「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・望月抄 1
麒麟を巡る話、第629話。
白猫党、赤く染まる。
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1.
流言飛語で党員を寝返らせ、無理矢理にまとめ直したシエナたちの白猫党は、難訓からの支配を逃れたものの、いまだ苦しい局面に立たされていた。
「ロンダとの協議は芳しいものではありませんでした。
向こうとしても、メンツなり意地なり、……そして何よりあの女に対する反感なりが、和平に持ち込むことを許さなかったのでしょう」
「ううむ……」
依然としてお飾りの党首のままであるシエナに隠れ、イビーザとトレッドは密かに話し合っていた。
「一応、もう一度だけ協議の機会を取り付けましたが、その際にヴィッカーがこう言っていました。
『我々がふたたび一つとなるには、あるいは、二つのまま共存するには、頭が三つ以上あってはならないだろう』と」
「奴の言葉だと言うのが癪に障るが、確かにその通りではある。
しかし、元々あの女を党首として、言い換えれば我々の主張を通すための広告塔として奉った経緯がある。ここであの女を単に放逐するなどすれば、我々の白猫党が瓦解してしまうだろう」
「我々の白猫党、ですか」
会話が途切れ、二人は無言で目を見合わせる。
しばしの沈黙の後、イビーザが苦々しげな表情を浮かべながら、口を開く。
「分かるだろう、フリオン? このまま復党したところで、元の地位に戻ることは絶望的だ。
いや、この党にこのまま居続けたとしても、我々はナンバー2とナンバー3のままだ。我々二人より著しく品格と能力の劣るあの女が、ナンバー1のままなのだ。
この党を維持し、かつ、我々がそのトップに君臨し、さらに南の白猫党と平和な関係を築き、我々の権利・権威が侵されない環境を構築するためには、あの女がいてはならないのだ」
「……承知しておりますとも」
「だがさっきも言った通り、単なる放逐はできん。……どうすべきか、君の意見を聞きたい」
ふたたび、沈黙が訪れる。
そして今度は、トレッドがそれを破った。
「エルナンド。……こんなことを、私が言ったとは、……どこにも、漏らさないでいただけますか?」
「勿論だとも。最早、私も君も一蓮托生、同じ道を行く身なのだ。君が堕ちれば、私も堕ちざるを得ない。誓って、君の不利になるようなことはせんよ」
「ありがとうございます。
では、忌憚なく私の意見を述べます」
そう前置きし、トレッドは恐るべき提案をした。
6時間後――イビーザとトレッドは、党首の執務室を訪ねた。
「失礼します、総裁」
「どうしたの?」
出迎えたシエナの表情は、暗い。彼女なりに、先行きの見えない現状を憂いているのだろう。
「今後の党の運営に関して、まずは一つ、提案がございます」
「って言うと?」
「党名の変更です。
現在、党の正式名称は『白猫原理主義世界共和党』となっておりますが、現状で世界進出ができるような状況には無く、また、以前に進出した際に敷いてきた政治方針は現地の人間による統治を許すものではなく、『世界』、そして『共和』と言う言葉は既に形骸化していると言えます。
一方で、預言を受けていたアオイ嬢がおらぬ現在、白猫の預言に従って方針、指針を決めることは不可能であり、これは『白猫原理主義』と言う言葉に実情が沿っていないのではないかと思われます。
結論から申し上げれば、党の名称と実情がかけ離れており、このまま活動しては新たな党員獲得に際し支障が出るのではないか、ひいては今後の党拡大においても悪影響を及ぼすのではないかと、そう懸念しております」
「だから、名前を変えようって?」
「ええ。如何でしょうか」
「……」
イビーザたちの提案に、シエナは考え込む様子を見せ、二人から目をそらした。
その瞬間、二人はさっとシエナの両側に回った。
「え、何?」
思案していたシエナが顔を挙げると同時に、イビーザは彼女を羽交い締めにし、トレッドは彼女に無理矢理拳銃を握らせた。
「な、何すんのよ!?」
「もう一つ提案がございます」
冷え冷えとした声で、イビーザが告げる。
「党名変更に伴って、我々2名は党首以下、幹部陣の刷新を考えております。
即ち――私が党首となり、フリオンは幹事長に、と」
「あ、アタシは、……ど、ど、どうなるのよ?」
シエナはガチガチと歯を震わせながら、恐る恐る尋ねる。
「このように」
そう言って、トレッドはシエナに握らせた拳銃の引き金を引いた。
「CCタイムズ 575年11月9日
北の白猫党 チューリン党首が死亡 拳銃自殺か」
「CCタイムズ 575年11月10日
北白猫党 新たな党首にエルナンド・イビーザ氏就任 『新たな道を模索』と語る」
「CCタイムズ 575年11月12日
イビーザ党首 幹部陣刷新と党名変更を発表 新名称は『国家社会主義白猫党』」
「CCタイムズ 575年11月22日
第3次白猫両党協議も決裂 ヴィッカー氏『戦争は不可避』」
「CCタイムズ 575年11月29日
社会白猫党との内戦勃発 白猫共和党優勢か」
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白猫党、赤く染まる。
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流言飛語で党員を寝返らせ、無理矢理にまとめ直したシエナたちの白猫党は、難訓からの支配を逃れたものの、いまだ苦しい局面に立たされていた。
「ロンダとの協議は芳しいものではありませんでした。
向こうとしても、メンツなり意地なり、……そして何よりあの女に対する反感なりが、和平に持ち込むことを許さなかったのでしょう」
「ううむ……」
依然としてお飾りの党首のままであるシエナに隠れ、イビーザとトレッドは密かに話し合っていた。
「一応、もう一度だけ協議の機会を取り付けましたが、その際にヴィッカーがこう言っていました。
『我々がふたたび一つとなるには、あるいは、二つのまま共存するには、頭が三つ以上あってはならないだろう』と」
「奴の言葉だと言うのが癪に障るが、確かにその通りではある。
しかし、元々あの女を党首として、言い換えれば我々の主張を通すための広告塔として奉った経緯がある。ここであの女を単に放逐するなどすれば、我々の白猫党が瓦解してしまうだろう」
「我々の白猫党、ですか」
会話が途切れ、二人は無言で目を見合わせる。
しばしの沈黙の後、イビーザが苦々しげな表情を浮かべながら、口を開く。
「分かるだろう、フリオン? このまま復党したところで、元の地位に戻ることは絶望的だ。
いや、この党にこのまま居続けたとしても、我々はナンバー2とナンバー3のままだ。我々二人より著しく品格と能力の劣るあの女が、ナンバー1のままなのだ。
この党を維持し、かつ、我々がそのトップに君臨し、さらに南の白猫党と平和な関係を築き、我々の権利・権威が侵されない環境を構築するためには、あの女がいてはならないのだ」
「……承知しておりますとも」
「だがさっきも言った通り、単なる放逐はできん。……どうすべきか、君の意見を聞きたい」
ふたたび、沈黙が訪れる。
そして今度は、トレッドがそれを破った。
「エルナンド。……こんなことを、私が言ったとは、……どこにも、漏らさないでいただけますか?」
「勿論だとも。最早、私も君も一蓮托生、同じ道を行く身なのだ。君が堕ちれば、私も堕ちざるを得ない。誓って、君の不利になるようなことはせんよ」
「ありがとうございます。
では、忌憚なく私の意見を述べます」
そう前置きし、トレッドは恐るべき提案をした。
6時間後――イビーザとトレッドは、党首の執務室を訪ねた。
「失礼します、総裁」
「どうしたの?」
出迎えたシエナの表情は、暗い。彼女なりに、先行きの見えない現状を憂いているのだろう。
「今後の党の運営に関して、まずは一つ、提案がございます」
「って言うと?」
「党名の変更です。
現在、党の正式名称は『白猫原理主義世界共和党』となっておりますが、現状で世界進出ができるような状況には無く、また、以前に進出した際に敷いてきた政治方針は現地の人間による統治を許すものではなく、『世界』、そして『共和』と言う言葉は既に形骸化していると言えます。
一方で、預言を受けていたアオイ嬢がおらぬ現在、白猫の預言に従って方針、指針を決めることは不可能であり、これは『白猫原理主義』と言う言葉に実情が沿っていないのではないかと思われます。
結論から申し上げれば、党の名称と実情がかけ離れており、このまま活動しては新たな党員獲得に際し支障が出るのではないか、ひいては今後の党拡大においても悪影響を及ぼすのではないかと、そう懸念しております」
「だから、名前を変えようって?」
「ええ。如何でしょうか」
「……」
イビーザたちの提案に、シエナは考え込む様子を見せ、二人から目をそらした。
その瞬間、二人はさっとシエナの両側に回った。
「え、何?」
思案していたシエナが顔を挙げると同時に、イビーザは彼女を羽交い締めにし、トレッドは彼女に無理矢理拳銃を握らせた。
「な、何すんのよ!?」
「もう一つ提案がございます」
冷え冷えとした声で、イビーザが告げる。
「党名変更に伴って、我々2名は党首以下、幹部陣の刷新を考えております。
即ち――私が党首となり、フリオンは幹事長に、と」
「あ、アタシは、……ど、ど、どうなるのよ?」
シエナはガチガチと歯を震わせながら、恐る恐る尋ねる。
「このように」
そう言って、トレッドはシエナに握らせた拳銃の引き金を引いた。
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