「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・獲麟抄 5
麒麟を巡る話、第625話。
アラミタマ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
麒麟の初太刀を辛うじて受けた葵だったが、そのまま壁まで弾き飛ばされる。
「うぐ……っ」
葵の背後、叩き付けられた壁に、放射状にぱっと血が飛び散る。
その壁の赤い「花」と、床に倒れ込んだまま、ピクリとも動かなくなった葵をしげしげと眺めながら、麒麟が嬉しそうにつぶやいた。
「ふっ、……はは、ああ、うん、いいね。すごくいい。生身って、ホントにいいねぇ」
麒麟はいつの間にか、両手に剣を構えていた。
「この肉が切れる感触。この骨が折れる感触。あんなまだるっこしい夢の世界じゃ決して味わえなかった、純然たる現実味。
ああ、……ああ、あああ、あああはは、はは、あははっははははあああ! 楽しい! 楽しいよ! 脳味噌が蒸発しそうなくらい楽しいいいいいいい!」
次の瞬間、麒麟の姿が消え――今度は天狐が、壁に張り付いた。
「ぐえっ!?」
「テンコちゃん。テンコちゃんねぇ。テンコちゃんかぁ。あはは、テンコちゃんかぁ! あははは、ははっ、はひ、ひひ、ひぎ、ひっ、っ、ひぃ、……ゲホッ、ゲホ、ゲホ。ああ、笑いすぎて死にそうだ」
「あ……ね……さん」
たった一撃で、天狐は葵と同様、既に血まみれになっている。
麒麟はそれ以上天狐に目をくれず、今度は一聖の方をぎょろりと向く。
「腕鳴らしはこんなところで十分かな。そろそろ真面目に殺るとするか。
おいでよ、カズセちゃん。そんなトコでいつまでもブルってないでさぁ?」
「う……うう……」
普段、あれだけ飄々と振舞っていた一聖は顔を真っ青にし、一歩も動けないでいる。
「来ないの? じゃあ行くよ? いいんだね? いいんだね!? じゃあ行くよ!? あはははっ、行くよ!」
麒麟は双剣を振り上げ、一聖に襲いかかろうとする。
だがその前に、葛が立ちはだかった。
「やらせない! あたしがやっつけてやる!」
「あ? 誰だっけ? えーと? ココまで出てるんだけどなぁ、コ・コ・ま・で。……あーあーあーあー、そうだそうだ。あの役立たずアオイの、ろくでなしの妹かぁ。
何? ボクを止めるつもりなのか? 何ソレ? 身の程分かって言ってる? もしかして死にたい? 死にたいんだ? ああ、いいよ。死にたいんだね。分かった分かった。
じゃあ死ねええええッ!」
猛然と、麒麟が迫ってくる。
葛も駆け出し、心の中で強く念じる。
(あたしがみんなを護る! だからうまく行って! ……『星剣舞』ッ!)
葛の姿が、その場から消えた。
「……おおっとぉ? 逃げたのか? いや違う。そうか、ああ、そうだった。『星剣舞』をやるって言うんだな?
じゃあ一太刀くらい食らわせてみろよ、ボクにさあああああ!?」
麒麟は双剣を掲げ、呪文を唱えた。
「『スノーストーム』!」
立坑の中で、轟々と風が渦巻き始める。やがて風の中にチラチラと雪が混じり出し、目の前が見えなくなるほどの吹雪が巻き起こった。
「うっ……さむ……い……」
傍観していたモールも巻き込まれ、まるで雪だるまのように、体中にべっとりと雪がまとわりつき、そのまま倒れる。
「頼むぜ……葛……!」
一聖も半ば雪に埋もれながら、麒麟と、彼女に斬り掛かっていったはずの葛の様子を見守る。
「さあて、どうかな? キミが『星剣舞』で動ける時間一杯、吹雪を起こしてあげたけど、キミは果たして耐えられたのかなぁ……?」
見下した笑みを浮かべる麒麟のすぐ前に積もった雪が、ごそ、と動く。
「……う……あ……あっ」
その下から葛が這い出したが、そのまま雪の中に倒れ込んだ。
「おやぁ? やっつけてやるって言ったの、誰だったっけ? キミだよねぇ? 違ったっけ? いいや、ボクの記憶によれば間違い無くキミだったはずなんだけどなぁ!?
ソレが何だよ、言ってから10秒もしないうちに、もうやられちゃったってワケ? くっだらないなぁ!」
自分が積もらせた雪の上を、ざく、ざくと音を立てながら歩き、麒麟は葛に近付いて行く。
「お前みたいなカスなんか、ハナっから相手にしちゃいないんだよ! さっさと死んでろ、ゴミめッ!」
麒麟は双剣を振り上げ、葛に振り下ろした。
だが――葛に刃が当たるかと言う、その瞬間。
いつの間にか、麒麟のすぐ背後まで迫っていた葵が、彼女の胸を刺し貫いていた。
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麒麟の初太刀を辛うじて受けた葵だったが、そのまま壁まで弾き飛ばされる。
「うぐ……っ」
葵の背後、叩き付けられた壁に、放射状にぱっと血が飛び散る。
その壁の赤い「花」と、床に倒れ込んだまま、ピクリとも動かなくなった葵をしげしげと眺めながら、麒麟が嬉しそうにつぶやいた。
「ふっ、……はは、ああ、うん、いいね。すごくいい。生身って、ホントにいいねぇ」
麒麟はいつの間にか、両手に剣を構えていた。
「この肉が切れる感触。この骨が折れる感触。あんなまだるっこしい夢の世界じゃ決して味わえなかった、純然たる現実味。
ああ、……ああ、あああ、あああはは、はは、あははっははははあああ! 楽しい! 楽しいよ! 脳味噌が蒸発しそうなくらい楽しいいいいいいい!」
次の瞬間、麒麟の姿が消え――今度は天狐が、壁に張り付いた。
「ぐえっ!?」
「テンコちゃん。テンコちゃんねぇ。テンコちゃんかぁ。あはは、テンコちゃんかぁ! あははは、ははっ、はひ、ひひ、ひぎ、ひっ、っ、ひぃ、……ゲホッ、ゲホ、ゲホ。ああ、笑いすぎて死にそうだ」
「あ……ね……さん」
たった一撃で、天狐は葵と同様、既に血まみれになっている。
麒麟はそれ以上天狐に目をくれず、今度は一聖の方をぎょろりと向く。
「腕鳴らしはこんなところで十分かな。そろそろ真面目に殺るとするか。
おいでよ、カズセちゃん。そんなトコでいつまでもブルってないでさぁ?」
「う……うう……」
普段、あれだけ飄々と振舞っていた一聖は顔を真っ青にし、一歩も動けないでいる。
「来ないの? じゃあ行くよ? いいんだね? いいんだね!? じゃあ行くよ!? あはははっ、行くよ!」
麒麟は双剣を振り上げ、一聖に襲いかかろうとする。
だがその前に、葛が立ちはだかった。
「やらせない! あたしがやっつけてやる!」
「あ? 誰だっけ? えーと? ココまで出てるんだけどなぁ、コ・コ・ま・で。……あーあーあーあー、そうだそうだ。あの役立たずアオイの、ろくでなしの妹かぁ。
何? ボクを止めるつもりなのか? 何ソレ? 身の程分かって言ってる? もしかして死にたい? 死にたいんだ? ああ、いいよ。死にたいんだね。分かった分かった。
じゃあ死ねええええッ!」
猛然と、麒麟が迫ってくる。
葛も駆け出し、心の中で強く念じる。
(あたしがみんなを護る! だからうまく行って! ……『星剣舞』ッ!)
葛の姿が、その場から消えた。
「……おおっとぉ? 逃げたのか? いや違う。そうか、ああ、そうだった。『星剣舞』をやるって言うんだな?
じゃあ一太刀くらい食らわせてみろよ、ボクにさあああああ!?」
麒麟は双剣を掲げ、呪文を唱えた。
「『スノーストーム』!」
立坑の中で、轟々と風が渦巻き始める。やがて風の中にチラチラと雪が混じり出し、目の前が見えなくなるほどの吹雪が巻き起こった。
「うっ……さむ……い……」
傍観していたモールも巻き込まれ、まるで雪だるまのように、体中にべっとりと雪がまとわりつき、そのまま倒れる。
「頼むぜ……葛……!」
一聖も半ば雪に埋もれながら、麒麟と、彼女に斬り掛かっていったはずの葛の様子を見守る。
「さあて、どうかな? キミが『星剣舞』で動ける時間一杯、吹雪を起こしてあげたけど、キミは果たして耐えられたのかなぁ……?」
見下した笑みを浮かべる麒麟のすぐ前に積もった雪が、ごそ、と動く。
「……う……あ……あっ」
その下から葛が這い出したが、そのまま雪の中に倒れ込んだ。
「おやぁ? やっつけてやるって言ったの、誰だったっけ? キミだよねぇ? 違ったっけ? いいや、ボクの記憶によれば間違い無くキミだったはずなんだけどなぁ!?
ソレが何だよ、言ってから10秒もしないうちに、もうやられちゃったってワケ? くっだらないなぁ!」
自分が積もらせた雪の上を、ざく、ざくと音を立てながら歩き、麒麟は葛に近付いて行く。
「お前みたいなカスなんか、ハナっから相手にしちゃいないんだよ! さっさと死んでろ、ゴミめッ!」
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だが――葛に刃が当たるかと言う、その瞬間。
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