「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・憐憫録 1
晴奈の話、第195話。
ついに現れた、フォルナの追っ手。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
最近、晴奈の機嫌はすこぶる良い。彼女が好きな、水辺にある街に立ち寄る機会が続いたからだ。
「ふーん、ふ、ふーん」
道中、またも鼻歌を歌っている。尻尾も耳も、ミッドランドを訪れた時と同じように、楽しげに揺れている。
「ふっふーん」
あまりに楽しそうだったので、フォルナが尋ねてきた。
「今度は何の曲ですの?」
「ふふーん、……ん? ああ、また歌っていたか。えーと、今のは……」「『千里眼鏡の夜討ち』でしょ?」
小鈴が口を挟む。
「黒白戦争時、ファスタ卿が克と協力し、北方の砦を落とした事件を謳ったものよね?」
「ええ、そうです。
小鈴殿は本当に博識ですね。何でもご存知だ」
「へっへーん」
晴奈にほめられ、小鈴は嬉しそうに胸を反らす。
「ま、ウチの一家は情報集めるのが仕事だもん」
「そうでしたね」
「こーして旅をしてんのも、情報収集なのよ」
「そうなのですか。わたくし、単純に楽しんでいらっしゃるものだとばかり思っていたのですけれども」
「ん、もちろん楽しんでるわよ? ソレにホラ、『鈴林』が旅したがってるってのもあるしー」
そう言って小鈴は「鈴林」をシャラシャラと鳴らす。
フォルナは不思議そうな顔で、その杖を眺める。
「前にも伺いましたけれど、本当にその杖に精霊が? まだ信じられませんわ」
「んなコト言ったって、ホントにいるんだけどなー。ね、晴奈?」
「え、ええ。一度確認しましたから、私もいると信じていますよ」
「信じてる、ねぇ。……ま、いるから、ホントに」
小鈴の気持ちを代弁するかのように、「鈴林」はシャラ、と鳴った。
そんな風にのんびりとしゃべりながら話すうち、三人は次の街、ルーバスポートに到着した。
「ココはもうネール公国領だから、流石に職人っぽいのが一杯いるわね」
小鈴の言う通り、街と港をつなぐ街道を、資材や製品を持った職人がせわしなく行き来している。
「この街はネール公国最大の……、って言うか唯一の港町だから、ホントに人通りが多いのよ。二人とも、はぐれないように注意してね」
「はい」
「もちろんですわ」
三人は離れないよう、できるだけ近付いて街を歩く。
「っと、コレも見とかないと」
小鈴は街道沿いの大きな掲示板の前で立ち止まる。
「コレは首都とか、大きな街によく立てられてる広域掲示板なのよ。結構、詳しい世界情勢とか載ってたりするから、ちゃんと見ておかないと。
……へー、やっぱり戦争は中央政府優勢かー。そりゃ、日上がいなきゃね。他に残ってる兵士じゃ代わりにならないだろうし、そろそろ日上が戻んないとヤバいんじゃないかしらね」
「ふむ。では、日上が央中を発つ前に追いつかなければなりませんね」
「ま、ネール公国の港はココだけだし、ココで待つって手もあるけど」
小鈴の策を聞き、晴奈は「ふむ……」と感心した声を漏らす。
「なるほど。確かに行き違いになっては元も子もありませんし、良策ですね」
「ま、他の情報も見てから決めましょ、今後の方針は。
……あら、中央政府も無駄にイケイケねぇ。クラム、また大量発行するんだって。知らないわよー、日上が戻ってきたらまた、北方の経済短観が大幅に盛り返すでしょーに。
ホントに今の中央政府って、後先考えてないわね」
「やはり黒炎殿による傀儡政権が続いていると言うのは、本当なのでしょうか」
「っつーか、単純に無能なのよ。
央北の権力者のほとんどが、昔から克にヘコヘコしてるヤツばっかだし。『代々大臣を輩出する家は、お辞儀しか覚えない』とまで言われてるしね。
んで、央南経済はー、と。……あら、晴奈。アンタん家、大儲けしてるみたいよ」
小鈴が指差した記事を見て、晴奈はまた感心する。
「『黄商会の兵器産業、拡大』ですか。抗黒戦争で得た銃器開発が、功を奏したようですね」
「そーねぇ。玄銭もここ数十年の最高値を連日更新してるわ。1クラム2.8玄銭だって。この半年でかなりの上げ幅になったのね。
こりゃ、晴奈が家に帰って来た時にはすっごいコトになってるかも知れないわね」
「うーむ、空恐ろしい」
そんな風に、晴奈と小鈴が経済談義に熱を入れていると――。
「……!」
突然、フォルナが短く悲鳴を上げた。
「ならば今持っている玄銭を換えれば、……どうした、フォルナ?」
「あ、い、いえ……」
「……あら?」
平静を装うフォルナを尻目に、小鈴がある記事に気付いた。
「もしかして、コレ?
『尋ね人:フォルナ・ブラウン(16歳)女性
背格好:152センチ 茶髪に茶色い瞳 右目尻にほくろあり 白い絹のワンピース、銀製のペンダント、銀製の腕輪着用
種族:狐獣人(耳、尻尾共に茶色)
備考:518年9月頃、ゴールドコーストから失踪 現在央中地域に滞在の可能性あり 発見者には賞金、300万エルを進呈する』。
コレさ、まずくない?」
「……う、うっ、グス」
フォルナはその場にうずくまり、泣き出してしまった。
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ついに現れた、フォルナの追っ手。
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最近、晴奈の機嫌はすこぶる良い。彼女が好きな、水辺にある街に立ち寄る機会が続いたからだ。
「ふーん、ふ、ふーん」
道中、またも鼻歌を歌っている。尻尾も耳も、ミッドランドを訪れた時と同じように、楽しげに揺れている。
「ふっふーん」
あまりに楽しそうだったので、フォルナが尋ねてきた。
「今度は何の曲ですの?」
「ふふーん、……ん? ああ、また歌っていたか。えーと、今のは……」「『千里眼鏡の夜討ち』でしょ?」
小鈴が口を挟む。
「黒白戦争時、ファスタ卿が克と協力し、北方の砦を落とした事件を謳ったものよね?」
「ええ、そうです。
小鈴殿は本当に博識ですね。何でもご存知だ」
「へっへーん」
晴奈にほめられ、小鈴は嬉しそうに胸を反らす。
「ま、ウチの一家は情報集めるのが仕事だもん」
「そうでしたね」
「こーして旅をしてんのも、情報収集なのよ」
「そうなのですか。わたくし、単純に楽しんでいらっしゃるものだとばかり思っていたのですけれども」
「ん、もちろん楽しんでるわよ? ソレにホラ、『鈴林』が旅したがってるってのもあるしー」
そう言って小鈴は「鈴林」をシャラシャラと鳴らす。
フォルナは不思議そうな顔で、その杖を眺める。
「前にも伺いましたけれど、本当にその杖に精霊が? まだ信じられませんわ」
「んなコト言ったって、ホントにいるんだけどなー。ね、晴奈?」
「え、ええ。一度確認しましたから、私もいると信じていますよ」
「信じてる、ねぇ。……ま、いるから、ホントに」
小鈴の気持ちを代弁するかのように、「鈴林」はシャラ、と鳴った。
そんな風にのんびりとしゃべりながら話すうち、三人は次の街、ルーバスポートに到着した。
「ココはもうネール公国領だから、流石に職人っぽいのが一杯いるわね」
小鈴の言う通り、街と港をつなぐ街道を、資材や製品を持った職人がせわしなく行き来している。
「この街はネール公国最大の……、って言うか唯一の港町だから、ホントに人通りが多いのよ。二人とも、はぐれないように注意してね」
「はい」
「もちろんですわ」
三人は離れないよう、できるだけ近付いて街を歩く。
「っと、コレも見とかないと」
小鈴は街道沿いの大きな掲示板の前で立ち止まる。
「コレは首都とか、大きな街によく立てられてる広域掲示板なのよ。結構、詳しい世界情勢とか載ってたりするから、ちゃんと見ておかないと。
……へー、やっぱり戦争は中央政府優勢かー。そりゃ、日上がいなきゃね。他に残ってる兵士じゃ代わりにならないだろうし、そろそろ日上が戻んないとヤバいんじゃないかしらね」
「ふむ。では、日上が央中を発つ前に追いつかなければなりませんね」
「ま、ネール公国の港はココだけだし、ココで待つって手もあるけど」
小鈴の策を聞き、晴奈は「ふむ……」と感心した声を漏らす。
「なるほど。確かに行き違いになっては元も子もありませんし、良策ですね」
「ま、他の情報も見てから決めましょ、今後の方針は。
……あら、中央政府も無駄にイケイケねぇ。クラム、また大量発行するんだって。知らないわよー、日上が戻ってきたらまた、北方の経済短観が大幅に盛り返すでしょーに。
ホントに今の中央政府って、後先考えてないわね」
「やはり黒炎殿による傀儡政権が続いていると言うのは、本当なのでしょうか」
「っつーか、単純に無能なのよ。
央北の権力者のほとんどが、昔から克にヘコヘコしてるヤツばっかだし。『代々大臣を輩出する家は、お辞儀しか覚えない』とまで言われてるしね。
んで、央南経済はー、と。……あら、晴奈。アンタん家、大儲けしてるみたいよ」
小鈴が指差した記事を見て、晴奈はまた感心する。
「『黄商会の兵器産業、拡大』ですか。抗黒戦争で得た銃器開発が、功を奏したようですね」
「そーねぇ。玄銭もここ数十年の最高値を連日更新してるわ。1クラム2.8玄銭だって。この半年でかなりの上げ幅になったのね。
こりゃ、晴奈が家に帰って来た時にはすっごいコトになってるかも知れないわね」
「うーむ、空恐ろしい」
そんな風に、晴奈と小鈴が経済談義に熱を入れていると――。
「……!」
突然、フォルナが短く悲鳴を上げた。
「ならば今持っている玄銭を換えれば、……どうした、フォルナ?」
「あ、い、いえ……」
「……あら?」
平静を装うフォルナを尻目に、小鈴がある記事に気付いた。
「もしかして、コレ?
『尋ね人:フォルナ・ブラウン(16歳)女性
背格好:152センチ 茶髪に茶色い瞳 右目尻にほくろあり 白い絹のワンピース、銀製のペンダント、銀製の腕輪着用
種族:狐獣人(耳、尻尾共に茶色)
備考:518年9月頃、ゴールドコーストから失踪 現在央中地域に滞在の可能性あり 発見者には賞金、300万エルを進呈する』。
コレさ、まずくない?」
「……う、うっ、グス」
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