「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・憐憫録 4
晴奈の話、第198話。
三人の気持ち。
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4.
とりあえず、このまま宿にいるのはまずいと小鈴は判断した。
「あの店主が寝てた横に、尋ね人のチラシが貼ってあったわ。多分、フォルナのも貼られてる。あの店主もずーっと寝ててはくれないだろうし、もしかしたらもう気付いてるかも知れない。
とは言え日の高いうちに出ると、それはそれで気付かれるかも知れないから、出るのは夕方になってからよ。……それと、準備も色々しなきゃ」
「準備?」
聞き返したフォルナに、小鈴は部屋を見回してから説明した。
「アンタがその格好のままじゃ、気付かれる可能性は高いもん。服装とか、髪とか、ちょこっといじらないと。
……そーね、晴奈。染髪剤と布、買ってきて。あ、何色がいい、フォルナ?」
「え? えっと、では、黒髪に。服は、青色が……」「晴奈と同じ格好になっちゃうじゃん、それじゃ。ペアルックじゃ目立っちゃうし、ちょっと変えた方がいいわね」
小鈴の指摘を受け、フォルナはもう一度考える。
「……では、髪は金色で。服は、緑色にします」
「よっしゃ、んじゃ買ってきてね。あ、なるべく離れたところを選んで買うのよ」
「了解しました。それでは行ってまいります」
晴奈はさっとメモを取り、部屋を離れた。二人きりになったところで、小鈴は小さくため息をついた。
「ふー……、ドキドキするわ」
「すみません、本当に」
「いーのよ。三人旅も、なかなか楽しいし。……んでも、晴奈には旅の目的があるのよ? 彼女、それを達成したら国に帰っちゃうはずだけど、その後はどうするつもり?」
そう問われ、フォルナは沈黙する。
「……」
「何なら、あたしと二人旅?」
「それも、いいかも知れませんわね」
「んなコト言って、やっぱり晴奈と一緒にいたいんじゃない?」
小鈴の言葉に、フォルナはほんのり顔を赤くする。
「……そうですわね、ご一緒したいですわ」
「やっぱねー。アンタ、女だって分かっても、まだ晴奈のコト好きなんじゃない?」
「そう言ってしまわれると、語弊がありますけれど……」
間を置いて、フォルナはうなずいた。
「恋愛感情ではなく、一人の人間と言うか、……姉のように、慕っておりますわ」
「それも、やっぱりって感じ。……んふふ」
小鈴はフォルナの頭をクシャクシャと撫でながら、クスクスと笑った。
30分ほどして、晴奈が帰って来た。
「ただいま戻りました」
「よし、準備万端ね。んじゃ、あたしは服作るから、晴奈は髪を染めたげて」
「はい」
晴奈とフォルナは浴室に向かい、そこで肌着姿になる。
「では、染めるぞ」
「はい」
フォルナを椅子に座らせ、肩までかかっているストレートな髪に染料を塗りつけていく。小麦色だった茶色い髪が、少しずつ金色に染まっていく。フォルナは浴室の鏡でそれを確認しながら、ぼそっとつぶやいた。
「……本当に、わたくしのわがままのせいで、セイナたちに迷惑をかけてしまって」
「何だ、水臭い。私も小鈴殿も、『助ける』と言ったのだ。気にするな、フォルナ」
染料は耳や尻尾には刺激が強すぎるため、その辺りは避けて染めていく。
「……お姉さま」
「え?」
フォルナはクスっと笑い、もう一度呼ぶ。
「お姉さま」
「……何だ、フォルナ」
鏡越しに、気恥ずかしそうにする晴奈の顔が見える。
「呼んでみただけですわ。……うふふっ」
「……まったく、気付けば妹や弟が増えるな、私は」
「セイナは天性の姉気質がありますもの」
「何だ、それは」
「コスズさんは『姐御』と言う感じがいたしますけれど、セイナは『姉』ですわ。三人で旅をしていて、わたくしずっと、そう思っておりましたわ」
「わけが分からぬな。どう違うものか」
苦笑する晴奈を見て、フォルナもクスクスと笑う。そうしているうちにフォルナの髪は染め終わり、綺麗な金色になった。
「……と、後はこのまま30分ほど待つだけだな。風邪を引くといけないし、何か羽織るものを持って来よう」
「はい。……あの、良ければ後で、一緒に入浴いたしませんこと?」
「そうだな。私も多少、体が冷えた。急がねばならぬし、一緒に入るか」
1時間後、小鈴の方も服が仕上がり、フォルナはそれを着た。
「んじゃ、あたしもお風呂入ってくるから、その間に準備済ませといてねっ」
「はい」
「承知」
小鈴は着替えを持って浴室に入り、顔だけを出してフォルナに声をかけた。
「似合ってるわよ、金髪。それも麦って感じ」
「えへ……」
麦のようだと言われたのが嬉しかったのか、フォルナは恥ずかしそうに微笑んだ。
「ほう。良く見てみれば、その服」
「え?」
晴奈はフォルナが着た服をながめ、感心した声を上げる。
「央中で朱海殿……、小鈴殿の従姉妹が着ていたものに、よく似ているな」
「そうなのですか? では、これも央南の服装と?」
「まあ、かなり近いが、央中の雰囲気も出ている。……小鈴殿は、なかなかいい腕をしているな。この道でも、繁盛しそうだ」
そんなことを言っていると、浴室から返事が返ってきた。
「ま、朱海の店のもあたしがデザインしたんだけどね。でもそれ趣味だし、似たようなのしか作れないし。あたしはやっぱり、旅して回る方が好きよー」
「……そうですか」
「地獄耳ですわね、コスズさん」
晴奈とフォルナはまた、一緒に笑った。
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とりあえず、このまま宿にいるのはまずいと小鈴は判断した。
「あの店主が寝てた横に、尋ね人のチラシが貼ってあったわ。多分、フォルナのも貼られてる。あの店主もずーっと寝ててはくれないだろうし、もしかしたらもう気付いてるかも知れない。
とは言え日の高いうちに出ると、それはそれで気付かれるかも知れないから、出るのは夕方になってからよ。……それと、準備も色々しなきゃ」
「準備?」
聞き返したフォルナに、小鈴は部屋を見回してから説明した。
「アンタがその格好のままじゃ、気付かれる可能性は高いもん。服装とか、髪とか、ちょこっといじらないと。
……そーね、晴奈。染髪剤と布、買ってきて。あ、何色がいい、フォルナ?」
「え? えっと、では、黒髪に。服は、青色が……」「晴奈と同じ格好になっちゃうじゃん、それじゃ。ペアルックじゃ目立っちゃうし、ちょっと変えた方がいいわね」
小鈴の指摘を受け、フォルナはもう一度考える。
「……では、髪は金色で。服は、緑色にします」
「よっしゃ、んじゃ買ってきてね。あ、なるべく離れたところを選んで買うのよ」
「了解しました。それでは行ってまいります」
晴奈はさっとメモを取り、部屋を離れた。二人きりになったところで、小鈴は小さくため息をついた。
「ふー……、ドキドキするわ」
「すみません、本当に」
「いーのよ。三人旅も、なかなか楽しいし。……んでも、晴奈には旅の目的があるのよ? 彼女、それを達成したら国に帰っちゃうはずだけど、その後はどうするつもり?」
そう問われ、フォルナは沈黙する。
「……」
「何なら、あたしと二人旅?」
「それも、いいかも知れませんわね」
「んなコト言って、やっぱり晴奈と一緒にいたいんじゃない?」
小鈴の言葉に、フォルナはほんのり顔を赤くする。
「……そうですわね、ご一緒したいですわ」
「やっぱねー。アンタ、女だって分かっても、まだ晴奈のコト好きなんじゃない?」
「そう言ってしまわれると、語弊がありますけれど……」
間を置いて、フォルナはうなずいた。
「恋愛感情ではなく、一人の人間と言うか、……姉のように、慕っておりますわ」
「それも、やっぱりって感じ。……んふふ」
小鈴はフォルナの頭をクシャクシャと撫でながら、クスクスと笑った。
30分ほどして、晴奈が帰って来た。
「ただいま戻りました」
「よし、準備万端ね。んじゃ、あたしは服作るから、晴奈は髪を染めたげて」
「はい」
晴奈とフォルナは浴室に向かい、そこで肌着姿になる。
「では、染めるぞ」
「はい」
フォルナを椅子に座らせ、肩までかかっているストレートな髪に染料を塗りつけていく。小麦色だった茶色い髪が、少しずつ金色に染まっていく。フォルナは浴室の鏡でそれを確認しながら、ぼそっとつぶやいた。
「……本当に、わたくしのわがままのせいで、セイナたちに迷惑をかけてしまって」
「何だ、水臭い。私も小鈴殿も、『助ける』と言ったのだ。気にするな、フォルナ」
染料は耳や尻尾には刺激が強すぎるため、その辺りは避けて染めていく。
「……お姉さま」
「え?」
フォルナはクスっと笑い、もう一度呼ぶ。
「お姉さま」
「……何だ、フォルナ」
鏡越しに、気恥ずかしそうにする晴奈の顔が見える。
「呼んでみただけですわ。……うふふっ」
「……まったく、気付けば妹や弟が増えるな、私は」
「セイナは天性の姉気質がありますもの」
「何だ、それは」
「コスズさんは『姐御』と言う感じがいたしますけれど、セイナは『姉』ですわ。三人で旅をしていて、わたくしずっと、そう思っておりましたわ」
「わけが分からぬな。どう違うものか」
苦笑する晴奈を見て、フォルナもクスクスと笑う。そうしているうちにフォルナの髪は染め終わり、綺麗な金色になった。
「……と、後はこのまま30分ほど待つだけだな。風邪を引くといけないし、何か羽織るものを持って来よう」
「はい。……あの、良ければ後で、一緒に入浴いたしませんこと?」
「そうだな。私も多少、体が冷えた。急がねばならぬし、一緒に入るか」
1時間後、小鈴の方も服が仕上がり、フォルナはそれを着た。
「んじゃ、あたしもお風呂入ってくるから、その間に準備済ませといてねっ」
「はい」
「承知」
小鈴は着替えを持って浴室に入り、顔だけを出してフォルナに声をかけた。
「似合ってるわよ、金髪。それも麦って感じ」
「えへ……」
麦のようだと言われたのが嬉しかったのか、フォルナは恥ずかしそうに微笑んだ。
「ほう。良く見てみれば、その服」
「え?」
晴奈はフォルナが着た服をながめ、感心した声を上げる。
「央中で朱海殿……、小鈴殿の従姉妹が着ていたものに、よく似ているな」
「そうなのですか? では、これも央南の服装と?」
「まあ、かなり近いが、央中の雰囲気も出ている。……小鈴殿は、なかなかいい腕をしているな。この道でも、繁盛しそうだ」
そんなことを言っていると、浴室から返事が返ってきた。
「ま、朱海の店のもあたしがデザインしたんだけどね。でもそれ趣味だし、似たようなのしか作れないし。あたしはやっぱり、旅して回る方が好きよー」
「……そうですか」
「地獄耳ですわね、コスズさん」
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