「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・遭魔伝 1
神様たちの話、第5話。
原初の情報処理。
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1.
「えーと」
ゼロが悩み悩みと言った様子で、粗く削った木屑と草の束、そして灰を、湯がたぎった鍋の中に入れている。
「お?」
と、その様子を見ていたゲートが、くんくんと鼻をひくつかせたが――。
「……うぇ」
途端に、ゲートは顔をしかめた。
「すげー青臭え。お前、それ何作ってんだ? なんかの薬か?」
「ううん。いや、僕もできるかどうか半信半疑なんだけどね」
「は?」
「大昔に聞きかじっただけだし、本当にできるのかなーって」
「ってことはお前、何か分からんものを作ってるってことか?」
「そうなる」
ゼロの返答に、ゲートは呆れた声を漏らした。
「お前って、本当に変なヤツだよな」
「うん、良く言われる。……これくらい茹でればいいかなぁ」
ゼロは鍋をかまどから上げ、中身をざるに開ける。
すっかりどろどろになった内容物をすくい取り、今度は網を張った木枠の中に詰めていく。
「……これがどうなるんだ?」
「んー」
ゼロは木枠を見つめながら、ぽつりぽつりと説明する。
「繊維ってあるよね、木とか草とかの、ほら、糸みたいになったところ」
「ああ」
「それを****性の、……あー、まあ、灰だね。それと一緒にお湯に入れてしばらく煮込んで、こうやって水を切るとね、**ができるらしいんだ」
「**?」
聞き返したゲートに、ゼロはもう一度、ゆっくりと説明した。
「紙だよ、か・み」
「かみ、……って何だ?」
「後で分かるよ。じゃ、今度は**を作ろうかな」
「なんだって?」
ゲートは何度も聞き返すが、その度にゼロは、うっとうしがるようなことをせず、丁寧に答えてくれる。
「筆だよ、ふ・で。
人にモノを教えるには、その教えたことを覚えさせなきゃ意味が無いだろ?」
「そりゃそうだ」
「だから覚えやすくさせるために、筆と紙を作ってるんだ」
「はあ……」
ゼロは前掛けを脱ぎながら、ゲートにこう尋ねた。
「この辺で毛の長い動物っている?」
「ああ」
「どんなの?」
「羊とか山羊だな」
「その毛ってすぐ手に入るかな」
「俺の友達にフレンって羊飼いがいる。気前いいヤツだから、聞けばくれると思うぜ」
「案内してもらっていいかな?」
「ああ」
ゲートはゼロを伴い、友人の羊飼いの元を訪ねた。
「おーい、フレン、いるかー」
が、羊が放牧されている野原を見渡しても、友人の姿が見当たらない。
「変だなぁ。いつもこの辺りにいるのに」
「そうなの?」
「ああ。もう市場も閉まってる頃だし、そっちに行ってるってことも考え辛いんだが……?」
「他にこの辺りで仕事してる人はいる?」
「おう、大抵知り合いだ。そっちに聞いてみるか」
二人は放牧地を回り、他の羊飼いに話を聞いてみた。
「フレン? あー、なんか慌ててたな」
「どうも、羊が逃げたっぽいぜ」
「どこ行ったか分かるか?」
「朝はここから西の方を探してたし、昼くらいにはぐったりして株に座ってたのを見た」
「じゃあ多分、今は東を探してるんじゃないか?」
「そっか、ありがとな」
そこでゲートとゼロは、顔を見合わせる。
「どうする?」
「僕らも探してみようか」
「だな」
と、まだ近くにいた他の羊飼いが、さっと顔を青ざめさせた。
「おいおい、ゲートよぉ? 知ってるだろ」
「何を?」
「最近、変なのがこの辺りに出るってうわさをだよ」
「変なのって?」
「見た目は一見、でけー狼だって話だ。だが『変なの』ってのがな……」
そこで羊飼いたちは言葉を切り、異口同音にこう続けた。
「8本脚で、頭は2つ。しかも人を喰うって話なんだ」
「ま、マジかよ」
これを聞いて、ゲートも不安を覚える。
「最近じゃ、東に出るってうわさだ。だからフレンのヤツ、『俺の羊が食われるかも』つって探し回ってたんだ」
「でも西を探しても見つからないから、仕方無しに東へ、……ってことだろうな」
「下手すると、あいつも……」
「やべーな。……な、なあ、ゼロ?」
「うん?」
ゲートは後ろめたい気持ちで、ゼロにこう提案した。
「このまま、待つって言うのは、まずいか? 他のヤツに言えば、毛は手に入るし」
「ええっ!?」
対するゼロは、目を丸くする。
「危ないって話なのに、放っておくの?」
「仕方ねーだろーが。俺もお前も、そんなバケモノに対抗できるような腕っ節は無いし、武器も無いだろ?」
「でも魔術はあるよ」
「……い、行く気なのか、ゼロ?」
一転、今度はゲートが驚かされた。
「行くよ。危ないって言うなら、なおさらだ」
ゼロはいつも通りののほほんとした笑顔を浮かべて、そう断言した。
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原初の情報処理。
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「えーと」
ゼロが悩み悩みと言った様子で、粗く削った木屑と草の束、そして灰を、湯がたぎった鍋の中に入れている。
「お?」
と、その様子を見ていたゲートが、くんくんと鼻をひくつかせたが――。
「……うぇ」
途端に、ゲートは顔をしかめた。
「すげー青臭え。お前、それ何作ってんだ? なんかの薬か?」
「ううん。いや、僕もできるかどうか半信半疑なんだけどね」
「は?」
「大昔に聞きかじっただけだし、本当にできるのかなーって」
「ってことはお前、何か分からんものを作ってるってことか?」
「そうなる」
ゼロの返答に、ゲートは呆れた声を漏らした。
「お前って、本当に変なヤツだよな」
「うん、良く言われる。……これくらい茹でればいいかなぁ」
ゼロは鍋をかまどから上げ、中身をざるに開ける。
すっかりどろどろになった内容物をすくい取り、今度は網を張った木枠の中に詰めていく。
「……これがどうなるんだ?」
「んー」
ゼロは木枠を見つめながら、ぽつりぽつりと説明する。
「繊維ってあるよね、木とか草とかの、ほら、糸みたいになったところ」
「ああ」
「それを****性の、……あー、まあ、灰だね。それと一緒にお湯に入れてしばらく煮込んで、こうやって水を切るとね、**ができるらしいんだ」
「**?」
聞き返したゲートに、ゼロはもう一度、ゆっくりと説明した。
「紙だよ、か・み」
「かみ、……って何だ?」
「後で分かるよ。じゃ、今度は**を作ろうかな」
「なんだって?」
ゲートは何度も聞き返すが、その度にゼロは、うっとうしがるようなことをせず、丁寧に答えてくれる。
「筆だよ、ふ・で。
人にモノを教えるには、その教えたことを覚えさせなきゃ意味が無いだろ?」
「そりゃそうだ」
「だから覚えやすくさせるために、筆と紙を作ってるんだ」
「はあ……」
ゼロは前掛けを脱ぎながら、ゲートにこう尋ねた。
「この辺で毛の長い動物っている?」
「ああ」
「どんなの?」
「羊とか山羊だな」
「その毛ってすぐ手に入るかな」
「俺の友達にフレンって羊飼いがいる。気前いいヤツだから、聞けばくれると思うぜ」
「案内してもらっていいかな?」
「ああ」
ゲートはゼロを伴い、友人の羊飼いの元を訪ねた。
「おーい、フレン、いるかー」
が、羊が放牧されている野原を見渡しても、友人の姿が見当たらない。
「変だなぁ。いつもこの辺りにいるのに」
「そうなの?」
「ああ。もう市場も閉まってる頃だし、そっちに行ってるってことも考え辛いんだが……?」
「他にこの辺りで仕事してる人はいる?」
「おう、大抵知り合いだ。そっちに聞いてみるか」
二人は放牧地を回り、他の羊飼いに話を聞いてみた。
「フレン? あー、なんか慌ててたな」
「どうも、羊が逃げたっぽいぜ」
「どこ行ったか分かるか?」
「朝はここから西の方を探してたし、昼くらいにはぐったりして株に座ってたのを見た」
「じゃあ多分、今は東を探してるんじゃないか?」
「そっか、ありがとな」
そこでゲートとゼロは、顔を見合わせる。
「どうする?」
「僕らも探してみようか」
「だな」
と、まだ近くにいた他の羊飼いが、さっと顔を青ざめさせた。
「おいおい、ゲートよぉ? 知ってるだろ」
「何を?」
「最近、変なのがこの辺りに出るってうわさをだよ」
「変なのって?」
「見た目は一見、でけー狼だって話だ。だが『変なの』ってのがな……」
そこで羊飼いたちは言葉を切り、異口同音にこう続けた。
「8本脚で、頭は2つ。しかも人を喰うって話なんだ」
「ま、マジかよ」
これを聞いて、ゲートも不安を覚える。
「最近じゃ、東に出るってうわさだ。だからフレンのヤツ、『俺の羊が食われるかも』つって探し回ってたんだ」
「でも西を探しても見つからないから、仕方無しに東へ、……ってことだろうな」
「下手すると、あいつも……」
「やべーな。……な、なあ、ゼロ?」
「うん?」
ゲートは後ろめたい気持ちで、ゼロにこう提案した。
「このまま、待つって言うのは、まずいか? 他のヤツに言えば、毛は手に入るし」
「ええっ!?」
対するゼロは、目を丸くする。
「危ないって話なのに、放っておくの?」
「仕方ねーだろーが。俺もお前も、そんなバケモノに対抗できるような腕っ節は無いし、武器も無いだろ?」
「でも魔術はあるよ」
「……い、行く気なのか、ゼロ?」
一転、今度はゲートが驚かされた。
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