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黄輪雑貨本店 新館


    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 5 ~銃声は7回~ 4

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    ウエスタン小説、第4話。
    語学と話術。

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    4.
     翌日になり、エミルたちは町に出ていた。
    「うー……、気持ち悪りぃ。日光が体中に突き刺さってくる気分だ」
    「あんなに飲むからよ。次に飲む時はミルクかジュースにした方が良いわね」
    「子供かっつの。……しっかし、一風変わった西部町って感じだな、ここは」
     これまでに見てきた西部各地の町に比べ、ヒエロテレノにはそれぞれの移民が持ち寄った文化があちこちに根強く残っていた。
    「あっちはスペイン語の看板、こっちはフランス語。ごちゃ混ぜって感じね」
    「どっちも分からん。英語で書いてほしいね、俺としては」
    「それも店によって、って感じかしら。英語が併記してあったり、してなかったりだし。
     っと、この辺りがイタリア系みたいね」
     町をうろつくうちに、二人はイタリア語の看板が並ぶ通りに差し掛かった。
    「手がかりがあるとすれば、この辺りだろう。手始めに武器関係のとこを当たってみるとするか」
    「そうね。
     で、アデル。まさかイタリア語も分からない、なんてことは無いでしょうね? これからイタリア系商人を探るって言うのに」
    「い、いや、まさかぁ。ちゃんと勉強してきたさ、一応」
    「じゃ、あれは何のお店か分かる?」
     エミルが指差した看板を見て、アデルはしどろもどろに答える。
    「え、えーと、なんだ、アレだ、アレ。調味料とか売ってるとこだろ?」
    「へぇ? じゃ、なんでかまどや煙突があるの?」
    「え、あ、そりゃアレだ、いぶして臭いを強める用の……」
    「鉄床は何のために?」
    「それは、あの、すり潰す用に……」
    「本っ当、おバカね。と言うより、自分の物差しでしか物事測れない頭でっかちよね、あんた」
     エミルは呆れた顔で、アデルの回答を訂正した。
    「塩(英:Salt)と鍛冶屋(伊:Sarto)を混同してるでしょ」
    「……ぐっ」
    「あたしがいなかったらどうするつもりだったの?
     まさか機関車の部品(ピストン:Piston)卸売のところに行って、『ガン(Pistola)ショップはここだな!』って怒鳴り込むつもりだった?」
    「ばっ、……バカにすんな」
     アデルはエミルから顔を背け、落ち込み気味に言い返した。

     エミルの助けを借り、アデルは関係がありそうな店を、どうにか訪ねることができた。
    「……いらっしゃい」
     店に入るなり、60にはなろうかと言う店主が、いぶかしげにじろりとにらんでくる。
    (警戒されてるわね)
    (そりゃ、見るからに賞金稼ぎって奴が2人も来たらな。……任せとけ)
     短くアイコンタクトを交わし、アデルが口を開く。
    「いきなりで悪いんだが、ちょっと俺の銃を見てほしいんだ。
     どうにもレバーがギクシャクしちまってて、弾がうまく装填されない時があるんだ。こんなんじゃいざ賞金首に出くわしても、まともに戦えやしないからな」
    「ほう」
     アデルから小銃を受け取り、店主は目を光らせる。
    「M73か。……なるほど、確かに接近戦に特化させてある。4インチのソードオフ(銃身切り詰め)、ストックも若干短めになってる。グリップにも手を入れてある、と。……ほう、銃口が後継銃並みに広げてあるな。45-75弾も入れられそうだ。いや、実際使ってるようだな。
     だがやはり、お客さんの言った通りだな。華奢な部類に入る銃だし、本来装填されるべきじゃない弾を込め続けてるせいもあって、レバーがイカれかけてる。あと5発か、6発撃ったらボキン、ってところだろう。
     部品の取り替えと補強で1時間ほどかかるが、構わんか?」
    「ああ。金に糸目は付けない。よろしく頼んだ」
    「承知した」
     返事するなり、店主はアデルの小銃を分解し始めた。
     が、アデルはそれに構わず、店主にあれこれと声をかける。
    「いや、助かったぜ。ちょうど良くガンスミスがあって」
    「そうか」
    「いやさ、俺たちは見た通りの賞金稼ぎコンビなんだけどな。アレだ、マッドハッターってのを追ってたんだが、前述の通り俺の銃の具合がおかしいなってんで、慌てて直しに来たわけさ」
    「マッド、……聞いたことが無いな。となるとあんたらはネズミとウサギってとこか」
    「はっは、そんなところかな。
     しかしじいさん、商売柄だからかも知れんが、なかなか銃にゃうるさそうだな。
     俺は見た目にこだわるタイプでな。無骨な鉄むき出しのまんまよりもピカピカな方が好きでよ、レシーバ(銃機関部)を真鍮にメッキしてたんだが、よくアンタ、そいつがM1860じゃなくM1873って分かったもんだよ。
     いやさ、ライフルのラの字もよく分かってないボンクラ共が良く、『そいつは1860か? クラシカルな銃だな』なーんてマヌケなこと抜かしてくるもんだからよ」
    「そんな奴らと一緒にするな。俺はこいつで37年、飯を食ってるんだぞ。
     そもそもバリエーションとしちゃ、73にだって真鍮製はあるさ。その他にもガードの有無、サイトの形状、いくらでも違いはある。
     それくらいの違いが見抜けないようじゃ、商売上がったりってもんだ」
    「流石だねぇ。いや、恐れいったぜ」
     元々、多弁で気さくな、口八丁のアデルである。
     一見気難しそうなこの店主が銃を直すよりももっと早く、アデルは彼の心を開かせることができた。
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