DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 5 ~銃声は7回~ 14
ウエスタン小説、第14話。
新たな仲間と、かつての……。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
14.
「結論から言えばだ」
ヒエロテレノの戦いから、2週間後。
アデルたちを前にし、パディントン局長が今回の結末を総括していた。
「今回の任務自体は成功した。
君たちが発見してくれた地下工場を無事に摘発し、リゴーニによる武器密輸の拡大・継続を防ぐことができたのだからな。クライアントも喜んでいた。ちなみにネイサンの希望通り、感謝状も受け取っているよ。
だが重要人物、リゴーニ本人の逮捕には至らずだ。地下工場にはおらず、地上にも姿は無かった。どうやら捜査局が来る前に逃げてしまったか、町の異変に気付いて来訪をキャンセルしたらしい。
一方、そのトリスタン・アルジャンなる人物も、まんまと逃してしまった。つまり残念ながら、ゴドフリーの仇を討つことはできなかったと言うことになる。今回のところはね。
強調するが、『今回のところ』とだけは、是非とも言っておきたい」
「ええ、全く同感です」
「そして――やはりと言うか、何と言うか――今回、偶然出くわしたイクトミも、結局は逃がしてしまった。そうだな?」
「申し訳ありません。気付いた時には、姿が……」
エミルが頭を下げかけたところで、局長が制する。
「いや、いいんだ。犯罪者を野放しにしたままと言うのは気分のいいものでは無いが、釣りかけた魚が逃げたと言うだけだ。それを咎めなどせんよ。
とは言え、だ」
局長は残念そうに、こう続けた。
「イクトミ。そしてトリスタン。手強い犯罪者が2人、我々の手から逃げおおせている。これは厳然たる事実だ。そして間違い無く、今後も我々と深く関わってくることになるだろう。
よって、より一層、警戒心を強く持って任務に当たって欲しい。いいな?」
「はい」
「……それと」
一転、局長は複雑な表情を浮かべ、エミルとアデルの背後にいる人物――ロバートに目をやる。
「まあ、なんだ。人員に空きが1名出ていることは事実だ。代わりを募集せねばとは考えていた。
しかし、君。我々の仕事は非常にハードで、常に正確かつ良識ある判断を求められる。タフで無ければやってられんし、良心が無ければやっていく資格は無い。
その覚悟はあるかね?」
「はっ、はい!」
松葉杖を付いたまま、ロバートは大きくうなずいた。
「よろしい。では今日から君も、我がパディントン探偵局の一員だ」
「ありがとうございます、ボス!」
局長から任命され、ロバートは顔を真っ赤にして敬礼した。
数日後の夜。
「じゃ、先に上がるわ。おつかれ」
「はい、おつかれさま」
その日の当直だったエミルは、探偵局に内側から鍵を掛け、窓にブラインドを下ろし、ニューヨーク・タイムズの夕刊を片手にして、ソファに寝転ぶ。
「ふあ、あ……。さーて、と」
長い夜を少しでも楽しく過ごそうと、彼女は新聞の家庭欄を探す。
「……誰?」
と、エミルは新聞をたたみ、振り向きもせずに問いかける。
「こんばんは、マドモアゼル」
その声を聞き、エミルはようやく振り返り、立ち上がった。
「イクトミ!?」
「ああ、いや、そう警戒なさらず。
本日は1点確認したいことがございまして、こうして参上いたしました。敵意はございません。ご安心を」
「……何?」
へりくだるイクトミに、エミルは拳銃を向けずに尋ねる。
「トリスタンが言っていたように、あなたが本当に、エミル・トリーシャ・シャタリーヌであるのかを、です」
「……」
エミルはしばらくイクトミをにらんでいたが、やがて口を開き――フランス語で答えた。
「Non.Je suis Hemille Minou(違うわ。あたしはエミル・ミヌーよ)」
「Je vous remercie pour de répondre(お答えいただきありがとうございます)」
恭しくお辞儀し、イクトミは、今度は英語で返した。
「また今度お会いできる時を、心より楽しみにしております」
「あたしは楽しくないけどね」
「相変わらず、無粋な方だ。それでは、また」
イクトミは静かに、部屋から出て行った。
DETECTIVE WESTERN 5 ~銃声は7回~ THE END
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「結論から言えばだ」
ヒエロテレノの戦いから、2週間後。
アデルたちを前にし、パディントン局長が今回の結末を総括していた。
「今回の任務自体は成功した。
君たちが発見してくれた地下工場を無事に摘発し、リゴーニによる武器密輸の拡大・継続を防ぐことができたのだからな。クライアントも喜んでいた。ちなみにネイサンの希望通り、感謝状も受け取っているよ。
だが重要人物、リゴーニ本人の逮捕には至らずだ。地下工場にはおらず、地上にも姿は無かった。どうやら捜査局が来る前に逃げてしまったか、町の異変に気付いて来訪をキャンセルしたらしい。
一方、そのトリスタン・アルジャンなる人物も、まんまと逃してしまった。つまり残念ながら、ゴドフリーの仇を討つことはできなかったと言うことになる。今回のところはね。
強調するが、『今回のところ』とだけは、是非とも言っておきたい」
「ええ、全く同感です」
「そして――やはりと言うか、何と言うか――今回、偶然出くわしたイクトミも、結局は逃がしてしまった。そうだな?」
「申し訳ありません。気付いた時には、姿が……」
エミルが頭を下げかけたところで、局長が制する。
「いや、いいんだ。犯罪者を野放しにしたままと言うのは気分のいいものでは無いが、釣りかけた魚が逃げたと言うだけだ。それを咎めなどせんよ。
とは言え、だ」
局長は残念そうに、こう続けた。
「イクトミ。そしてトリスタン。手強い犯罪者が2人、我々の手から逃げおおせている。これは厳然たる事実だ。そして間違い無く、今後も我々と深く関わってくることになるだろう。
よって、より一層、警戒心を強く持って任務に当たって欲しい。いいな?」
「はい」
「……それと」
一転、局長は複雑な表情を浮かべ、エミルとアデルの背後にいる人物――ロバートに目をやる。
「まあ、なんだ。人員に空きが1名出ていることは事実だ。代わりを募集せねばとは考えていた。
しかし、君。我々の仕事は非常にハードで、常に正確かつ良識ある判断を求められる。タフで無ければやってられんし、良心が無ければやっていく資格は無い。
その覚悟はあるかね?」
「はっ、はい!」
松葉杖を付いたまま、ロバートは大きくうなずいた。
「よろしい。では今日から君も、我がパディントン探偵局の一員だ」
「ありがとうございます、ボス!」
局長から任命され、ロバートは顔を真っ赤にして敬礼した。
数日後の夜。
「じゃ、先に上がるわ。おつかれ」
「はい、おつかれさま」
その日の当直だったエミルは、探偵局に内側から鍵を掛け、窓にブラインドを下ろし、ニューヨーク・タイムズの夕刊を片手にして、ソファに寝転ぶ。
「ふあ、あ……。さーて、と」
長い夜を少しでも楽しく過ごそうと、彼女は新聞の家庭欄を探す。
「……誰?」
と、エミルは新聞をたたみ、振り向きもせずに問いかける。
「こんばんは、マドモアゼル」
その声を聞き、エミルはようやく振り返り、立ち上がった。
「イクトミ!?」
「ああ、いや、そう警戒なさらず。
本日は1点確認したいことがございまして、こうして参上いたしました。敵意はございません。ご安心を」
「……何?」
へりくだるイクトミに、エミルは拳銃を向けずに尋ねる。
「トリスタンが言っていたように、あなたが本当に、エミル・トリーシャ・シャタリーヌであるのかを、です」
「……」
エミルはしばらくイクトミをにらんでいたが、やがて口を開き――フランス語で答えた。
「Non.Je suis Hemille Minou(違うわ。あたしはエミル・ミヌーよ)」
「Je vous remercie pour de répondre(お答えいただきありがとうございます)」
恭しくお辞儀し、イクトミは、今度は英語で返した。
「また今度お会いできる時を、心より楽しみにしております」
「あたしは楽しくないけどね」
「相変わらず、無粋な方だ。それでは、また」
イクトミは静かに、部屋から出て行った。
DETECTIVE WESTERN 5 ~銃声は7回~ THE END
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これにて今回の「DW」は一段落。
明日は久々の更新報告を行い、また1週間ほど空けるつもりです。
今月中か来週初めには、いよいよ「双月千年世界」の新作を公開する予定。
詳細についてはまた、あの二人に話をさせるつもりです。
これにて今回の「DW」は一段落。
明日は久々の更新報告を行い、また1週間ほど空けるつもりです。
今月中か来週初めには、いよいよ「双月千年世界」の新作を公開する予定。
詳細についてはまた、あの二人に話をさせるつもりです。
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