「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・望月抄 4
麒麟を巡る話、第632話。
お姫様の進路相談。
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4.
「カズセちゃんは、離れたりされませんよね?」
個人指導の最中、ビッキーからそう尋ねられ、一聖は「ん?」と返した。
「ルナさんも旅に立たれるそうですし、カズラさんももうじき、国へ帰られると聞いていますし。
となるとカズセちゃんも、もしかしたらこの国を離れてしまうのではないか、と」
「あー、なるほどな」
一聖は教科書にしていた本を机に置き、にっと笑って返す。
「オレは旅が嫌いだし、帰るトコも無い。当面はこの国にいるつもりさ」
「そうですか、良かったです」
「ソレはお前にとってか?」
じろっとにらむ一聖に、ビッキーはぺろっと舌を出した。
「わたしにとってもそうですし、お兄様とこの国にとってもそうです。
この前のお説教は、身にしみています。反省してますよ、ちゃんと」
「ならいいけどな」
一聖がふたたび本を開こうと手を伸ばしたところで、またビッキーが質問する。
「カズセちゃんは、これからどう過ごされるおつもりでしょう?」
「あん? ……ん、まあ、今まで通りだろーな。研究所の顧問、兼、宮廷講師。白猫党みたいな大事件が起こらない限りは、続けるつもりだ」
「助かります。兄にとっても、わたしにとっても。
……わたし、本当に真面目に考えたんですが、やはりわたしが次の王になるべきではないか、と考えているんです」
「ほう?」
斜に構えてそう返した一聖に対し、ビッキーは真剣な面持ちで語る。
「まず第一に、お兄様は研究所の所長となりましたし、そちらにかかりっきりになるであろうことは明白です。
となれば王位継承権の順序から考えて、わたしにその期待が向けられると思うんです」
「だろーな」
「第二に、白猫党の脅威についてもわたしは良く聞き及んでいますし、これまでのルナさんたちの活動で、実情も少なからず把握していると自負しています。
今後、央北の政情には南北の白猫党が深く関わってくることでしょう。彼らとの交渉、付き合い方を誤れば、ふたたびこの央北が大きく乱れるであろうことは、これもまた明白なことです。
それを考えた時、この国を、そして『新央北』を率いる者として、わたし以上の適任者はいないのではないか、と」
「話がズレてんぜ、お前」
一聖は肩をすくめ、ビッキーに指摘する。
「オレは政治に詳しくないが、ソレでも『何かを成そう』って人間と、『何かができる』って人間が、全然別物だってコトは分かる」
「と仰ると?」
「お前が今言ったのは、自分はこう言うことができる、自分はその資格があるって話だ。結局、お前は女王だの外交官をやりたいのか?」
「ええ」
「ウソつけ」
ビッキーがうなずいた瞬間、一聖はにべもなく否定した。
「ソレがマジだってんなら、オレと一緒に電気実験の本なんか読んでねーだろ」
「それは、王族としての教養の一環で……」
「言い訳すんな。もしその口実が本気なら、他の勉強もしてるはずだろ。でも実際、ほとんど毎日オレと2時間、3時間もべったり、一緒にいるじゃねーか。
オレが教えてんの、魔術学と科学ばっかだし。他の講師に聞いたら、『ビクトリア殿下はいつも早々に授業を抜けてしまう』つって嘆いてたぞ」
「うっ」
顔を背けたビッキーに、一聖はため息混じりに諭した。
「別にさ、今日、明日、ショウ・トラス国王が死ぬワケじゃねーだろ? あのおっさん、ピンピンしてるし。
後10年、20年は王様やってるだろうし、そんなら今無理矢理に、お前さんの進路を決める必要は無いさ。10年経てばお前の妹もみんな成人するし、その中で『女王になりたい』ってヤツがいたら、ソイツに任せりゃいいしな。
お前さん、まだ23だろ? そんな若いうちから『やりたいコト』じゃなく『やれるコト』を優先してたら、成長もしねーし経験も積めねーよ」
「……確かに少し、生き急いだ感じはありましたね。そうですね、じっくり考えることにします」
「ああ。考えな、たっぷりと」
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お姫様の進路相談。
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「カズセちゃんは、離れたりされませんよね?」
個人指導の最中、ビッキーからそう尋ねられ、一聖は「ん?」と返した。
「ルナさんも旅に立たれるそうですし、カズラさんももうじき、国へ帰られると聞いていますし。
となるとカズセちゃんも、もしかしたらこの国を離れてしまうのではないか、と」
「あー、なるほどな」
一聖は教科書にしていた本を机に置き、にっと笑って返す。
「オレは旅が嫌いだし、帰るトコも無い。当面はこの国にいるつもりさ」
「そうですか、良かったです」
「ソレはお前にとってか?」
じろっとにらむ一聖に、ビッキーはぺろっと舌を出した。
「わたしにとってもそうですし、お兄様とこの国にとってもそうです。
この前のお説教は、身にしみています。反省してますよ、ちゃんと」
「ならいいけどな」
一聖がふたたび本を開こうと手を伸ばしたところで、またビッキーが質問する。
「カズセちゃんは、これからどう過ごされるおつもりでしょう?」
「あん? ……ん、まあ、今まで通りだろーな。研究所の顧問、兼、宮廷講師。白猫党みたいな大事件が起こらない限りは、続けるつもりだ」
「助かります。兄にとっても、わたしにとっても。
……わたし、本当に真面目に考えたんですが、やはりわたしが次の王になるべきではないか、と考えているんです」
「ほう?」
斜に構えてそう返した一聖に対し、ビッキーは真剣な面持ちで語る。
「まず第一に、お兄様は研究所の所長となりましたし、そちらにかかりっきりになるであろうことは明白です。
となれば王位継承権の順序から考えて、わたしにその期待が向けられると思うんです」
「だろーな」
「第二に、白猫党の脅威についてもわたしは良く聞き及んでいますし、これまでのルナさんたちの活動で、実情も少なからず把握していると自負しています。
今後、央北の政情には南北の白猫党が深く関わってくることでしょう。彼らとの交渉、付き合い方を誤れば、ふたたびこの央北が大きく乱れるであろうことは、これもまた明白なことです。
それを考えた時、この国を、そして『新央北』を率いる者として、わたし以上の適任者はいないのではないか、と」
「話がズレてんぜ、お前」
一聖は肩をすくめ、ビッキーに指摘する。
「オレは政治に詳しくないが、ソレでも『何かを成そう』って人間と、『何かができる』って人間が、全然別物だってコトは分かる」
「と仰ると?」
「お前が今言ったのは、自分はこう言うことができる、自分はその資格があるって話だ。結局、お前は女王だの外交官をやりたいのか?」
「ええ」
「ウソつけ」
ビッキーがうなずいた瞬間、一聖はにべもなく否定した。
「ソレがマジだってんなら、オレと一緒に電気実験の本なんか読んでねーだろ」
「それは、王族としての教養の一環で……」
「言い訳すんな。もしその口実が本気なら、他の勉強もしてるはずだろ。でも実際、ほとんど毎日オレと2時間、3時間もべったり、一緒にいるじゃねーか。
オレが教えてんの、魔術学と科学ばっかだし。他の講師に聞いたら、『ビクトリア殿下はいつも早々に授業を抜けてしまう』つって嘆いてたぞ」
「うっ」
顔を背けたビッキーに、一聖はため息混じりに諭した。
「別にさ、今日、明日、ショウ・トラス国王が死ぬワケじゃねーだろ? あのおっさん、ピンピンしてるし。
後10年、20年は王様やってるだろうし、そんなら今無理矢理に、お前さんの進路を決める必要は無いさ。10年経てばお前の妹もみんな成人するし、その中で『女王になりたい』ってヤツがいたら、ソイツに任せりゃいいしな。
お前さん、まだ23だろ? そんな若いうちから『やりたいコト』じゃなく『やれるコト』を優先してたら、成長もしねーし経験も積めねーよ」
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