「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・獲麟抄 6
麒麟を巡る話、第626話。
葵と葛の意地。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「はっ……はあっ……はっ……」
「ごふっ……アオイ……まだ息があったのか?」
口から血を吐きながらも、麒麟の顔から笑みは消えない。
「でも詰めが甘いなぁ。この程度でボクが倒せると思ったのか?」
「……」
葵が膝を着く。その周りには、血が溜まっていた。
「致命傷を負わせたつもりだったけど、ソコは黄家の血――超回復力ってヤツか? だとすると黄家のもう一つの特殊能力、超適応力によってボクに気配を悟らせないレベルまで、この一瞬で成長したってワケか。
でもざぁんねぇん! この程度じゃ、ボクは死にやしないのさ」
胸に刀が突き刺さったまま、麒麟はうずくまった葵を蹴飛ばした。
「げぼっ……」
「いい気分だよ、アオイ! こうしてキミを、足蹴にできるなんてさあ!」
何度も蹴り倒され、葵は血を撒き散らしながら、ごろごろと雪の上を転がっていく。
「ああ、気持ちいい! キミの肉が潰れていく、この感触! キミの骨が砕けていく、この感触! たまらない! たまらないよ!
く、ふふっ……。キミは最期までボクを飽きさせなかったね。えらいよ、アオイ。えらい、えらい。いい子だ。……じゃあ、コレでおしまいにしてあげるよ。
あはは、はは、あははははは……」
ぴくぴくと痙攣し始めた葵に近付き、麒麟は右脚を上げた。
その一瞬――葵は、きっとその生涯で初めて使ったであろう、その言葉を発した。
「たす……け……て……カズラ」
いつの間にか、葛は雪の上に立っていた。
「姉貴!」
葛の目には、すべてが止まって見えた。
天狐も、一聖も動かない。
モールも動かない。
葵も動かない。
そして憎き敵、麒麟も、微動だにしていないように見えた。
その止まった世界を、葛は歩く。
(やらせない……!)
一歩進み、二歩進んでも、世界は凍りついたままだ。
「アンタなんかに姉貴を殺させてたまるか!」
十歩、二十歩進んでも、麒麟は右脚を上げ、悪魔のような笑みを浮かべたまま、まるで彫像のように固まっている。
「食らえッ!」
そのまま、麒麟のすぐ目の前まで到達し、葛は怒りに任せて刀を振り回した。
「あはは、はは、あははははは……、はぎゃあッ!?」
麒麟の振り上げていた右脚が、ざっくりと斬り落とされている。
「なっ、……なん、だって?」
片足を失い、麒麟はそのままバランスを崩して倒れ込む。
いつの間にか、彼女は全身に刀傷を負っていた。
「二度も言わせんなッ!」
葛が仁王立ちになり、葵をかばう形で、麒麟の前に立ちはだかる。
「アンタみたいなイカレ女に、姉貴を殺させないって言ったのよ!
まだやるって言うなら、もう一回、あたしが相手になってやる!
さあ来い、キリン!」
「ち……」
麒麟の血が止まる。絶たれたはずの脚から肉が盛り上がり、元の脚の形になる。
「調子に乗るなよ、このゴミ虫どもがあああああッ!」
麒麟はがばっと立ち上がり、双剣を振り上げて襲い掛かる。
「お前ら姉妹もろとも、消し炭にしてやるうううあああーッ! 『フラッシュファイア』!」
瞬間、立坑は真っ白な光で満たされた。
「……う……っ」
立坑の雪が消え去り、モールがフラフラと起き上がる。
「みんな……は」
モールは辺りを見回し、すぐに壁際で倒れたままになっている天狐と、床に倒れた一聖を見付ける。
「天狐ちゃん! 一聖ちゃん! ……と、……あれ? 葵と葛と、……麒麟は、……ドコ行ったね?」
もう一度、辺りを見回す。
そこでようやく、呆然と立ったままの葛、血まみれで倒れている葵――そして、葵と葛の刀を前後から胸に受け、立ち尽くした麒麟の姿を確認した。
「……そ……う……言う……コト……か……」
血を吐き出しながら、麒麟がうめく。
「……どっちか……を……倒しても……もう一方が……立ち上がる……か……。
最初に……二人とも……殺して……おく……べき……だった……」
やがて麒麟の体は、床に沈んだ。
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葵と葛の意地。
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6.
「はっ……はあっ……はっ……」
「ごふっ……アオイ……まだ息があったのか?」
口から血を吐きながらも、麒麟の顔から笑みは消えない。
「でも詰めが甘いなぁ。この程度でボクが倒せると思ったのか?」
「……」
葵が膝を着く。その周りには、血が溜まっていた。
「致命傷を負わせたつもりだったけど、ソコは黄家の血――超回復力ってヤツか? だとすると黄家のもう一つの特殊能力、超適応力によってボクに気配を悟らせないレベルまで、この一瞬で成長したってワケか。
でもざぁんねぇん! この程度じゃ、ボクは死にやしないのさ」
胸に刀が突き刺さったまま、麒麟はうずくまった葵を蹴飛ばした。
「げぼっ……」
「いい気分だよ、アオイ! こうしてキミを、足蹴にできるなんてさあ!」
何度も蹴り倒され、葵は血を撒き散らしながら、ごろごろと雪の上を転がっていく。
「ああ、気持ちいい! キミの肉が潰れていく、この感触! キミの骨が砕けていく、この感触! たまらない! たまらないよ!
く、ふふっ……。キミは最期までボクを飽きさせなかったね。えらいよ、アオイ。えらい、えらい。いい子だ。……じゃあ、コレでおしまいにしてあげるよ。
あはは、はは、あははははは……」
ぴくぴくと痙攣し始めた葵に近付き、麒麟は右脚を上げた。
その一瞬――葵は、きっとその生涯で初めて使ったであろう、その言葉を発した。
「たす……け……て……カズラ」
いつの間にか、葛は雪の上に立っていた。
「姉貴!」
葛の目には、すべてが止まって見えた。
天狐も、一聖も動かない。
モールも動かない。
葵も動かない。
そして憎き敵、麒麟も、微動だにしていないように見えた。
その止まった世界を、葛は歩く。
(やらせない……!)
一歩進み、二歩進んでも、世界は凍りついたままだ。
「アンタなんかに姉貴を殺させてたまるか!」
十歩、二十歩進んでも、麒麟は右脚を上げ、悪魔のような笑みを浮かべたまま、まるで彫像のように固まっている。
「食らえッ!」
そのまま、麒麟のすぐ目の前まで到達し、葛は怒りに任せて刀を振り回した。
「あはは、はは、あははははは……、はぎゃあッ!?」
麒麟の振り上げていた右脚が、ざっくりと斬り落とされている。
「なっ、……なん、だって?」
片足を失い、麒麟はそのままバランスを崩して倒れ込む。
いつの間にか、彼女は全身に刀傷を負っていた。
「二度も言わせんなッ!」
葛が仁王立ちになり、葵をかばう形で、麒麟の前に立ちはだかる。
「アンタみたいなイカレ女に、姉貴を殺させないって言ったのよ!
まだやるって言うなら、もう一回、あたしが相手になってやる!
さあ来い、キリン!」
「ち……」
麒麟の血が止まる。絶たれたはずの脚から肉が盛り上がり、元の脚の形になる。
「調子に乗るなよ、このゴミ虫どもがあああああッ!」
麒麟はがばっと立ち上がり、双剣を振り上げて襲い掛かる。
「お前ら姉妹もろとも、消し炭にしてやるうううあああーッ! 『フラッシュファイア』!」
瞬間、立坑は真っ白な光で満たされた。
「……う……っ」
立坑の雪が消え去り、モールがフラフラと起き上がる。
「みんな……は」
モールは辺りを見回し、すぐに壁際で倒れたままになっている天狐と、床に倒れた一聖を見付ける。
「天狐ちゃん! 一聖ちゃん! ……と、……あれ? 葵と葛と、……麒麟は、……ドコ行ったね?」
もう一度、辺りを見回す。
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血を吐き出しながら、麒麟がうめく。
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