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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第4部

    蒼天剣・湯治録 3

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    晴奈の話、第188話。
    温泉とお酒をこよなく愛する女、小鈴。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「つーいた、ついたっ」
     温泉に着くなり、小鈴は嬉しそうに更衣室へと進んでいった。
    「イキイキしていらっしゃいますわね、コスズさん」
    「ああ。まったく本当に、旅を満喫している人だよ」
     晴奈とフォルナが更衣室に入ると、小鈴は既にタオル一枚の姿になっている。
    「ホラ、早く着替えた着替えたっ」
    (は、早い)
     晴奈たちは慌てて着ているものを脱ぐ。と、ここで小鈴がイタズラっぽく声をかける。
    「全部脱いで入らないよーに」
     晴奈は口をとがらせ、反論する。
    「承知しております。先程、じっくりと教わりましたから」
     晴奈も体にタオルを巻き、小鈴と同じ姿になる。その間に、小鈴は陶製のグラスとワイン瓶を手に浴場へと入って行った。
     2人になったところで、フォルナが話しかけてくる。
    「コスズさんって、温泉が好きなのかしら」
    「ああ、そうらしい。昔、私の修行場に来た時も、良く温泉につかっていた」
    「お酒もお好きみたいですわね」
    「なかなかの酒豪だ。あの人が酒に呑まれたところを見たことがない」
    「へぇ……」
     話しているうちに、浴場から小鈴の鼻歌が聞こえてきた。そしてふわりと、浴場で温められたワインの香りが漂ってきた。

     ワインの香りは浴場の外、廃坑の入口まで流れて行く。
     それは普通の人間には嗅ぎ取れないくらいの微弱な香りだが、外にいる兎やリスと言った小動物たちには感じられた。
     とは言え、酒の香りである。大抵の動物はうまい匂いだとは感じられず、かと言って嫌な臭いでも無い。特に反応することも無く、地面の草を食んでいた。
     だが突然、そこにいた動物たちは一様にビクッと震え、どこかへと逃げ去った。

    「ふんふふーん、ふふふふーん……」
     湯船につかった小鈴は上機嫌な顔で、ワインをグイグイと呑んでいる。
    「っはー、んまいっ!」
     既に瓶の中のワインは3分の2になっている。体を洗い終えた晴奈とフォルナが浴槽につかり、小鈴の横に座る。
    「楽しんでますね」
    「もっちろんよー。ホラ晴奈、アンタも呑んだ呑んだ」
     小鈴はグラスを手渡し、ワインをなみなみと注ぐ。
    「お、っとと」
    「さ、行っちゃいなー」
    「では……」
     晴奈はワインに口を付け、くいと呑む。
    「……ふーむ、じわりと来ますね。胃の中からほこほこと、体が温まる」
    「でしょ? コレはなかなかいいお酒よ」
    「へぇ……」
     晴奈の呑む姿を見ていたフォルナが、感心した声を上げる。
     それを見て、小鈴がニヤニヤしながら、フォルナにグラスを差し出した。
    「ホラ、フォルナちゃんも一献どうぞ」
    「え、でも、わたくしお酒、呑んだことが……」
    「あら、そーなの? ……んふふ、ソレじゃ今日がお酒の初体験ってワケね」
     小鈴はグラスを半ば無理矢理に渡し、晴奈にやったのと同じように、ワインをたっぷり注ぎ込む。
    「ほれほれ、呑んじゃいなって」
    「は、はい。それでは、……えいっ」
     フォルナは困った顔でグラスと小鈴の顔を交互に見ていたが、やがて意を決したように、ぐいっとあおった。
    「……んにゃあぁ」
     そしてすぐに、涙目になる。
    「だ、大丈夫かフォルナ?」
    「エグ味があって、変な匂いですわ……。何と言うか、その、ブドウが腐ったような……」
    「ま、ワインはブドウを醗酵させたもんだしね。まだちょっと、早かったかな」
    「い、いえ。……もう少し、味を見させていただいてもよろしいかしら?」
    「お?」
     フォルナは苦そうな顔をしながらも、グラスを差し出してきた。
    「美味しい気もしないではありませんので」
    「だいじょぶ?」
    「ええ、何とか。……さあ、お願いします」
    「んじゃ、注ぐけど」
     小鈴は多少心配そうな様子を見せつつも、フォルナに2杯目を注ぐ。
     それをフォルナがもう一度、一気に飲み下す。その仕草を見た小鈴が、「ちがうちがう」と声を上げた。
    「フォルナ、お酒はそーやって呑むもんじゃないわよ。もっとゆーっくり、味わって呑まなきゃ」
    「そ、そうなのですか? でもセイナはさっき、こうやって呑んでいたような」
    「いや、そーじゃなくて。そんな『これから死地に飛び込みます』みたいな顔で呑んじゃダメだってば。お酒に失礼よ」
    「あ……、はい」
     小鈴にそう注意され、フォルナは3杯目をゆっくりと口に含む。
    「……あ、いい香り、かも」
    「舌、慣れてきたかな?」
    「ふぁい……」
     フォルナがおかしな返事をしたので、晴奈と小鈴は同時にフォルナの顔を覗き込んだ。
    「ろーいたしましらろ、せいな、こすずさん?」
    「酔ってるわね。呂律がグチャグチャ」
     小鈴の指摘にうなずきつつ、晴奈は立ち上がった。
    「私、先に上がってフォルナを運んでおきます。放っておいたら、湯船に沈んでしまう」
    「そーね。お願い、せ……」
     頼みかけて、小鈴は口をつぐんだ。
    「どうしました?」「しっ」
     小鈴は浴場の、いや、温泉の入口に注意を向けている。それを見て、晴奈も同じように外の様子を伺う。
     夕暮れを強く感じさせる虫の声に混じり、人間大の「何か」が四足でと、とと……、と足音を立てて入口前をうろついているのが、わずかに聞こえてくる。
    「何か、……いますね」「ええ、下手に出ない方が良さそうよ」
     小鈴は素早く、呪文を唱える。
    「来て、『鈴林』!」
     唱え終わったところで、脱衣所に立てかけておいた小鈴の魔杖がひゅん、と飛んできた。
     小鈴はそれをつかみ、湯船から立ち上がる。
    「よし、準備万端っ。……さあ、かかってらっしゃい」
     晴奈は後ろに下がり、フォルナを抱きかかえている。流石の晴奈も刀が無くてはどうしようもなく、小鈴に任せるしか無い。
    「小鈴殿、お気をつけください」
    「分かってるって」
     入口にいた「何か」は脱衣所まで入ってきたようだ。衝立があるので姿は分からないが、相当大きな獣のようだ。
    「獣と言うより、……怪物、でしょうか」
    「かもね。
     ちょっとお湯減っちゃうけど、風邪引かないでね」
    「え?」
     晴奈に詳しく説明せず、小鈴は呪文の詠唱を始める。
     すると浴場の湯水がぱしゃぱしゃと音を立てて揺れ始めた。
    「もっと後ろ下がって、晴奈!」
    「は、はい!」
     晴奈は既に酔い潰れているフォルナを抱きかかえ、湯船の一番奥まで下がる。
     と同時に、黒っぽい「何か」が衝立を倒してこちらに向かってきた。
    「狼!?」「でっか!?」
     それは全長2メートル以上はある、巨大な狼のような生物だった。その大きさに、晴奈と小鈴は戦慄する。
    「こっち向かってくる! 攻撃するわよ! 後ろ下がった!?」
    「はい!」
    「んじゃ行くわよ、『ウォータードロップ』!」
     湯船から拳大の水が浮き上がり、球状に固まる。そして向かってきた狼に向かって、勢い良く飛んでいく。
    「ギャウッ!?」
     重たい水の弾は狼の眉間に当たり、狼は短い叫び声を上げてのけぞった。小鈴は続けて3、4発、水の弾を放つ。
    「それッ!」「ギャ!?」
     水の弾に何度もぶたれ、狼はひんひんと鳴きながらくるりと向きを変え、浴場から出て行った。
    「はぁ。……何なのよアレ!?」
     危機が去り、小鈴は『鈴林』は湯船につけないよう上に掲げながら、ぽちゃんと湯船の中に入る。
    「狼の、……よう、でしたね」
    「にしたってデカすぎよ! こうしちゃいられないわ、もしかしたら村に向かうかも」
     小鈴はまた立ち上がり、急いで浴場を後にする。
     晴奈もフォルナを背負いながら、小鈴を追った。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    話にヤマとかオチとか意味とか入れるのは、重要だと思います。
    思いますが、一々「あの文章は後の展開への伏線だ」とか、
    「あの設定はここでの展開を含んだものだった」とか、
    全てのものに意味を持たせたら、読者さんも作者も非常に気疲れするんじゃないでしょうか。
    道端の石にすら設定があったりしたら、物語が重たくてたまりません。
    たまには何の意味も無く、キャラクタを遊ばせてもいいんじゃないかと思います。

    前置きはともかく。
    今回の話(湯治録)と次の話(湖島録)、基本的にダラダラした話です。
    変な勘ぐりや曲解、全然いりません。
    (後々伏線として何か拾う可能性はありますが、基本的にヤマなしオチ無し意味無しです)
    三人娘ののどかな旅をお楽しみください。

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    2016.04.28 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    自分の場合、気を抜くと話の方向性が明後日へ跳んでいってしまうクセがあり、執筆を終えた時点で、良く分からない、オチのない話になることが度々あります。
    例えて言うなら横を向いてボールを投げるようなもので、時折とんでもない方向にボールがすっ飛んでしまうことが。

    読む分には、特に意味の無い、のんびり和んだお話は好きなんですが、書く分には、実は苦痛だったりします。
    冒頭で「全てのものに意味を持たせたら~」と言っていましたが、それでもこの「湯治録」はきっちり落としてたりしますし、綺麗にまとめないと気が済まない性分です、自分。

    NoTitle 

    わたしの場合、話が300~600枚と短いので、「まったく意味がない」シーンを入れている余裕がなかったりします(^^;)

    範子文子をお読みならわかるとおり、意味のない話は大好きなんですが(^^;)

    とはいえ900枚を支えるだけの固い小説的骨組み構築できないし(600枚でもあっぷあっぷ状態)、うーん、それだけで独立した意味のない話やるのは外伝になっちまうなあ……。
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