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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第4部

    蒼天剣・憐憫録 5

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    晴奈の話、第199話。
    脱却。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     小鈴が入浴を終えた頃には、晴奈とフォルナの旅支度は整っていた。
    「よし、んじゃあたしも急いで支度するわ。30分くらい待っててね」
    「承知」
    「……あー、後ね、フォルナ」
     髪をまとめながら、小鈴はフォルナに助言する。
    「今まで使ってた『フォルナ・ブラウン』って名前、もう使えないわよ。チラシにデカデカと書かれちゃってるもん。何か別の名前、考えないと」
    「そうですわね。……何がいいかしら」
    「まあ、央中じゃ『フォル~(狐の~)』って名前は結構あるから、名字だけ変えれば大丈夫でしょ」
     小鈴の助言を受け、フォルナは椅子に座ってじっと考え込む。
    「何がいいかしら……?」
     しばらくうつむいていたが、やがて困った顔で晴奈を仰ぎ見た。
    「セイナ、あなたが付けてくださらない?」
    「私が?」
    「ええ、セイナが考えたものなら、わたくし満足ですわ」
    「ふむ……」
     今度は晴奈が考え込む。
    「ふーむ……、そう言えばフォルナ、本名は何だった?」
    「フォルナ・ブラウンテイル・グラネルですわ」
    「その……、真ん中、の名前。『ている』と言うのは、尻尾のことだったな?」
    「ええ。わたくしたちの一族は『麦穂狐』と呼ばれておりますから」
    「そうか……」
     晴奈は一瞬だけ小鈴の方を向き、ぱた、と手を打った。
    「ファイアテイル、と言うのはどうだろう?」
    「ファイア……テイル?」
    「ああ。私が修めた剣術、焔流の『焔』とは火、つまりファイアのことだ。それに、尻尾のテイル。それらを併せて、ファイアテイル。……まあ、小鈴殿の頭を見て思いついたのだが」
    「あら、あたし? ま、髪の毛真っ赤だもんね」
    「なるほど……、ファイア、テイル。ファイアテイル、ですか」
     フォルナは自分の尻尾を撫でながら、何度もその言葉をつぶやく。
    「……ええ、とっても気に入りましたわ。それではわたくし、今から『フォルナ・ファイアテイル』と名乗らせていただきますわ」
    「んふふ、改めてよろしくね、フォルナ」
    「よろしくな、フォルナ。……これからも、な」
     三人は顔を見合わせ、同時に微笑んだ。

     三人はそっと宿を抜け出し、北の街道へ出ることにした。
    「あの、セイナ」
     歩きながら、フォルナが声をかけてきた。
    「うん?」
    「先ほどお借りしたこの帽子、もしよろしければいただいてもよろしいかしら?」
    「ああ、いいぞ」
     その返事を聞いて、フォルナの尻尾がふわ、と揺れる。
    「ありがとうございます、セイナ」
    「礼などいい。気に入ってくれて何よりだ」
     街は既に夕闇に包まれ、旅帽を被ったフォルナの顔は近くで見ても、判別が付かない。
    (これなら、見つかる心配も無いだろう)
     内心ほっとする晴奈たちの後ろで、あの熊獣人たち――フォルナを探し回るオルソーとグリーズが、宿へと入っていった。



     非常に危なっかしいニアミスが続いたが、結局フォルナは見つからずに済んだ。
    「わたくし……」
     お互いの顔も見えなくなった夜道で、フォルナがつぶやいた。
    「自由、ですのね」
    「そうだな。見つからない限り、お主は自由だ。婚姻の相手を決めさせられることもないし、家や続柄に縛られることも無い。が――」
     その先に続く言葉を、フォルナの方から口にする。
    「……これからは困難に巻き込まれたら、自分で何とかしないといけませんのね。でも、わたくしがそれを選んだのですもの。
     精一杯、頑張りますわ」
    「ああ、頑張れ」
     晴奈はそっと、フォルナの頭を撫でてやった。
     フォルナは少し、震えているようだった。

    蒼天剣・憐憫録 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    よっぽど関心を払ってないと、道行く他人の顔なんて覚えたりしないですもんね。
    無事に追っ手から逃げおおせてしまいました、王女様。
    今後の活躍に期待、ですね。

    NoTitle 

    なかなか王女様と旅をするのは大変ですね~~~という回ですね。まあ、実際にはそうなんでしょうが。結構追われたりするのが大変ですからね。しかし、現実問題的には一般庶民はそんなに探したりはしないものですね。私たちが指名手配犯を探さないのと同じどおりで、その辺も宿屋のおっちゃんに反映されていてGOODでした。
    どうも、LandMでした。
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