「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・麒麟抄 12
麒麟の話、最終話。
ボクハナニニナレタノカ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
12.
「ひっ……ひいっ……ひいっ」
ココはドコだ? もう、あの世界じゃないのか?
「はあっ、はあっ、……はあっ」
息を少しずつ整え、ボクは辺りを見回す。
見たところ、どうやらココは、少なくともあの立坑や、外の雪山では無さそうだった。
(……い、いや、でも)
ボクは愕然とした。
遠くに見えるのは、あの城だ。本当ならボクが、アオイからの祝福を受けてその玉座に納まるはずだった、あのドミニオン城じゃないか!
(何でだ!? 別の世界に飛んだはずじゃないか! ソレとも術が失敗したのか……!?)
うろたえかけた心をどうにか落ち着けて、ボクはとりあえず、その城へと向かってみた。
城下町を通るなり、人々の視線がボクへと突き刺さる。
「ん……?」
何だよ? ボクの顔に何か付いてるのか? バケモノでも見たような顔しやがって。
……ああ、この服か。最早思い出したくも無いけれど、あの戦いでボロボロになってたんだっけ、そう言えば。
お気に入りだったんだけど、仕方無い。ドコかで替えるとしよう。
「いらっしゃ、……ひぃ!?」
服屋に入るなり、店主が顔を真っ青にする。
「服を替えたいんだけど、見繕ってくれるかな」
「もっ、勿論でございます! しょ、しょしょ、少々お待ちをっ」
何故か挙動不審な店主は、すぐに服を持ってきてくれた。……ってコレ、男物じゃないか。まあ、いいけどさ。
さて、代金はどうごまかすかな……。
「ありがとう。いくらかな?」
「おっ、お代は結構でございますです、はい!」
「えっ」
どう言うコトだ? 向こうから「カネはいらない」と言われるなんて、思ってなかったぞ?
妙なコトは立て続けに起こった。
「いいかな?」「ひえええ!」
声をかけた露店の店主は、顔色を真っ青にして平伏した。
「ちょっと……」「申し訳ございません、何卒ご勘弁の程を……!」
ハンカチを拾ってやっただけなのに、じいさんは土下座して謝ってきた。
「ねえ」「うあーん! こあいよー!」
しまいには頭にクモの巣がひっついた子供に声をかけただけで、大泣きされてしまった。
な……何なんだ、ココは?
街行く人間が全員、ボクのコトをあからさまに避けている。こっちが何かしようとすれば、途端にペコペコし出す。
一体ボクが何したって言うんだよ……?
その時だった。
「やあ」
背後から突然、フレンドリーに声をかけられた。
振り向いたその瞬間、ボクは凍りついた。
「……ッ」
ソコに立っていたのは、ボクだった。猫耳と尻尾の付いた、ボクだったんだ!
「き、キミは誰だ?」
「ソレはこっちの台詞だ。まさか克麒麟だなんて言うんじゃ無いだろうな」
猫耳の付いたボクは、そう返してきた。
「なっ……」
ボクを知っている? コイツは一体……!?
「ねえ、白猫」
と、猫耳のボクの背後から、本気で聞きたくない、あの女の声が聞こえてきた。
「ああ、アオイ。言いたいコトは分かるよ。コイツの未来が『見えない』ってコトだろ?」
「うん」
予知能力まで持っている……!? じゃあ、本当にコイツはボクだと言うのか?
「ソレで何となく、コイツの正体が分かった。つまり『ボクたちの世界』の人間じゃないってコトだ」
「そうだね」
猫耳のボクはニヤニヤ笑いながら、ボクの肩にとん、と手を置いた。
「キミ、別の世界のボクでしょ? しかもボクみたいな白猫の姿じゃなく、克麒麟の姿ってコトは、何かしら大失敗して、本体を世に出さざるを得なくなったってコトだよね。
さらにそんなキミが、ボクの世界に来たってコトはだ。その世界からも逃げ出したんだろ?」
次の瞬間、ボクは壁に叩き付けられていた。
「ぐえ……っ!?」
「この世界に2人もボクはいらない。消えろ、負け犬」
「ふざ……ける……なっ」
立ち上がろうとするが、脚に力が入らない。
まさか今の一撃で、このボクが完全にダウンしちゃったって言うのか? コイツの力は、ボク以上だと? 同じボクなのに?
「いいや、真面目さ。
この世界はボクのものだ。キミはボクなんだから、分かるだろ? ボクの世界にボクと敵対するようなヤツが現れれば、ボクはソレを排除する。
例えソレが、自分だったとしてもだ」
「……あ……」
ボクは気付いた。
そうだ、あの姿はアオイが、ちゃんとホムンクルスの研究を成功させ、造ったものなんだ。である以上、オリジナルのボクよりも強く調整されている。
つまり――勝ち目は、無い。
「おい、いつまでボーッとしてるんだ? さっさとどっかに消えてくれよ」
そして悟った。
もう一度ボクが別の世界に飛んだとしても、ソコには別のボクがいる。このボクのように惨めな敗北、失敗などしていないであろう、このボクより強いボクがいるんだ。
例え、そんなボクがいない世界に行ったとしても、いないにはいないなりの理由がある。そう、ボクがあの世界から逃げてきたように、だ。
故にどこの世界に行こうとも、既に落伍者となり、元の世界から逃げ出したボクには、そのボクに取って代われるチャンスなど、ありはしないと言うコトを。
ボクがいない世界に行ったとしても、ソコにもまた、ボクが居られる可能性など無い。
ボクはどの次元の、どの世界においても、存在理由を永遠に失ったのだ。
猫耳のボクが何か言っている。
「悪いけどボクは、キミ如きにコレ以上、時間をかけたくないんだ。
だって……」
そしてボクはその時、猫耳のボクの背後に立つ、アオイの姿を見た。
やめろ。見たくない。そんなものをボクに見せるな。
やめてくれ!
「……ボクはコレから、奥さんとデートだからね」
そう言って男装をした猫耳のボクは、さも幸せそうに、あのアオイの肩を抱いて笑った。
ボクは見た。
ボクがあと10秒もしない内に発狂し、もう何も考えられなくなっている未来を。
ボクは一体、何になれたと言うんだ。
ボクは一体、何にナレたと言ウんだ。
ボクはいっタい、ナニになレたとイうんダ。
ボクは……ボクは……ボクハ…… …… ……
…
…ク
… … フ
フ
ッ
白猫夢・麒麟抄 終
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ボクハナニニナレタノカ。
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「ひっ……ひいっ……ひいっ」
ココはドコだ? もう、あの世界じゃないのか?
「はあっ、はあっ、……はあっ」
息を少しずつ整え、ボクは辺りを見回す。
見たところ、どうやらココは、少なくともあの立坑や、外の雪山では無さそうだった。
(……い、いや、でも)
ボクは愕然とした。
遠くに見えるのは、あの城だ。本当ならボクが、アオイからの祝福を受けてその玉座に納まるはずだった、あのドミニオン城じゃないか!
(何でだ!? 別の世界に飛んだはずじゃないか! ソレとも術が失敗したのか……!?)
うろたえかけた心をどうにか落ち着けて、ボクはとりあえず、その城へと向かってみた。
城下町を通るなり、人々の視線がボクへと突き刺さる。
「ん……?」
何だよ? ボクの顔に何か付いてるのか? バケモノでも見たような顔しやがって。
……ああ、この服か。最早思い出したくも無いけれど、あの戦いでボロボロになってたんだっけ、そう言えば。
お気に入りだったんだけど、仕方無い。ドコかで替えるとしよう。
「いらっしゃ、……ひぃ!?」
服屋に入るなり、店主が顔を真っ青にする。
「服を替えたいんだけど、見繕ってくれるかな」
「もっ、勿論でございます! しょ、しょしょ、少々お待ちをっ」
何故か挙動不審な店主は、すぐに服を持ってきてくれた。……ってコレ、男物じゃないか。まあ、いいけどさ。
さて、代金はどうごまかすかな……。
「ありがとう。いくらかな?」
「おっ、お代は結構でございますです、はい!」
「えっ」
どう言うコトだ? 向こうから「カネはいらない」と言われるなんて、思ってなかったぞ?
妙なコトは立て続けに起こった。
「いいかな?」「ひえええ!」
声をかけた露店の店主は、顔色を真っ青にして平伏した。
「ちょっと……」「申し訳ございません、何卒ご勘弁の程を……!」
ハンカチを拾ってやっただけなのに、じいさんは土下座して謝ってきた。
「ねえ」「うあーん! こあいよー!」
しまいには頭にクモの巣がひっついた子供に声をかけただけで、大泣きされてしまった。
な……何なんだ、ココは?
街行く人間が全員、ボクのコトをあからさまに避けている。こっちが何かしようとすれば、途端にペコペコし出す。
一体ボクが何したって言うんだよ……?
その時だった。
「やあ」
背後から突然、フレンドリーに声をかけられた。
振り向いたその瞬間、ボクは凍りついた。
「……ッ」
ソコに立っていたのは、ボクだった。猫耳と尻尾の付いた、ボクだったんだ!
「き、キミは誰だ?」
「ソレはこっちの台詞だ。まさか克麒麟だなんて言うんじゃ無いだろうな」
猫耳の付いたボクは、そう返してきた。
「なっ……」
ボクを知っている? コイツは一体……!?
「ねえ、白猫」
と、猫耳のボクの背後から、本気で聞きたくない、あの女の声が聞こえてきた。
「ああ、アオイ。言いたいコトは分かるよ。コイツの未来が『見えない』ってコトだろ?」
「うん」
予知能力まで持っている……!? じゃあ、本当にコイツはボクだと言うのか?
「ソレで何となく、コイツの正体が分かった。つまり『ボクたちの世界』の人間じゃないってコトだ」
「そうだね」
猫耳のボクはニヤニヤ笑いながら、ボクの肩にとん、と手を置いた。
「キミ、別の世界のボクでしょ? しかもボクみたいな白猫の姿じゃなく、克麒麟の姿ってコトは、何かしら大失敗して、本体を世に出さざるを得なくなったってコトだよね。
さらにそんなキミが、ボクの世界に来たってコトはだ。その世界からも逃げ出したんだろ?」
次の瞬間、ボクは壁に叩き付けられていた。
「ぐえ……っ!?」
「この世界に2人もボクはいらない。消えろ、負け犬」
「ふざ……ける……なっ」
立ち上がろうとするが、脚に力が入らない。
まさか今の一撃で、このボクが完全にダウンしちゃったって言うのか? コイツの力は、ボク以上だと? 同じボクなのに?
「いいや、真面目さ。
この世界はボクのものだ。キミはボクなんだから、分かるだろ? ボクの世界にボクと敵対するようなヤツが現れれば、ボクはソレを排除する。
例えソレが、自分だったとしてもだ」
「……あ……」
ボクは気付いた。
そうだ、あの姿はアオイが、ちゃんとホムンクルスの研究を成功させ、造ったものなんだ。である以上、オリジナルのボクよりも強く調整されている。
つまり――勝ち目は、無い。
「おい、いつまでボーッとしてるんだ? さっさとどっかに消えてくれよ」
そして悟った。
もう一度ボクが別の世界に飛んだとしても、ソコには別のボクがいる。このボクのように惨めな敗北、失敗などしていないであろう、このボクより強いボクがいるんだ。
例え、そんなボクがいない世界に行ったとしても、いないにはいないなりの理由がある。そう、ボクがあの世界から逃げてきたように、だ。
故にどこの世界に行こうとも、既に落伍者となり、元の世界から逃げ出したボクには、そのボクに取って代われるチャンスなど、ありはしないと言うコトを。
ボクがいない世界に行ったとしても、ソコにもまた、ボクが居られる可能性など無い。
ボクはどの次元の、どの世界においても、存在理由を永遠に失ったのだ。
猫耳のボクが何か言っている。
「悪いけどボクは、キミ如きにコレ以上、時間をかけたくないんだ。
だって……」
そしてボクはその時、猫耳のボクの背後に立つ、アオイの姿を見た。
やめろ。見たくない。そんなものをボクに見せるな。
やめてくれ!
「……ボクはコレから、奥さんとデートだからね」
そう言って男装をした猫耳のボクは、さも幸せそうに、あのアオイの肩を抱いて笑った。
ボクは見た。
ボクがあと10秒もしない内に発狂し、もう何も考えられなくなっている未来を。
ボクは一体、何になれたと言うんだ。
ボクは一体、何にナレたと言ウんだ。
ボクはいっタい、ナニになレたとイうんダ。
ボクは……ボクは……ボクハ…… …… ……
…
…ク
… … フ
フ
ッ
白猫夢・麒麟抄 終
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業務連絡。
このまま次話を掲載すると年をまたいでしまうので、一旦連載を休止。
年明けにお正月の挨拶をして、1月2日から再開します。
まだもうちょっとだけ続きます。
業務連絡。
このまま次話を掲載すると年をまたいでしまうので、一旦連載を休止。
年明けにお正月の挨拶をして、1月2日から再開します。
まだもうちょっとだけ続きます。



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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

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双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 2;火紅狐

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双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

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未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

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携帯待受

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カウンタ、ウェブ素材

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今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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NoTitle
無限の時間の中、宇宙を追い出された克麒麟さんが同様に追い出された克麒麟さんと巡り合って、別々な世界でふたりがかりで、その世界の克麒麟を襲って滅することを二回繰り返して、それぞれがその世界を乗っ取るという可能性を考えましたが、よくよく考えるとそれぞれの世界の克麒麟さんもその可能性に気づいてそれぞれの世界の克麒麟さん同志で多元宇宙の間でネットワークとパトロール組織を構築し、はぐれものになった社会不適応の克麒麟さんを排除する運動を始めるのではないか、などとこう書いていても混乱してくる未来……というわけでもないな、ある意味無時間性があるといえなくもないからな……図が思い浮かんだので多元宇宙と無限の時間は鬼門だなあ、と思った。
そのうちきみの西部にもやってくるかもしれないぞ!(いやそれは(^^;))
そのうちきみの西部にもやってくるかもしれないぞ!(いやそれは(^^;))
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西部には来させません。あんなの局長でも対抗できるかっ。