「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・紀行録 4
晴奈の話、18話目。
異国からの招かれざる客。
4.
柊から世界の話を一通り教わった後も、晴奈は彼女から、あちこちを旅した話を面白おかしく聞いていた。
「……でね、その時に会った『狐』と『狼』が、本当に仲が悪くて」
「ふふ……」
央中で出会った商人たちのケンカの話に移り、柊が懐かしそうに話していたところで――。
「……あ」
突然、柊が神妙な顔になり、話を止めてしまった。
「どうされたのですか?」
「ちょっと、ね。嫌な奴のこと、思い出しちゃったの。
こんな風に、そのケンカしてた2人と談笑してた時にいきなり割り込んできて、『柊、勝負だ!』なんて怒鳴り散らす、迷惑な奴がいたのよ」
柊の顔が、わずかに曇る。どうやら本当に――人当たりのいい彼女にしては珍しく――その人物を嫌っているらしい。
「なーんか、嫌な予感がするのよね……」
柊はす、と立ち上がり、刀を持って部屋を出る。
「師匠? 何故刀を?」
ぎょっとして尋ねた晴奈に、柊は憂鬱そうな口ぶりで説明する。
「ゴールドコーストにね、闘技場があるのよ。で、裏で誰が勝つか賭けをしてて、そいつがいつも本命――つまり、強いの。
で、昔にちょっとした事情から、そいつと戦わなきゃいけなくなったんだけど、ね」
柊は晴奈に手招きし、付いてくるよう促す。
「わたし勝ったのよ、そいつに。それ以来、何年かに一度、ここを訪ねてきて……」
「『勝負だ!』、と言うわけですか」
そのまま二人で廊下を進み、修行場へと向かった。
「そう言うこと。よく考えたら、そろそろ来るかも知れない時期だわ」
柊がため息混じりにつぶやいた、その瞬間――。
「あ、先生! 柊先生!」
若い剣士が、小走りに2人へ駆け寄ってきた。
柊は剣士が手にしている手紙を見て、何かを感じ取ったような、そして非常に嫌そうな、複雑な表情を見せた。
「赤毛の熊獣人から?」
「えっ」
剣士は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに気を取り直し、こわばった顔を向ける。
「は、はい。あの、果たし状を預かりまして……」
「そう」
柊の顔はとても大儀そうに見える。事実、そうだったのだろう――受け取った果たし状を、中身も見ずに破り捨てた。
「『峡月堂で待っている』と伝えて連れてきて」
「しょ、承知しました」
剣士の姿を見送ってから、柊はとても重たげなため息をついた。
「はーぁ。やっぱり来たかー……。うわさをすれば、ね」
「師匠?」
「……ま、一緒に来て、晴奈。あいつと二人きりだと、息が詰まりそうだから」
「はあ……」
晴奈はこの時、とても戸惑っていた。今まで師匠のこんな嫌そうな顔は、弟子入りを頼み込んだ時ですら見たことが無かったからだ。
だがこの直後、柊がこれほど大儀がった理由を、晴奈も嫌と言うほど理解した。
その「熊」が本当に面倒くさい、剣呑な男だったからである。
蒼天剣・紀行録 終
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異国からの招かれざる客。
4.
柊から世界の話を一通り教わった後も、晴奈は彼女から、あちこちを旅した話を面白おかしく聞いていた。
「……でね、その時に会った『狐』と『狼』が、本当に仲が悪くて」
「ふふ……」
央中で出会った商人たちのケンカの話に移り、柊が懐かしそうに話していたところで――。
「……あ」
突然、柊が神妙な顔になり、話を止めてしまった。
「どうされたのですか?」
「ちょっと、ね。嫌な奴のこと、思い出しちゃったの。
こんな風に、そのケンカしてた2人と談笑してた時にいきなり割り込んできて、『柊、勝負だ!』なんて怒鳴り散らす、迷惑な奴がいたのよ」
柊の顔が、わずかに曇る。どうやら本当に――人当たりのいい彼女にしては珍しく――その人物を嫌っているらしい。
「なーんか、嫌な予感がするのよね……」
柊はす、と立ち上がり、刀を持って部屋を出る。
「師匠? 何故刀を?」
ぎょっとして尋ねた晴奈に、柊は憂鬱そうな口ぶりで説明する。
「ゴールドコーストにね、闘技場があるのよ。で、裏で誰が勝つか賭けをしてて、そいつがいつも本命――つまり、強いの。
で、昔にちょっとした事情から、そいつと戦わなきゃいけなくなったんだけど、ね」
柊は晴奈に手招きし、付いてくるよう促す。
「わたし勝ったのよ、そいつに。それ以来、何年かに一度、ここを訪ねてきて……」
「『勝負だ!』、と言うわけですか」
そのまま二人で廊下を進み、修行場へと向かった。
「そう言うこと。よく考えたら、そろそろ来るかも知れない時期だわ」
柊がため息混じりにつぶやいた、その瞬間――。
「あ、先生! 柊先生!」
若い剣士が、小走りに2人へ駆け寄ってきた。
柊は剣士が手にしている手紙を見て、何かを感じ取ったような、そして非常に嫌そうな、複雑な表情を見せた。
「赤毛の熊獣人から?」
「えっ」
剣士は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに気を取り直し、こわばった顔を向ける。
「は、はい。あの、果たし状を預かりまして……」
「そう」
柊の顔はとても大儀そうに見える。事実、そうだったのだろう――受け取った果たし状を、中身も見ずに破り捨てた。
「『峡月堂で待っている』と伝えて連れてきて」
「しょ、承知しました」
剣士の姿を見送ってから、柊はとても重たげなため息をついた。
「はーぁ。やっぱり来たかー……。うわさをすれば、ね」
「師匠?」
「……ま、一緒に来て、晴奈。あいつと二人きりだと、息が詰まりそうだから」
「はあ……」
晴奈はこの時、とても戸惑っていた。今まで師匠のこんな嫌そうな顔は、弟子入りを頼み込んだ時ですら見たことが無かったからだ。
だがこの直後、柊がこれほど大儀がった理由を、晴奈も嫌と言うほど理解した。
その「熊」が本当に面倒くさい、剣呑な男だったからである。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
いつもご愛読ありがとうございます(*´∀`)
やっぱり、種族によって「暑いトコが好き」「寒いトコが暮らしやすい」って言う違いはあるかなー、と。
例えば「猫耳の皆さんは何が好きだろう? 狐耳の皆さんはどう動くだろう?」と言うような、
「ファンタジーの世界でのリアリティ」を考える作業が、執筆の楽しみですw
やっぱり、種族によって「暑いトコが好き」「寒いトコが暮らしやすい」って言う違いはあるかなー、と。
例えば「猫耳の皆さんは何が好きだろう? 狐耳の皆さんはどう動くだろう?」と言うような、
「ファンタジーの世界でのリアリティ」を考える作業が、執筆の楽しみですw
そうか、外国か!!
どうもLandMです
率直にそうだったなあ~~と思うところがあります。
なかなかファンタジー小説を作っていると、どうにもこうにも外国人という発想がなかなか産まれないなあ~~と思いました。種族の違いとかは書いていても、外国人という発想が全くなかったLandMでした。やっぱり、そういう発想と世界が広いなあ!!っていう紀行録で面白かったです。やっぱり、ファンタジーは世界観を広く持たないとダメですね。
また読ませていただきます。
率直にそうだったなあ~~と思うところがあります。
なかなかファンタジー小説を作っていると、どうにもこうにも外国人という発想がなかなか産まれないなあ~~と思いました。種族の違いとかは書いていても、外国人という発想が全くなかったLandMでした。やっぱり、そういう発想と世界が広いなあ!!っていう紀行録で面白かったです。やっぱり、ファンタジーは世界観を広く持たないとダメですね。
また読ませていただきます。
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NoTitle
発表順より歴史順の方が、却って読みやすいのかも。