うことを、内緒にして下さい。
わたくしが人間になった日の朝、母のことを『お母さん』と呼んだ時、涙を流されたのです。それはきっと、『わたくしが本物の娘になってくれた』と感じたからなのでしょう」
「なるほどな。そりゃ感動もするさ」
一聖はニヤニヤ笑いながら、パラの手を取った。
「大事にしてやれよ」
「勿論です。わたくしが母と慕い、愛する人は、ルナ・フラウスただ一人ですから」
「ケケケ……、そっか。そう言やオレもお前も、あの狂人が実の母みたいなもんなんだよな。そして同じく、アイツを母と慕えないヤツ同士でもある。
案外さ、他の人形たちもそう思ってたりして、な」
「そうだとしたら、とても素敵なのですが」
そう返し、パラはおかしそうに笑った。
巨大な槍を手にした灰と青のドレスが、パラたちに向かって猛然と突進してくる。
「はああああッ!」
フィオはそれをかわし、剣を相手の背中に向かって振るう。
「それッ!」
だが、振り下ろされた剣が空中で阻まれる。
「くそ、『マジックシールド』か!」
「そう簡単には、我が姉妹に傷を負わせるわけにはなりません故」
そう返しつつ、魔杖を持った灰と赤のドレスが迫る。
「では先に謝罪しておきます」
その背後から、パラが剣を振り上げて飛びかかった。
「あなたは?」
灰赤のドレスが振り返り、持っていた魔杖でパラの剣を止める。
「わたくしたちに、似ている、ような」
「パラ・フラウスと申します。それがわたくしの名前です」
互いに競り合いから離れ、灰赤が小さく頭を下げた。
「申し遅れました。わたくしの名前は、コロネットでございます。そちらの姉妹は、チャージャー」
「では、コロネット。そして、チャージャー。二人ともその名前、捨ててしまいなさい」
そう返したパラに、人形たちは目を丸くして見せた。
「まあまあまあまあ、何を仰るやら」
「主様から賜った名を捨てるなど、とんでもございません」
彼女たちの反応に、パラは嘆息した。
「残念です。やはりわたくしやわたくしの姉は、稀有な存在だったのでしょうか?」
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ルナとパラの縁。
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「質問がございます」
パラに声をかけられ、一聖は意外そうな目を向けた。
「お? 珍しいな、お前がオレに声かけるなんて」
「はい。どうしても、気になることがございました故」
「なんだ?」
「わたくしが元主様、……いいえ、克難訓と戦うことになった場合、わたくしは無事でいられるのでしょうか?」
「……んー」
そう問われ、一聖は首を傾げてうなる。
「どう言う意味でだ? 報復を受けるかもって意味でか?」
「それも懸念しておりますが、わたくしが恐れているのは、難訓によってふたたび、人形に戻されてしまうのでは無いか、と」
「なるほどな。まあ、確かにそのまんま人形から人間にしてた場合なら、簡単に戻されちまうかも知れねーな」
「『そのまま』?」
今度はパラが首を傾げる。
「では、わたくしは人形からそのまま人間になったわけではない、と言うことでしょうか?」
「おう。……ま、内緒にしてくれって言われたワケでもねーから言っちまうけど」
そう前置きし、一聖はいたずらっぽく笑った。
「お前のお袋さんからちょこっと、拝借した部分がある。血とか、色々な」
「え?」
「と言うより、アイツが頼み込んだんだ。『少しでもあの子とあたしに、つながりがほしいの』つって、な」
「……それは」「言っとくが、今までつながりを感じてなかったってワケじゃねーぜ。アイツが言ったのは、『血のつながり』だ」
一聖は肩をすくめ、こう続ける。
「アイツにゃ自分が血を分けた子供ってのがいねーからな。ソコにお前さんだ。人形だった頃から、義理の娘として扱ってたんだ。
ソレが本物の人間になるってんなら、関係だって実子に近づけられたらいいなって言う、アイツのかわいい願望さ。
つってもそんなもん、オレからすりゃ大した違いにゃ思えねーんだけどな。実の親だろーが何だろーが、人によっちゃ……」「あ、だから、……いえ」
言いかけて口をつぐんだパラに、話を遮られた一聖が口をとがらせる。
「何だよ? はっきり言えって」
「あの……、母にはわたくしが言ったと言うことを、内緒にして下さい。
わたくしが人間になった日の朝、母のことを『お母さん』と呼んだ時、涙を流されたのです。それはきっと、『わたくしが本物の娘になってくれた』と感じたからなのでしょう」
「なるほどな。そりゃ感動もするさ」
一聖はニヤニヤ笑いながら、パラの手を取った。
「大事にしてやれよ」
「勿論です。わたくしが母と慕い、愛する人は、ルナ・フラウスただ一人ですから」
「ケケケ……、そっか。そう言やオレもお前も、あの狂人が実の母みたいなもんなんだよな。そして同じく、アイツを母と慕えないヤツ同士でもある。
案外さ、他の人形たちもそう思ってたりして、な」
「そうだとしたら、とても素敵なのですが」
そう返し、パラはおかしそうに笑った。
巨大な槍を手にした灰と青のドレスが、パラたちに向かって猛然と突進してくる。
「はああああッ!」
フィオはそれをかわし、剣を相手の背中に向かって振るう。
「それッ!」
だが、振り下ろされた剣が空中で阻まれる。
「くそ、『マジックシールド』か!」
「そう簡単には、我が姉妹に傷を負わせるわけにはなりません故」
そう返しつつ、魔杖を持った灰と赤のドレスが迫る。
「では先に謝罪しておきます」
その背後から、パラが剣を振り上げて飛びかかった。
「あなたは?」
灰赤のドレスが振り返り、持っていた魔杖でパラの剣を止める。
「わたくしたちに、似ている、ような」
「パラ・フラウスと申します。それがわたくしの名前です」
互いに競り合いから離れ、灰赤が小さく頭を下げた。
「申し遅れました。わたくしの名前は、コロネットでございます。そちらの姉妹は、チャージャー」
「では、コロネット。そして、チャージャー。二人ともその名前、捨ててしまいなさい」
そう返したパラに、人形たちは目を丸くして見せた。
「まあまあまあまあ、何を仰るやら」
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