「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
赤虎亭日記
赤虎亭日記 3
朱海さんの話、第3話。
双月暦503年11月と12月:瞬殺の女神伝説。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「ユキノ・ヒイラギ? ってあの『瞬殺の女神』さん?」
尋ねるなり、シルキスはそう返してきた。
「知ってるの?」
「知っとるも知らんもあるかいな。503年下半期エリザリーグの優勝者、伝説の女傑やないか」
流石に闘技場の歴史を知り尽くしていると豪語するだけはある。シルキスはいともあっさりと、彼女の素性を教えてくれた。
「写真あるけど、見てみる?」
「あるの?」
「ウチの初代社長二人と一緒に撮ったんがあるんよ。……あ、これこれ」
彼女は書架の上の方から、ひょいとアルバムを取り出した。
「んー、と、……そう、これや。このエルフさんがユキノさん」
「え、……この人?」
「うん、それ」
写真は色あせ、すっかりセピア色になっていたが、写っているものは十分に判別できた。
写真の背後にあるのは、今私とシルキスがいるこの建物――チェイサー社の元本館、現倉庫である。どうやらこの社屋が建った当時に撮ったものらしい。
その前に3人の人間が並んで立ち、揃って笑っている。左にいる狐獣人は初代社長、ピース・チェイサー氏だろう。となれば右にいる狼獣人はその奥さん、ボーダ・グロリア氏に違いない。
その二人に挟まれる形で、長耳の女性が立っている。シルキスによれば、これが柊雪乃であるらしいが、わたしには簡単に信じられなかった。
写真に写る彼女は、確かに刀を佩いてはいるが、どちらかと言えば華奢に見えたからだ。背丈も、横に並ぶ社長夫妻とあまり変わらない。
「分かるでー、ミューが思てること。見えへんねやろ?」
シルキスがニヤニヤしながら尋ねてくる。
「何がよ?」
「エリザリーグ優勝者にや。パッと見、ひょろひょろの女の子やもんな。
でも史実やで。アンタが持ってきたその日記にも、書いてあるんとちゃう?」
双月暦503年 11月1日 土曜
本当にアイツら、店を建てやがった。どんだけ荒稼ぎしたんだか。
店の落成記念に写真を撮ったそうだ。見せてもらったが、3人ともまあ、ニヤニヤしちゃって。ピースとボーダはともかく、雪乃まで。そんなに嬉しいかねぇ?
と同時に、ピースから雪乃がついに、エリザリーグに出場することが決まったと聞かされた。こっちは逆に予想通りだな。アイツならやると思った。
双月暦503年 11月21日 雷曜
今季のエリザリーグ開幕。賭けの予想材料目当てで、朝からソレっぽいのが来るわ来るわ。賭けの投票締切が昼の11時だったが、ソレまでで10万稼げた。
雪乃が出ない日でこの分だと、雪乃が出る日はとんでもない稼ぎになるんじゃないだろうか。
双月暦503年 11月24日 天曜
予想的中。雪乃情報を売っただけで、50万超えた。ありがとう、瞬殺の女神様。
今月の収支合計を確かめるのが楽しみで仕方が無い。うへへ。
ちなみに言うまでも無く、雪乃は圧勝したそうだ。次の出場日は来月の3日らしい。ソレまでにネタの仕込みしとかなきゃな。
双月暦503年 11月30日 風曜
今月の収支、プラス170万。笑いが止まらねえ。そりゃピースたちも店を建てるわな。
双月暦503年 12月18日 水曜
今日がエリザリーグの最終戦。雪乃とキングの試合だった。
結果を聞いて爆笑した。キングはまったく、雪乃に歯が立たなかったらしい。雪乃ににらまれて降参しちまったとか。
いや、よくやった! スカっとしたぜ。明日は是非、ウチで祝ってやろう。
双月暦503年 12月19日 雷曜
見事にエリザリーグ優勝を果たした雪乃を労ってやろうと、ピースたちと一緒にウチでご馳走してやった。勿論アタシのおごりだ。
今年ももうすぐ終わりだが、雪乃のおかげで大黒字だった。コレくらいしなきゃ、礼にならないよな。
双月暦503年 12月30日 火曜
今日で今年も終わり。
今年の合計は、362万2856エルの黒字。1年目からすげえ好調。いや、この稼ぎの大半は雪乃のおかげだ。来年も雪乃がいてくれるとは限らないし、今回のは特別だってコトは忘れないようにしとかなきゃな。
ピースたちに連れられて、央中天帝教の納業会に参加。めんどくさいから今まで参加しなかったけど、アタシももう、商人の端くれだからな。エリザ様に報告しとかなきゃ、バチが当たるってもんだ。
終わった後は雪乃も交えて、アタシの店で忘年会。日記付けてる今も、下で雪乃たちが寝潰れてる。アタシももう一杯飲んでから寝るつもりだ。
来年もいい年になりますように。
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双月暦503年11月と12月:瞬殺の女神伝説。
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「ユキノ・ヒイラギ? ってあの『瞬殺の女神』さん?」
尋ねるなり、シルキスはそう返してきた。
「知ってるの?」
「知っとるも知らんもあるかいな。503年下半期エリザリーグの優勝者、伝説の女傑やないか」
流石に闘技場の歴史を知り尽くしていると豪語するだけはある。シルキスはいともあっさりと、彼女の素性を教えてくれた。
「写真あるけど、見てみる?」
「あるの?」
「ウチの初代社長二人と一緒に撮ったんがあるんよ。……あ、これこれ」
彼女は書架の上の方から、ひょいとアルバムを取り出した。
「んー、と、……そう、これや。このエルフさんがユキノさん」
「え、……この人?」
「うん、それ」
写真は色あせ、すっかりセピア色になっていたが、写っているものは十分に判別できた。
写真の背後にあるのは、今私とシルキスがいるこの建物――チェイサー社の元本館、現倉庫である。どうやらこの社屋が建った当時に撮ったものらしい。
その前に3人の人間が並んで立ち、揃って笑っている。左にいる狐獣人は初代社長、ピース・チェイサー氏だろう。となれば右にいる狼獣人はその奥さん、ボーダ・グロリア氏に違いない。
その二人に挟まれる形で、長耳の女性が立っている。シルキスによれば、これが柊雪乃であるらしいが、わたしには簡単に信じられなかった。
写真に写る彼女は、確かに刀を佩いてはいるが、どちらかと言えば華奢に見えたからだ。背丈も、横に並ぶ社長夫妻とあまり変わらない。
「分かるでー、ミューが思てること。見えへんねやろ?」
シルキスがニヤニヤしながら尋ねてくる。
「何がよ?」
「エリザリーグ優勝者にや。パッと見、ひょろひょろの女の子やもんな。
でも史実やで。アンタが持ってきたその日記にも、書いてあるんとちゃう?」
双月暦503年 11月1日 土曜
本当にアイツら、店を建てやがった。どんだけ荒稼ぎしたんだか。
店の落成記念に写真を撮ったそうだ。見せてもらったが、3人ともまあ、ニヤニヤしちゃって。ピースとボーダはともかく、雪乃まで。そんなに嬉しいかねぇ?
と同時に、ピースから雪乃がついに、エリザリーグに出場することが決まったと聞かされた。こっちは逆に予想通りだな。アイツならやると思った。
双月暦503年 11月21日 雷曜
今季のエリザリーグ開幕。賭けの予想材料目当てで、朝からソレっぽいのが来るわ来るわ。賭けの投票締切が昼の11時だったが、ソレまでで10万稼げた。
雪乃が出ない日でこの分だと、雪乃が出る日はとんでもない稼ぎになるんじゃないだろうか。
双月暦503年 11月24日 天曜
予想的中。雪乃情報を売っただけで、50万超えた。ありがとう、瞬殺の女神様。
今月の収支合計を確かめるのが楽しみで仕方が無い。うへへ。
ちなみに言うまでも無く、雪乃は圧勝したそうだ。次の出場日は来月の3日らしい。ソレまでにネタの仕込みしとかなきゃな。
双月暦503年 11月30日 風曜
今月の収支、プラス170万。笑いが止まらねえ。そりゃピースたちも店を建てるわな。
双月暦503年 12月18日 水曜
今日がエリザリーグの最終戦。雪乃とキングの試合だった。
結果を聞いて爆笑した。キングはまったく、雪乃に歯が立たなかったらしい。雪乃ににらまれて降参しちまったとか。
いや、よくやった! スカっとしたぜ。明日は是非、ウチで祝ってやろう。
双月暦503年 12月19日 雷曜
見事にエリザリーグ優勝を果たした雪乃を労ってやろうと、ピースたちと一緒にウチでご馳走してやった。勿論アタシのおごりだ。
今年ももうすぐ終わりだが、雪乃のおかげで大黒字だった。コレくらいしなきゃ、礼にならないよな。
双月暦503年 12月30日 火曜
今日で今年も終わり。
今年の合計は、362万2856エルの黒字。1年目からすげえ好調。いや、この稼ぎの大半は雪乃のおかげだ。来年も雪乃がいてくれるとは限らないし、今回のは特別だってコトは忘れないようにしとかなきゃな。
ピースたちに連れられて、央中天帝教の納業会に参加。めんどくさいから今まで参加しなかったけど、アタシももう、商人の端くれだからな。エリザ様に報告しとかなきゃ、バチが当たるってもんだ。
終わった後は雪乃も交えて、アタシの店で忘年会。日記付けてる今も、下で雪乃たちが寝潰れてる。アタシももう一杯飲んでから寝るつもりだ。
来年もいい年になりますように。



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