「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・湖島録 2
晴奈の話、第192話。
晴奈の逆鱗。
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2.
ミッドランドは湖の東西南北の端にある港と連絡されており、央中南部から中西部の主要な交通路となっている。
そのため国際的な色合いの強いゴールドコーストよりも、非常に多くの「狼」と「狐」を見かけた。
「『狼と狐の世界』のエキスが詰まってるよーなもんね」
「なるほど」
その「狼」と「狐」も、地方によって様々な種族に分かれるらしい。
「狼」だけをとっても、まるで大火やウィルソン家のように全身真っ黒な狼獣人もいれば、逆に雪を思わせるような銀髪・銀毛の白狼もいる。ぱっとしない赤茶けた狼の横を、息を呑むような美しい毛並みの金狼が通り過ぎて行ったりもする。
「まるで博覧会ですわね、狼獣人の」
「あっちには『狐』が固まってるわよ」
向こうの通りには、天原家を思わせる桃色の狐獣人、いかにも賢しげな銀狐、そして――。
「……おぉ、ど金髪に赤メッシュ。あれきっと、金火狐一族ね」
小鈴の言う通り、金色の毛並みをした尻尾と耳に、金髪に所々赤い毛筋の走った狐獣人が歩いている。
「……ん?」
晴奈はその毛並みに、既視感を覚えた。
「どうなさったの、セイナ?」
「いや、少し前、夢にあんな毛並みをした『狐』が……」
説明しかけたところで、晴奈はある者たちがたむろしていることに気付いた。
「……む?」
「晴奈、どしたのってば。フォルナがきょとんとしてるわよ」
「いえ、あそこに……」
晴奈が指差す先に、3人の男たちがいる。その向こうには初老の、「兎」の男性がいた。
茶髪に白い兎耳と尻尾を持ち、丸眼鏡をかけた老人を酔っ払い3人が囲み、何か叫んでいる。
「よー、じーさんよぉ」
「いきなりらけろ、かねかしてくんね?」
「やっべ、すっげもってそーだよな、おい」
酔っ払いの言う通り、老人の服装は多少くたびれているものの、それなりに身なりがいい。ざっと見た感じでは、どこかの学者風に見える。
「困るよ、君たち……」
おどおどしている老人に対し、酔っ払いたちはゲラゲラ笑いながら脅している。
「げへへ、こまるよー、だってよ!」
「わるいけろさ、おれたちもかねがないろこまんのよ」
「なー、ひとらすけらろ、おもっれよー」
3人の酔っ払いを見て、小鈴とフォルナは眉をひそめる。
「まあ、何て下劣な方たちでしょう!」
「ココも治安が悪くなったもんねぇ」
「……捨て置けぬな」
その様子を見ていた晴奈は、酔っ払いと老人の方へと歩いていく。
「あっ、セイナ!?」
フォルナが止めようとするが、晴奈は片手を挙げてそれをさえぎりつつ、そのまま輪に割って入った。
「おい、お前ら」
晴奈が酔っ払いたちに声をかけた途端、彼らは一斉に晴奈の方へと振り返った。
「だーらさー……、ああん? なんらー、このアマ?」
「じゃますんなよ、ねこおんなぁ」
「うるせえ、あっちいけ!」
酔っ払いたち三人は口々に晴奈をののしる。それでも幾分冷静に、晴奈は説得してみた。
「悪いことは言わぬ。さっさと去って、水でも飲んで寝ろ」
が、晴奈の言葉に男たちは耳を貸さない。
「あっちいけっつっれんらろが、おとこおんな!」
「てめーみらいら、むねのねーのっぽ、あいてするかよ!」
「じゃまだじゃま、このひんぬーが!」
「……何だと?」
男たちの罵倒に、晴奈の顔が引きつる。
「さっさろ、きえろ!」
酔っ払いの一人が声を荒げ、晴奈を突き飛ばそうとした。
が――。
「へぶぅ!?」
相手の腕が届く前に、晴奈の拳が酔っ払いの顔にめり込んでいた。
「貴様ら……」
鼻血を噴いて倒れた酔っぱらいに目もくれず、晴奈は残った二名をにらむ。
「去れと言ったのが聞こえぬのか! その役に立たぬ耳、両方そぎ落としてやろうかッ!」
そう言って晴奈は拳を振り上げる。
それでも、まだ状況が把握しきれていないらしい酔っ払いが、おどけた声で晴奈を抑えようとする。
「……な、なんらよー、おこんらよ、ひんぬー」「くどいッ!」
晴奈の拳がもう一度、酔っ払いを粉砕する。
「あひゅ!?」
鳩尾を殴られた男はくの字に曲がり、そのまま倒れ込む。
「あ、あ……」
「これ以上私を怒らせる前に、さっさと伸びている無礼者どもを担いで立ち去れ」
「……はひ」
残った男は慌てて倒れた仲間を引きずって、その場から逃げていった。
「いや、助かったよ。ありがとう、本当に」
晴奈に助けられた初老の兎獣人は、ぺこりと頭を下げた。
「いえ、礼など。お怪我はありませんか、ご老人?」
「ああ。この通り、何とも無い」
老人はニコリと笑い、両手を広げて元気な様子をアピールする。
「それは何より。では、失礼いたします」
晴奈も軽く頭を下げ、その場から立ち去ろうとした。
ところが――。
「ああ、待ちたまえ、君」
「おっ……?」
老人がいきなり、晴奈の手首をつかんできた。
「このまま助けられて終わり、では私の気が済まんよ。良ければ近くの店で、ご馳走させてくれないか?」
「は、はあ……」
そこへタイミングよく、小鈴とフォルナがやってきた。
「いいじゃない晴奈。コレも何かの縁よ」
「そうですわ。折角ですからいただきましょう」
「……まあ、二人がそう言うのであれば」
「お連れさん、かな?」
「ええ、はい。私はセイナ・コウ。赤毛のエルフはコスズ・タチバナで、茶髪の『狐』がフォルナ・ブラウンです」
自己紹介を受け、老人も身分を明かす。
「おお、これはご丁寧に。私の名前はラルフ・ホーランド。北方ジーン王国の大学で、教授をしておりました」
聞き捨てならない国名を聞き、晴奈は目を丸くした。
「ジーン王国!?」
「ええ、北方の。……それが何か?」
事情を知らないラルフは、きょとんとしていた。
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晴奈の逆鱗。
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ミッドランドは湖の東西南北の端にある港と連絡されており、央中南部から中西部の主要な交通路となっている。
そのため国際的な色合いの強いゴールドコーストよりも、非常に多くの「狼」と「狐」を見かけた。
「『狼と狐の世界』のエキスが詰まってるよーなもんね」
「なるほど」
その「狼」と「狐」も、地方によって様々な種族に分かれるらしい。
「狼」だけをとっても、まるで大火やウィルソン家のように全身真っ黒な狼獣人もいれば、逆に雪を思わせるような銀髪・銀毛の白狼もいる。ぱっとしない赤茶けた狼の横を、息を呑むような美しい毛並みの金狼が通り過ぎて行ったりもする。
「まるで博覧会ですわね、狼獣人の」
「あっちには『狐』が固まってるわよ」
向こうの通りには、天原家を思わせる桃色の狐獣人、いかにも賢しげな銀狐、そして――。
「……おぉ、ど金髪に赤メッシュ。あれきっと、金火狐一族ね」
小鈴の言う通り、金色の毛並みをした尻尾と耳に、金髪に所々赤い毛筋の走った狐獣人が歩いている。
「……ん?」
晴奈はその毛並みに、既視感を覚えた。
「どうなさったの、セイナ?」
「いや、少し前、夢にあんな毛並みをした『狐』が……」
説明しかけたところで、晴奈はある者たちがたむろしていることに気付いた。
「……む?」
「晴奈、どしたのってば。フォルナがきょとんとしてるわよ」
「いえ、あそこに……」
晴奈が指差す先に、3人の男たちがいる。その向こうには初老の、「兎」の男性がいた。
茶髪に白い兎耳と尻尾を持ち、丸眼鏡をかけた老人を酔っ払い3人が囲み、何か叫んでいる。
「よー、じーさんよぉ」
「いきなりらけろ、かねかしてくんね?」
「やっべ、すっげもってそーだよな、おい」
酔っ払いの言う通り、老人の服装は多少くたびれているものの、それなりに身なりがいい。ざっと見た感じでは、どこかの学者風に見える。
「困るよ、君たち……」
おどおどしている老人に対し、酔っ払いたちはゲラゲラ笑いながら脅している。
「げへへ、こまるよー、だってよ!」
「わるいけろさ、おれたちもかねがないろこまんのよ」
「なー、ひとらすけらろ、おもっれよー」
3人の酔っ払いを見て、小鈴とフォルナは眉をひそめる。
「まあ、何て下劣な方たちでしょう!」
「ココも治安が悪くなったもんねぇ」
「……捨て置けぬな」
その様子を見ていた晴奈は、酔っ払いと老人の方へと歩いていく。
「あっ、セイナ!?」
フォルナが止めようとするが、晴奈は片手を挙げてそれをさえぎりつつ、そのまま輪に割って入った。
「おい、お前ら」
晴奈が酔っ払いたちに声をかけた途端、彼らは一斉に晴奈の方へと振り返った。
「だーらさー……、ああん? なんらー、このアマ?」
「じゃますんなよ、ねこおんなぁ」
「うるせえ、あっちいけ!」
酔っ払いたち三人は口々に晴奈をののしる。それでも幾分冷静に、晴奈は説得してみた。
「悪いことは言わぬ。さっさと去って、水でも飲んで寝ろ」
が、晴奈の言葉に男たちは耳を貸さない。
「あっちいけっつっれんらろが、おとこおんな!」
「てめーみらいら、むねのねーのっぽ、あいてするかよ!」
「じゃまだじゃま、このひんぬーが!」
「……何だと?」
男たちの罵倒に、晴奈の顔が引きつる。
「さっさろ、きえろ!」
酔っ払いの一人が声を荒げ、晴奈を突き飛ばそうとした。
が――。
「へぶぅ!?」
相手の腕が届く前に、晴奈の拳が酔っ払いの顔にめり込んでいた。
「貴様ら……」
鼻血を噴いて倒れた酔っぱらいに目もくれず、晴奈は残った二名をにらむ。
「去れと言ったのが聞こえぬのか! その役に立たぬ耳、両方そぎ落としてやろうかッ!」
そう言って晴奈は拳を振り上げる。
それでも、まだ状況が把握しきれていないらしい酔っ払いが、おどけた声で晴奈を抑えようとする。
「……な、なんらよー、おこんらよ、ひんぬー」「くどいッ!」
晴奈の拳がもう一度、酔っ払いを粉砕する。
「あひゅ!?」
鳩尾を殴られた男はくの字に曲がり、そのまま倒れ込む。
「あ、あ……」
「これ以上私を怒らせる前に、さっさと伸びている無礼者どもを担いで立ち去れ」
「……はひ」
残った男は慌てて倒れた仲間を引きずって、その場から逃げていった。
「いや、助かったよ。ありがとう、本当に」
晴奈に助けられた初老の兎獣人は、ぺこりと頭を下げた。
「いえ、礼など。お怪我はありませんか、ご老人?」
「ああ。この通り、何とも無い」
老人はニコリと笑い、両手を広げて元気な様子をアピールする。
「それは何より。では、失礼いたします」
晴奈も軽く頭を下げ、その場から立ち去ろうとした。
ところが――。
「ああ、待ちたまえ、君」
「おっ……?」
老人がいきなり、晴奈の手首をつかんできた。
「このまま助けられて終わり、では私の気が済まんよ。良ければ近くの店で、ご馳走させてくれないか?」
「は、はあ……」
そこへタイミングよく、小鈴とフォルナがやってきた。
「いいじゃない晴奈。コレも何かの縁よ」
「そうですわ。折角ですからいただきましょう」
「……まあ、二人がそう言うのであれば」
「お連れさん、かな?」
「ええ、はい。私はセイナ・コウ。赤毛のエルフはコスズ・タチバナで、茶髪の『狐』がフォルナ・ブラウンです」
自己紹介を受け、老人も身分を明かす。
「おお、これはご丁寧に。私の名前はラルフ・ホーランド。北方ジーン王国の大学で、教授をしておりました」
聞き捨てならない国名を聞き、晴奈は目を丸くした。
「ジーン王国!?」
「ええ、北方の。……それが何か?」
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