「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・夢神抄 3
麒麟を巡る話、第637話。
封じられていた女神。
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3.
《誰!?》
この夢の世界に、自分以外の者が呼んでもいないのに現れるなどとは思っておらず、葵は警戒した。
(……ううん、もしかしたらあいつかも知れない。ここにいたのは、あいつもだし。
もしかしたら、別の世界から舞い戻ってきたのかも)
《言うとくけど、白猫とちゃうで? あんなアホと一緒にせんといてんか》
だが、目の前にいたのは金と赤の毛並みをした、豪奢で派手な格好の狐獣人の女だった。
《……誰?》
彼女の姿に見覚えが無く、葵は対応できずに立ちすくむ。
《アタシを知らんのかいな。ソレでよぉ、平気な顔して魔術使てるもんやな》
《魔術? 確かにあなた、魔術師みたいだけど》
《チッチッチッ……、ただの魔術師やないで。
アタシはこの世界の魔術師の3分の1がお手本にしとる元祖、本家本元やねん。こう言うても分からんか?》
《分かんない》
警戒を解かない葵に、狐獣人は肩をすくめて見せる。
《ええか、この世界の魔術師の3分の1は、ゼロのおっさんがお手本や。もう3分の1は、タイカとか言う胡散臭いおっさんからの受け売りや。
ほんで、残る3分の1や。その3分の1が、アタシをお手本にしとるワケや。もうええ加減、答え出しいや。あんまり下らへん話のタメ方するん、好きやないし》
《うん、そこまで説明されたし、確かにいい加減、見当が付いたよ。
あなたは『ゴールドマン型魔術』の太祖、エリザ・ゴールドマン、……でしょ?》
《せいかーい》
そう言って、狐獣人は嬉しそうに笑った。
《聞いとったで、アンタが白猫の跡を継ぐって言うてたん》
《……うん》
《ソレな、元々はアタシのアイデアやねん》
エリザの言葉の意味が分からず、葵はおうむ返しに尋ねた。
《あなたのアイデア?》
《せや。アタシん家のコトは知っとるやろ?》
《金火狐財団?》
《ちゅうか、ゴールドマン家やな。ちょっと商売事とかでうまく行ってへんなっちゅう時に、ちょくちょくアタシが助言しとってん。
そしたらな、白猫がアタシんトコに来て、『ボクにもソレ、真似させてよ』ちゅうてきたんよ。……でもなぁ》
エリザはそこでふーっ、とため息をつく。
《人の人生いじくるのんには、白猫はあまりにも自分勝手で、自分のコトが大好き過ぎたんやろな。その上、人をいじめるんが好きやっちゅう、どうしようもないヤツやった。一言で言えば、器が小さ過ぎたんや。
最初は面白半分にやっとったけども、ソレでも人を幸せにしとる分、まだマシやった。でも30年、40年と経つうちにアイツ、おかしくなってきよってん。
ある時な、アイツは一人の女の子に色々、世話を焼いとった。サカキっちゅう央南の子でな、元々から頭のええ、聡明な子やった。……ちゅうか、聡明過ぎたんやろな。
その当時、央南は今みたいに、いくつもの国に分裂して争っとった。白猫は予知しとったんや。その子がいずれ、バラバラになっとる央南を一つにまとめる未来を。
何となく、ピンと来とるんちゃうか? この後の話》
エリザの言葉に、葵はこくりとうなずいた。
《うん。白猫はそのサカキって子に、あたしに対してやったことと、同じことを仕掛けたんだね》
《正解や。でも結局、成功せえへんかった。
白猫は高をくくっとった。自分の予知は99%、外れへん。きっとサカキも言いなりにでけるちゅうてな。でも、あくまで99%や。100やない。
ある時にその100引く99、確率1%の出来事が起こったんや。サカキは白猫からの命令を拒否しよった。『あたくしは絶対、あなたの言いなりになどなりませんわ』ちゅうてな》
《パパみたいだね、その人》
《ああ、似とる。決別の仕方も似とるで。実はな、白猫はそん時、サカキにぶん殴られよってん。傑作やろ、あははは……》
《ふふっ……》
ひとしきり笑ったところで、エリザは神妙な顔をした。
《結局、ソレで白猫はおかしなりよった。ソコから完璧に、現実の世界にいとるヤツを見下し、憎むようになりよったんや》
《憎む?》
《ココにおる限り、現実の世界に直接、干渉はでけへん。何でも間接的にや。ソレこそ、現実におるヤツを殴って言うコト聞かすっちゅうのんもでけへん。自分は殴られたのに、や。そら憎らしゅうて仕方無かったやろな。
ソレから、白猫の性根は曲がってしもた。助ける振りして破滅に追いやるっちゅう、えげつないコトを平気でしよるようになってしもたんや。
一方で、わざと英雄を作って周りに奉らせて、ひたすらその子を翻弄させて翻弄させて、心身ともにへとへとに疲れさして、最後には粉々に壊して、ソレを高みの見物して嘲り倒すっちゅう、見下げ果てた遊びまでするようになってしもた。
ソレを咎めたアタシは、白猫に逆ギレされてしもてな。ほんで、封印されてしもてん。こうしてココに戻って来られたんは、アンタのおかげやね》
そこで言葉を切り、エリザはす、と左腕を上げた。
《もしもアンタまで白猫みたいになってしもたら、また同じコトの繰り返しになってまう。
アンタが本当に、その仕事をやれるくらいの器がある人間なんか、試させてもらうで》
次の瞬間――葵の視界は、真っ白に染まった。
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封じられていた女神。
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《誰!?》
この夢の世界に、自分以外の者が呼んでもいないのに現れるなどとは思っておらず、葵は警戒した。
(……ううん、もしかしたらあいつかも知れない。ここにいたのは、あいつもだし。
もしかしたら、別の世界から舞い戻ってきたのかも)
《言うとくけど、白猫とちゃうで? あんなアホと一緒にせんといてんか》
だが、目の前にいたのは金と赤の毛並みをした、豪奢で派手な格好の狐獣人の女だった。
《……誰?》
彼女の姿に見覚えが無く、葵は対応できずに立ちすくむ。
《アタシを知らんのかいな。ソレでよぉ、平気な顔して魔術使てるもんやな》
《魔術? 確かにあなた、魔術師みたいだけど》
《チッチッチッ……、ただの魔術師やないで。
アタシはこの世界の魔術師の3分の1がお手本にしとる元祖、本家本元やねん。こう言うても分からんか?》
《分かんない》
警戒を解かない葵に、狐獣人は肩をすくめて見せる。
《ええか、この世界の魔術師の3分の1は、ゼロのおっさんがお手本や。もう3分の1は、タイカとか言う胡散臭いおっさんからの受け売りや。
ほんで、残る3分の1や。その3分の1が、アタシをお手本にしとるワケや。もうええ加減、答え出しいや。あんまり下らへん話のタメ方するん、好きやないし》
《うん、そこまで説明されたし、確かにいい加減、見当が付いたよ。
あなたは『ゴールドマン型魔術』の太祖、エリザ・ゴールドマン、……でしょ?》
《せいかーい》
そう言って、狐獣人は嬉しそうに笑った。
《聞いとったで、アンタが白猫の跡を継ぐって言うてたん》
《……うん》
《ソレな、元々はアタシのアイデアやねん》
エリザの言葉の意味が分からず、葵はおうむ返しに尋ねた。
《あなたのアイデア?》
《せや。アタシん家のコトは知っとるやろ?》
《金火狐財団?》
《ちゅうか、ゴールドマン家やな。ちょっと商売事とかでうまく行ってへんなっちゅう時に、ちょくちょくアタシが助言しとってん。
そしたらな、白猫がアタシんトコに来て、『ボクにもソレ、真似させてよ』ちゅうてきたんよ。……でもなぁ》
エリザはそこでふーっ、とため息をつく。
《人の人生いじくるのんには、白猫はあまりにも自分勝手で、自分のコトが大好き過ぎたんやろな。その上、人をいじめるんが好きやっちゅう、どうしようもないヤツやった。一言で言えば、器が小さ過ぎたんや。
最初は面白半分にやっとったけども、ソレでも人を幸せにしとる分、まだマシやった。でも30年、40年と経つうちにアイツ、おかしくなってきよってん。
ある時な、アイツは一人の女の子に色々、世話を焼いとった。サカキっちゅう央南の子でな、元々から頭のええ、聡明な子やった。……ちゅうか、聡明過ぎたんやろな。
その当時、央南は今みたいに、いくつもの国に分裂して争っとった。白猫は予知しとったんや。その子がいずれ、バラバラになっとる央南を一つにまとめる未来を。
何となく、ピンと来とるんちゃうか? この後の話》
エリザの言葉に、葵はこくりとうなずいた。
《うん。白猫はそのサカキって子に、あたしに対してやったことと、同じことを仕掛けたんだね》
《正解や。でも結局、成功せえへんかった。
白猫は高をくくっとった。自分の予知は99%、外れへん。きっとサカキも言いなりにでけるちゅうてな。でも、あくまで99%や。100やない。
ある時にその100引く99、確率1%の出来事が起こったんや。サカキは白猫からの命令を拒否しよった。『あたくしは絶対、あなたの言いなりになどなりませんわ』ちゅうてな》
《パパみたいだね、その人》
《ああ、似とる。決別の仕方も似とるで。実はな、白猫はそん時、サカキにぶん殴られよってん。傑作やろ、あははは……》
《ふふっ……》
ひとしきり笑ったところで、エリザは神妙な顔をした。
《結局、ソレで白猫はおかしなりよった。ソコから完璧に、現実の世界にいとるヤツを見下し、憎むようになりよったんや》
《憎む?》
《ココにおる限り、現実の世界に直接、干渉はでけへん。何でも間接的にや。ソレこそ、現実におるヤツを殴って言うコト聞かすっちゅうのんもでけへん。自分は殴られたのに、や。そら憎らしゅうて仕方無かったやろな。
ソレから、白猫の性根は曲がってしもた。助ける振りして破滅に追いやるっちゅう、えげつないコトを平気でしよるようになってしもたんや。
一方で、わざと英雄を作って周りに奉らせて、ひたすらその子を翻弄させて翻弄させて、心身ともにへとへとに疲れさして、最後には粉々に壊して、ソレを高みの見物して嘲り倒すっちゅう、見下げ果てた遊びまでするようになってしもた。
ソレを咎めたアタシは、白猫に逆ギレされてしもてな。ほんで、封印されてしもてん。こうしてココに戻って来られたんは、アンタのおかげやね》
そこで言葉を切り、エリザはす、と左腕を上げた。
《もしもアンタまで白猫みたいになってしもたら、また同じコトの繰り返しになってまう。
アンタが本当に、その仕事をやれるくらいの器がある人間なんか、試させてもらうで》
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