「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
赤虎亭日記
赤虎亭日記 47
朱海さんの話、第47話。
双月暦545年7月:最後のページ。
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47.
双月暦545年 7月10日 雷曜
海悠から怪しまれた。「最近、煙草吸ってないけどどうしたの?」っつって。何とかイオタがごまかしてくれたが、やっぱり不自然なのか。
つってもなぁ。確かに煙草吸いたいのは山々なんだけども、吸うと咳止めが効かなくなるだろうし。結婚式でゲホゲホ咳しまくって場をブチ壊しにしたくないからなぁ。
まあ、その他の準備は着々整ってるから、後はアタシがシャキッとしてれば問題無いはずだ。後半月ちょいだし、もう少しの我慢だ。
双月暦545年 7月14日 火曜
ヤベえ。血吐いた。つっても掌に隠せるくらいだけども。もしコレが厨房の中だったらと思うとゾッとするぜ。寝床で良かった。
ただ、イオタには滅茶苦茶心配された。大丈夫、……って言い切れないのが情けない。マジで大丈夫じゃないんだし。
とりあえず海悠にはごまかして、モニカの病院に行く。幸い、夜中に咳し過ぎてのどが傷ついただけだってコトらしい。ただ、やっぱりいい傾向じゃないから、できる限り病院に来い、と言われた。「本当なら入院すべきなんだけど」とも。そんなにヤバいのか?
とは言え、モニカもアタシの事情を分かってくれてるんで、ソコまで強くは言わなかった。でも目がマジだった。
入院かー。店の引き継ぎ、早い目にやっとかないとまずいなぁ。
双月暦545年 7月15日 氷曜
ウィルを呼んで、海悠と店のコトについて話した。病気のコトは伏せて、「来月には隠居しようと思ってる」って体で、店は海悠に譲るコト、海悠が継いだ後はできる限り助けてやってほしいってコトを伝えておいた。
ウィルはマジでいい子だと思った。「任せて下さい」ってハッキリ答えてくれた。海悠はしっかりしてるし、婿がコレなら安心だな。
双月暦545年 7月19日 風曜
まただよ。起きたら吐血。この前より多い。枕に付いちまった。
速攻でモニカんトコに行く。案の定、「薬が段々効かなくなってきてる」と。病状も悪くなってきてるそうだ。煙草やめてるのに。
帰って来たら海悠から根掘り葉掘り聞かれた。枕の血は鼻血だっつっといたが、病院に行ったのはごまかすのに苦労した。一応、「朝から鼻血出したなんて滅多に無いから不安に思った」っつっといたが、明らかに信じてない顔だった。
コレはバレたかも知れんな。でも式はやめさせない。
双月暦545年 7月20日 天曜
案の定、海悠から「しばらく休んでて」って言われた。まあ、モニカからも「病状悪化の原因は仕事のし過ぎ」って言われてたし、お言葉に甘えるコトにした。
って言うか、海悠からは病気のコトについて何にも聞いてこない。アイツのコトだから勘付きはしてるだろうけど、やっぱり親のそーゆーコトを聞くのは怖いのかな。アタシにも覚えがあるし。
双月暦545年 7月22日 氷曜
2日ぐっすり寝たら、のどの調子も戻って来たらしい。3日ぶりに厨房に立った。
でも夕方くらいになって、海悠が「無理しない方がいい」っつって止めてきた。やっぱり気付いてるんだな、コイツ。
揉めるのもアレだし、素直に従った。明日以降も多分、同じようなペースになるかも知れん。
双月暦545年 7月25日 土曜
明後日には海悠の結婚式だ。なーんか、ココ数日あっと言う間だったんで、感慨深くないなと言うか何と言うか。
で、もうキャンセルできるようなタイミングじゃないし、海悠が気付いてるのも分かってるから、正直に病気のコトを話した。案の定、「やっぱり」って言われた。
情けない話だが、海悠はアタシの考えを見抜いてたらしい。病気だなんだって話が広まって式がキャンセルになるのは嫌だから、絶対言わない、……ってアタシが思ってたコトはバレバレだったようだ。
で、告白したところで、海悠が泣き出した。「まだ死んで欲しくない。もっと色々教えてほしいし、話もいっぱいしたい」っつって。
アタシも泣いた。アタシだってまだ長生きしたいし、孫も見たい。教えなきゃならんコトもまだある。どんだけ話したって足りやしない。
でも仕方無いんだ。そう思うしか無いんだよ。
双月暦545年 7月27日 天曜
海悠とウィルの結婚式。幸い、今日は体調が良かった。咳止めもいらなかった。
教会でシルビアと一緒に誓いを見届けて、後はアタシの店で披露宴。で、ココで明日から、海悠が店を継ぐコトを発表した。アタシはそのまま隠居させてもらう、とも。
ただ、アタシが病気だってコトは伏せておいた。折角の良い日に、アタシの話なんかで沈ませたくなんかなかったしな。
式は最後まで、楽しい雰囲気で進んだ。本当に良かった。
コレで心残りは無い。
日記は、ここで終わっていた。後には白紙のページが続いている。
どこかの小説であれば、最後のページにポエムなり誰かへのメッセージなりが書かれていることもあっただろうが、この日記は去年の7月27日以降、最後まで間違い無く白紙だった。
どうやら本当に、彼女はこの日を最後と決めていたのだろう。自分が「赤虎亭」の主人として振る舞う日は、ここまでである、……と。
わたしは日記を抱きしめ、泣いていた。
やはり、この日記は他の人に見せるべきではないように思えた。
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双月暦545年7月:最後のページ。
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双月暦545年 7月10日 雷曜
海悠から怪しまれた。「最近、煙草吸ってないけどどうしたの?」っつって。何とかイオタがごまかしてくれたが、やっぱり不自然なのか。
つってもなぁ。確かに煙草吸いたいのは山々なんだけども、吸うと咳止めが効かなくなるだろうし。結婚式でゲホゲホ咳しまくって場をブチ壊しにしたくないからなぁ。
まあ、その他の準備は着々整ってるから、後はアタシがシャキッとしてれば問題無いはずだ。後半月ちょいだし、もう少しの我慢だ。
双月暦545年 7月14日 火曜
ヤベえ。血吐いた。つっても掌に隠せるくらいだけども。もしコレが厨房の中だったらと思うとゾッとするぜ。寝床で良かった。
ただ、イオタには滅茶苦茶心配された。大丈夫、……って言い切れないのが情けない。マジで大丈夫じゃないんだし。
とりあえず海悠にはごまかして、モニカの病院に行く。幸い、夜中に咳し過ぎてのどが傷ついただけだってコトらしい。ただ、やっぱりいい傾向じゃないから、できる限り病院に来い、と言われた。「本当なら入院すべきなんだけど」とも。そんなにヤバいのか?
とは言え、モニカもアタシの事情を分かってくれてるんで、ソコまで強くは言わなかった。でも目がマジだった。
入院かー。店の引き継ぎ、早い目にやっとかないとまずいなぁ。
双月暦545年 7月15日 氷曜
ウィルを呼んで、海悠と店のコトについて話した。病気のコトは伏せて、「来月には隠居しようと思ってる」って体で、店は海悠に譲るコト、海悠が継いだ後はできる限り助けてやってほしいってコトを伝えておいた。
ウィルはマジでいい子だと思った。「任せて下さい」ってハッキリ答えてくれた。海悠はしっかりしてるし、婿がコレなら安心だな。
双月暦545年 7月19日 風曜
まただよ。起きたら吐血。この前より多い。枕に付いちまった。
速攻でモニカんトコに行く。案の定、「薬が段々効かなくなってきてる」と。病状も悪くなってきてるそうだ。煙草やめてるのに。
帰って来たら海悠から根掘り葉掘り聞かれた。枕の血は鼻血だっつっといたが、病院に行ったのはごまかすのに苦労した。一応、「朝から鼻血出したなんて滅多に無いから不安に思った」っつっといたが、明らかに信じてない顔だった。
コレはバレたかも知れんな。でも式はやめさせない。
双月暦545年 7月20日 天曜
案の定、海悠から「しばらく休んでて」って言われた。まあ、モニカからも「病状悪化の原因は仕事のし過ぎ」って言われてたし、お言葉に甘えるコトにした。
って言うか、海悠からは病気のコトについて何にも聞いてこない。アイツのコトだから勘付きはしてるだろうけど、やっぱり親のそーゆーコトを聞くのは怖いのかな。アタシにも覚えがあるし。
双月暦545年 7月22日 氷曜
2日ぐっすり寝たら、のどの調子も戻って来たらしい。3日ぶりに厨房に立った。
でも夕方くらいになって、海悠が「無理しない方がいい」っつって止めてきた。やっぱり気付いてるんだな、コイツ。
揉めるのもアレだし、素直に従った。明日以降も多分、同じようなペースになるかも知れん。
双月暦545年 7月25日 土曜
明後日には海悠の結婚式だ。なーんか、ココ数日あっと言う間だったんで、感慨深くないなと言うか何と言うか。
で、もうキャンセルできるようなタイミングじゃないし、海悠が気付いてるのも分かってるから、正直に病気のコトを話した。案の定、「やっぱり」って言われた。
情けない話だが、海悠はアタシの考えを見抜いてたらしい。病気だなんだって話が広まって式がキャンセルになるのは嫌だから、絶対言わない、……ってアタシが思ってたコトはバレバレだったようだ。
で、告白したところで、海悠が泣き出した。「まだ死んで欲しくない。もっと色々教えてほしいし、話もいっぱいしたい」っつって。
アタシも泣いた。アタシだってまだ長生きしたいし、孫も見たい。教えなきゃならんコトもまだある。どんだけ話したって足りやしない。
でも仕方無いんだ。そう思うしか無いんだよ。
双月暦545年 7月27日 天曜
海悠とウィルの結婚式。幸い、今日は体調が良かった。咳止めもいらなかった。
教会でシルビアと一緒に誓いを見届けて、後はアタシの店で披露宴。で、ココで明日から、海悠が店を継ぐコトを発表した。アタシはそのまま隠居させてもらう、とも。
ただ、アタシが病気だってコトは伏せておいた。折角の良い日に、アタシの話なんかで沈ませたくなんかなかったしな。
式は最後まで、楽しい雰囲気で進んだ。本当に良かった。
コレで心残りは無い。
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どうやら本当に、彼女はこの日を最後と決めていたのだろう。自分が「赤虎亭」の主人として振る舞う日は、ここまでである、……と。
わたしは日記を抱きしめ、泣いていた。
やはり、この日記は他の人に見せるべきではないように思えた。
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