「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・夢神抄 4
麒麟を巡る話、第638話。
雪山の試練。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
気が付くと、葵は山の上に立っていた。
《ここ……どこ?》
澄み切った、朝焼けの空気を感じながら、葵は辺りを見渡す。
と、下の方にあった道なき道を、人が登って来ていることに気付く。三毛耳の、央南風の猫獣人である。
葵はその姿に、見覚えがあった。
(ばーちゃん? セイナばーちゃんに、良く似てる。
ううん、似てるんじゃなくて、……そう、あたしが知るばーちゃんより、ずっと若いんだ)
やがてその猫獣人は、葵のすぐ側まで近付いてきた。
彼女は葵が立っていることに気付き、こう声をかけてきた。
「白猫……」
そう呼ばれ、改めて葵は、自分の服装を確認する。
確かに彼女の言う通り、今の葵は白猫が着ていたものと同じ、若草色のシャツに白いベスト、銀色のネクタイ、そして黒いスラックスと言った姿になっていた。
《……やあ》
否定しようかとも思ったが、晴奈はひどく憔悴しているようにも見えたし、弁解や説明をしたとしても理解してもらえそうには無いと判断し、葵はとりあえず、白猫の口調を真似て応じてみた。
「久しぶりだな」
《そうだね》
晴奈の体から、もくもくと湯気が立ち上っている。どうやらここに来るまでに、体力を相当、消耗しているようだった。
それを見て、葵は思わずこう提案する。
《一緒に行こうか》
それを受けた晴奈が、ほっとした顔を返した。
「助かる」
《それじゃ進もう》
葵に手を貸され、晴奈は戸惑い気味に応じた。
「あ、ああ」
二人で山道を登る。
葵には、この山がさして高く、険しいものとは感じなかったのだが、晴奈にはとても辛く感じているらしく、息は荒く、顔色も悪い。
《マントあるけど、貸そうか?》
「ああ、ありがとう」
歩いて行くうちに、雪が降り始める。
「お主は大丈夫なのか?」
晴奈が心配そうに尋ねてくる。
《うん》
「そうか」
その後も短い会話を何度か交わしながら、そのまま登り続けた。
なお、その間に気付いたことだが、どうやら葵は格好だけではなく、毛並みや髪の色まで白猫と同じものになっているようだった。
(エリザさんの仕業かな?)
やがて、二人は山の頂に到着した。
《おつかれさん》
「ありがとう」
疲れきった様子の晴奈を眺めながら、葵は先程エリザが言っていたことを、ぼんやりと考えていた。
(『わざと英雄を作って翻弄して、壊して遊ぶ』って、……もしかして、セイナばーちゃんもその英雄の一人だったのかな。
可能性はあるよね。元々、ただの町娘だったって聞いたことあるし)
何となく、葵は晴奈の未来を見る。
そして、その後の悲惨な展開を目にし、葵は絶句した。
(……このまま剣士として戦い続けたら、……嘘でしょ? ばーちゃん、自殺するの!?)
いくつもの未来で、彼女はやがて剣士としての生き方に深い疑問を抱き、そして己の業を悟り、その罪に耐えかねた末、自刃していたのだ。
(間違い無い。白猫はばーちゃんを弄んでたんだ。『英雄ごっこ』をさせて、手を汚させて、苦しめさせて……。
このまま、この人を戦わせちゃ駄目だ)
葵は思わず、晴奈に声をかけていた。
《セイナ》
「うん?」
《キミは、……いや。
ねえ、……いい景色だね》
「ん? ああ、そうだな」
《蒼い空だ。ほら、つかんでごらんよ》
「つかむ?」
《そう。ほら、手を挙げて》
葵に言われるまま手を挙げた晴奈を眺めながら、葵は彼女を説得する方法を、懸命に考えた。
そして葵は懸命に、やんわりと諭し続け――。
「……ああ……あああ……うああー……」
どうにか、晴奈の心を挫かせることに成功したらしい。
晴奈は座り込み、自分にもたれかかって――これまで葵が知っていたような、凛々しく堂々としていた彼女と同一人物とは思えないくらいに――大声を挙げて、泣きじゃくっていた。
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気が付くと、葵は山の上に立っていた。
《ここ……どこ?》
澄み切った、朝焼けの空気を感じながら、葵は辺りを見渡す。
と、下の方にあった道なき道を、人が登って来ていることに気付く。三毛耳の、央南風の猫獣人である。
葵はその姿に、見覚えがあった。
(ばーちゃん? セイナばーちゃんに、良く似てる。
ううん、似てるんじゃなくて、……そう、あたしが知るばーちゃんより、ずっと若いんだ)
やがてその猫獣人は、葵のすぐ側まで近付いてきた。
彼女は葵が立っていることに気付き、こう声をかけてきた。
「白猫……」
そう呼ばれ、改めて葵は、自分の服装を確認する。
確かに彼女の言う通り、今の葵は白猫が着ていたものと同じ、若草色のシャツに白いベスト、銀色のネクタイ、そして黒いスラックスと言った姿になっていた。
《……やあ》
否定しようかとも思ったが、晴奈はひどく憔悴しているようにも見えたし、弁解や説明をしたとしても理解してもらえそうには無いと判断し、葵はとりあえず、白猫の口調を真似て応じてみた。
「久しぶりだな」
《そうだね》
晴奈の体から、もくもくと湯気が立ち上っている。どうやらここに来るまでに、体力を相当、消耗しているようだった。
それを見て、葵は思わずこう提案する。
《一緒に行こうか》
それを受けた晴奈が、ほっとした顔を返した。
「助かる」
《それじゃ進もう》
葵に手を貸され、晴奈は戸惑い気味に応じた。
「あ、ああ」
二人で山道を登る。
葵には、この山がさして高く、険しいものとは感じなかったのだが、晴奈にはとても辛く感じているらしく、息は荒く、顔色も悪い。
《マントあるけど、貸そうか?》
「ああ、ありがとう」
歩いて行くうちに、雪が降り始める。
「お主は大丈夫なのか?」
晴奈が心配そうに尋ねてくる。
《うん》
「そうか」
その後も短い会話を何度か交わしながら、そのまま登り続けた。
なお、その間に気付いたことだが、どうやら葵は格好だけではなく、毛並みや髪の色まで白猫と同じものになっているようだった。
(エリザさんの仕業かな?)
やがて、二人は山の頂に到着した。
《おつかれさん》
「ありがとう」
疲れきった様子の晴奈を眺めながら、葵は先程エリザが言っていたことを、ぼんやりと考えていた。
(『わざと英雄を作って翻弄して、壊して遊ぶ』って、……もしかして、セイナばーちゃんもその英雄の一人だったのかな。
可能性はあるよね。元々、ただの町娘だったって聞いたことあるし)
何となく、葵は晴奈の未来を見る。
そして、その後の悲惨な展開を目にし、葵は絶句した。
(……このまま剣士として戦い続けたら、……嘘でしょ? ばーちゃん、自殺するの!?)
いくつもの未来で、彼女はやがて剣士としての生き方に深い疑問を抱き、そして己の業を悟り、その罪に耐えかねた末、自刃していたのだ。
(間違い無い。白猫はばーちゃんを弄んでたんだ。『英雄ごっこ』をさせて、手を汚させて、苦しめさせて……。
このまま、この人を戦わせちゃ駄目だ)
葵は思わず、晴奈に声をかけていた。
《セイナ》
「うん?」
《キミは、……いや。
ねえ、……いい景色だね》
「ん? ああ、そうだな」
《蒼い空だ。ほら、つかんでごらんよ》
「つかむ?」
《そう。ほら、手を挙げて》
葵に言われるまま手を挙げた晴奈を眺めながら、葵は彼女を説得する方法を、懸命に考えた。
そして葵は懸命に、やんわりと諭し続け――。
「……ああ……あああ……うああー……」
どうにか、晴奈の心を挫かせることに成功したらしい。
晴奈は座り込み、自分にもたれかかって――これまで葵が知っていたような、凛々しく堂々としていた彼女と同一人物とは思えないくらいに――大声を挙げて、泣きじゃくっていた。
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