DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 5 ~銃声は7回~ 13
ウエスタン小説、第13話。
因縁のガンファイト。
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13.
一行は昇降機に飛び乗り、操作盤に群がる。
「早く!」「分かってら!」
レバーを上げ、昇降機が動き始める。
当座の安全を確認し、アデルがイクトミから手を離し、床に座らせる。
「大丈夫か、イクトミ?」
「心配ご無用、……珍しいことだ。あなたがわたくしの心配をなさるとは」
若干顔を青ざめさせながらも、イクトミは平然とした口ぶりで答える。
「弾は貫通しておりますし、骨や動脈などにも当たっていないようです。止血さえしっかりしていれば、大したことはございません。
と言うわけですみませんがムッシュ、お願いいたします」
「お、おう」
言われるまま、アデルはイクトミに止血を施した。
「だ、大丈夫なんスか?」
ロバートが怯えた声で、誰ともなく尋ねる。それは恐らくイクトミの状態では無く、トリスタンの追撃について尋ねたのだろう。
それを察したらしく、エミルが答える。
「追ってきたとしても、この昇降機自体が盾になってるようなもんよ。拳銃程度じゃ撃ち抜けないわ」
「あ、そ、そっスよね」
「いや、マドモアゼル」
と、止血を終えたイクトミが首を横に振る。
「問題が1点ございます」
「え?」
エミルが振り返ったその瞬間――昇降機ががくんと揺れ、停止した。
「……まあ、こう言うわけです」
「下で停められたか!」
アデルは昇降機を囲む立坑に目をやり、はしごを指差す。
「あれで登るぞ!」
4人ははしごに飛びつき、大急ぎで上がっていく。
その間に昇降機はふたたび動き出し、下降し始めた。
「はーっ、はーっ……」
「ひぃ、ひぃ……」
どうにか昇降機に追いつかれる前に、4人は地上に出ることができた。
「や、休んでる間は、無いぞっ」
息も絶え絶えに、アデルが急かす。
「どこか、電話、あるとこっ」
「サルーンよ!」
ほうほうの体のアデルとロバートに比べ、女性のエミルと怪我人のイクトミの方が、ぐいぐいと距離を伸ばしていく。
「ま、待って、はぁ、はぁ」
「ひー、ひー……」
アデルたちも何とか両脚を動かし、エミルたちに追いつこうとした。
だが――。
「あう……っ!」
「ロバート!」
ロバートの左脚から血しぶきが上がり、その場に倒れる。
「逃がしはせんぞ、お前ら全員ッ!」
倉庫の方から、トリスタンが立て続けに発砲しつつ迫ってきていた。
「ちっ!」
エミルが敵に気付き、即応する。彼女も走りながら、拳銃を乱射し始めた。
やがて互いに6発、銃声を轟かせたところで、その場に静寂が訪れた。
「や、……やはり!」
トリスタンは拳銃を持った手をだらんと下げ、エミルを凝視している。
「その腕前、そしてそのご尊顔! 間違い無い!」
「あんたの知ってる奴とは人違いよ!」
そう叫び、エミルは弾を装填し始める。
「私があなたのお姿を、見間違えるものか! あなたが閣下で無ければ、一体誰だと言うのだ!?
そうだ、あなたがエミル・トリーシャ・シャタリーヌその人であるならばッ!」
だが一方、トリスタンは6発装填のはずの拳銃をそのまま構え、引き金を絞った。
「これを避けられぬはずが無いッ!」

その瞬間、傍で見ていたアデルにはまったく信じられない、異様なことが起こる。
トリスタンの拳銃から、7発目の弾丸が発射されたのだ。
(変だぞ、あの拳銃……!?
それに発射の瞬間、シリンダーからガスを噴かなかった? いや、違う――シリンダーが無い!?)
そして直後の状況も、アデルにはまったく理解のできないものだった。
何故なら――弾丸の装填中を狙われたはずのエミルは平然と、硝煙をくゆらせる拳銃を片手に立っており、その逆に、先んじて銃撃したはずのトリスタンが、右手から血を流していたからである。
「……は……ははは……素晴らしい……」
しかしボタボタと血を流しながらも、トリスタンは恍惚の表情を浮かべており、感動に満ちた声でこう叫んだ。
「Magnifique! C’est magnifique!(素晴らしい!)」
「Ta gueule!(黙れ!)」
エミルが叫び返す。
「そこでじっとしてなさい! あんたには、聞きたいことがある!」
「……できぬ!」
と、トリスタンは真顔に戻り、後ずさる。
「私には成さねばならぬ大義がある! ここで死ぬわけには行かんのだ!」
そう言い残し、トリスタンはその場から逃げ去った。
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因縁のガンファイト。
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一行は昇降機に飛び乗り、操作盤に群がる。
「早く!」「分かってら!」
レバーを上げ、昇降機が動き始める。
当座の安全を確認し、アデルがイクトミから手を離し、床に座らせる。
「大丈夫か、イクトミ?」
「心配ご無用、……珍しいことだ。あなたがわたくしの心配をなさるとは」
若干顔を青ざめさせながらも、イクトミは平然とした口ぶりで答える。
「弾は貫通しておりますし、骨や動脈などにも当たっていないようです。止血さえしっかりしていれば、大したことはございません。
と言うわけですみませんがムッシュ、お願いいたします」
「お、おう」
言われるまま、アデルはイクトミに止血を施した。
「だ、大丈夫なんスか?」
ロバートが怯えた声で、誰ともなく尋ねる。それは恐らくイクトミの状態では無く、トリスタンの追撃について尋ねたのだろう。
それを察したらしく、エミルが答える。
「追ってきたとしても、この昇降機自体が盾になってるようなもんよ。拳銃程度じゃ撃ち抜けないわ」
「あ、そ、そっスよね」
「いや、マドモアゼル」
と、止血を終えたイクトミが首を横に振る。
「問題が1点ございます」
「え?」
エミルが振り返ったその瞬間――昇降機ががくんと揺れ、停止した。
「……まあ、こう言うわけです」
「下で停められたか!」
アデルは昇降機を囲む立坑に目をやり、はしごを指差す。
「あれで登るぞ!」
4人ははしごに飛びつき、大急ぎで上がっていく。
その間に昇降機はふたたび動き出し、下降し始めた。
「はーっ、はーっ……」
「ひぃ、ひぃ……」
どうにか昇降機に追いつかれる前に、4人は地上に出ることができた。
「や、休んでる間は、無いぞっ」
息も絶え絶えに、アデルが急かす。
「どこか、電話、あるとこっ」
「サルーンよ!」
ほうほうの体のアデルとロバートに比べ、女性のエミルと怪我人のイクトミの方が、ぐいぐいと距離を伸ばしていく。
「ま、待って、はぁ、はぁ」
「ひー、ひー……」
アデルたちも何とか両脚を動かし、エミルたちに追いつこうとした。
だが――。
「あう……っ!」
「ロバート!」
ロバートの左脚から血しぶきが上がり、その場に倒れる。
「逃がしはせんぞ、お前ら全員ッ!」
倉庫の方から、トリスタンが立て続けに発砲しつつ迫ってきていた。
「ちっ!」
エミルが敵に気付き、即応する。彼女も走りながら、拳銃を乱射し始めた。
やがて互いに6発、銃声を轟かせたところで、その場に静寂が訪れた。
「や、……やはり!」
トリスタンは拳銃を持った手をだらんと下げ、エミルを凝視している。
「その腕前、そしてそのご尊顔! 間違い無い!」
「あんたの知ってる奴とは人違いよ!」
そう叫び、エミルは弾を装填し始める。
「私があなたのお姿を、見間違えるものか! あなたが閣下で無ければ、一体誰だと言うのだ!?
そうだ、あなたがエミル・トリーシャ・シャタリーヌその人であるならばッ!」
だが一方、トリスタンは6発装填のはずの拳銃をそのまま構え、引き金を絞った。
「これを避けられぬはずが無いッ!」

その瞬間、傍で見ていたアデルにはまったく信じられない、異様なことが起こる。
トリスタンの拳銃から、7発目の弾丸が発射されたのだ。
(変だぞ、あの拳銃……!?
それに発射の瞬間、シリンダーからガスを噴かなかった? いや、違う――シリンダーが無い!?)
そして直後の状況も、アデルにはまったく理解のできないものだった。
何故なら――弾丸の装填中を狙われたはずのエミルは平然と、硝煙をくゆらせる拳銃を片手に立っており、その逆に、先んじて銃撃したはずのトリスタンが、右手から血を流していたからである。
「……は……ははは……素晴らしい……」
しかしボタボタと血を流しながらも、トリスタンは恍惚の表情を浮かべており、感動に満ちた声でこう叫んだ。
「Magnifique! C’est magnifique!(素晴らしい!)」
「Ta gueule!(黙れ!)」
エミルが叫び返す。
「そこでじっとしてなさい! あんたには、聞きたいことがある!」
「……できぬ!」
と、トリスタンは真顔に戻り、後ずさる。
「私には成さねばならぬ大義がある! ここで死ぬわけには行かんのだ!」
そう言い残し、トリスタンはその場から逃げ去った。
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ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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