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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・望月抄 6

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    麒麟を巡る話、第634話。
    白猫動乱後の世界。

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    6.
     そして日は進み、いよいよルナの旅立ちの日と、葛の帰郷の日がやって来た。
    「じゃ、行って来るわね」
    「行って参ります」
     フィオたちの家の前で、一行は別れの挨拶を交わす。
    「ああ。ゆっくりしておいで、パラ。
     ルナさんも、とりあえずはすぐ戻ってきてくれよ。そのまんまパラを連れ回して、長旅しないようにね」
    「分かってるわよ。もうパラはあたしじゃなく、あんたがパートナーなんだしね」
    「……分かってるって」
     顔を赤くするフィオに背を向け、ルナは葛に声をかける。
    「お待たせ。それじゃ行きましょうか」
    「はーい」



     ルナやパラの「テレポート」によって一瞬で西方に渡ることもできたのだが、ルナが「どうせなら移動込みで旅を楽しみたい」と提案したため、葛たち一行は船に乗っていた。
    「トラス王国からの直通便、復活してて良かったねー」
     海を眺めながらそうつぶやいた葛に、甲板で新聞に目を通しながら、ルナが相槌を打つ。
    「そうね。西方の情勢も落ち着いてきたらしいから、ちょうど今月から再開したらしいわよ」
    「そっかー」
    「あら? でも葛、あなたの故郷、色々大変みたいよ」
    「え?」
    「ほら、これ」
     そう言って、ルナは新聞を手渡す。

    「グリスロージュ帝政連邦 プラティノアール王国の併合検討を明言」

    「……あー、やっぱそうなっちゃうかー」
     その記事を読み終え、葛はルナに新聞を返す。
    「ま、仕方無いよー。元々アテナさんのせいで、プラティノアールはグズグズになっちゃってたんだし。あたしからすれば王様とかも、何かヘンだなーって思ってたしね。
     ソレにグリスロージュに併合されるんなら、一番いいまとまり方だと思うよー? 『三国統一は昔からの西方南部民の夢だ』って言う人もいるしー」
    「そこら辺はあたしにはピンと来ないけど、ま、住んでた本人が言うなら、いいんでしょうね」
    「そう言えばお母様」
     と、ルナから新聞を借りたパラが、記事に目を落としながら尋ねる。
    「央南の政情は、どうなったのでしょうか? 残念ながらこの新聞には、該当する記事が見受けられませんでした」
    「西方の新聞だもんね、それ。
     そうね、聞いた話じゃ央南連合は、未だに分裂したままの状態が続いてるらしいわよ」
    「やはり、統合は難しいのでしょうか」
    「そりゃねぇ。今回の件で、どこの州の代表も自分の利益しか考えてない業突張りってことがバレちゃったんだし、これからも今まで通り仲良くしようって気にはならないでしょうね。
     最後に電話した時、朱明もへろっへろな声出してたわよ、『こんなはずじゃ』って。折角、主席になれたって言うのにね」
    「戦いは終わったけど、ドコもまだまだ、大変だねー……」
    「そんなもんよ。世界に安定なんて無いわ。もしそんなのがあるとしたら、それはただの『停滞』だし」
    「だねー。……ふあ、あぁ」
     眠気を感じ、葛はベンチに座り込む。
    (……あれ? ルナさんたちももう、寝ちゃってる)
     葛は下がってくるまぶたをこじ開け、ルナとパラが互いにもたれ合って寝息を立てているのを確認し――そして自分も、こてんと横になった。



    《カズラ》
    「……んあ……」
    《カズラ》
    「……んにゅー……」
    《起きて、カズラ。起きて》
     三度名前を呼ばれ、そしてトントンと肩を叩かれて、ようやく葛は目を覚ました。
    「……ふにゃー?」
     辺りを見回すと、そこは船室でも、自分の家でも、トラス王国で借りていたアパートでも無い、異様な空間だった。
    「ここ、ドコ……? まさかまた、あの世とかじゃないよね?」
    《近いけど、違うよ》
     と――自分のすぐ横に、葛が良く知る人物が立っていた。
    「あ……」
    《おはよ、カズラ》
    「姉貴!?」
     横たわっていた葛は、がばっと飛び起きる。
    「なにここ……?」「不明です……」
     起き上がると同時に、後ろから声が聞こえてくる。
     振り向くと、ルナとパラが眠たそうな顔をして立っているのが見えた。
    「ど、どう言うコト?」
    「あら、葛?」
    「不明で……ふわあぁ」
     三人並んだところで、宙をふわふわと漂っていた葵が再度、声をかけた。
    《ありがとう、来てくれて。うまく呼び出せて良かった》
    「葵? ……あなた、麒麟の山に封印されたんじゃなかったの?」
     けげんそうに尋ねたルナに、葵はこくりとうなずいて見せる。
    《うん。でも、装置の故障はそのままだったみたい。こうして、夢の世界に来られたから》
     そう説明し、葵はにこ、と笑った。

    白猫夢・望月抄 終
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