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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 5 ~銃声は7回~ 12

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    ウエスタン小説、第12話。
    地下工場の攻防。

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    12.
     地下はひんやりとしており、アデルが身震いする。
    「うぇ……、カビが生えそうだ」
    「この湿気と気温、恐らく地下水脈が近いせいでしょう」
    「町の下にこんなとこがあるなんて、マジで全然気付かなかったっス」
    「静かに」
     エミルがさっと手を振り、全員を黙らせる。
     そのまま恐る恐る、一行は奥へと進んでいった。
    (見張りとかは……)
    (いないみたいね。助かるけど)
     こまめにアイコンタクトを取りつつ、薄暗いガス灯に照らされた通路を歩く。
    (……ん? この匂いは)
     先頭に立っていたアデルが曲がり角の手前で立ち止まり、自分の鼻を指差す。
    (匂うか? アルコールだ)
    (ええ)
     全員がうなずいたのを確かめ、アデルはそっと、曲がり角の先に身を乗り出した。
    「……!」
     アデルの目に、大量の酒樽が映る。
     そしてその横にも木箱が並んでいること、さらにこの部屋にも見張りらしい姿が無いことを確認して、アデルは手招きした。
    「あったぞ。あれに違いない」
     4人は木箱の側に寄り、そっと力を入れて木箱を開ける。
    「バッチリだな」
    「ええ」
     木箱の中には、大量の小銃が詰め込まれていた。
    「ウィンチェスターM1873、……のコピー品ってとこか」
    「ここにあるの、全部がっスか!?」
    「証拠は抑えたわね。じゃあ早く戻りましょう」
    「個人的には口惜しいところですが、賛成いたします」
     4人は揃ってうなずき、元来た道を引き返すことにした。

     と――。
    「……う、っ?」
     イクトミが突然、その場にうずくまる。
    「どうした? ……!?」
     イクトミの右肩から血が噴き出し、白いスーツを真っ赤に染めていく。
    「撃たれた!?」
    「だが、銃声は……!?」
     アデルたちは銃を抜いて構えるが、それらしい姿は一向に見当たらない。
    「このまま帰ってもらっては、困るのだ」
     どこからか、声が響いてくる。だが反響が強く、どこからの声かまでは分からない。
    「私の言うことが、分かるな?」
    「トリスタン……!」
     エミルは顔を強張らせ、拳銃の撃鉄を起こす。
    「うん? 誰だ、貴様は?」
    「誰だっていいでしょ?
     あたしはあんたの顔を見たくないし、見せるつもりも無い」
    「……う、ぬ? 貴様……どこかで……?」
     虚を突かれたような声が返って来る。
    「マドモアゼル」
     と、イクトミが肩を押さえつつ、エミルの手を引く。
    「お気持ちはお察ししますが、ここで撃ち合うのは得策では無い」
    「分かってるわよ」
     そう返しつつ、エミルはアデルに目配せした。
    「オーケー!」
     それを受けて、アデルが懐から煙幕弾を取り出し、投げる。
     だが次の瞬間、弾は煙をほとんど噴き出すこと無く、空中で粉々になった。
    「な……んだって!?」
    「その手は二度も食わん。
     ……ふむ、そうだあの時も、まるで私のいるところが分かっているかのような、……とすると、……いや、……しかしそれしか無い」
     ぶつぶつと独り言が聞こえてくるが、一行は動けないでいる。
    (相手は俺たちのいる場所を完璧に把握してる。動けば撃たれるぞ)
    (分かってるわよ)
     再度目配せし、今度はエミルが口を開いた。
    「トリスタン。相変わらず、銃の腕は神がかってるわね」
    「……まさかとは思うが、……シャタリーヌ閣下?」
    「あたしの記憶では、死んだはずよ。シャタリーヌ一族も、あんたも」
    「その口調……その声……おお……まさか!」
     抑揚の無かった声に、揺らぎが生じる。
     その瞬間、エミルは拳銃の引き金を立て続けに絞った。
    「うおっ!?」
     トリスタンの声が返って来る。しかし先程のようなとらえどころの無いものでは無く、明らかに慌てた様子である。
    「今よ!」
     弾かれたかのように、エミルがその場から離れる。
     それに続いて、アデルとロバートが、イクトミを両脇から担いで走り出した。
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