黄輪雑貨本店 新館


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    みいる(小説ブログ「DOOR」 limeさんのイラストより)

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    みいる

     僕は、いわゆる「芸術」と言うものにまるで興味が無い人間だ。
     学校での美術の時間はただ苦痛なだけだったし、社会人になった後も、自分から美術館や画廊に向かうことなど、皆無だった。
     デートなんかでそう言った場所へ行くとなると、その後は確実に彼女を怒らせることになる。
     時にはそのせいで仲がこじれて、振られてしまうこともあった。



     そんな僕がその絵に出会ったのは、3人目となる今の彼女に連れられ、懲りもせずにまた、とある美術館へ行った時のことだ。
     僕は例によって、壁にずらずらと飾られている絵画にも、フロアの真ん中に置いてある青銅製の置物にも興味をひかれること無く、彼女の後をうろうろと、無気力に付いて回っていた。
     と――不意に視線を感じ、僕は振り返った。

     そこには奇妙な子供の絵が飾られていた。
    「奇妙な」と言うのは、まず第一に、その子が男の子であるのか、それとも女の子であるのか、僕にはどうしても判断できなかったからだ。
     その子はどう見ても裸なのだが、顔も体つきも極めて中性的であり、腰の辺りもきれいに覆い隠されているのだ。
     そう、もう一つ奇妙な点は、そこにある。その子をふわりと覆っているのは、その子自身のものと思われる「尻尾」なのだ。
     そして、その尻尾と対になっているかのように、その子の頭には狐の耳がおごられている。
     なるほど、この子はいわゆる半人半獣、俗っぽく言うなら「ケモノっ子」と言うところなのだろう。
     まあ、絵なのだから何をどう描いても、作者の自由だ。いくら現実的でないモノを描いたって、誰が「ウソつきだ」などと咎めるものか。
     しかしその時僕は、明らかに「絵」であるはずのその子の目から、妙に生々しい雰囲気を感じていた。
     顔をそらすことも、目をつぶることもできず、僕はその絵の前に立ち尽くしていた。
     ようやくその絵の前から離れたのは、数フロアも先に進んでいた彼女がイライラとした様子で戻って来て、僕の手をぐいっと引っ張ってからのことだった。

     僕はその時、自分の四半世紀足らずの生涯で初めて、絵に心を奪われていた。
     いや、絵にではない。あの子に、心を奪われていたのだ。



     その後、僕は当然のように、3度目の失恋を迎えたはずだったのだが、僕の心の中には彼女に罵られた悔しさや、振られた悲しみなどは、微塵も無かった。
     心にあったのはただ一つ、あの子のことだ。神秘的な目と、そしてそれに似合う耳と尻尾を持った、あの子だ。
     僕はもう一度、あの美術館に足を運んだ。生まれてずっと、美術なるものから遠ざかっていたこの僕が、自分から向かったのだ。
     そしてまた、僕はあの子に会うことができた。前に飾られていた場所と同じ、あのフロアにいてくれた。
     無論、この子はただの絵だ。会話などできるはずも無い。だから僕は、その場でじっとこの子を眺めていた。
     だが、見れば見るほど、この子に引きこまれていくような感覚に陥っていく。
     この子から、目が離せない。この子の耳や尻尾が時折、ふわりと動いているかのようにすら感じる。
     この子を見つめているだけで、僕の心は満たされていくようだった。

     結局その日、僕は開館と同時に訪れたはずのこの美術館で、何時間もその場に立ち尽くしていたらしい。
     呆れた顔の学芸員が、僕の肩を叩いてきた。
    「お客さん、閉館なんですけど」
    「え? ……あ、す、すいません」
     僕は頭を下げ、そして思わず、こんなことを尋ねてしまっていた。
    「あの、この絵なんですが、売っていただけませんか?」
    「は?」
     学芸員の目が点になる。
    「無茶なお願いだと、承知しているんです。でも僕は、……この絵が、欲しくて」
    「……」
     唖然とした顔をしたまま、学芸員は「お待ち下さい」と言って、室内用の無線機で人を呼んだ。彼の口ぶりからして、どうやら美術館の責任者か誰からしい。
     1分もしないうちに、いかにも知識人と言った風体の男が、僕の前に現れた。
    「申し訳ございませんが、当館では一般のお客様に美術品を販売するようなことは……」
     断りの言葉を並べようとしたその男に、僕は深々と頭を下げた。
    「欲しいんです! お金はいくらかかっても構いません!」
    「……ん、ん」
     僕の頑なな態度に、男は早々に説得を諦めたらしい。代わりに、こう説明してくれた。
    「私共からはお売りできません。私共はこの絵画を借りているだけですから。
     交渉はこの絵画の所有権を持つ方と行って下さい。一応、お話は通しておきますので、お電話番号などいただけますか?」

     数日後、僕はこの絵の所有者に会い、そこでいくつか聞かされた。
     まず、この絵を描いた人物は不明であること。それどころか所有者自体、この絵がいつから自分の倉庫にあったのかも把握していなかったそうだ。
     所有者は沈んだ顔で、こう続けた。
    「倉庫の中であの絵を見付けてから、自分は何度もあの子を夢に見た。
     何を言うでも無いし、何かしてくるわけでも無かったが、あの子はただじっと、見つめてくるんだ。
     自分にこの絵は、とても手に負えない。手元に置きたくない。だから美術館に貸していた」
     そのせいか、僕がこの絵を買うと聞いていた彼は、この絵をかなりの安値で売ってくれた。



     そして今、僕の部屋の中にはあの子がいる。
     美術館で出会った時のまま、あの子は絵の向こうから、神秘的なまなざしで僕を見つめてくれている。
     話しかけてきたり、あまつさえ絵の中から飛び出したりなどと言う幻想的なことは、まだ一向に起こらない。
     だけど僕には、それで十分だった。

     僕は、この子が側にいてさえくれればいいのだ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    limeさんの小説サイト「小説ブログ「DOOR」」よりお借りしたイラストを題材に、
    自分も一点、制作致しました。
    怪談なんだかサイコホラーなんだか……。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.1.29 追記
    limeさんよりコメントをいただきました!
    ただ、コメントの際に何らかの制限がかかってしまったらしく、コメント欄に投稿できなかったそうなので、
    こちらに転載させていただきました。

    イラストに素敵なお話を付けてくださって、ありがとうございます^^
    怪談でもホラーでもなくて、これは一途な恋物語だなあ~と感じました。
    この主人公は、きっとこの絵の子に出会うのを待ってたのかもしれませんね^^
    これを読んでいて、ギリシャ神話のピグマリオンを思い出しました。
    あちらは彫刻の女性に恋をしてしまうお話なんですが。
    この主人公も、絵の妖狐に魅入られてしまったのですね・・・。
    でももしかしたら、この後この絵の中の子が飛び出してきて……なんていう予感もありますが、
    「この子が居てくれるだけでいい」という言葉に、純愛を感じます。いや、こんな恋があってもいいですよね^^
    不思議な余韻を残すお話、ありがとうございました!

    確かに見方によっては一途な純愛モノですね。
    そう評されると嬉しいやら気恥ずかしいやら(*ηη)

    また機会があれば企画に参加します。
    ありがとうございました!
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    あかねさん、いらっしゃいませ。
    お越しいただき、ありがとうございます。

    あの絵から「女性」とは断定できないかもと考えて、
    その辺りの表現はぼかしていました。
    そのおかげで、より幻想的な雰囲気を強められたかなと思っています。

    他にも短編・長編取り揃えておりますので、
    よければまたお越しください。

    そうも見えますね 

    お邪魔します。
    limeさんのところから来ました。

    この狐は女性。
    そうとしか考えられなかったのですが、こちらのお作を読ませていただいて、ああ、中性的にも見えるなぁと思いました。
    ユニークな発想ですよね。

    男でも女でもいい、この絵をそばに置きたい。
    この子にそばにいてほしい。
    究極の「愛」かもしれません。
    楽しませていただきました。

    NoTitle 

    この作品はフィクションです。本当の話ではありません。

     

    ^^; え?
    ということはノンフィクション?
    本当の話じゃない?

    NoTitle 

    >鈴子さん
    ほしいのに結局手に入れられなかった気持ち、良く分かります。
    この主人公はその点においても、すごく幸せですね。

    こちらのイラストは追記にある通り、
    「小説ブログ「DOOR」」というサイトを運営されているlimeさんからお借りしたものです。
    綺麗なイラストが多く、密かに気に入っています。

    NoTitle 

    >山西 サキさん
    ご来訪とコメント、ありがとうございます。
    他の方々が妖狐を動かしてらっしゃったので、自分はあえて、
    動かさない方向に話を持って行くことにしました。
    好評価のようで何よりです。
    サキさんの作品も、ヨーコの愛を感じられて素敵だと思います。

    こんばんは。( ̄^ ̄)ゞ 

    昨日 読ませて頂きました。
    素敵ですね。
    その絵に一目惚れする気持ち分かりました。
    とても 引き込まれるように読んじゃいました。
    私も学生の時に同じ様な体験をしています。無性に欲しくなりましたが、買えませんでした。しかし毎日 毎日 観に行ったものです。

    その写真ですが、写真?絵?描かれたものですか?
    リアルに私も見入ってしまいましたよ。

    こんばんは。 

    limeさんのこのイラストから創作された物語は、みんな読んでみようということでおじゃましています。
    黄輪さんはサキには出来なかったことを実現しておられます。妖狐を1枚の絵として取り扱い、そのまま物語を成立させてらっしゃるということです。
    妖狐は飛び出してきたり、話しかけてきたりする事はありません。
    でも、ただそれだけなのに妖狐は動き回り、表情を変え、発言し、僕を、そして周りの人を操ります。絵に描かれた妖狐は自分の思うままにまわりの人々に働きかけ、自分の望むままに物事を進行させるのです。
    ただ、絵を取り巻く彼等の心の中にだけに非現実的なことが起こり、それは外からは見えないのです。
    ただの絵なのに、まるで現実に生きている用に振舞うのです。
    このイラストの持つ不思議な魅力を再発見させてくれる作品でした。
    面白かったです。
    お邪魔しました。
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