「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・湯治録 5
晴奈の話、第190話。
空騒ぎの後。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「お疲れ様でした、皆さん」
晴奈たちはもう一度温泉に入り直していた。コレットも緊張で汗をびっしょりかいてしまったので、一緒に湯船へつかっている。
なお、狼は酔い潰れて眠ってしまったので、そのまま檻に入れておいた。また、フォルナも狼同様酔い潰れてしまったため、コレットの店で寝かせてある。
「ホント、どーなるかと思ったわ」
「しかし、何と言うか……」
晴奈は湯船の淵に体を預けながら、ぼんやりと話す。
「巷で怪物、モンスターと言われているものは大抵こんな風な、『ただの大型獣』だったりしますね。
神話やおとぎ話に出てくるような、知恵と異能を持った邪悪な存在、などと言うのは滅多にいないような気がします」
「そーね。あたしも何度かモンスターに分類されるよーなのには遭ったコトあるけど、凶暴なだけで魔術を使ってきたりとかとんでもない技持ってるとか、そんなのに出くわすコト滅多に無いわねぇ」
「こんなことがある度、私は思うのです」
晴奈は目を閉じ、静かに語った。
「モンスターは結局のところ、人の空想、妄想の中にしかいないのではないか、と。現実の獣を勝手に『凶暴』『害を及ぼす』と決めつけ、こちらだけが暴れ回る。
今回も己の軽薄な判断で無駄に戦ったことに、反省するばかりですよ」
「そーね、今回は確かに無駄な戦いだったわ。……まあ、でも」
小鈴は晴奈の肩をポンと叩き、イタズラっぽく付け加えた。
「いないとも限らないわよ、『本物』のモンスターも」
「ええ、そうですね。いました、確かに」
「え、……本当に、いるんですか?」
こちらの話には、コレットが食いついてきた。
「ああ。例えば数年前に、私と師匠がとある寒村を訪ねた時……」
晴奈と小鈴はこれまでに出会った怪物たちの話を肴に、温泉と酒を楽しんだ。
「むにゃ……」
ようやく酔いが醒め、フォルナはコレットの店の2階、宿泊室で目を覚ました。
「セイナ? コスズさん? ……どちらにいらっしゃるのかしら」
きょろきょろと辺りを見回すが、二人の姿は無い。
(えーと? わたくし、……何故一人で?)
酔っていたせいで記憶が抜けており、フォルナはきょろきょろとするしかない。
と、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「下からかしら?」
フォルナは部屋を出て1階に降り、厨房を覗くが、誰もいない。
と、外から犬のような鳴き声が聞こえてくる。
「キャン、キャン」「騒がないでくれよ……」
店の外、庭の方からボレロの声がする。
「きゃ……」
庭に出たフォルナの目に、檻に入れられた巨大な狼の姿が映る。
フォルナの悲鳴を聞き、檻の前でしゃがんでいたボレロがビックリした顔で振り返る。
「お、お客さん」
「そ、そちら、一体何ですの?」
「……ああ、お客さんは眠ってらしたんですよね」
ボレロはしゃがんたまま、狼の方に視線を戻す。
「さっき、温泉の方にこいつが出たらしいんですよ。で、俺たちの店にも入ってきちゃったらしいんです」
「らしい、とは?」
「俺、料理に集中してて全然気付かなくて」
ボレロは恥ずかしそうに、ポリポリと猫耳をかいている。
「まあ、料理が完成した時にはもう、終わっちゃってたらしくて。コレットもコスズさんたちと一緒に温泉行っちゃって。
したら、こいつがきゅーきゅー鳴いてたんで、エサでもやろうかなーって」
「そうなのですか」
目の前にいる狼は嬉しそうに尻尾を振りながら、ボレロの出したエサを食べている。
「何と言えばよろしいのかしら、……普通の、犬さんみたいですわね」
「そうですねぇ。襲ってきたらしいですけど、お酒がほしいだけだったみたいだし。
もしコレットがいいって言ったら、飼おうかなぁ」
「それがよろしいですわね。このまま放すのも周りの方が驚いてしまわれますし、殺してしまうのも可哀想ですから」
フォルナもボレロの横に座り、無心にエサを食べる狼の様子を眺めていた。
その後、この狼は村おこしに燃える村人たちによって、新しい名物として手厚く飼われることになったそうだ。
「何つーか、ドタバタだったわねぇ」
「そうですわね」
リトルマインを離れ、晴奈たちはふたたび旅路に就いた。
「でも、これぞ旅の醍醐味と言う感じがいたしますわね。わたくし、とっても楽しかったですわ」
「そりゃ、ご飯食べて温泉入って酒呑んでただけだし」
小鈴の言葉に、晴奈はぷっと吹き出した。
「はは、確かに」
「まあ! ……まあ、そうなのですけれど」
赤面するフォルナを見て、小鈴はイタズラっぽく笑う。
「んふふ、コレでまた、フォルナをいぢるネタが増えたわねーぇ」
「え、……もう、コスズさんったら!」
手をバタバタ振って恥ずかしがるフォルナを見て、小鈴はさらに大笑いした。
蒼天剣・湯治録 終
@au_ringさんをフォロー
空騒ぎの後。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「お疲れ様でした、皆さん」
晴奈たちはもう一度温泉に入り直していた。コレットも緊張で汗をびっしょりかいてしまったので、一緒に湯船へつかっている。
なお、狼は酔い潰れて眠ってしまったので、そのまま檻に入れておいた。また、フォルナも狼同様酔い潰れてしまったため、コレットの店で寝かせてある。
「ホント、どーなるかと思ったわ」
「しかし、何と言うか……」
晴奈は湯船の淵に体を預けながら、ぼんやりと話す。
「巷で怪物、モンスターと言われているものは大抵こんな風な、『ただの大型獣』だったりしますね。
神話やおとぎ話に出てくるような、知恵と異能を持った邪悪な存在、などと言うのは滅多にいないような気がします」
「そーね。あたしも何度かモンスターに分類されるよーなのには遭ったコトあるけど、凶暴なだけで魔術を使ってきたりとかとんでもない技持ってるとか、そんなのに出くわすコト滅多に無いわねぇ」
「こんなことがある度、私は思うのです」
晴奈は目を閉じ、静かに語った。
「モンスターは結局のところ、人の空想、妄想の中にしかいないのではないか、と。現実の獣を勝手に『凶暴』『害を及ぼす』と決めつけ、こちらだけが暴れ回る。
今回も己の軽薄な判断で無駄に戦ったことに、反省するばかりですよ」
「そーね、今回は確かに無駄な戦いだったわ。……まあ、でも」
小鈴は晴奈の肩をポンと叩き、イタズラっぽく付け加えた。
「いないとも限らないわよ、『本物』のモンスターも」
「ええ、そうですね。いました、確かに」
「え、……本当に、いるんですか?」
こちらの話には、コレットが食いついてきた。
「ああ。例えば数年前に、私と師匠がとある寒村を訪ねた時……」
晴奈と小鈴はこれまでに出会った怪物たちの話を肴に、温泉と酒を楽しんだ。
「むにゃ……」
ようやく酔いが醒め、フォルナはコレットの店の2階、宿泊室で目を覚ました。
「セイナ? コスズさん? ……どちらにいらっしゃるのかしら」
きょろきょろと辺りを見回すが、二人の姿は無い。
(えーと? わたくし、……何故一人で?)
酔っていたせいで記憶が抜けており、フォルナはきょろきょろとするしかない。
と、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「下からかしら?」
フォルナは部屋を出て1階に降り、厨房を覗くが、誰もいない。
と、外から犬のような鳴き声が聞こえてくる。
「キャン、キャン」「騒がないでくれよ……」
店の外、庭の方からボレロの声がする。
「きゃ……」
庭に出たフォルナの目に、檻に入れられた巨大な狼の姿が映る。
フォルナの悲鳴を聞き、檻の前でしゃがんでいたボレロがビックリした顔で振り返る。
「お、お客さん」
「そ、そちら、一体何ですの?」
「……ああ、お客さんは眠ってらしたんですよね」
ボレロはしゃがんたまま、狼の方に視線を戻す。
「さっき、温泉の方にこいつが出たらしいんですよ。で、俺たちの店にも入ってきちゃったらしいんです」
「らしい、とは?」
「俺、料理に集中してて全然気付かなくて」
ボレロは恥ずかしそうに、ポリポリと猫耳をかいている。
「まあ、料理が完成した時にはもう、終わっちゃってたらしくて。コレットもコスズさんたちと一緒に温泉行っちゃって。
したら、こいつがきゅーきゅー鳴いてたんで、エサでもやろうかなーって」
「そうなのですか」
目の前にいる狼は嬉しそうに尻尾を振りながら、ボレロの出したエサを食べている。
「何と言えばよろしいのかしら、……普通の、犬さんみたいですわね」
「そうですねぇ。襲ってきたらしいですけど、お酒がほしいだけだったみたいだし。
もしコレットがいいって言ったら、飼おうかなぁ」
「それがよろしいですわね。このまま放すのも周りの方が驚いてしまわれますし、殺してしまうのも可哀想ですから」
フォルナもボレロの横に座り、無心にエサを食べる狼の様子を眺めていた。
その後、この狼は村おこしに燃える村人たちによって、新しい名物として手厚く飼われることになったそうだ。
「何つーか、ドタバタだったわねぇ」
「そうですわね」
リトルマインを離れ、晴奈たちはふたたび旅路に就いた。
「でも、これぞ旅の醍醐味と言う感じがいたしますわね。わたくし、とっても楽しかったですわ」
「そりゃ、ご飯食べて温泉入って酒呑んでただけだし」
小鈴の言葉に、晴奈はぷっと吹き出した。
「はは、確かに」
「まあ! ……まあ、そうなのですけれど」
赤面するフォルナを見て、小鈴はイタズラっぽく笑う。
「んふふ、コレでまた、フォルナをいぢるネタが増えたわねーぇ」
「え、……もう、コスズさんったら!」
手をバタバタ振って恥ずかしがるフォルナを見て、小鈴はさらに大笑いした。
蒼天剣・湯治録 終



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
酒の文化が面白いですね。あまりこういう要素はファンタジーでは出しにくいですからね。あまり出しすぎると話のテンポが折れたりして難しかったりしますからね。ゲームシナリオ版では酒のネタのバンバン出しているのですがね。ワインはやっぱり世界全体でr広がっているんでしょうかね?
どうも、LandMでした。
どうも、LandMでした。
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
ワイン、と言うか果実酒はかなり古くから、歴史に登場しています。
果実に含まれる糖分が醗酵すると大体お酒になるので、基本的に果物あるところ果実酒あり、な状態。
中でもぶどうは虫や寒さに強く繁殖しやすい種が多いため、ワインは特にポピュラーな存在だったり。
双月世界でも、メジャーなお酒の一つです。個人的にはビールの方が好きですが。