「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・夢神抄 2
麒麟を巡る話、第636話。
白猫を継ぐ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「いいんじゃない?」
逡巡した様子で話した葵に、ルナは賛成した。
「あの外道にあれやこれや指図されるより、よっぽどマシよ。あんた、優しいもの」
《あたしが……、優しい?》
「そうじゃなきゃ、あんたはボートに葛を乗せたりしなかった。葛に向けたその優しさは、本物よ。
それに白猫党でもちょくちょく、すれ違った兵士とか党員に、『こうすれば良い未来が訪れるよ』って教えてあげてたらしいじゃない。
わざわざそんなことする子が、優しくないわけが無いわよ」
《……恥ずかしいな。面と向かってそんなこと言われたら》
葵は顔をほんのり赤くし、うつむく。
ルナはクスクス笑いながら、こう続けた。
「ま、とにかく。あんたが『人を幸せにしてあげたい』って思ってそれをやるって言うなら、あたしは賛成するわ。
試しに、あたしとパラの未来も教えてよ」
《分かった》
葵はこくっとうなずき、まず、パラをじっと見た。
《来年、……じゃないか、再来年かな。告知されるのは来年の7月だよ》
「何をでしょう?」
《何となくピンと来てるでしょ?》
「……はい」
《パラ、あなたについては全然、指摘することは無いよ。このままフィオくんと過ごせば、ずっと幸せに暮らせる。
フィオくんはあなたのこと、全力で幸せにしてくれるからね》
「ありがとうございます」
パラは耳まで顔を真っ赤にしながら、嬉しそうに頭を下げた。
「じゃ、あたしは?」
いたずらっぽく笑うルナに、葵は顔を向ける。
《……色々大変そう。でもその原因の半分が、あなたの性格のせいだけど》
「あら、そうなの? じゃ、残り半分は?」
《タイカさんとかのせい》
「でしょうね。そんな気はしたわ」
《でも、あなたについてもあたしが言うこと、特に無さそう。
結局は自分で何とかするみたいだし、ピンチの時には誰かしら仲間がいてくれてるし》
「へぇ?」
「あ、ソレってタイカさんも言ってたよー」
と、葛が口を挟む。
「ルナさんにもあたしにも、『人が集まってくる縁、資質がある』って言ってた」
「そうかしら? ……そうかもね。ま、これまで通りってことかしら」
《遠い未来については、そんなところ。
あ、そうそう。パパは顔や口では嫌そうな素振りするけど、心の中じゃもう、『仕方ねーな』って割り切ってるよ。ちゃんと謝ったら、和解してくれるから》
「……そ。ちょっと、ほっとしたわ。ありがとね、葵。
それじゃいよいよ、あんたの大事な妹さんのことを占ってあげなさいな」
そう言って、ルナは葛の背中を押した。
「んじゃ、……姉貴、お願い」
《うん》
葵は真顔になり、まじまじと葛の顔を見つめる。
《そうだね、……あんたもルナさんみたいな感じ。これから来るトラブルとか、ピンチとか、そう言うのは全部、自分の力と、仲間の力で何とかできるみたい。
大丈夫。あんたなら、どんな困難にも立ち向かえる。超えられない壁なんて、あんたには無いよ。あたしが、保証する》
「……へへ」
《でも、もしもいつか、くじけそうになることがあったら、きっとあたしを呼んで。夢の中なら、いつでも会えるからね。いつでも、助けてあげる》
「うん。その時は、お願い」
と――辺りの景色に、光が差し始める。
《そろそろ、目が覚めるみたい。うたたねしてただけだもんね》
「そっか」
葛の目から、ぽろっと一筋、涙が流れる。
「また、お別れだね」
《うん。でもいつかまた、会えるよ。その時まで、……さよなら、カズラ》
「さよなら、……ねーちゃん」
二人はにっこりと、笑顔を交わした。
かつて祖母、ジーナが言っていた通り――葵の笑顔は、確かにネロ・ハーミット卿に似た、穏やかで優しげな、慈しみに満ちたものだった。
葵はまた、一人になった。
《……白猫をやるって宣言しちゃったけど、……本当に、いいのかな》
何も無い空間を見渡しながら、葵はまだ、自分の決意を固められていなかった。
《あたしの力は、確かに、人を幸せにすることができる。でもキリンみたいに、人を破滅に追いやることもできる。
あたしが本当に、他人の幸不幸を、運命を決めてもいいのかな……》
《ええんちゃう?》
突然、背後から声をかけられ、葵の尻尾が毛羽立った。
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「いいんじゃない?」
逡巡した様子で話した葵に、ルナは賛成した。
「あの外道にあれやこれや指図されるより、よっぽどマシよ。あんた、優しいもの」
《あたしが……、優しい?》
「そうじゃなきゃ、あんたはボートに葛を乗せたりしなかった。葛に向けたその優しさは、本物よ。
それに白猫党でもちょくちょく、すれ違った兵士とか党員に、『こうすれば良い未来が訪れるよ』って教えてあげてたらしいじゃない。
わざわざそんなことする子が、優しくないわけが無いわよ」
《……恥ずかしいな。面と向かってそんなこと言われたら》
葵は顔をほんのり赤くし、うつむく。
ルナはクスクス笑いながら、こう続けた。
「ま、とにかく。あんたが『人を幸せにしてあげたい』って思ってそれをやるって言うなら、あたしは賛成するわ。
試しに、あたしとパラの未来も教えてよ」
《分かった》
葵はこくっとうなずき、まず、パラをじっと見た。
《来年、……じゃないか、再来年かな。告知されるのは来年の7月だよ》
「何をでしょう?」
《何となくピンと来てるでしょ?》
「……はい」
《パラ、あなたについては全然、指摘することは無いよ。このままフィオくんと過ごせば、ずっと幸せに暮らせる。
フィオくんはあなたのこと、全力で幸せにしてくれるからね》
「ありがとうございます」
パラは耳まで顔を真っ赤にしながら、嬉しそうに頭を下げた。
「じゃ、あたしは?」
いたずらっぽく笑うルナに、葵は顔を向ける。
《……色々大変そう。でもその原因の半分が、あなたの性格のせいだけど》
「あら、そうなの? じゃ、残り半分は?」
《タイカさんとかのせい》
「でしょうね。そんな気はしたわ」
《でも、あなたについてもあたしが言うこと、特に無さそう。
結局は自分で何とかするみたいだし、ピンチの時には誰かしら仲間がいてくれてるし》
「へぇ?」
「あ、ソレってタイカさんも言ってたよー」
と、葛が口を挟む。
「ルナさんにもあたしにも、『人が集まってくる縁、資質がある』って言ってた」
「そうかしら? ……そうかもね。ま、これまで通りってことかしら」
《遠い未来については、そんなところ。
あ、そうそう。パパは顔や口では嫌そうな素振りするけど、心の中じゃもう、『仕方ねーな』って割り切ってるよ。ちゃんと謝ったら、和解してくれるから》
「……そ。ちょっと、ほっとしたわ。ありがとね、葵。
それじゃいよいよ、あんたの大事な妹さんのことを占ってあげなさいな」
そう言って、ルナは葛の背中を押した。
「んじゃ、……姉貴、お願い」
《うん》
葵は真顔になり、まじまじと葛の顔を見つめる。
《そうだね、……あんたもルナさんみたいな感じ。これから来るトラブルとか、ピンチとか、そう言うのは全部、自分の力と、仲間の力で何とかできるみたい。
大丈夫。あんたなら、どんな困難にも立ち向かえる。超えられない壁なんて、あんたには無いよ。あたしが、保証する》
「……へへ」
《でも、もしもいつか、くじけそうになることがあったら、きっとあたしを呼んで。夢の中なら、いつでも会えるからね。いつでも、助けてあげる》
「うん。その時は、お願い」
と――辺りの景色に、光が差し始める。
《そろそろ、目が覚めるみたい。うたたねしてただけだもんね》
「そっか」
葛の目から、ぽろっと一筋、涙が流れる。
「また、お別れだね」
《うん。でもいつかまた、会えるよ。その時まで、……さよなら、カズラ》
「さよなら、……ねーちゃん」
二人はにっこりと、笑顔を交わした。
かつて祖母、ジーナが言っていた通り――葵の笑顔は、確かにネロ・ハーミット卿に似た、穏やかで優しげな、慈しみに満ちたものだった。
葵はまた、一人になった。
《……白猫をやるって宣言しちゃったけど、……本当に、いいのかな》
何も無い空間を見渡しながら、葵はまだ、自分の決意を固められていなかった。
《あたしの力は、確かに、人を幸せにすることができる。でもキリンみたいに、人を破滅に追いやることもできる。
あたしが本当に、他人の幸不幸を、運命を決めてもいいのかな……》
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突然、背後から声をかけられ、葵の尻尾が毛羽立った。
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