FC2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第4部

    蒼天剣・湖島録 1

     ←蒼天剣・湯治録 5 →蒼天剣・湖島録 2
    晴奈の話、第191話。
    央中風土史。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     地質学的見地によれば、中央大陸は年々「裂けている」のだと言う。

     中央大陸を3地域に分割している二大山系、ウォールロック山脈とカーテンロック山脈(央南名:屏風山脈)はそれぞれ年5~10ミリずつ隆起しており、逆にそのふもと付近が年0.001度程度傾き、さらに央中の中央部においては0.4~0.5ミリずつ海抜が減少しているそうだ。
     この調子で数万年経てば、やがて中央大陸は央北・央中北部と、央中南部・央南の2つに分断されることになるだろうとする学説もある。その論拠として、央中における水域面積の多さが挙げられている。央中には他地域に比べ、非常に河川や湖が多い。この恵まれた水運環境は央中の経済発展を支えてきたのだが、この水域の多さこそ大地が裂けつつある前兆であり、いずれは南北分断が起こるだろう――と言うことらしい。

     そしてこの現象の代名詞とも言われているのが央中最大の湖、フォルピア湖に浮かぶ島国、ミッドランドの環境である。
     この島もほんのわずかながらではあるが、年々海抜が減少し、ジワジワと湖に沈みつつあるそうだ。



    「ふん、ふふーん……」
     珍しく晴奈は、ご機嫌な様子を見せている。
     鼻歌に合わせて猫耳がピクピク震え、尻尾もゆらゆら揺れている。
     横にいる小鈴とフォルナは、珍しいものを見るような目で晴奈を眺めていた。
    「ふんふーん、ふーん……」
     三人は今、フォルピア湖南岸を連絡船で移動している。
    「ご機嫌ねー」
    「ふふーん、……え?」
    「今まで一緒に旅してきた中で一番、楽しそうにされてますわね。船、お好きなのですか?」
     晴奈はようやく我に返り、顔を赤くした。
    「あっ。……あ、ああ。実家が水産業をしているからかな、船や水を見ると、何故だか楽しくなって」
    「今のは何の曲でしたの?」
    「え、っと……。幼い頃、舞踊をたしなんでいたのだが、その時教わった曲だ。『桜坂の狐舞』、だったかな」
    「へぇ。どんな内容なのですか?」
    「央南中部が舞台の歌だ。中野某とか言う、央南八朝時代の狐獣人の出世を謳ったものだな」
    「央南八朝、ねぇ。確か、黒白戦争直後の話よね。あ、そう言えばミッドランドも、その頃が発祥なのよね」
     小鈴は湖に視線を落とし、ミッドランドについて説明する。
    「黒白戦争で名を挙げたニコル・ゴールドマン3世って人が何と、ネール家の人間と恋に落ちちゃってね」
    「ゴールドマン家の方が、ネール家の方と?」
     両家の仲違いを良く知るフォルナは、いぶかしげに聞き返す。
    「その頃はまだ、両家もそんなに仲悪くなかったらしいから。
     んで戦争で勝利した後、そのネール家の人と結婚したんだけど、奥さんは一族の会議に出なきゃいけなかったから、何度かクラフトランドに戻る必要があったのよ。でも、当時はまだクラフトランドの近くに港は無いし、陸路も今ほど整備されてなかったから、戻るのがすごく大変だったのよ。
     奥さんが何ヶ月も不在になるのを悲しんだニコル卿は、まるで央中全域を掘り返すように、20年近くもかけて大規模な交通整備を行ったのよ」
    「ほう……。愛する女性のために央中全土を開発、ですか。何とも胆の大きな男ですね」
     晴奈の感心した言葉に、小鈴はクスクス笑いながらうなずく。
    「大人物は愛も大きいのね、んふふ……。
     んで、このミッドランドって街もその央中開発の一環なのよ。ソレまでこの湖を突っ切るって言う手段が無かったもんだから、みんな湖の側を回って行き来してたらしいの。でもそれだけで、2週間も3週間もかかっちゃう。ゴールドマン夫人も同じように回ってたから、ニコル卿はココに大掛かりな港を作って、交通の便を良くしたのよ。
     ついでに湖の真ん中にある島に交易用の街も作って、湖の『真ん中にある島』だから、ミッドランドって名付けたの」
    「なるほど」
     晴奈は船の進行方向に目をやったが、ミッドランド島の姿はまだ見えない。
    「ちなみにね、フォルピア湖って言うのもニコル卿が名付けたって話。
     ネール公国地方の言葉で、『狼』の女性名をルピア、『狐』の男性名をフォルクスって言うから、その両方から取って……」
    「フォル・ルピア、……で『フォルピア』と」
    「そーゆーコト。ニコル卿は相当、愛妻家だったらしいわ」
     小鈴の話に、フォルナが付け足す。
    「元々ニコル卿は、相当の実業家でもいらしたとか。央中開発に関しても、いくつか逸話が残っておりますわ」
    「ほう」
     小鈴もフォルナも晴奈同様に船の行き先へと視線を移しつつ、話を続ける。
    「克大火のお話にも関わってくるんだけど、ニコル卿と克は戦争で協力した者同士で、戦後も交流が深かったとか。
     でも戦争に勝利して得た、いくつかの利権に関しては徹底的に対立。ニコル卿にものすごく強硬な姿勢を執られてたらしくって、克はニコル卿の没後に『ある意味、最も敵対した男だった』ってこぼしたとか何とか」
    「黒炎殿相手に交渉を通すとは、なかなかの傑物だったのですね」
    「それだけではありませんわよ。
     奥さんのために行ったと言われる交通整備ですけれども、整備する際、沿線にゴールドマン系列の店をたくさん配置して、旅人や行商人相手にかなり稼いだそうですわ。
     相当、抜け目の無い人物だったようですわね」
    「流石は金火狐一族、と言うわけか。……お」
     ようやく島の端が、三人の視界に入ってきた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    世界観について一つ注釈。
    「単位」の規格について。

    「双月暦」や「クラム」と言った、年号やお金などの文化的な単位は「この世界にしかないもの」を設定しています。
    ただ、物理的な単位(長さや重さ、時間など)にまでこれを適用してしまうと、読者の方に無用な混乱を招きそうな気がします。
    例えば「次の街までは15ベータ」とかしてしまうと、「それってどのくらい?」と突っ込まれるでしょう。
    ここで注釈を入れて展開に水を差すよりは、最初から「次の街までは20キロくらい」と言った方が雰囲気を壊さない気がします。

    そんなわけで「長さ・重さ・時間」に関しては、現実世界を基準にします。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.05.05 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・湯治録 5】へ
    • 【蒼天剣・湖島録 2】へ

    ~ Comment ~

    NoTitle 

    ポールさん、自分とは真逆のこだわりなんですね。

    自分の場合、上述した通りなんですが、度量衡の単位が妙に細かいのには、もう一つ大きな理由があってのことだったり。
    もっとも、それが分かるのは、しばらく先になってしまいますが。
    それまで連載が続けられるよう、頑張ります(*´∀`)

    NoTitle 

    単位や度量衡はわたしもファンタジーを考えていて悩みました。

    何時何分、とか何ミリ何メートル何キログラム、などと書いていては雰囲気がぶちこわしになるのではないかと思えたからです。

    考えた末、「1日」はあることにしました。細かい時間については、それだけ信用できる時計が発明されていない、ということにして、わざとあいまいにぼかしました。「何秒」と書けないから「数瞬」と書いたりして。

    長さも単位を設けていません。長距離を動くときは「歩いて何日」みたいな書き方をしていますが、都市の中だけでほとんどの話を進めているので目立たないかもしれません。

    重さも同様です。

    ……などといろいろこだわっているのですが、たぶん誰も気づいていないですよね(^^;) 気づかないように書いてもいますし(^^;)

    こんなことに必要以上にこだわるのはわたしだけか?
    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・湯治録 5】へ
    • 【蒼天剣・湖島録 2】へ