蒼天剣・湖島録 42009-01-14 Wed 20:05 晴奈の話、194話目。 ミッドランドの伝説。 4. 晴奈たち三人の関心を集めたところで、ラルフは嬉しそうに語った。 「20年ほど前に、ニコルと『黒い悪魔』の取引内容を記した文書が見つかったんだ。取引はほとんど、中央大陸開発に関する利権に関するものだった――当時からカツミは、全盛期の中央政府と太いつながりがあったからね――が、その中にいくつか不自然で、不可解な条文があったんだ。 その条文とは央中開発に関することなんだが、明らかに沿線や主要な街道から離れた地域ばかりを、ニコル3世は開発したがっていたんだ。このミッドランド自体も沿岸に港を作れば、それで済む話だった。交易のため、と称してこの街を作ってはいるけども、そう言った都市機能は既に、当時のゴールドコーストが備えていた。だから、わざわざ巨額の投資をして作る必要性は無かったんだ。なのになぜ、優れた実業家であったはずのニコル3世はこんな金のかかる開発を強行したのか――この疑問を我々は何年もかけて、解析・解釈した。 そして、ある者は『ニコルの子供たちの反乱は、ニコル自身が両家への経済的、社会的攻撃として指示していたのではないか』と論じ、またある者は『央中開発は次の戦争を意図的に起こすための伏線だったのではないか』と考え――そして私は、『ミッドランドを要塞化し、両家に対する新勢力を築こうとしていたのではないか』と主張した。 まあ、これらの説は今のところ物証が出ていないから、すべて仮説なんだけどね」 「でも、言われてみれば確かにココなら湖の真ん中だし、小高い丘の上には王様の屋敷があるし、その話を聞いてアレを眺めてみると、確かにそー考えられるわね」 小鈴はカフェテラスから見える丘の、その上に建つ荘厳な屋敷を指差す。 「その、丘だけどね」 「ん?」 「……ああ、いや。順を追って話そう。 ニコル3世はゴールドマン、ネールの両家に対する反乱、独立を企て、ミッドランドやブラウンガーデンなど各所に、己の資産や私兵を大量に配備していた、とする。 しかし、彼はその反乱の準備が整う前に、71歳で亡くなってしまった。それから間もなく、妻のランニャも死去。この反乱計画は結局、不胎化――準備すら整うことも無く、消滅してしまった。その後、彼の子供たちはこれらの街を手にし、どこもそれなりに成長した。だが、このミッドランドだけはその成長の度合いが少し、いびつだったんだ。 他の国は特に緩急無くこう、直線的に成長してたんだけども、このミッドランドだけ、妙な成長曲線を描いてたんだ。何と言うか、ニコラの次の代は他と同じように直線的な成長だったんだけども、ニコラの代だけ曲線的な――逓増的と言うか、末広がりと言うか――成長をしていた。どうも、継いだ直後は相当な資金難だったらしい」 「え? でも、ニコル3世が資金を残してくれてたんじゃないの? それともニコラは商売下手だったとか?」 小鈴の反応に、ラルフはまたニヤッと笑う。 「後年の驚異的な成長率の伸びが商売下手では無いと証明している。そもそも、その資金にすら手をつけていない節もある。そしてどうやら、ニコラ以降の国王も皆、資金の存在に気付いていないらしい。 そして、さっき言っていた丘だけども、あれは元々、この島には無かったんだ。屋敷を作る際に造成したらしい」 「……え、じゃあもしかして、アレは」 「屋敷の下に造られた丘――その中には、色々ありそうじゃないか」 ラルフの話はこれで終わりだった。彼は話すだけ話して、自分から席を立ってしまった。 残された晴奈たちは茶を飲みながら、ラルフの仮説について意見を交わした。 「ニコル3世の遺産、ねぇ」 「わたくしには信じられませんわ。ゴールドマン家ゆかりの者は家族の情より、利益を優先する人々ですもの。資産に手をつけない、なんて考えられませんわ」 「ほう……」 ここで小鈴は丘を指差し、提案する。 「ま、一度行ってみない? せっかくこの街に来たんだから、名所は回ってみないと。今日はココで一泊する予定だったしね」 「ふむ。……そうですね、折角ですから行ってみましょう」 「ですわね。旅は楽しまなくては」 全員一致で、晴奈たちは丘の上にあるラーガ邸を観光することにした。 ラーガ邸はその名の通り、かつてニコラ・ネール――独立後はニコラ・ナルキステイル・ラーガと名乗っている――が居城としていた屋敷である。現在ではその1階と2階部分を観光客のために開放しており、晴奈たちが訪れた午後3時過ぎでも、客の入りは多かった。 「人ごみが激しいですね」 「ま、観光地だししゃーないわ。……んでも確かに、ありそうっちゃありそうよね、その隠し資産って」 小鈴の言う通り、屋敷は非常に大きく、そこら中に隠し扉や隠し部屋があってもおかしくない雰囲気をかもし出している。 「でも、探すのは不可能ですわね。あちこちに警備兵がいらっしゃるもの」 「そうだな。無用な騒ぎを起こす理由も無いし、我々は観光だけにとどめておこう」 「それがいーわね。……あのじーさんみたいなコト、できないし」 小鈴が晴奈とフォルナの肩をポンと叩き、廊下の方を指し示す。 「……まあ!」「度し難いな」 そこには警備兵に腕をつかまれ怒られている、ラルフの姿があった。 「だからね、君、私は怪しい者じゃ……」「はいはい、言い訳は警備員室で聞きますから」 ラルフはそのまま引っ張られていく。晴奈たち三人はその後姿を見送り、同時にため息をついた。 「……あほらしい」「ですわね」「うんうん」 結局三人は、ミッドランドで普通に観光を楽しんだ。その後ラルフに会うことは無く、彼がどうなったのかは、三人とも知る由も無かった。 しばらく後に晴奈は、そのラルフからの手紙に呼ばれ、もう一度この島に戻ってくることになる。 が、それはまた、別の機会に――。 蒼天剣・湖島録 終 |
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