「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・憐憫録 2
晴奈の話、第196話。
晴奈の意外な対応。
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2.
晴奈は初め、「フォルナとの旅はルーバスポートまで」と言っていたし、この街に来るまではずっとそのつもりだった。その言葉に従うならば、晴奈はこの状況で諭すか何かしてフォルナを帰すことこそ、「正しい行動」だったのだろう。
しかし何故か、晴奈は掲示板の前にうずくまって泣き出したフォルナに、こう声をかけてしまった。
「フォルナ、ここは目立つ。とりあえず私の帽子をかけて、宿まで行こう」
「グス、グス……、え?」
「ほら」
晴奈は脇に抱えていた旅帽をフォルナにかけさせ、手を差し出した。
「晴奈、アンタ確か、ココでフォルナと別れるって」
「ともかく、このまま放っておくわけには行きません。まずは落ち着かせねば」
「……ま、そーね。ホラ、フォルナ。行きましょ」
「え、ええ」
フォルナは晴奈と小鈴に抱きかかえられるように立ち上がり、フラフラと歩き出した。
一方、その頃。
晴奈たちが歩いている街道から、一つ東にずれた街道で、あの二人組がフォルナの捜索を行っていた。
フォルナの護衛であった、オルソーとグリーズである。
「どこにいるのか、殿下は……」
「まったくだ。既に半月以上は経っている……。一体どこへ消えてしまわれたのやら」
この二人は1週間以上ゴールドコーストを捜索したものの、結局フォルナを見つけることができなかった。仕方なく故郷、グラーナ王国に戻り、事の次第をフォルナの父親である国王に伝えたが、当然ながら激怒した。
国王にとってフォルナは大事な娘であると同時に、今後の政局における大事な「駒」でもある。すぐに総力を挙げ、フォルナを捜索するように指示した。
そしてオルソーたちもそれに駆り出され、この街を訪れたのである。
「とにかく央中全土を探す、と言うことで来てはみたが……」
「ネール公国領だからな、ここは。殿下はあまり、始祖の両家を好まれなかったようだし、来ている可能性は少ないと思うんだが」
「やっぱりお前もそう思うか? 俺もだ、実を言うと」
「だよな。……しかし、お上から『ここを探せ』と指示されているし」
「……探さないわけには、いかんよなぁ」
「はぁ……。殿下がうらやましいよ。好き勝手できて」
オルソーたちは同時にため息をついた。
「まったくだ。俺も自由になりたい」
「だよな。宮仕えは辛いな、本当に」
二人はとぼとぼと、街道を南へ歩いていった。
その背後を、晴奈たちが西から北へと通り抜ける。
「あそこに宿がある。とりあえず、そこに泊まろう」
「はい……」
フォルナはずっとうつむいたまま、小さく首を振る。
「フォルナ、そんなに縮こまってちゃ逆に怪しまれるわ。もっと胸張って」
「は、はい」
小鈴に言われた通りに、フォルナは背を伸ばす。
「さ、入るぞ」
晴奈はフォルナの手を引き、宿屋へと入った。小鈴は一瞬だけ辺りを見回し、そのまま後へと続く。
「らっしゃい……」
非常にやる気の無さそうな店主が、カウンターからのそっと顔を上げて応対する。
「宿を取りたいのだが、空いているか?」
「ああ、空いてるよ。何人?」
「3人だ」
「ちょっと待ってくれよ。……ふあ、あ」
店主はあくび混じりに宿帳を広げ、部屋を確認する。
「……ん、ああ。4人用の部屋が空いてるよ。一泊の料金は8000エル。ご飯なし、風呂あり。それでいい?」
「ああ、よろしく頼む」
「んじゃ、ここに名前書いて。3人分ね」
店主はのそのそと、宿帳とペンを晴奈に差し出す。晴奈は一瞬フォルナの方をチラ、と見て、こう書いた。
(本名はまずいだろうな。……『メイナ・チェスター』、『ベル・タチアナ』、……『トール・ブラス』)
「……ん、よし。そんじゃこれ、鍵ね」
店主は宿帳を取り、名前を確認しながら鍵を渡してきた。小鈴はフォルナの手を引き、そっと2階に上がる。
「さ、行きましょフォ……、トール」
「は、はい」
一瞬ひやりとしつつも、晴奈は小鈴の後へついて行った。
晴奈の後姿を見送った店主は、もう一度宿帳を確認する。
「フォ、って何だ……?
『トール・ブラス』……『Tol・Brass』、ねぇ。……そう言や、昨日来た尋ね人のチラシ……」
店主はきょろきょろと辺りを見回し、壁に貼ってあったチラシを確認する。
「『フォルナ・ブラウン』……『Folna・Brown』、……TとFと換えて、Rから後変えたら、……まさかなぁ。パッと見た感じ、『狐』っぽかったけど……」
店主はもう一度確認しようと思ったが、あまりに眠たかったので放っておいた。
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晴奈の意外な対応。
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晴奈は初め、「フォルナとの旅はルーバスポートまで」と言っていたし、この街に来るまではずっとそのつもりだった。その言葉に従うならば、晴奈はこの状況で諭すか何かしてフォルナを帰すことこそ、「正しい行動」だったのだろう。
しかし何故か、晴奈は掲示板の前にうずくまって泣き出したフォルナに、こう声をかけてしまった。
「フォルナ、ここは目立つ。とりあえず私の帽子をかけて、宿まで行こう」
「グス、グス……、え?」
「ほら」
晴奈は脇に抱えていた旅帽をフォルナにかけさせ、手を差し出した。
「晴奈、アンタ確か、ココでフォルナと別れるって」
「ともかく、このまま放っておくわけには行きません。まずは落ち着かせねば」
「……ま、そーね。ホラ、フォルナ。行きましょ」
「え、ええ」
フォルナは晴奈と小鈴に抱きかかえられるように立ち上がり、フラフラと歩き出した。
一方、その頃。
晴奈たちが歩いている街道から、一つ東にずれた街道で、あの二人組がフォルナの捜索を行っていた。
フォルナの護衛であった、オルソーとグリーズである。
「どこにいるのか、殿下は……」
「まったくだ。既に半月以上は経っている……。一体どこへ消えてしまわれたのやら」
この二人は1週間以上ゴールドコーストを捜索したものの、結局フォルナを見つけることができなかった。仕方なく故郷、グラーナ王国に戻り、事の次第をフォルナの父親である国王に伝えたが、当然ながら激怒した。
国王にとってフォルナは大事な娘であると同時に、今後の政局における大事な「駒」でもある。すぐに総力を挙げ、フォルナを捜索するように指示した。
そしてオルソーたちもそれに駆り出され、この街を訪れたのである。
「とにかく央中全土を探す、と言うことで来てはみたが……」
「ネール公国領だからな、ここは。殿下はあまり、始祖の両家を好まれなかったようだし、来ている可能性は少ないと思うんだが」
「やっぱりお前もそう思うか? 俺もだ、実を言うと」
「だよな。……しかし、お上から『ここを探せ』と指示されているし」
「……探さないわけには、いかんよなぁ」
「はぁ……。殿下がうらやましいよ。好き勝手できて」
オルソーたちは同時にため息をついた。
「まったくだ。俺も自由になりたい」
「だよな。宮仕えは辛いな、本当に」
二人はとぼとぼと、街道を南へ歩いていった。
その背後を、晴奈たちが西から北へと通り抜ける。
「あそこに宿がある。とりあえず、そこに泊まろう」
「はい……」
フォルナはずっとうつむいたまま、小さく首を振る。
「フォルナ、そんなに縮こまってちゃ逆に怪しまれるわ。もっと胸張って」
「は、はい」
小鈴に言われた通りに、フォルナは背を伸ばす。
「さ、入るぞ」
晴奈はフォルナの手を引き、宿屋へと入った。小鈴は一瞬だけ辺りを見回し、そのまま後へと続く。
「らっしゃい……」
非常にやる気の無さそうな店主が、カウンターからのそっと顔を上げて応対する。
「宿を取りたいのだが、空いているか?」
「ああ、空いてるよ。何人?」
「3人だ」
「ちょっと待ってくれよ。……ふあ、あ」
店主はあくび混じりに宿帳を広げ、部屋を確認する。
「……ん、ああ。4人用の部屋が空いてるよ。一泊の料金は8000エル。ご飯なし、風呂あり。それでいい?」
「ああ、よろしく頼む」
「んじゃ、ここに名前書いて。3人分ね」
店主はのそのそと、宿帳とペンを晴奈に差し出す。晴奈は一瞬フォルナの方をチラ、と見て、こう書いた。
(本名はまずいだろうな。……『メイナ・チェスター』、『ベル・タチアナ』、……『トール・ブラス』)
「……ん、よし。そんじゃこれ、鍵ね」
店主は宿帳を取り、名前を確認しながら鍵を渡してきた。小鈴はフォルナの手を引き、そっと2階に上がる。
「さ、行きましょフォ……、トール」
「は、はい」
一瞬ひやりとしつつも、晴奈は小鈴の後へついて行った。
晴奈の後姿を見送った店主は、もう一度宿帳を確認する。
「フォ、って何だ……?
『トール・ブラス』……『Tol・Brass』、ねぇ。……そう言や、昨日来た尋ね人のチラシ……」
店主はきょろきょろと辺りを見回し、壁に貼ってあったチラシを確認する。
「『フォルナ・ブラウン』……『Folna・Brown』、……TとFと換えて、Rから後変えたら、……まさかなぁ。パッと見た感じ、『狐』っぽかったけど……」
店主はもう一度確認しようと思ったが、あまりに眠たかったので放っておいた。



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