「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
赤虎亭日記
赤虎亭日記 32
朱海さんの話、第32話。
双月暦522年4月と5月:帰って来た男。
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32.
双月暦522年 4月22日 雷曜
晴奈から手紙。子供が産まれたそうだ。しかも双子。
えー……そうかー……晴奈ももう人の親かー……。いや、めでたいよ? めでたいけども。でも晴奈にまで先を越されるとは思わなかった。せつねぇ。
小鈴んトコも先月、子供産まれたって手紙が来たし。シリンなんか2人目ができたって言ってたし。
あとは……ジュリアか……。アイツにまで先越されたらアタシ、失踪する気がする。だけどほとんど秒読み段階だよなぁ、もう。
双月暦522年 4月27日 氷曜
案の定。ジュリアが今度結婚するって報告してきた。コイツんトコにも小鈴と晴奈の手紙が来たんで、ソレで焦ってアプローチかけたって言ってた。まあ、そりゃな。気持ちは分かる。
で、シリンん時みたいに、ウチで披露宴半分の宴会したいんだと。ジュリアなら全然問題無し。来月の16日に予約。
コレでもう、残るはアタシだけってワケか。せつねぇ。
双月暦522年 4月28日 水曜
変な手紙が来た。差出人不明。住所は央北のリモード共和国、ペルシェビレッジってトコ。中には央南語で一筆だけ、「まだお店はやってますか?」って書いてあった。
普段なら無視するトコだが、なんか気になったんで「年始以外は年中無休。朝10時から夜21時まで営業中だよ」って返しといた。
んー……? あの字、どっかで見たような気がするんだが。
双月暦522年 4月30日 土曜
久々にイオタの夢を見た。一緒に料理してる夢だった。なつかしかったなー。アイツ、本気で行方不明になっちまったな。まだ生きてんのかね?
あの手紙に書いてあったリモード共和国ってのがドコだか分からんかったんで、入出国管理局の渡航情報課で調べてみた。とは言え「ヘブン」崩壊以降、央北は日増しに情勢悪化の一途を辿ってるって話だし、ろくな情報は無し。央北の中南部辺りだってコトくらいしか分からんかった。
でもなんでそんなトコから、アタシ宛に手紙なんか来たんだろうな?
今月の収益は60万ちょい。例年並み。
双月暦522年 5月2日 天曜
またイオタの夢。ココんトコずっとだなぁ。なんだろ、まだ未練あんのかな、アタシ? まあ、一番アリかもって思ってたのはアイツだったのは確かだし。今目の前に現れて「結婚してくれ」って言われたら、マジで受けかねんよな。……もう37歳だってのに、恥ずかしいコト妄想してるよなぁ、アタシも。
入出国管理局から、リモード共和国についてちょっと情報が入ったってコトで、連絡が来た。何でもココ最近、国家として独立宣言した村なんだそうだ。ただ、今は央北中で「ヘブン」からの独立を表明したり、勝手気ままに建国したりしてて、独立宣言自体はそんなに珍しくも無いらしい。
共和国ってコトで、政治のトップは村長のリモード氏。自治権を強めるため、私兵だか騎士団みたいなのを組織してるとか。ただ、今のトコどっかに攻め込むってうわさは無し。ホントに自警団って程度の規模らしい。
双月暦522年 5月6日 雷曜
まだ頭ん中が混乱してる。とりあえず昨日あったコト、順を追って書いていこう。
いつも通りに店を開けてすぐ、こないだリモード共和国のコトを教えてくれた管理局のポーラが来店して、すぐに来て欲しいって言われた。
店番をシリンとビートに任せて、ポーラと二人で管理局に行ったら、留置所に通された。アタシ何かしたかよ? と思ったがそう言うコトじゃなく、夕べ市国に入国しようとしたヤツの身元がはっきりしないから、誰か知ってる人はいないかって聞いたら、ソイツは「橘朱海を呼んでくれ」って。名指しで指名されたワケだ。
で、ソイツを見てみて、気を失いそうになっちまった。随分顔がこけて傷だらけになって、ひげもじゃになってて、しかも右の虎耳が半分欠けてたけど、ソイツは間違い無くイオタだったんだからな。
見た途端、マジで気を失ったらしくって、気が付いたら管理局の医務室だった。で、改めてソイツの顔を確かめに行ったんだけど、やっぱりどう見てもイオタだった。
イオタっぽいのが言うには、「数年前に殺刹峰って組織に拉致されて記憶を消されて、それからずっと組織で働いてた。だけどある時、本拠地を離れて作戦行動に出てたら、その間に組織が公安に潰されて、自分を含む部隊の全員が行き場を失ってしまった。
で、部隊長だったリモード氏と一緒に色々駆け回って村を作り、そこで何年も生活してた。でも最近、別の部隊長だったアドラーって言う魔術師が村を訪ねて、組織に消されてた記憶を元に戻してくれた。
それで自分が元々市国に住んでたイオタ・コジマだってことを思い出した途端、市国に戻って来たくてたまらなくなった」んだと。ちなみにこないだの手紙もコイツが書いたヤツだった。
で、アタシがその手紙を送った相手の橘朱海だってコトにようやく気付いて、「お久しぶりです」だとさ。ああ、マジでお久しぶりだよ。よく帰って来たな、イオタ。
ともかくコイツの身元を保証して管理局から連れ出して、今イオタはアタシん家でぐっすり寝てる。
ったく。コイツのおかげで今日は一日、店に顔を出せなかった。
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双月暦522年4月と5月:帰って来た男。
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双月暦522年 4月22日 雷曜
晴奈から手紙。子供が産まれたそうだ。しかも双子。
えー……そうかー……晴奈ももう人の親かー……。いや、めでたいよ? めでたいけども。でも晴奈にまで先を越されるとは思わなかった。せつねぇ。
小鈴んトコも先月、子供産まれたって手紙が来たし。シリンなんか2人目ができたって言ってたし。
あとは……ジュリアか……。アイツにまで先越されたらアタシ、失踪する気がする。だけどほとんど秒読み段階だよなぁ、もう。
双月暦522年 4月27日 氷曜
案の定。ジュリアが今度結婚するって報告してきた。コイツんトコにも小鈴と晴奈の手紙が来たんで、ソレで焦ってアプローチかけたって言ってた。まあ、そりゃな。気持ちは分かる。
で、シリンん時みたいに、ウチで披露宴半分の宴会したいんだと。ジュリアなら全然問題無し。来月の16日に予約。
コレでもう、残るはアタシだけってワケか。せつねぇ。
双月暦522年 4月28日 水曜
変な手紙が来た。差出人不明。住所は央北のリモード共和国、ペルシェビレッジってトコ。中には央南語で一筆だけ、「まだお店はやってますか?」って書いてあった。
普段なら無視するトコだが、なんか気になったんで「年始以外は年中無休。朝10時から夜21時まで営業中だよ」って返しといた。
んー……? あの字、どっかで見たような気がするんだが。
双月暦522年 4月30日 土曜
久々にイオタの夢を見た。一緒に料理してる夢だった。なつかしかったなー。アイツ、本気で行方不明になっちまったな。まだ生きてんのかね?
あの手紙に書いてあったリモード共和国ってのがドコだか分からんかったんで、入出国管理局の渡航情報課で調べてみた。とは言え「ヘブン」崩壊以降、央北は日増しに情勢悪化の一途を辿ってるって話だし、ろくな情報は無し。央北の中南部辺りだってコトくらいしか分からんかった。
でもなんでそんなトコから、アタシ宛に手紙なんか来たんだろうな?
今月の収益は60万ちょい。例年並み。
双月暦522年 5月2日 天曜
またイオタの夢。ココんトコずっとだなぁ。なんだろ、まだ未練あんのかな、アタシ? まあ、一番アリかもって思ってたのはアイツだったのは確かだし。今目の前に現れて「結婚してくれ」って言われたら、マジで受けかねんよな。……もう37歳だってのに、恥ずかしいコト妄想してるよなぁ、アタシも。
入出国管理局から、リモード共和国についてちょっと情報が入ったってコトで、連絡が来た。何でもココ最近、国家として独立宣言した村なんだそうだ。ただ、今は央北中で「ヘブン」からの独立を表明したり、勝手気ままに建国したりしてて、独立宣言自体はそんなに珍しくも無いらしい。
共和国ってコトで、政治のトップは村長のリモード氏。自治権を強めるため、私兵だか騎士団みたいなのを組織してるとか。ただ、今のトコどっかに攻め込むってうわさは無し。ホントに自警団って程度の規模らしい。
双月暦522年 5月6日 雷曜
まだ頭ん中が混乱してる。とりあえず昨日あったコト、順を追って書いていこう。
いつも通りに店を開けてすぐ、こないだリモード共和国のコトを教えてくれた管理局のポーラが来店して、すぐに来て欲しいって言われた。
店番をシリンとビートに任せて、ポーラと二人で管理局に行ったら、留置所に通された。アタシ何かしたかよ? と思ったがそう言うコトじゃなく、夕べ市国に入国しようとしたヤツの身元がはっきりしないから、誰か知ってる人はいないかって聞いたら、ソイツは「橘朱海を呼んでくれ」って。名指しで指名されたワケだ。
で、ソイツを見てみて、気を失いそうになっちまった。随分顔がこけて傷だらけになって、ひげもじゃになってて、しかも右の虎耳が半分欠けてたけど、ソイツは間違い無くイオタだったんだからな。
見た途端、マジで気を失ったらしくって、気が付いたら管理局の医務室だった。で、改めてソイツの顔を確かめに行ったんだけど、やっぱりどう見てもイオタだった。
イオタっぽいのが言うには、「数年前に殺刹峰って組織に拉致されて記憶を消されて、それからずっと組織で働いてた。だけどある時、本拠地を離れて作戦行動に出てたら、その間に組織が公安に潰されて、自分を含む部隊の全員が行き場を失ってしまった。
で、部隊長だったリモード氏と一緒に色々駆け回って村を作り、そこで何年も生活してた。でも最近、別の部隊長だったアドラーって言う魔術師が村を訪ねて、組織に消されてた記憶を元に戻してくれた。
それで自分が元々市国に住んでたイオタ・コジマだってことを思い出した途端、市国に戻って来たくてたまらなくなった」んだと。ちなみにこないだの手紙もコイツが書いたヤツだった。
で、アタシがその手紙を送った相手の橘朱海だってコトにようやく気付いて、「お久しぶりです」だとさ。ああ、マジでお久しぶりだよ。よく帰って来たな、イオタ。
ともかくコイツの身元を保証して管理局から連れ出して、今イオタはアタシん家でぐっすり寝てる。
ったく。コイツのおかげで今日は一日、店に顔を出せなかった。



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