「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・紀行録 3
晴奈の話、17話目。
地域と種族。
3.
柊は地図の上部分に引いた線のさらに上を指し、話を続ける。
「央南、央中と来たから、次は央北――中央大陸北部の話。
ここは『天帝と政治の世界』。世界最大の宗教である天帝教と、中央大陸北中部や西方大陸に影響力を持つ巨大な政治組織、『中央政府』の本拠地ね」
「中央、政府?」
あまりに物々しい語感に、晴奈は胡散臭さを覚える。
「まあ、向こうとこっちでは、言葉のズレがちょっとあるから。『中央大陸の政府』って言う意味合いだし、そんなに大仰なものでも無いわ。
北中部の国家、ギルド、商会など様々な団体、組織が加盟する大きな政治共同体で、古代から中央大陸、いえ、世界政治に大きな影響力を持っているわ。……と言っても、時代を重ねるごとにその影響力は弱まって、今は央北と央中の北部、あと西方の東岸あたりまでが、現在の勢力圏ね。
で、この中央政府って、元々は双月暦元年に現れたと言う神様――『天帝』が自分の創った宗教、天帝教を広めるために創設したらしいわ」
「ふむ……、神様が人間たちの世界の政治を執り行った、と言うことですか。何だか本当に、おとぎ話のような……」
晴奈の言葉に、柊はクスクスと笑う。
「まあ、古い伝説だし、どこまでが本当なのかはちょっと疑わしいけどね。
でも、現在世界的に広く使われている双月暦や魔術の基礎は天帝教が発祥らしいし、今でもその名残はあるわね」
「それで、その天帝教と言うのはどんな宗教なのですか?」
晴奈の問いに、柊は「うーん」と軽くうなる。
「わたしも詳しく知っているわけじゃないから、説明できるかどうか……。
何でも、天帝の言葉や知識を記した経典があって、それに従って、正しく生きることを目的とするとか。まあ、良く分かんないんだけどね」
「ふーむ……?」
説明されても、いまいちピンと来ない。柊も十分に分かっているわけでは無いらしく、それ以上の説明はしなかった。
「ま、そこら辺は置いといて、風土の話をしよっか。
ここには『狼』、『猫』、エルフ、あとは世界で最も短耳の割合が多いわね。天帝も種族としては、短耳の形をとっていたとか。
天帝教発祥の地であると共に、それを基礎にした文明の中心地だから、治安も悪くないし交通や産業も活発だったわ。
あと、人々は概ね明るくて、優しい人たちばかりだった印象があるわね。でも……」
そこで柊の語調が、少し落ちる。
「中央政府の本拠地、クロスセントラルは一際にぎやかだけど、色々悪い噂も立っているわね。曰く、『中央政府は克の言いなり』だとか、『大臣たちが日夜、利権の奪い合いに奔走している』とか。中央政府に関しては、本当に黒いうわさが絶えないわね。
もしクロスセントラルに行くことがあっても、政府関係には近付かない方がいいわよ。得るものは少ないし」
含みのある言い方に、晴奈は少し引っかかった。
(どうも関わったことがあるような言い方だな……?)
だが話の雰囲気から、その辺りを聞くのは避けておくことにした。
「でも、市街地はとっても楽しいわよ。ここもゴールドコーストと同じくらい人が集まってくる場所だから、退屈はしないわね。ご飯も美味しいし、そっちの方は行って損は無いわね」
中央大陸の話を一通り聞き終え、晴奈はずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「あの、師匠。『兎』の方は西方人と伺いましたが、西方とはどの辺りなのでしょう?」
「あ、中央大陸じゃないわ。その『外』ね」
そう返しつつ、柊は中央大陸の絵の周りに「北」「西」「南」と書き込んだ。
「中央大陸から西の方にある大陸を、西方大陸と呼んでるのよ。海を隔ててるから、中央とは色々勝手が違うわね。
例えば人種。央中に『狐』と『狼』が多いのを除けば、中央大陸で一番多いのは短耳ね。その次に長耳で、次いで晴奈と同じ『猫』かしら。
でも西方だと、短耳や長耳はほとんど見かけなかったわね。わたしが訪れたのは西方の、ほんの一部だけだったけど、それでも圧倒的に多く見かけたのは、『兎』だったわ。『猫』も、旅人以外ではまったく見かけなかったかも」
「なるほど……」
晴奈は相槌を打ちながら無意識に筆を執り、可愛らしい兎を描く。
それを眺めていた柊は、ぷっと吹き出した。
「……ふふ、晴奈、あなた変なところで可愛いわね」
「へ?」
晴奈は素っ頓狂な声を出し、筆を止める。柊はクスクス笑いながら、手を振った。
「ううん、何でもない」
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地域と種族。
3.
柊は地図の上部分に引いた線のさらに上を指し、話を続ける。
「央南、央中と来たから、次は央北――中央大陸北部の話。
ここは『天帝と政治の世界』。世界最大の宗教である天帝教と、中央大陸北中部や西方大陸に影響力を持つ巨大な政治組織、『中央政府』の本拠地ね」
「中央、政府?」
あまりに物々しい語感に、晴奈は胡散臭さを覚える。
「まあ、向こうとこっちでは、言葉のズレがちょっとあるから。『中央大陸の政府』って言う意味合いだし、そんなに大仰なものでも無いわ。
北中部の国家、ギルド、商会など様々な団体、組織が加盟する大きな政治共同体で、古代から中央大陸、いえ、世界政治に大きな影響力を持っているわ。……と言っても、時代を重ねるごとにその影響力は弱まって、今は央北と央中の北部、あと西方の東岸あたりまでが、現在の勢力圏ね。
で、この中央政府って、元々は双月暦元年に現れたと言う神様――『天帝』が自分の創った宗教、天帝教を広めるために創設したらしいわ」
「ふむ……、神様が人間たちの世界の政治を執り行った、と言うことですか。何だか本当に、おとぎ話のような……」
晴奈の言葉に、柊はクスクスと笑う。
「まあ、古い伝説だし、どこまでが本当なのかはちょっと疑わしいけどね。
でも、現在世界的に広く使われている双月暦や魔術の基礎は天帝教が発祥らしいし、今でもその名残はあるわね」
「それで、その天帝教と言うのはどんな宗教なのですか?」
晴奈の問いに、柊は「うーん」と軽くうなる。
「わたしも詳しく知っているわけじゃないから、説明できるかどうか……。
何でも、天帝の言葉や知識を記した経典があって、それに従って、正しく生きることを目的とするとか。まあ、良く分かんないんだけどね」
「ふーむ……?」
説明されても、いまいちピンと来ない。柊も十分に分かっているわけでは無いらしく、それ以上の説明はしなかった。
「ま、そこら辺は置いといて、風土の話をしよっか。
ここには『狼』、『猫』、エルフ、あとは世界で最も短耳の割合が多いわね。天帝も種族としては、短耳の形をとっていたとか。
天帝教発祥の地であると共に、それを基礎にした文明の中心地だから、治安も悪くないし交通や産業も活発だったわ。
あと、人々は概ね明るくて、優しい人たちばかりだった印象があるわね。でも……」
そこで柊の語調が、少し落ちる。
「中央政府の本拠地、クロスセントラルは一際にぎやかだけど、色々悪い噂も立っているわね。曰く、『中央政府は克の言いなり』だとか、『大臣たちが日夜、利権の奪い合いに奔走している』とか。中央政府に関しては、本当に黒いうわさが絶えないわね。
もしクロスセントラルに行くことがあっても、政府関係には近付かない方がいいわよ。得るものは少ないし」
含みのある言い方に、晴奈は少し引っかかった。
(どうも関わったことがあるような言い方だな……?)
だが話の雰囲気から、その辺りを聞くのは避けておくことにした。
「でも、市街地はとっても楽しいわよ。ここもゴールドコーストと同じくらい人が集まってくる場所だから、退屈はしないわね。ご飯も美味しいし、そっちの方は行って損は無いわね」
中央大陸の話を一通り聞き終え、晴奈はずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「あの、師匠。『兎』の方は西方人と伺いましたが、西方とはどの辺りなのでしょう?」
「あ、中央大陸じゃないわ。その『外』ね」
そう返しつつ、柊は中央大陸の絵の周りに「北」「西」「南」と書き込んだ。
「中央大陸から西の方にある大陸を、西方大陸と呼んでるのよ。海を隔ててるから、中央とは色々勝手が違うわね。
例えば人種。央中に『狐』と『狼』が多いのを除けば、中央大陸で一番多いのは短耳ね。その次に長耳で、次いで晴奈と同じ『猫』かしら。
でも西方だと、短耳や長耳はほとんど見かけなかったわね。わたしが訪れたのは西方の、ほんの一部だけだったけど、それでも圧倒的に多く見かけたのは、『兎』だったわ。『猫』も、旅人以外ではまったく見かけなかったかも」
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今日の旅岡さん

NoTitle
それを体現したのが、「火紅狐」の世界ですね。
政府が商人に操られ、機能不全になった世界。
どんなにグダグダで内輪もめばっかりしていて、利権・利益獲得に奔走する集団であっても、居てもらわなきゃ困る。
ただ、もっとちゃんとした人たちを起用してほしいと、切に思ってはいますが。