「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・獲麟抄 8
麒麟を巡る話、第628話。
慟哭。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
「わ、分かんないよ。どうして?」
葛はうろたえながらも、葵に尋ねる。
「どうしてあたしたちは、キリンを倒しに来たの? タイカさんに魔力を戻すためだけに、こんな危ないコトしてたの?」
「それだけじゃないよ。……モールさん、二人で話したいから、テンコちゃんたちを介抱してあげてて」
「ああ、了解だね」
モールがその場から離れたところで、葵は話を続けた。
「あたしにも、自分の体がもう治しようが無いってことは、十分分かってた。このまま死んでも、仕方無いなとも思ってた。
でも、このまま死んだら、あたしの魂はきっと、白猫に縛られる。未来永劫、白猫の奴隷にされるだろうってことも、予知じゃなく、勘で分かってた。
だから、あの人を完全に排除してしまいたかった。この世界から」
「じゃあ、こうなるコトが分かってたってコト?」
「半分『見えて』て、もう半分は予想だった。
さっきも言ったけど、キリンは次元系の研究をしてたし、あまりにも自分の思惑から外れたことばっかり起こると、見境なくキレるタイプだった。
だからこうして、現実の世界でとことん追い詰めれば、きっと前後不覚になるほど錯乱して、あの術を使って逃げる。……そう言う目論見だった」
「待ってよ」
葛は憤った目を、葵に向けた。
「じゃあ始めっから、姉貴は死ぬつもりでココに来たの?」
「うん」
「ふざけないでよ! あたしがどれだけ、姉貴に生きててもらいたいと思ったか……!」
「それについては、本当に、ごめん。あんたの言う通りだった。
あたしは、嘘を付いた」
「……バカぁっ……!」
葛は顔を伏せ、ぐすぐすと泣き出した。
「助かる方法は一つだけあるぜ」
と、天狐が顔の血を拭いながら近付いてきた。
「……え?」
「と言っても、事実上死んだも同然なんだがな」
一聖も顔を真っ青にしたまま、側に寄る。
「どう言うコト?」
「葵を、『システム』の中に入れるんだ」
天狐の回答に、葛は思わず立ち上がっていた。
「な、何てコト言うのよ!?」
「『システム』に組み込まれりゃ、もう半永久的に、生きて外を歩くコトはできねー。だが死なずに済む。仮死状態だから、病状も進行しないってワケだ」
「でも……!」
「もしかしたらずっと先の未来で、葵がたどり着けなかった治療法を見付けて、確立できるヤツが現れるかも知れねー。
そしてその頃には、もしかしたら『システム』なんか必要なくなってて、お役御免になった葵は蘇り、その治療を受けられるかも知れねー。
すべては可能性の話だが、ソレだけでも、入れる価値はあるだろ?」
「……でも、……でも!」
葛はボタボタと涙を流しながら、力なく反論する。
「あたしは……姉貴と一緒に……家に帰りたかったのに……! パパだってママだって、ばーちゃんだってコントンさんだって、みんな姉貴の帰りを、待ってくれてるのに……!」
「……本当に、……ごめん、カズラ。でも、『システム』に入らなかったら、あたしはこの山を降りる前に死ぬんだよ」
「えっ……?」
「それが本来、あたしが辿るべき運命。でもそれを回避する手段は、今、『システム』だけなんだ。
パパたちには、ごめんって言ってたって伝えて」
「……勝手ばっかり……」
葛は葵を抱きしめ、なおも泣いていた。
「本当に、バカ姉貴だよ……!」
「……ごめん。……カズラ」
葵も葛を抱き返し、こう返した。
「これからはあんたの、心の中にいることにするよ。あたしはいつも、あんたのことを見守っていてあげる。
だからもう、泣かないで、カズラ」
1時間後――葛たちは4人で、山道を下っていた。
「うああ、ああ、あーあー……」
葛は泣いていた。
「ああ、ああー……」
吹雪のやんだ山に、葛の泣き声がこだまする。
「うう、うああ、あー……」
その切ない声は、いつまでも止まなかった。
白猫夢・獲麟抄 終
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慟哭。
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「わ、分かんないよ。どうして?」
葛はうろたえながらも、葵に尋ねる。
「どうしてあたしたちは、キリンを倒しに来たの? タイカさんに魔力を戻すためだけに、こんな危ないコトしてたの?」
「それだけじゃないよ。……モールさん、二人で話したいから、テンコちゃんたちを介抱してあげてて」
「ああ、了解だね」
モールがその場から離れたところで、葵は話を続けた。
「あたしにも、自分の体がもう治しようが無いってことは、十分分かってた。このまま死んでも、仕方無いなとも思ってた。
でも、このまま死んだら、あたしの魂はきっと、白猫に縛られる。未来永劫、白猫の奴隷にされるだろうってことも、予知じゃなく、勘で分かってた。
だから、あの人を完全に排除してしまいたかった。この世界から」
「じゃあ、こうなるコトが分かってたってコト?」
「半分『見えて』て、もう半分は予想だった。
さっきも言ったけど、キリンは次元系の研究をしてたし、あまりにも自分の思惑から外れたことばっかり起こると、見境なくキレるタイプだった。
だからこうして、現実の世界でとことん追い詰めれば、きっと前後不覚になるほど錯乱して、あの術を使って逃げる。……そう言う目論見だった」
「待ってよ」
葛は憤った目を、葵に向けた。
「じゃあ始めっから、姉貴は死ぬつもりでココに来たの?」
「うん」
「ふざけないでよ! あたしがどれだけ、姉貴に生きててもらいたいと思ったか……!」
「それについては、本当に、ごめん。あんたの言う通りだった。
あたしは、嘘を付いた」
「……バカぁっ……!」
葛は顔を伏せ、ぐすぐすと泣き出した。
「助かる方法は一つだけあるぜ」
と、天狐が顔の血を拭いながら近付いてきた。
「……え?」
「と言っても、事実上死んだも同然なんだがな」
一聖も顔を真っ青にしたまま、側に寄る。
「どう言うコト?」
「葵を、『システム』の中に入れるんだ」
天狐の回答に、葛は思わず立ち上がっていた。
「な、何てコト言うのよ!?」
「『システム』に組み込まれりゃ、もう半永久的に、生きて外を歩くコトはできねー。だが死なずに済む。仮死状態だから、病状も進行しないってワケだ」
「でも……!」
「もしかしたらずっと先の未来で、葵がたどり着けなかった治療法を見付けて、確立できるヤツが現れるかも知れねー。
そしてその頃には、もしかしたら『システム』なんか必要なくなってて、お役御免になった葵は蘇り、その治療を受けられるかも知れねー。
すべては可能性の話だが、ソレだけでも、入れる価値はあるだろ?」
「……でも、……でも!」
葛はボタボタと涙を流しながら、力なく反論する。
「あたしは……姉貴と一緒に……家に帰りたかったのに……! パパだってママだって、ばーちゃんだってコントンさんだって、みんな姉貴の帰りを、待ってくれてるのに……!」
「……本当に、……ごめん、カズラ。でも、『システム』に入らなかったら、あたしはこの山を降りる前に死ぬんだよ」
「えっ……?」
「それが本来、あたしが辿るべき運命。でもそれを回避する手段は、今、『システム』だけなんだ。
パパたちには、ごめんって言ってたって伝えて」
「……勝手ばっかり……」
葛は葵を抱きしめ、なおも泣いていた。
「本当に、バカ姉貴だよ……!」
「……ごめん。……カズラ」
葵も葛を抱き返し、こう返した。
「これからはあんたの、心の中にいることにするよ。あたしはいつも、あんたのことを見守っていてあげる。
だからもう、泣かないで、カズラ」
1時間後――葛たちは4人で、山道を下っていた。
「うああ、ああ、あーあー……」
葛は泣いていた。
「ああ、ああー……」
吹雪のやんだ山に、葛の泣き声がこだまする。
「うう、うああ、あー……」
その切ない声は、いつまでも止まなかった。
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