「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・彼訪伝 3
神様たちの話、第3話。
井戸端騒動。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
ぼんやりゼロの背中を見ていたところで、ゲートははっと我に返り、慌てて彼の側に寄った。
「おい、おい、ゼロ! 今お前、何したんだ!?」
「魔術だよ。僕の腕力じゃ4人も5人も動かせないもの」
ゼロは倒れた者たちの額や首筋を触り、何かを確かめる。
「やっぱり食中毒っぽいな。じゃあ解毒術と治療術で治りそうだ」
「は?」
「治療する。ゲート、君は井戸の水を誰かが飲んでしまわないよう、見張ってて」
「お、おう」
命じられるが、ゲートはそれを不相応と思うことも無く、素直に従った。
「おーい、井戸の水は飲むんじゃねーぞ! ヤバいらしい!」
「えっ、なにそれこわい」
「ヤバいって、何が?」
口々に尋ねられ、ゲートはしどろもどろに答える。
「いや、俺も良く分からんが、あいつがそう言ってた」
「あいつ? あの白髪のヒゲじいさん?」
「じいさんじゃ無かったぞ。結構若そうだった」
皆の視線が、ゼロの背中に向けられる。
「……怪しくない?」
「言われたら怪しいけど……、なんか」
「うん、なんか」
「なんか、だよなぁ。なんか信じたくなる」
「うーん」
話している間に、ゼロが井戸へと戻ってくる。
「みんな落ち着いたよ。30分もすれば元気になる」
「さんじゅっぷん、……って?」
「え、……あー、どう説明したら良いかな、ちょっと昼寝するくらいの間って感じかな」
答えつつ、ゼロは井戸の縁から身を乗り出し、底に目を向ける。
「みんな、飲んでないよね」
「ああ」
「ちょっと、調べてみるか。……『*********』」
ごぽ、と音を立てて、ずっと下の水面から水が一塊、ゼロの元へと浮かんでくる。
「み、水が……!?」
「なにあれ!?」
「あいつ、何を!?」
ふたたび全員が騒然とする中、ゼロだけは平然とした様子で水を眺める。
「濁ってる。土の色じゃないな。……うーん、あんまり考えたくないけど、これは多分、あれの色だよなぁ」
ゼロは空中に浮かんだ水を一度も触ること無く地面に捨て、周囲にとんでもないことを尋ねた。
「今朝か夜中くらいに、ここで用を足した人はいる?」
その質問に、周囲は一斉に顔をひきつらせた。
「はぁ!? 井戸を便所代わりに使う奴がいたってのか!?」
「うん。水の濁った色が、どう見てもあの色だし。で、それを飲んであの人たち、腹痛起こしたみたいだよ」
「お、俺じゃないぞ?」
「やるわけねーだろ」
「そうよ! 皆で使ってる井戸なのに……」
周囲が騒ぐ中、一人、こっそりと輪を離れようとする者がいる。
ゲートはそれを見逃さず、彼の腕をつかんだ。
「おい」
「あっ」
「まさか、お前か?」
「……よ、酔っ払って、そんなことしたような気が、するような、しないような」
「てめぇ!」
あっと言う間に囲まれ、彼は袋叩きにされた。
散々殴られたその短耳が縛られたところで、ゼロは苦い顔をしつつ、皆に告げた。
「このままこの井戸を使ったら、間違い無くお腹を壊す人が続出する。だから、この井戸は埋めた方がいいよ」
「えぇ!?」
「無茶言うなよ!」
「そうよ、これが埋まっちゃったら、水が飲めなくなるわ!」
騒ぐ皆を、ゼロは慌ててなだめる。
「あ、いやいや! ちゃんと別のを掘るから! ご心配なく!」
「『掘る』だって!? 簡単に言うなよ!」
「どれだけ苦労したと思ってんだ!」
「あ、あ、すぐできるから! ちょっと探すから、待ってて!」
ゼロはぱたぱたと手を振って皆を制しつつ、その場から離れた。
残った皆は、それぞれ顔を見合わせる。
「待っててって言われたけど……」
「どうするつもりなんだろう?」
「なあ、結局この井戸ってもう飲めないのか?」
「お前、飲む気になれるか?」
「……うん、無理」
と、そうこうしているうちにゼロが戻ってくる。
「お待たせー! いいところがあったよ!」
「へ?」
「みんな来て! とりあえず、穴を開けるだけ開けるから、その後の作業を手伝って欲しいんだ」
ゼロに言われるがまま、皆は彼の後に付いて行った。
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井戸端騒動。
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3.
ぼんやりゼロの背中を見ていたところで、ゲートははっと我に返り、慌てて彼の側に寄った。
「おい、おい、ゼロ! 今お前、何したんだ!?」
「魔術だよ。僕の腕力じゃ4人も5人も動かせないもの」
ゼロは倒れた者たちの額や首筋を触り、何かを確かめる。
「やっぱり食中毒っぽいな。じゃあ解毒術と治療術で治りそうだ」
「は?」
「治療する。ゲート、君は井戸の水を誰かが飲んでしまわないよう、見張ってて」
「お、おう」
命じられるが、ゲートはそれを不相応と思うことも無く、素直に従った。
「おーい、井戸の水は飲むんじゃねーぞ! ヤバいらしい!」
「えっ、なにそれこわい」
「ヤバいって、何が?」
口々に尋ねられ、ゲートはしどろもどろに答える。
「いや、俺も良く分からんが、あいつがそう言ってた」
「あいつ? あの白髪のヒゲじいさん?」
「じいさんじゃ無かったぞ。結構若そうだった」
皆の視線が、ゼロの背中に向けられる。
「……怪しくない?」
「言われたら怪しいけど……、なんか」
「うん、なんか」
「なんか、だよなぁ。なんか信じたくなる」
「うーん」
話している間に、ゼロが井戸へと戻ってくる。
「みんな落ち着いたよ。30分もすれば元気になる」
「さんじゅっぷん、……って?」
「え、……あー、どう説明したら良いかな、ちょっと昼寝するくらいの間って感じかな」
答えつつ、ゼロは井戸の縁から身を乗り出し、底に目を向ける。
「みんな、飲んでないよね」
「ああ」
「ちょっと、調べてみるか。……『*********』」
ごぽ、と音を立てて、ずっと下の水面から水が一塊、ゼロの元へと浮かんでくる。
「み、水が……!?」
「なにあれ!?」
「あいつ、何を!?」
ふたたび全員が騒然とする中、ゼロだけは平然とした様子で水を眺める。
「濁ってる。土の色じゃないな。……うーん、あんまり考えたくないけど、これは多分、あれの色だよなぁ」
ゼロは空中に浮かんだ水を一度も触ること無く地面に捨て、周囲にとんでもないことを尋ねた。
「今朝か夜中くらいに、ここで用を足した人はいる?」
その質問に、周囲は一斉に顔をひきつらせた。
「はぁ!? 井戸を便所代わりに使う奴がいたってのか!?」
「うん。水の濁った色が、どう見てもあの色だし。で、それを飲んであの人たち、腹痛起こしたみたいだよ」
「お、俺じゃないぞ?」
「やるわけねーだろ」
「そうよ! 皆で使ってる井戸なのに……」
周囲が騒ぐ中、一人、こっそりと輪を離れようとする者がいる。
ゲートはそれを見逃さず、彼の腕をつかんだ。
「おい」
「あっ」
「まさか、お前か?」
「……よ、酔っ払って、そんなことしたような気が、するような、しないような」
「てめぇ!」
あっと言う間に囲まれ、彼は袋叩きにされた。
散々殴られたその短耳が縛られたところで、ゼロは苦い顔をしつつ、皆に告げた。
「このままこの井戸を使ったら、間違い無くお腹を壊す人が続出する。だから、この井戸は埋めた方がいいよ」
「えぇ!?」
「無茶言うなよ!」
「そうよ、これが埋まっちゃったら、水が飲めなくなるわ!」
騒ぐ皆を、ゼロは慌ててなだめる。
「あ、いやいや! ちゃんと別のを掘るから! ご心配なく!」
「『掘る』だって!? 簡単に言うなよ!」
「どれだけ苦労したと思ってんだ!」
「あ、あ、すぐできるから! ちょっと探すから、待ってて!」
ゼロはぱたぱたと手を振って皆を制しつつ、その場から離れた。
残った皆は、それぞれ顔を見合わせる。
「待っててって言われたけど……」
「どうするつもりなんだろう?」
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